第18話 説教は説明の後で(2)
お読み下さり、ありがとうございます。
「さあ、サキ様、我々にキチンと説明して下さいませ、あれは一体、何の魔術なんです?」
ブラオさん以下、皆様の視線があたしに一斉に向く。勿論、あたしに逃げ場はない。椅子に座っているし、さっきの後遺症みたいなので、上手く足が動かないんだよね………。ブラオさん曰く、二、三日で良くなるそう。
はぁ………。
「私が使ったのは、陰陽道と言う術です、今回はその中の浄化と拘束の呪文を使ったんです」
「オンミョードー?」
「陰陽道ですよ、ブラオさん」
思った通り、こちらの世界の皆さんには発音が難しかったみたい。思わず頬が緩んだわ。
「それは我々にも使えますか?」
あー、使ってみたいのね……。目がギラギラと輝いてますよ。一部の皆さん。多分、服装からして魔術師の皆さんだね。まあ、無理だけど。
「無理ですね、あたしの今の状態を見れば分かるかと思いますが…………それでもやりたいなら」
「……やりたいなら?」
ブラオさん、目線光線が半端無いです。
「命をかけてもらうことになります」
場が一気に静まりました。うん、覚悟をもたないと、無理だし。何より、流派が違うものを一緒に使ったら危ないのだ。混ぜるな危険!である。あたしは例外だけど。
「それにしても、現代にいたんだな…………陰陽師」
「私も知らなかったよ」
「僕もです」
その発言に、周りが怪訝そうにあたしを見る。
「どういう事です? 皆様の元の世界には魔法は無かったのですよね?」
「ええ、魔法はありませんでしたよ」
和磨くんが頷き返す。そう、地球には、正確には日本には魔法は無かった。
「まあ、陰陽道は魔法では無いんですけど……」
あたしが苦笑すると、まわりが怪訝そうに眉ねを寄せる。
「? どういう意味です?」
「使っている力が違うんですよ、魔法は魔力を、陰陽道は霊力を使います、まあ、別物だとだけ覚えといて下さい」
説明をもっと詳しくしたら、恐らく一ヶ月話していられる自信がある。
「まあ、この世界では使えない、って覚えといて下さいね、例外はあたしと他の陰陽師さんだけです、くれぐれも皆さんは真似しないように!」
ビシッと人差し指を突き付けると、まあ一部を除いて当たり前に、こくりと頷いてくれましたよ。あー、良かった!
因みに、一部の方達の方は、分かりやすいぐらいに、どーんよりしてるわね………。何かこの辺りにカビ生えそう(笑)
「あ、そういえば………」
ふと、聞こうと思っていた事があったのを思い出す。
「ねえ、ブラオさん、あたし達の他に勇者っていますー?」
神様が言ってたんだよね。少し前に同じ陰陽師が召喚されたって。
「ええ、おりますよ、地図が手元に無いので口頭になりますが、我が国の山の向こうにある北の国、ウエステリアに現地で産まれた勇者様が一人、後は東側の国ヴァストークに召喚された勇者様が三名がいらっしゃいますが、他の国にも非公認の勇者様は何名かいらっしゃいます」
うわ………思った以上にいた。て事は、いつか逢うわね。絶対に遭遇する気がするわ。
「しかし別の国の勇者様は、滅多に国外に行く事はないので、余程の事がない限り、お会いする事はないでしょう」
そこまで言ったブラオさんに、何故か薄ら寒い何かを感じる。あれ? おかしいな……。背筋に汗が流れるなんて。
「ところで皆様、すっかり忘れていらっしゃるようですが」
隣をそっと見れば、何故か翔太も優香ちゃんも和磨くんも、特に感じていないのか、平然としていて、ブラオさんの話を当たり前のように聞いている。
おかしいなー、あたしの感は当たるんだけど?
「本日の戦い方をしっかりと反省して頂きますよ、特にサキ様? 貴女は死ぬ気ですか?」
あ、説教ワスレテタ…………。
そんなこんなで、あたし含めた勇者一同はブラオさんの説教を受ける羽目になりました。
ブラオさんの説教、恐るべし。
◇◇◇◇◇
それからどれくらいたったのか、夕日もすっかり沈んで、お屋敷の執事さんが夕食の時間だと知らせてくれるまで、延々と説教が続いたのでした。
ブラオさんの説教は、しばらくこりごりです。あの淡々と、あたし達の悪い部分を一つ一つ上げ、どこがどう悪いのかを、徹底的に分かるまで説明され、更に淡々と話すために怖さと申し訳なさが半端無い…………。
あ、夕食は凄く美味しかったわよ? 気を使わせたみたいで、あたし達の分はあっさりしていて、他の皆様にはガッツリした物が出されました。説教後の夕食は、四人とも気力を持っていかれたので、あっさりしていて助かったわー。マジでブラオさんの説教、恐るべし。ちなみに、ファイさん情報によると、ブラオさんの部下になる人達はブラオさんに似てくるみたいで、ブラオ部隊は品行方正な部隊と呼ばれるそう…………。うん、突っ込みはなしで!
後は急な話だったから部屋数が足りなくて、あたしは優香ちゃんと相部屋になりました。和磨くんも翔太とファイさんが一緒。えっ? 一名おかしいって?
