第37話 あたしがそこで見たものは……
なにやらシリアス……。
でもやっぱり突っ込みは必要だよね?
懐かしい夢を見た。
あたしは、陰陽道の一族の子供として産まれた。あたしが産まれた天城家は、大きな会社をいくつも持つお金持ちだった。が、それは祖父の話。父は祖父の会社に勤めているが、普通の社員である。つまり普通の家計だ。一方、母は外本家の出なので、うちは必然的に外本家と認識されていた。
あ、外本家っていうのはね? 直系筋の人達を総本家、それから外れた例えば家をつげない次男や三男の家族や血筋を、外本家って言うんだ。女性も嫁に行くからしかり。強い人や、何か秀でた者がある人達は、一族でも重宝される。まあ、力が無い人は、それ以外で一族を支える道を選ぶんだ。結束が堅いのは、力が無くても支えてくれてる人達を大切にしてるからだろうね。
確か、あれはあたしがまだ中学に入る前の春休みだったかな。
当主様から直々に、ある仕事を任されたんだ。外本家の大人数人に、分家の大人達と、あたし、現当主の長男でありあたしの婚約者、分家の子供達、そして分家で一番強い力を持つ青年が参加した大がかりなもの。
その青年はあたしの幼なじみであり、将来、兄に成る予定の人。あたしの婚約者の姉と婚約しているのだ。
今回の仕事は簡単。吹き溜まりに貯まった霊の一斉除霊。子供でも出来る、簡単な仕事。
実際、ほとんど問題も起きず、無事に終わる―――――そう誰もが思ったその時に、それは起きたんだ。
「おいっ! あれは何だっっ!?」
「不味い、子供達を避難させろっ!」
それは、悪霊の中でも上位クラス、本家や外本家もしくは分家当主が束になってかかる、そんなクラスでなければ相手にならないような、最悪クラスの悪霊だった。
「咲希様っ、子供達を避難させ、早く総本家に連絡を!!」
あたしは言われた通りに動いた。
辺りは一気に戦場に変わった。意外な事に、子供達の避難はあっさり終わった。皆、日頃から訓練している子達だ。さっさと避難指示に従い、年長組が誘導しながら逃げていく。その途中、結界まではっていた余裕があったくらいだった。
問題は、大人達と分家最強の青年だ。
気付けばやつは分家の張った結界に囚われ、身動きが取れなくなっていた。
あたしは安心したんだ。もう捕われたから大丈夫だって―――――戦いに絶対はないというのに。
外本家の大人達がチャンスを逃すはずもなく、悪霊を浄化するために呪文を唱えていく。
青年だけ、何かあった時のために、彼の式神と共に待機していた。
結果で言えば、悪霊は倒せなかった。分家が張った結界を壊し、怒りを周りへと向かっていく。
「させるかっ!!」
その為の、青年なのだから当然だ。そしてそこに、あたしも加わる。この中で恐らく戦えるのは、あたしと彼、外本家の彼等だけ。分家は補助が精一杯だろう。
「そう兄!」
あたしはいつも彼の事を、こう呼ぶ。彼の名前が“大神 蒼一”だから、名前からとって“そう兄”と。
「何で来たっ!」
既に高校生の彼は、あたしよりも経験があるから、危ない場面だってよく分かってる。
「当主様の命令よっ! 来てっ! 緋ノ斗!!」
この頃のあたしは、そう兄より経験が不足していた。これは間違いない。式神様も今より少なかったしね。
「こいつをここに足止めするよ!」
それが当主様から言われた、あたしへの指示だった。
「分かった、お前は無茶すんなよ?」
彼は基本、あたしに任せてくれて補助にまわってくれる事が多い。
「了解! 気を付けるよ」
そうは言っても、本当にギリギリの戦いだった。途中、外本家の人達も分家の人達もやってきて、足止めは成功したんだ。
当主様が来たから。
「咲希っ!!」
「えっ………」
当主様が来た、そう安心したあたしは、悪霊が襲ってきても動けなかった。思わず目を閉じた。
―――――感じたのは、熱風。
「緋ノ斗?」
呼ぶと、顔を強ばらせた子供が、あらぬ方を見ていた。視線の先にいたのは、あれは、そう兄?
「青い炎………?」
そして――――――。
◇◇◇◇◇
ドサッ。
「いった〜〜〜〜〜」
起きたら地面。全身を程よくぶつけたらしい痛み。
「っ〜〜〜! 龍!? まともに起こしてよ!!」
「主人は寝起きが悪いですから」
しれっと返された。思わずグッと押さえる。反論できないじゃない!
「サキ様!? 大丈夫ですか!?」
慌てているのは、ファイさん。そんなにおろおろしなくても…………。
「嬢ちゃん? 大丈夫か?」
ジョージさん、何故あたまを撫で撫でしてるのかな? 明らかに子供に対するそれに、あたしはある仮設を立ててしまった。
「あの………ジョージさん? つかぬことをききますが、あたしは何才に見えますか?」
その質問に、ジョージさんはキョトンとしており、何を今更とばかりに優しく笑った。まあ、顔が怖いから、ワイルドな笑顔だったけど。そして、爆弾を見事に落として下さった。
「ん? 10歳くらいだろう? 小さいのに偉いよなー、魔法も使えるし、頭もいいしな、ライラがこんくらいの時はまだ可愛げがあったんだが…………」
何やら話がそれそうだったので、悪いがさえぎらせてもらう。
「あたし15歳なんですけど…………」
……………………。
ビキッって音が聞こえるくらい、辺りの空気が凍った。何で皆が固まるのかな?
