閑話 その頃の皆様は…( 3)
本日もありがとうございます。
今回は、ようやく魔族視点でまいります。
魔王城、謁見の間。
魔王城と言われるに相応しい、その威厳漂う場所。そこには魔王国国王と、妃殿下が椅子に座り、階下の並ぶ者達を見ていた。いや、睥睨していたというべきか。
階下のジュータンで頭を下げているのは、先日、人間界へ行き作戦を始めていた三人である。
「公爵位ヘルツォーク、侯爵位フェルスト、伯爵位エーネル、面を上げよ」
宰相の役を賜る、中年の渋いおじ様が厳しい口調で命じる。
「こたびの任務失敗、その報告があるとか、そういないな?」
厳しい口調に、この中で一番位の低いエーネルは、やや震えていたが、他の二人は顔を青ざめさせ、下を見ていた。重要な任務であったのだ。それを失敗したのだ。
たかが人間ごときに、敗北した!
「まずはエーネル、お前は人間の国のルピーの町を滅ぼす手筈であったな?」
「は、はい…………途中までは、順調にいっておりました」
震えてはいるものの、壇上におられる方々に聞こえるように、はっきりと答えていく。
「しかし途中から、異常な力を持つ人間が参り、配下にした魔物は全滅、私も戦いましたが、適いませんでした…………」
辺りの沈黙が、痛い程に高まっていく。ここは採決をする場所なのだ。彼らが侵した罪――――――敗北という名の罪状の。
震えているエーネルに対し、言葉をかけたのは、王妃であった。
「エーネル、そなたはまだ若い、今回の一件でよく分かったであろう?」
エーネルは、妃の姪に当たる。故に特に厳しく躾けられてきたのだ。叔母が王妃である以上、血縁たる者が弱い訳がないのだから。
ただ、今回の任務は反対されていたにもかかわらず、一部のバカな奴らに言われ、しぶしぶ出したのだ。結果は惨敗である。
勿論、それを言い出した者達は、先程から訓練という名の地獄の真っ只中であるが…………。
ここ、魔族の国は実力者の国。武力と、そして知力。それに秀でた実力者達がいる場所。
優しく、言葉をかける王妃とて、それは同じ。
「エーネル、しばらく作戦から離れ修行なさい、これは命令です」
「はい、王妃さま」
素直に頭を下げたエーネルは、家族に引き取られ、謁見の間を後にした。まだ若い少女に、これから先は酷であろう。
「次に侯爵位フェルストよ、報告を」
重々しい口調で、睨み付けるように呼ぶ宰相。敗北した部下に、苛立ちがつのり、普段の冷静沈着な仮面がかぶれていなかった。エーネルの場合は、まだ若い事、さらにバカ達を止められなかった事もあり、仕方ない面もあれど、今後扱かれることを考えると、同情の面もあったのだ。
「はい……、ご報告…ゴホッゴホッ致しますッ!」
侯爵位フェルストは、昨日の一件の詳細を淡々と話していた。未だに彼は、全身を包帯で巻かれ、呼吸も荒々しかった。本当に命からがら逃げてきた…………そんな有様であり、魔王城に帰城するやいなや倒れたのだ。三日三晩意識が戻らず、全身の火傷の酷さもあり、報告が遅れた原因でもあった。何故なら、あれから一週間もたっているのだから。
「私の任務は…ゴホッゴホッ、ガラー山のエンシェント・ドラゴンを……ゴホッゴホッ、退治する役目を担っておりました………ゴホッゴホッ!」
激しい咳をするフェルスト。しかし誰も手を貸さない。当然である。彼らは罪人である。手を貸すなど、誇り高い魔族の者達にとって、まずあり得ない事であった。
「失礼を………後一歩の所で、人間が参り、その中の一人、外見は子供に見えましたが………あまりに強い力を宿した……ゴホッ…そやつが配下にしている者が……ゴホッゴホッ…あまりに強く、結果、このような有様を、ゴホッゴホッゴホッ、お見せするはめになりました………」
激しく咳き込む彼に、宰相も流石に目を伏せた。あまりにも哀れ、その一言に尽きた。それなりに美青年だった彼は、今や病人。しばらく床の人となる事は目に見えていた。
「フェルスト、しばらく実家に戻り、静養するがよい…………今のそなたは戦えぬ」
慈悲……それは、余りにも彼の今のプライドをズタズタにするもの。罰の中では比較的軽いが、魔族にとってそれは屈辱意外の何物でもないのだから。
「申し訳ありませんっ!……ゴホッゴホッ!!」
彼は悔しそうにボロボロ涙を流していたが、宰相の指示で呼ばれた、白い服を着た医療部隊に、ご丁寧に担架に乗せられ連れて行かれた。
その姿に、哀れさと共に、侯爵位を持つ者の意地を見た人々は、彼の一日も早い全快を祈ったのだった。一番危険な任務だったのだから、当然であった。
魔族とて心を持つ者。命懸けで任務を果たそうとした者に、冷たい言葉をかける程、落ちぶれてはいない。相手は罪人であれど、それくらいはする。
勿論、侯爵位フェルストの様な場合であるが…………。
「最後に、公爵位ヘルツォーク!」
