閑話 そこは多分夢の国なり…
Side:翔太
「ここは……ここはっ……女性優遇の国エルマナスです!」
顔を真っ青にしたファイの悲痛な言葉に、辺りが一気に静かになる。
おい、この世界にもあるのか? 女性ばかりの幻の夢の国が…………っ!!?
「あれ? あたい達は蛍火の洞窟内にいたわよね? いつの間に国境越えたのよ?」
まさしく正論である。ライラに言われ、ふとある事実に気付いた。
「オレら、国境越える手続きしてない……よな……?」
『『『『あっ!』』』』
あー、これはまさか犯罪なのか? そうなのか!? 勇者が犯罪者とか、有り得ないだろ!!??
気付いた皆の顔が、青くなってるが多分、俺もだよな? だって血の気引いたもん。
「しょ、ショータ様! そんなに落ち込まないで下さい」
ファイが頭を抱える俺に慰めてくれるが、嬉しくない。
はあぁぁぁぁ。
男に慰められてもなー。
「そうだよ、あんた勇者なんだろ? 偉いんじゃないのか?」
ライラさんや、勇者には権力はないんだよ。コネを使って、いや、使いまくってるから、勇者って奴に力があるように見えるんだ。
「ファイ……これ、説明したら何とかなるかな?」
「さあ? こればかりは僕にも何とも……」
「マジか……」
終わった。終わったぜ、俺ら。
「ちょっと!? 燃え尽きたように白くならないでよ!?」
ライラ、お前、俺に止めをさすのか! そうなのか!?
「おーい、ところでよ? 誰かくるぜ?」
ジョージさんの渋い声が辺りに響く。じゃれてたから、気付かなかった。
とはいえ、辺りにある気配は、とても薄い。気配がギリギリしか感じられないのだ。
(おいおい、忍者じゃないんだから……)
呆れてしまったのは、言うまでもない。
「囲まれたな」
ポツリと呟くと、腕に着けた腕輪に魔力を通す。
「来い、フリーレン」
俺が武器を出した事に、周りにいたメンバーは驚いたようだが、何のわけもない。気配を読んだら、殺気を感じたからだ。
多分、普通の気配の中に、上手く隠しきってるが殺気を放ってる奴がいる。たまに感じる程度だが、ヤバイ事に変わりはない。
「ファイ、ジュビアン神官、咲希を頼んだぜ? どうやら、相手は俺達の話を聞く奴等じゃないようだ」
もしも、話をしようとする奴等なら、気配は消さないだろう。が、こいつらは気配をほぼ完璧に消している。明らかに、そっち方面に馴れた奴等だろうよ。俺も前の世界じゃ経験あるしな。
「何か気味悪いよ……」
顔を強ばらせ、警戒するライラには悪いが、冒険者なら出会うか、同じ道を歩む事もあるだろう。
「チッィ! 何だって、こんな時に!」
ほう、その言い方だと、おやっさんはこいつらに検討がついたわけか。
「ジョージさん、こいつら分かる?」
「………しゃーねーな、今回は運が悪すぎだ! いいか? こいつらは『紅の幻影』っていう闇ギルドさ、殺しを専門にしててな? 下っぱでも賞金首になってる奴らさ」
さてさて、殺し屋が何だって女人優遇の国に来たんだろうねぇ??
流石に俺達じゃないだろう。何たって、俺達はイレギュラーだからな。まずあり得ない。
だとしたら、この国に関係があるんだろうな。生きていられたら困る奴がいるんだろうさ。
「なあ、ファイ、この国からクラリオン王国の王都まで帰るのに、どんくらいかかる?」
突然の質問に怪訝そうにしていたが、辺りを警戒したままで、応えてくれた。
「馬を翔ばせば、大体7日程でしょうか? 馬車でしたら倍はかかりますね」
おい、オレら、洞窟の中にいたが、そんなにいなかったよな???
「ファイ? オレら、洞窟内にどんくらいいた?」
「? 大体2日程でしょうか? あれ?」
だよなぁ!? 片道王国からここまで馬車で14日だぞ? それを蛍火の洞窟までの1日と、内部を2日程でここについちまったわけだ!
凄いショートカットの道見つけたぜ☆
「ショータ様………大事になりますね」
・・・・・・・・。
・・・・・。
・・・。
あっ。
ま、まあな。今はこの件は横に置いておこう。
「さてと、小遣い稼ぎに、壊滅させっか♪」
いい加減、ストレス溜まってるんで、賞金首なら一石二鳥だぜ☆
「ちょっ!? ショータ!?」
すっとんきょうな声を上げるライラ。いきなり壊滅させると言われ、ライラは目を白黒させている。
「ショータ様、生け捕りにするとなお、宜しいかと」
しれっと俺に言うあたり、ファイは馴れたんだろうな…………。普段から、咲希についている所為で、トラブルだらけだし。
「おう♪ 縄あるか?」
「俺が持ってる」
流石、ジョージさん。ベテランさんは用意がいいな!
てな訳で、レッツ狩りだー!!
