閑話 お城に漂う闇(1)
次回は2月18日更新です。
Side:和磨
あれから、すぐに駆け付けた騎士達や魔術師達によって、場は落ち着きを取り戻した。
なんせ部屋中に重苦しい黒い霧が漂っていたから、はっきりと異常事態だったわけで。現場はかなり混乱していたんだ。
「皆さん、この黒い霧は瘴気です、長い時間吸い込んではいけませんぞ!」
神官のお爺さんに言われて、皆は慌てて手で口元を覆うけど、多分意味ないと思う。
『癒しの雨!』
僕が唱えたのは、浄化を施す光属性の呪文。僕の手から優しい光がまるでシャワーのように降り注いでいく。初めて使ったけど、凄く綺麗な呪文だな。
「助かりました、勇者殿」
お爺さんに言われて、僕ははにかんだ。何か恥ずかしいよ。
その後、素晴らしい手際で神官様達が、結界でこの部屋を隔離した。当然、姫様方は別室に避難させたんだけど。
「ねぇ、和磨くん、何だかこのお城全体が薄暗くない?」
不安そうに周りを見渡す優香さんに言われて、僕は初めて周りが薄暗くなっている事に気付いた。
「本当だ、何だか………気分が悪くなる感じだね」
まるで、病院の霊暗室を思わせる、そんな不吉な感じ。思わずゾクッとする。僕はその怖さをよく知ってるから。
「エリー様の所に行こう、和磨くん」
「…………うん、僕達にも何か手伝いが出来たらいいんだけど」
こうして訪れたエリー様の部屋は、思いの外、明るい光に溢れていて、僕は僅かに目を見開いていた。そんな僕を尻目に、優香さんはエリー様の所に小走りにかけていく。
「エリー様! ご気分はどうですか?」
「……ユーカ? ここは……?」
目覚めたばかりで、ボンヤリしているエリー様は、しかし先程の事を思い出したのか、顔色が瞬時に悪くなる。長時間はエリー様の体調的に無理があるだろう。
「そうですわっ! お姉さまは、お姉さまは無事ですの!?」
混乱し慌てた様子から、姉姫様が今回の騒動に何かしら関わりがあるのは分かったけど…………。
「お姉さんは大丈夫ですよ、今は別室で休んでいます、エリー様、あの時なにがあったんですか?」
僕が聞くと、エリー様はホッとしたのか胸を撫で下ろした。その後、少し考えるような仕草をしてから、ポツリポツリと話し始めた。
「お姉さまとは、久しぶりにお茶会をしていたのです、そろそろお開きにしようとした頃、急に辺りが暗くなって、お姉さまが苦しみだして…………、私、突然の事で悲鳴を上げて…………、その内苦しくなってきて…………いつの間にか気を失ってましたわ」
視線を下に向けて、憂いた姿は流石、姫。絵に描いた様な美しさだ。
「エリー様、まだ本調子ではないのでしょう? 今はゆっくり休んでください」
「でも………」
不安そうに此方を見る姿は、本当に心配なんだって分かる。でも恐らく、今のエリー様を姉姫様の元に連れて行ってはいけない気がするんだ。
「気休めかもしれませんが………」
僕は先程から、気になっていた事がある。何だかエリー様の周りに薄らと黒い霧が漂っているように見えるんだ。
『光の雨!』
先程、皆の前で見せた呪文を、エリー様に向けて放つ。光の雨に触れると、まるで怯えるかの如く、闇が蠢いたが、すぐに光に触れ霧散した。何か気味が悪いな、これ。
「まあ! 綺麗………ありがとう、カズマ………あら? 何だか体が軽くなったみたいですわ」
うっとりとした表情で光を見ていたエリー様。闇が消えると、顔色も良くなり、先程まで病人であったようには見えないくらい。
うん、やっぱり原因は、あの闇だ!
「エリー様、ありがとうございます! 優香ちゃん行こう!」
僕はエリー様の返事も聞かずに、部屋を飛び出した。後ろから優香ちゃんの戸惑った声が聞こえた気がしたけど、今、僕の中にあるのはただ一つ。
(あの闇を、浄化しないと!)
幸い、城には光系の呪文を使える人が沢山いる。なら、人海戦術でいけば闇を晴らすことも出来るはずだ!
