第28話 定番イベント参りました!
パーティーへ参ります♪
はい、皆様ごきげんよう。
只今、パーティーの最中であり、あたしは与えられた席に座っております。
王族の皆様の隣です。ま・よ・こです! 嬉しくない、嬉しくないよ。こんちくしょー!!!
「勇者サキ様、ごきげんよう、わたくしめは………」
またかと思いつつ、ここは外行きの笑顔を向けて、対応してます。既にあたしの前の長ーい長蛇の列は捌き終わったのに、たまに来ては挨拶をしていくからたまったものではない。
「では、よろしければ今後とも我が家をご贔屓に」
そうして去っていく男はさっさと忘れて、あたしは未だに捌けない隣の列を見る。流石に翔太は終わったようで、今は席ではなく、食べ物が置かれているテーブルへと向かっていた。お肉のあるテーブルに向かったようだ。食べ方も綺麗だし、自然と周りに溶け込んでいる。
…………前の世界で相当扱かれたんだろうな。
さて、未だに捌けない優香ちゃん、まだ若干ましか位の和磨君。馬鹿丁寧に最後まで挨拶を聞いてしまうから、とても時間がかかっているし、何人かしつこくしている奴らもいるからね。優しい優香ちゃんには、荷が重かったらしい。だが、あたしが手伝いに行くわけにもいかない。これは御披露目の席なので、最初から手伝うと相手に舐められてしまう。特に貴族は表面に感情が出にくいから、何を考えているか分からない。尚更、あたしが助ける訳にはいかなかった。
「しっかし、翔太は収穫なしか」
翔太が一人で行ったにも関わらず、奴等は動かなかった。
つまり、翔太は彼等にとってどうでもいい…………何て考えていたりして。宰相様からの情報によると、奴等の警戒はあたしに来ているらしいんだよねー。最初に無意識に殺気飛ばしちゃったから、警戒はされると思ったけど、案の定そうなったみたい。
普通なら、二回目勇者の翔太を警戒するんだけど、翔太は、ほら。最初に問題になったから、警戒されなかったみたい。逆に懐柔しやすいみたいに考えたんだろうね…………。
(馬鹿だ、こいつら)
この中で一番気を付けないといけないのは、間違いなく翔太だよ?
前の世界で、相当経験をつんでるしね。うちらを舐めてるとしか言い様がない…………。
さて、考えていても仕方ないし、あたしも動くか。二人には貴族の相手をこのままお願いしよう。
「軽食でも摘みますかね〜♪」
勿論、無理でしたよ。
だって、ダンスが始まっちゃったからね。うん、タイミング良すぎっ!!
うー、少しは食べたかったよー!!
「サキ様、一曲、お相手願えますか?」
王子様、素晴らしく素敵な笑顔であたしをダンスに誘って下さいました。最初に決めてあったから、あたしも満面の笑みで答えましょうとも。
「はい、喜んで♪」
会場から黄色い声が上がったけど、恐らく王子様にだろうね。少し男性の声があったような気がするけど、まさかね…………。
隣では翔太とエリー様がダンスのペアを組んでいる。和磨君と優香ちゃんも組んだね。これも計画通り。曲の始まりは、一番身分の高い者が踊るのが習わしだそうで、今回は勇者は高位の存在であるという、分かりやすい引っ掛け。これに引っ掛かる貴族なんて、いるわけがないって、王子様も苦笑気味に言ってたけど。
「へ、陛下っ!! 何故、部外者が最初に踊る名誉を受けているのですっ!!!」
突如響き渡った、一人の声。声のした方に視線を向けると、一応、敬語を使い、恭しく膝を付いているものの、全く敬っていない中年の細身の男性がいた。その近くには、綺麗に着飾った金髪の少女もいる。但し、少女は敬ってもなく、ただ怒りを顔に滲ませているだけ。
…………どんだけの馬鹿だ。
いたよ、本当にいたよ、馬鹿な人達(笑)!!
「まさか、本当にいたとは…………」
いないと言っていた王子様、微妙に顔が引きつってます。まあ、確かに自国の貴族が、こんな初歩的な罠に引っ掛かるわけないと思うよね。
実際にいたわけですが。
「勇者と言えど平民、最初に踊る名誉を受けているのは可笑しいのでは!? ここは王族の血を引く我が公爵家にお声をかけて頂くのが、伝統かと思われますが?」
うわ、この人、公爵なのに大丈夫? 本当にこの国、大丈夫なの?