「ジュビアン神官? ファイさん? お二人が固まってどうするんですか!?」
こっちがビックリだよ!! あ、あとさー? そこで一人、大爆笑している翔太には、きっと素敵な制裁が必要だと思うんだ? だよね? 必要だよね?
てなわけで♪
スパ―――――――ン!!
久方ぶりにイーリス使って、ハリセンで叩いて見ました!! 相変わらず、素敵な音が成るわね♪
「いってーな!?」
「自業自得かと……」
騒ぐ翔太に、今だあたしの隣に控えていた龍が、冷めた目で翔太を見ていた。うん、多分だけど、龍さんや? お前さん、切れてませんか??
「つーか、笑ってないで彼らを元に戻さんか!」
あたしは結構、童顔については気にしていたのよ?? だってそうでしょう?? こっちの人達は、西洋タイプの顔立ちだから、はっきりいって、あたしよりも大人びている。そん中に、童顔がいたらどうなる?
結果は簡単。子供に見られる。
まさに今のあたしは、その状態だったわけ。だからライラさん、蟻の蜜を飲んでる時に、子供に向けるような優しい顔だったわけだ。ジョージさんもしかり。まさか、二人にそこまで下に見られていたとは…………。
「サキ? 冗談も大概に……」
「あたしは列記とした15歳ですっ!!」
「いや、だってそんな年には……」
本当に認めたくないみたい。まだぶつぶつ言ってるライラさんには悪いけど、あたしは15歳。列記とした高校生なんだから!!
「こいつの言ってる事は本当だよ」
翔太が援護してくれるんだけど、イマイチ信じられないみたい。まあ、こっち来てから甘やかされてる感じはあるから、子供帰りはしてるかもね(笑)
結局、渋々認めてはくれたけど、本当に疲れるわ。
「あのー、そろそろ話を進めませんか?」
と、ファイさんが遠慮がちに提案。そうでした。クイーン・アイアントを退治しないとね!
「作戦会議しましょうか?」
「一番脇道にそらしたお前がいうか?」
翔太が隣で余計な事を騒ぐので、ハリセンでスパーンと叩きつつ、話を続けていきます。翔太? 無視だ、無視。時間がもったいないよー。
「まあ、前衛は俺達四人だが、後方二人の護衛は………その、シキガミとやらにお願いしたい」
ジョージさん? 何故に顔が引きつってるんですか? 流石にとって食うわけじゃないんだから、そんなに式神様を恐がらなくても…………。
「了解です、護衛には春をつけますね〜☆」
その他の諸々も決めて、あたし達は扉へと向かっていく。
さあ、蟻の女王様。あたし達とご対面です♪
ギィと重々しい音を立てて、扉が開いていく。重厚な扉は、立派なものである。まあ、ラスボスへ向かうんだから、立派なのも必然かな?
「えっ………………」
あたしの間抜けな声が辺りに響く。
広い空間。ボスの部屋らしく、天井も高く、ここでならかなりの大技も出せそうだ。
「なんだよ…………これっ!?」
翔太もビックリしてる。そうだよね?
“辺り一面が青く染まっているみたい”なんだから!!!
青、青、青。
一面の青い、どこまでも青い炎。それが、この広い空間の一面を染め上げる。
――――――あの日のように。
「サキ様?」
『咲希?』
声が、重なる。ファイさんの声に重なるように、あの日の声が重なっていく。
「おい、どうした?」
『どうしたんだ?』
翔太の声も、今のあたしには重なって聞こえる。
あたしがおかしい事に気付いたらしい。ファイさん以外の皆も、あたしを心配そうにみている。
「……大丈夫」
そうは言ったけど、ごめん。無理だわ。あんな夢を見た後で、これはないわ…………。
『咲希様っ!?』
あぁ、龍。ごめんね。無理だわ、あたし。限界です。
「咲希っ!!」
あたしの意識は遠ざかって行く。あの日の記憶…………、何か…の暗…示だっ……たの…か…な…ぁ……………。
はい、なにやら意味深で終わった今回のテンシロです。気に入らなくて、何回か書き直しました。本当に本当に難産で大変でした。無事に投稿できて良かったです。
さて、次回からのテンシロは、しばらく閑話が続きます。
第一段は久方ぶりに、あの御方が。何やら精神的に色々と参っているような? 胃は無事な事を祈ります(笑)
さて、本日はお待ちかねのミニ小説です☆
優香:お久しぶりです。
和磨:確かに久方ぶりだよね。
優香:何だか咲希ちゃん達が大変そうだね。大丈夫かな?
和磨:さぁ、何かしらは起きてそうだけどね。
優香:次からは私達も出るから、頑張らないとね!
和磨:だね、あの二人がトラブル体質なのは気付いてたけど、まさか僕達もだとは思わなかったよ。
優香:?? トラブル体質って?
和磨:無自覚!?
何やらお城でお留守番している二人にも起きたもよう。和磨くんの胃は大丈夫でしょうか?
「誰か胃薬ください…………」
感想、ご意見、誤字脱字、いつでもお待ちしております。なお、リクエストはいつでもしております。あ、甘口でお願いしますね!!