◇◇◇◇◇
はい、こちら翔太です。
只今、賞金首達を捕らえてます。いやー、こんなに楽勝とは思わんかった(笑)
「ショータ、あんたどんだけ強いのよ!?」
うん、意外と平気である。大立ち回りしてるわりに、何とかなってるしな。
そのせいか、ライラは先程からずーっと、驚きっぱなしだが。
「おーいっ!! 次、行くぞ〜」
今、相手をしている奴等を、風で一まとめにしたら、何回かぐるぐると勢いよく回し、ぐったりした辺りでジョージさんに渡していく。かなりの人数なんだが、次々とあっさりと縛っていく手際の良さに、近くで咲希の護衛をしていた二人は、顔が引きつっていた。
「流石、ベテランですな〜」
「ショータ様、そういう問題じゃありませんよ!?」
まあ、ファイが言う通り、ジョージさんは手慣れすぎている気がするんだよな。
聞いてみっか。
「ジョージさん、手慣れすぎてないかい?」
「ん? そりゃ、俺は元々、ライラが生まれる前の話だが、城に使える騎士の家系だからさ、まあ、牢番のだが、そこで働いてた」
成る程、だから彼は手慣れていたわけだ。
ん? 今、さらっと何か聞こえたよな?? ジョージさんの過去が。
「「「「はぁっ!?」」」」
「オヤジ! そんなの一言も聞いた事ないんだけど!?」
ライラ、叫ぶ気持ちは分かるが、今な?
戦 闘 中 な ん だ よ !!!
「わっと!?」
あっぶねー、こいつらクナイみたいな奴を持ってるのかよ!?
まあ、華麗に避けて反撃するがな!
「いっちょ上がりー☆」
風の魔法でまとめて上空でぐるぐる。目を回した奴らをジョージさんにぽいっと(笑)
何か機械作業になってきたな。
「ライラ〜、暇ならやるか?」
「遠慮するわよ!!」
アハハ、当然だわな。
「ファイ、そっちに二人行ったぞ!」
やべっ、抜けられた!!
勿論、手は休ませず、動き捲ってる。当然、最小限の動きでだ。
「サキ様には指一つ触らせません!」
ファイが使うのは、火と相性のいい魔法剣。剣を構える動きは、流れるような美しい動きで、それが完成されたものであるかのような、熟練者の感じがあった。
「わぁ、ファインリードさんて、つよかったんだねぇ!」
………………。
ライラよ、お前は国の騎士をなんだと思っていたんだ!?
内心、めっちゃ突っ込み入れたけどさ!? 俺もファイの戦い見たい!
「邪魔だぁぁぁっっっっっ!!!」
風で吹っ飛ばした。イヤー、人間が吹っ飛んでいっちまった。マジで星キラーンを見られるとは………やりすぎたかな??
その隣では、すでにファイの戦いの火蓋が切って落とされていた。
「行きます」
そう宣言したファイは、前傾姿勢で走りだす。剣は右手に構えている。
(スゲー…………)
まさに、圧巻。言葉が出ないくらいだ。
二人の暗殺者は、短刀を独特の構えでファイにむかっていく。刀を構えているのに、クナイを投げるのは反則じゃないかと思うけどな。が、ファイは全てを剣で弾き反らす。さらに無理に剣で払わず、最小限の動きで横にかわす。逃げ遅れた数本の髪が切れて、ヒラヒラと地に散ったけど、ファイの目は敵二人に向かったまま。
仕掛けたのは、ファイから見て右側の奴。上段から切り付けようと振りかぶった奴を、剣の柄で顎を打ち、あっさりと沈め、首筋に手刀を打ち気絶させる。流れるような素晴らしい動きだ。その時間、僅か5秒…………。
強すぎだろう!?
さて、次の左の奴は警戒したのか、クナイを放ち牽制するが、ファイは剣で全て弾き、奴へと走っていく。既に体制が整っているファイに対し、奴は気圧されてるのか、焦りが見える。
先制はファイ。剣を横に一線させた。相手は距離を取るためか、大きく後ろに跳びぬく。
「フュ〜、すげーな」
確かに動きは悪くない。が、それは悪手である。
『火の弾丸!』
小さな火の塊が、ファイの辺りから放たれる。全てが宙にいる相手に命中。
………あれ、痛いよな?
体勢も整える間もなく墜落。更に追い討ちをかけるかのように、ファイは墜落した奴に対し、手刀で気絶させた。
………ファイは怒らせられないや。
戦いを見て、そこにいた一同が同じ事を思ったという。
お読み頂き、誠にありがとうございます(≧ω≦)
ちょっとテンションの高い秋月煉です。
本日は無事にお昼投稿が間に合いまして、本当に良かったです♪
最近、ちょっとバタバタしてまして、間に合うか不安だったんです。
さて、本日はギャグ回になりました! 何だか翔太路線で行くと、咲希ちゃんに負けず劣らず、ギャグ回になるのは何故でしょう? ふざけまくってる二人はともかく、城の二人の話も書きたいので、本編(咲希ちゃん視点)の他に、閑話もめっちゃ入ります。
なお、今日は時間がありませんので、ミニ小説はお休みです。
代わりに後日、活動報告の方に小話を出しますので(;^_^A
皆さんが多分、気になっていた魔王様の現実が分かります。
あとですね? そろそろ登場人物紹介の2をやりたいと思うのですが、誰がいいと思いますか? もし是非ともこの方を! 的な方がいましたら、メッセージでお知らせ下さいませ。
では本日はこの辺で。
感想、ご意見、誤字脱字、リクエスト、いつでもお待ちしております。なお、甘口でお願いしますね!
次回は10月29日お昼頃です。