思わず同情的な視線を王子様に送ると、嬉しそうに微笑んでくれました。あ、やっぱり、心配だったのね。
「フランツ様、あいつ誰です?」
一応、コソッと聞くと、素直に教えて下さいました。
「彼は先々代の王の弟の孫でしてね、公爵を名乗ってます、しかし政治に入れる程の頭は無く、普段は領地にいます、隣は娘のシャルロッタ嬢、歳が近い事もあり僕の婚約者候補にあがってますが、僕はお断りですね、性格は我儘で傲慢、目立ちたがり屋で派手好き、湯水の様にお金を使うお嬢様ですよ、父親も傲慢ですしね」
…………あたし、そこまで聞いてない。え、そんなに嫌いなの? それほど迄に嫌なの? あ、そうですか、嫌ですか。そんなに爽やかな笑顔で言わなくてもいいでしょうに。
哀れ、シャルロッタ嬢…………。君、フランツ様から要らない宣言されましたよ。乙女のあたしでさえ、顔が引きつりましたわ。この方、やっぱり王族ですな。
「陛下っ! いかがでしょう! 我が娘、シャルロッタを殿下のお相手にすれば、丸く納まるかと…………」
はあ、馬鹿だ、馬鹿すぎる。既に会場のあちらこちらで笑い声が聞こえてきているし(笑) 隣の殿下までもが笑いを堪えているみたいで、肩が僅かに揺れている。
「のう、バ……ヴェルノール公爵よ…………、何故、わざわざ彼等勇者殿達を最初のパートナーにしたのか、意味があると考えなかったのか?」
王様、今バカと言おうとしたよね? マジでお怒りのようです。ビリビリとした威圧感を感じます!
「はあ、王族の血を引くそなたがこれでどうするっ!!」
公爵がビクッと震える。脂汗をダラダラと流して、血筋だけではない本物の王族の威圧感に触れ、今にも倒れそうだ。
…………まあ、この親はこれでいいでしょう。こいつは小物だ。
「申し訳ございません…………差し出がましい事を申し上げました」
ほう、逃げ道は心得ていたらしい。伊達に公爵やってる訳ではないんだね(笑)
「フランツ様、あいつらはいいの? 邪魔なら手伝うよ?」
コソッと聞くと、彼は苦笑しつつ、僅かに首を振る。そんな事をする必要はないと。
どうやら、ターゲットでは無かったもよう。チッ。
「何故ですのっ!! 陛下っ! こんな小娘が相手を任されるなんて、納得いきませんわっ!!」
あら、お父様はあっさり謝ったのに、娘は納得しなかったみたい。目上の方にそんな事、していいの〜??
「命知らずな……」
フランツ様、絶句。あまりの事に、笑顔の仮面が剥がれかかってますよ(笑)
「シャルロッタ嬢」
あ、隣にいたお妃様参戦。だよねぇ、王様がお相手するのは不味いよねぇ。
「あなたは国王陛下を何だと思っているのです? いつまでも子供の我儘が許される訳ではないのですよ? それとも、お父様にそうするように言われましたか?」
おやおや、お妃様は公爵まで巻き込むつもりなんですね。公爵は必死に首を振ってますけど、結果はこれです。てか、娘より爵位を取ったよ。流石、小物でも貴族。家族より、家をとるんですね。
「いいの? 家まで巻き込んで」
フランツ様にまたコソッと聞くと、母親が現れた時点で諦めたらしい。異存はないみたい。
「そんなっ! 王妃さま、わたくしはただ伝統を申し上げただけですわ!」
隣では父親が必死で娘を抑え、取り繕おうとしているが、頭に血が上っているのか、周りが見えていないみたい。既に味方はいないというのに…………。
「わたくしは、貴女の態度を聞いているのですよ? 国王陛下の御前にいるというのに、いつまで我儘をいうつもりですか!! 自分が納得しなければ、目上の者に失礼を働いてもよいと? 恥を知りなさい!」
うーん、これ埒があかない。この後のやる事のあたしにとっては、本当に困る。
が、お妃様の叱責に、流石に不味いとは思ったらしい。ようやく父親の声が聞こえたか。
…………時すでに遅しって感じですがね。
「公爵、シャルロッタ嬢、二人を王宮での今年度の社交界の立ち入り禁止を申し付ける」
あらら、二人とも固まってしまった。てか、王様きびしいなっ!
「父上、随分優しい処罰にしましたね」
クスクス笑ってるフランツ様。えぇ!? これでも軽いの??
何でも王家の血筋であるため……らしいけど。大丈夫なの?
「あそこは奥方様がしっかりしてますから大丈夫ですよ、彼は婿養子ですし」
うわっ、今日は帰ったら夫婦喧嘩勃発ですな。
二人は近衛により、さっさと別室に連れていかれた。頭を冷やしなよ。
と、すっと一つの馴染んだ気配が近づく。姿は見えない。多分、影にいるんだろう。
『咲希様、罠が一つ、発動しました』
おや、龍からお知らせが。
あたしの仕事が始まりましたね。さてさて、どんな獲物がかかったのやら。
お読み頂きまして、ありがとうございますm(__)m
秋月煉と申します。
お城のパーティーはさぞ、豪快なんでしょうね。
しばらくは回想が増えますが、お付き合い宜しくお願いしますm(__)m
今回はミニ小説はお休みです。
次回は7月16日にお送りします♪
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