あー、ファイさんがあたし付きの侍従になっちゃったために、他の一般の騎士さん達と一緒に出来なくなっちゃったんだよねー。階級の問題って事らしいよ? 一般騎士から名誉騎士にランクアップしたが故の弊害だね。勇者の侍従なんだから、一緒の部屋で、って話になったみたい。勿論、部屋の中には侍従用の部屋があるから、全く同じ部屋って訳じゃないみたいだけど。
ん? あたし? あたしは部屋に連れられてから、すぐに寝せられましたよ? 曰く、はよ治せって事よねー。
じゃ、おやすみー!………スピー。
◇◇◇◇◇
さて、次の日。
質素な朝食―――パンにキャベツモドキのスープ、サラダにメインは鶏肉モドキのステーキ(小)、更にデザートは野菜のシャーベット―――の後は、今日の予定をブラオさんから聞く。
ん? 朝食の味? 味は薄かったよ? あたしのだけね…………。病人は辛いよ、アハハハハハ…………。
「本日は、昨日と同じく討伐です、予測した数よりもドラゴンの数が多いようです、昨日の反省点を生かしながら討伐と参りましょうか、しかしサキ様は如何致しましょう? その足ですと……」
気まずそうにあたしを見るブラオさん。確かにあたしは足手まといになるからねー。
んふふ、しかし問題無い!
「あたしも行きますよ〜♪ この子達いるし」
あっけに取られている皆を余所に、あたしはそう言うと、懐から四枚の紙を取り出す。
「おいでませー! 私の式神達! 春、緋ノ斗、龍、樹英!!」
取り出した紙に霊力を込めて、パサッと勢い良く放つ。手を離れた紙は光に変わり、その光は形を作り始める。光が消えたそこには、三人の異国の服を着た御目麗しい人と、一匹の青い獣が顕現していた。
ポカーーーーーーーン
この場の皆様には刺激が強すぎたのか、全員茫然自失状態。中には顎が外れるんじゃないかというくらいに、口を開け放っている方々がいたり。目をこれでもかと見開いている人たちもいるし。
うん、してやったり感半端無い☆
「咲希様、程々になさいませ」
呆れたように言うのは、美しいかんばせの女性。金の髪を膝の辺りまで伸ばし、翡翠の簪で結い上げている。着ているのは着物で、上の着物には美しい花の柄が描かれ、スカートは引き摺る程に長いが、足元で開いており、美しい飾りのついた素足が見えている。
いやー、あたしの式神だけど美人なのよね〜。
「春〜、別にそのまんまでも面白いよー?」
ちょっと拗ねた。春はふわふわしているけど、結構頑固な部分があるんだよね。
「?? 咲希は面白がってるんだから、いいんじゃないか?」
可愛らしく首をかしげるのは、紅い髪を肩で切り揃えた男の子だ。着ているのはアラビアン風のチョッキとズボンだ。足元には細い足輪をいくつも付けてる。但し、細い衣を羽織る姿はやはり神世の神の姿を思わせる。
でも行動が子供じみている所為で、可愛いイメージがあたしにはついているんだよね〜(笑)
「何を言ってるのだ、子わっぱが! 咲希様が悪戯心を出したら止めるのが我らが務めであろう!」
あー、こちらはあたしも中々に頭が上がらない方である。
中国奥地にいるような仙人のような長ーい髭を生やしたお爺ちゃん。着ているのは足首まである長い紫色の物を羽織り、右手には節がある木を杖にして持っており、コツコツと歩く度に音がする。顔立ちは皺が沢山ある優しい顔のお爺ちゃんなんだけど、知的な顔立ちの所為で狸に見える。
「えっと、樹英さん? あたしは…」
しかしあたしの言い訳は、最後までは言わせて貰えず、またしてもあたしの式に遮られる。
「咲希様、そもそも“何故”我々をお使いにならなかったのです?」
異様に“何故”の部分に力が入っていたんだけど、あたしは気付かないふりをした。
これを言ったのは、青い獣姿の龍。タツと読む。四足の虎のような姿に美しい青い翼、紫の瞳を持つ彼は、式の中で唯一、獣姿を好む変わり者である。
性格はもの静かなタイプなのだが、この中で怒らせたら一番恐いのが彼だ。
あ、詰んだかも(汗
「咲希様、しっかりと我々が納得するまで説明して下されよ?」
…………樹英様に逃げ道さえ、ふさがれました。
まさかの式神の皆様による説教フラグが立ちました。
だ、誰かヘルプ ミーーー!!!
本日もお読み下さり、ありがとうございますm(__)m
作者の秋月煉です。
今回は説明会的な物になりました、てんしろ。秋月、勉強不足感は否めません。日々精進ですね!
新しい登場キャラ達が、好かれる事を祈ります。秋月のお気に入りは、春ちゃん♪
さて次回は、てんしろ荒れます。新しい登場キャラ達が暴走を開始します。
後は城の方も何やらきな臭くなってきたので、閑話でいれようかと(笑)
こうご期待!
本日のミニ小説はお休みです。毎回楽しみにしておられる方、申し訳ないm(__)m
感想、誤字脱字、ご意見、いつでもお待ちしております。誰か、くれないかな……(←結構切実な願い!)