一番忌々しい物を見るように、宰相が名を読み上げる。今までの二人の様な恩情はない。あの二人は、かたや巻き込まれた“子供”、かたや九死に一生を経た“病人”である。恩情を与える物が、彼らにはあったのだ。
魔族は、死ぬ事で終わらせる事を良しとしない。故に、侯爵位フェルストは生き恥など、感じる事もない。彼は言われた事は失敗したが、生きていたから。故に恩情が下されたのだ。勿論、しばらくは城に上がる事は許されないが。
さて、ここまで読んだ上で、公爵位ヘルツォークの敗因を思い出してみよう。
全く、他の二人と違う事は容易に分かってしまう事だろう。
……………周りの目が、非常に冷たい事も。
「さて、公爵位ヘルツォーク、弁解はあるか?」
陛下の言葉に、美しい顔を青ざめさせ、ダラダラと流れる汗を拭きながら、彼は必死に言ったのだ。あの、外見だけは無害に見えた、恐ろしい人間の幼子の事を。
「へ、陛下! 弁解を、させて下さいませ!! 私が相手にしたのは、恐らく侯爵位フェルストと同じ相手です! あれは、見たことない術で、私を翻弄し、更に、恐ろしく強い配下を連れていました! モンスターをテイム出来るのでしょう!! そして……」
彼の続けようとした言葉は、不意に開けられた扉の音に遮られる。そこにいたのは、年若い魔族の娘である。が、着ている服や立ち居振舞いを見れば、かなりの高位の人物とわかるだろう。
「陛下、お妃様、突然の訪問、お許し下さいませ、とても急な知らせがあり、急ぎ参りました」
丁寧に頭を下げた娘に、陛下も隣の妃も、訝しげな視線を向けた。あくまで、そう見えないような自然な視線を。
「何用だ、プロフェシアよ」
そう呼ばれた娘は、陛下の末の妹であり、更に予言の力を持っていた。稀にとんでもない予言をするため、陛下も顔を強ばらせている。
「先程、予言が降りました」
辺りが一気に、静かになる。まるで凍り付いたかのように。
『乙女の歌に、四つの星が舞い降りて、天より祝福が送られる、星は我らの偽りの希望を汚すだろう、正統な希望を忘れてはならぬ』
それを聞いた陛下の目元が、ピクリと動く。そのまま、隣の妃の方へと視線が動く。正確には、彼女の腹部へと。大きく膨らんだ腹部は、彼女が妊婦である事を示し、そして…………予言により、その腹部にいるのは、この国にとってもっとも大切な存在。
―――――魔王となる者。
そして、彼女の予言の意味を、理解出来た者達もまた、妃へと視線を向ける。
魔王と相対する者は、この世界で一つだけ。
――――――勇者。
勇者が召喚された、そして近い将来、魔王にあだなす存在であると。そこには神の意志さえあると…………。
「プロフェシア、まさか、彼らが戦った相手とは…………っ!」
「勇者でしょう、クラリオン王国に潜らせていた密偵より今朝、連絡がありましたわ、勇者が四人召喚されたと」
謁見の間が突如として、騒然となる。
それは罪人である彼も同じであった。公爵位ヘルツォーク。彼は裁かれる訳には行かなくなったのだ。勇者を見た貴重な人物となった。ただし、最初の者達のような、恩情はほぼ無いだろうが。
二人が戦ったのは、勇者。ならば、かなりの恩情もあるだろう。勇者に負けるのは、当然の結果だと皆は考えるのだから。
…………公爵位ヘルツォークに関しては、自業自得。
この日、魔王城にてようやく魔族達は、人間達が勇者を喚んだ事を知ったのである。
ちなみに余談であるが、公爵位ヘルツォークは、上官達からみっちり扱かれたとか…………。日頃からの奢りも、これで成りを潜めるだろう。………………多分。
お読み頂きありがとうございますm(__)m
秋月煉です。
本日は、ようやく書けました。魔王様の正体。
はい、まだ産まれておりません(笑) しかし、何やら魔王城、騒がしくなってきましたね。
さーて、お待ちかねの次回は!
またしても閑話で参ります♪
前回、妙に半端で終わらせた翔太サイドです☆
さて、彼らがいる場所は一体どこなんでしょうね(笑)
今日はテンシロにしては珍しくシリアス風味でしたので、次回はハッチャケます!!
では(多分)お待ちかねのミニ小説です! どーぞ!!
優香:こんにちは!
和磨:こんにちは。
優香:今日は私達だよ〜。
和磨:二人がいないだけで、こうも平和なんだねー。驚きだよ。
優香:だね? 今まで色々あったのに。
和磨:今頃、何かに巻き込まれてたりして……。
優香:嫌だな〜、和磨くん。そんな訳ないでしょう? あ、そろそろアカネちゃん達にご飯用意しないと!
和磨:………優香さん、何てマイペース。
お城では平和に過ぎてました。トラブル体質なのは、もしかして翔太と咲希ちゃんだったり?
(ん? なんか寒気が………By翔太)
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次回は10月22日です。