閑話 天の国へ参ります6
お待たせ致しました!
四番島に降り立った私は、長様と近くへ向かっていきます。上空からでは、黒い風に邪魔をされ、近付くのは無理でしたから、島に降り立ち、地面から向かっています。長さまを見た皆さんが、敬礼をして出迎えていますが、直ぐに警備の責任者らしき方が、向かってきました。
「長っ! 来て頂きありがとうございます! 正体不明の存在は、一歩もあそこから動いていません」
「ありがとう・・・下位の者達は、下がらせなさい、これ以上は危険です」
「はっ! 畏まりました!」
長様の指示で、敵の周りを囲っていた、一部の天族の方々が、後ろへ下がって行きます。統制が取れているためか、それはとても早いものでした。
「勇者殿は、我々の後ろへ」
長さまが、結界を張り、魔霊に近付いていきます。近付けば近付く程、バチリバチリと、結界に凄まじい風圧が来ます。魔霊を持った相手は、動いてすらいないのに、です。近付くだけで大変です。
『ユーカ、大変!』
『あの魔霊、変だよ!』
また、二人が教えてくれます。長さまにも、勿論、顕現しているため、バッチリ聞こえています。
「変て、何が変なんですか?」
『『暴走してる!』』
ハモりました。こんな時に不謹慎ですが、何だか、ジークさんとローグさんを思い出しました・・・。あの方々も、よくハモるんですよねぇ。
って、そんな場合じゃありませんでした!! えぇっ!? 暴走!? そんな危険な状況になっているんですか!?
それを聞いたサクラ様が、顔色を変えます。
「長さまっ! これ以上は危険です!」
「とにかく、作戦を練りましょう!」
私も、近付くは止めるべきだと思います。闇雲に近付くのは危険だと、勘が教えてくれています。
「しかし、近くに行かねば、詳しい情報も取れないのでは?」
一見、正論に聞こえましたが、違うと思います。長さまの発言に、一緒に来ていたツバキ様とサクラ様が、頭を抱えてしまいました。
「・・・長さま、ここで天然を発揮しないで下さい」
ツバキ様の力無いツッコミに、日常的な会話なんだと悟ります。付いていけない私は、固まるしかありませんでした。そんな私に気付いた、サクラ様が説明してくれました。
「ユーカ様、混乱されているでしょう? 長さまは、普段はまともなんですが、たまに、天然を発揮してしまう事がありまして・・・」
あぁ、優秀な方でも、そんな事があるんですね。
「とりあえず、私が軽く仕掛けてみようと思うんです、聖霊武器同士なら、何か反応があるかも」
「・・・魔霊武器なら、確かに反応があるやもしれませんね」
あまり、乗り気ではなさそうですが、サクラ様が理解を示してくれました。
「なら、簡単に仕掛けてみます」
私は、今居る場所から、少し離れました。結界があって、攻撃が出来ませんから。
聖霊武器を使い、光の攻撃を仕掛けてみます。二刀流で編み出した、クロスしながら放つ刀技です。
「まぁ!」
椿様が驚いています。まぁ、威力は強めにしてますから、驚くのも無理はありません。とにかく、敵の情報が無いのです。黒い風により、襲撃者の姿もうっすら、見えるだけ。動かず、騒がず、ただその場に居るだけ。これでは、こちらも困ります。
「あら?」
私の技に、敵の腕が動いたように見えました。武器を持っている側です。右利きのようですね。何となく、剣に見えます。それが、一振りした瞬間、私の攻撃は、霧散しました。間違いなく、消されました。
「えっ? 消えましたよ!?」
サクラ様が驚いていますが、私は冷静に、次の技を放ちます。光を纏わせた剣を、大きく振り払い、光の刃を相手へ放ちます。先程よりも、強い攻撃に、地面が少しめくれていきます。
しかし、これも、相手は右手を一振りしただけで、直前でかき消えました。先程と違うのは、あの黒い風が少し、動いたことです。
これで分かるのは、相手には中級クラスの魔法は効かない事。更に、攻撃を避けるのではなく、消した事から、相手は光の魔法耐性が無い事です。
更に、あの黒い風が、剣から出ているのも分かりました。その証拠に、剣が動いた時に、風も動きましたから。
「少し、魔法攻撃をしてみます! 『光の雨』」
光の中級魔法です。ただし、効果は広範囲の物です。勿論、意味の無い攻撃ですが、ちゃんと意味があります。
敵はまた、剣を動かします。黒い風がブワリと広がって、私の作り出した攻撃を無効化していきます。・・・無効化であっているのかは、私には分かりませんが、間違いなく、攻撃は消されました。
でも。
「やっぱり!」
私の推察は、合っていたようです。
あの黒い風は、自身から見て、半径10メートルも無いくらいの範囲しか、効果は無いようです。私の攻撃は広範囲ですが、あの黒い風は、私の攻撃を確かに消しましたが、一定の範囲を越えた攻撃は、消された訳ではなく、風圧で消し去ったという感じでした。それだけ黒い風の威力が強いのもありますが、広範囲の中級魔法攻撃まで消せてしまうのは、少し怖くすら感じます。
「・・・あの黒い風が厄介ですね」
黒い風は、恐らく、この場に居る間、ずっと出ていたはずです。魔力を使って剣から出ているとしたら、その魔力は間違いなく、持っている人物から出ているはずです。
これだけの威力を持つ黒い風を出し続ける以上、それなりの魔力があるのでしょう。それこそ、咲希ちゃんクラスの魔力があるなら、問題はありません。これくらいの威力の風を、かなり長時間、出す事が出来るでしょう。
・・・でも、もしも無かったら?
こんな長時間、この威力を出し続けていたら、魔力が切れても出し続けていたら、それは、どこから来るのでしょう?
それに気付いた私は、両手に持つ剣をギュッと握り締めます。悔しい、そう感じます。私は咲希ちゃんみたいに、華麗な解決は無理です。力が無いし、経験が少ないから・・・。
「・・・許せないっ、命すら、道具として使うなんてっ!!!」
あの黒い風は、魔力を吸い上げて、そして、足りなくなったら、次は・・・・・命を吸い上げているんです。そんな状態なのに、あの人物が動かないのは、完全に剣の支配下にあるからでしょう。
誰かに教えて貰わず、自分で気付いた私は、怒りでおかしくなりそうです。と、私の感情の変化に気付いたのでしょう。両手に持つ剣それぞれから、温かい力を感じます。
『『ユーカ、僕らも居るよ!』』
怒りがスッと押さえられます。彼らですね?
・・・・・未熟ですね。怒りで我を忘れるところでした。二人が居なかったら、怒りに飲まれたかもしれません。
怒りは、力に変えるものです。師匠たる祖父から言われていました。危うく、破るところでした。
それに、相手の観察は、かなりの情報を与えてくれました。私は一人ではなく、今は長さまとサクラ様、ツバキ様がいます。天族の方々は、翼が多ければ多い程、強いそうなので、戦闘に関しては信じていいはずです。
「攻略しましょう!」
私は高らかに、宣言しました。
・・・・・勇者らしいでしょうか? ちょっと恥ずかしいです。