「失礼します!」
僕の頭の中はこの時、これからの準備にしめられていた。
◇◇◇◇◇
Side:優香
「和磨くん!?」
かなり慌てた様子で出ていった和磨くん。止めようとはしましたが無理だったようです。
「もうっ! 待ってって言ったのに………!!」
先程の和磨くんの呪文で、確かにエリー様の体調はかなり良くなりましたが、和磨くん気付いてませんでしたよね。体調が良くなっただけということに。全快ではないのです。更にエリー様は、深窓の姫君なんです。いくらなんでも、体力が普通より低いのは目に見えて分かります。
「エリー様、和磨くん、閃くと一直線な所があるみたいです、今、治癒の呪文をかけますね!」
治癒は光と水属性を持つ人しか使えません。私も光属性を持っているお陰で、治癒が使えます。
「ありがとう、ユーカ」
『治癒!』
私が施した術は、和磨くんのように多人数の広い空間向きの術ではなく、特定の人物のみに効くものです。消耗した体力までは戻りませんが、疲れを癒す事も可能です。
「ユーカ、すぐに彼を追い掛けて下さいませ、私はもうしばらく休みますわ」
「分かりました、エリー様、ゆっくり休んでくださいね!」
エリー様が寝たのを確認して、私は和磨くんの後を追い掛けます。そこに行くにつれて、部屋が薄暗くなっている気がします。まだ、時間は夕方にもなっていませんし、今日は晴天ですから、薄暗くなるなんて本来ならあり得ません。それに、何だか寒く感じますし。近付けば近づくほどに、この嫌な感じは強くなっていきます。
「一体、何が………」
ようやく着いたその部屋には、何人もの人達がドアの前で待機していました。
「あれ? 皆さんどうしたんですか?」
近くにいた方に話かけますが、皆さん戸惑っているようで、中々話してくれません。
「ユーカ様………実は……」
やっと話してくれたのは、確か、初めて来た日に鼻血を出して倒れた神官だったはずです。お名前は、セバスチャン……すいません。苗字は忘れてしまいました。
「ローズマリー様が、何者かから、呪いを受けたようなのです、今、カズマ様が光属性の術で色々試しておりますが、一時的に晴れても、すぐにまた新しい闇が来るという形で、いたちごっこの状態なのです…………呪いは禁呪指定になっておりますし、一体誰が………」
「……………えっ」
呪い………。そんなものが、この世界にあるなんて、思っても見ませんでした。元の世界でも、そんな不吉な言葉はテレビ番組から見る、娯楽の一つになっていましたから。
そんな中に和磨くんがいて、今も必死に戦っているんですよね?
「和磨くんは中にいるんですね?」
「は、はい、神官様方と一緒に、部屋の浄化を行っております」
それを聞いて、私はすぐに部屋の扉を開けました。後ろから皆さんの心配した声がしましたが、あまり耳に入りませんでした。
「和磨くん!」
叫ぶように部屋に入ると、思ったより闇は薄く、私はホッとなりました。それだけ、強いメンバーが揃っているという安心感があったからです。
「優香さん? 悪いんだけど、僕と変わってくれるかな?」
「えっ?」
きょとんとなる私は、この時にようやく和磨くんが焦っている事に気付いたのです。
「この闇、浄化しても浄化しても沸いてくるんだ、根本的な部分を解決しないと、同じ事の繰り返しになるんだ、僕は魔法図書館で呪いに関して調べてくる」
和磨くんは、私の返事を聞かないまま、部屋を出ていってしまいました。
「ユーカ様、浄化をお願いします!」
和磨くんが出ていった扉を見ていた私に、部屋にいた神官様方より声がかかります。気付けば、部屋の中には闇がまた、じわじわと染みだしたかのように現れてきていて。
「わ、分かりました!」
それからは3交代制で、昼も夜もずっと浄化する事に決りました。神官様と浄化の使える魔術師さんを加え、部屋の中は常に浄化された清らかな状態に保たれています。
「こんな時、咲希ちゃんがいてくれたら良かったのに………」
苦しそうなエリー様のお姉さま、ローズマリー様を見て、私は知らぬまに呟いていました。
「確かに、禁呪ともなると、サキ様がいてくだされると、と思いますな」
いつの間にか近くにいた、神官様、セバスチャンさんが疲れたように話していました。この方、鼻血神官と呼ばれる方なんですが、腕前は本当に素晴らしい方です。
と、いきなり扉がバンッと乱暴に開きました。
「「ユーカ様ッ! サキ様の居場所が分かりました!」」
入って来たのは、以前、咲希ちゃんと一緒にドラゴン退治に行った、双子のジークさんとローグさん。
「先程、隣国のエルナマスから書状が来まして」
「サキ様はその国でトラブル解決をしたら帰国されるそうです!」
最初がジークさん、後半がローグさんで、何やら聞き捨てならない事を言われました。
「咲希ちゃん………やっぱりトラブルに巻き込まれたんだね」
私の一言に、周りが沈黙したのは………、仕方のない事かもしれません。
お読み頂き、ありがとうございますm(__)m
作者の秋月煉です!
本日は久しぶりの和磨君と優香ちゃん視点でお送りしました。
最初の予定では、物静かで礼儀正しい少年のはずだったんですが、えーっと、何で腹黒街道とか走り始めちゃったんでしょうか?
優香ちゃん、可憐な美少女っぷりはご馳走様なんですが………剣を振り回す姿に秋月、白目になりました(・・;)
ま、まあ、秋月ですからね☆
よし、ミニ小説いきましょう!
優香:こんにちは。
和磨:こんにちは、悪いけど調べ物あるから翔太に頼むね、んじゃ!
優香:えっ!? ちょっ、和磨君!?
…………少々お待ちください。
翔太:あー、急遽代役として呼ばれたんだが、和磨どうしたんだ?
優香:えーっと、調べ物に行っちゃった。
翔太:はぁ? 調べ物? 咲希がいれば楽なんだろうけど、今は絨毯でお札作ったり、指示出したり、忙しくしてるからなー、明らかに今日はこれんわな。
優香:アハハ………。あれ? 翔太君は?
翔太:さっきから折り鶴をずーっと、折ってるよ!
優香:…………え? 何で折り鶴?
翔太:俺が知るか〜!
果たして折り鶴は何に使われるのか! 請うご期待!!
感想、ご意見、誤字脱字、いつでもお待ちしております。なお、お返事はきちんと書かせて頂きますので、ご安心下さい(笑)