閑話 悲劇の令嬢は頭が痛いです2
お待たせしました!
side:天上 翔太
いきなりの戦闘に、頭を悩ませる。
「翔太、グリーンウルフって、確か」
ほう、流石にそっちの知識はあったらしい。和磨も、ようやく理解したらしく、ペンダントを槍に変えてた。はぁ、弱い魔物だから許される猶予だ。強い奴等なら死んでるぞ?
「あぁ、こいつらは集団で動く、緑色は擬態だから、気を付けろよ」
「分かった」
とはいえ、きちんと訓練は受けていたから、対処は可能だろう。そこは勇者のスペック、といえるかもしれない。
「和磨、後ろだ!」
「このっ!」
少しぎこちないが、許容範囲だろう。和磨は避けると同時に、槍の先端の刃で、傷を負わせることに成功し、グリーンウルフは情けない悲鳴を上げた。が、敵もさるもの。和磨が不慣れと気付くと、和磨を中心に狙いを変えてきた。この動き、もしかすると、リーダー格が居る群れかもしれない。ちっ、厄介だな。
とはいえ、不慣れなだけで、強い部類に入る和磨だ。こいつ、天才の部類だからな?? だから、俺はフォローだけだ。経験積めば、普通に和磨は対処できてしまうんだから。
『風の刃!!』
和磨が正面にいる数匹の敵に、見えない風の刃を放つ。とはいえ、下級呪文だ。威力はそれなり。だが、それにより怯んだ一瞬の隙をつく、というのは、いい作戦だろう。・・・・・こいつらが、風の属性に強くなければ、な?
「えっ!?」
そう、和磨が予想しなかった展開故に、対処が一瞬おくれる。はぁ、やっぱり駄目か。和磨が起こした風は、確かに普通の魔物ならば、先程の効果があるだろうが、風に耐性があれば話は別だ。事実、全く効いていないからか、何匹かが迫ってきてるしな。
『氷の刃!』
俺の手から、ナイフ状の氷が放たれ、和磨に向かっていた数匹は、慌てた様子で、和磨から身を引く。遅れたヤツが、キャウンと悲鳴を上げるが、今さらだろう。
「ごめん、翔太、助かった」
「きーつけろよ? 侍従は今回はいないんだからな?」
「うん、ごめん」
素直なところは美点だが、和磨には群れとの戦闘は早かったかもしれない。が、やるしかないわけで。
「こいつらは、風に耐性があるみたいだ、他の呪文を使った方がいいぞ?」
「うん、分かった・・・えっと『光の刃!』」
今まさに、飛び掛かろうとしていた奴等に、見事に命中した。ナイフ状の光の刃は、そのまま後ろにまで飛び、更に数匹を巻き込んだ。
「ナイスだ、和磨! そのまま、数を減らすぞ」
「うん!」
元気のいいお返事な事で(笑) まぁ、後は俺も手伝って、グリーンウルフは、ものの数十分で倒したんだが・・・・。
「和磨、気付いてるか?」
「うん、これは僕も分かるよ、何か強いのがいるよね?」
「ここまでのヤツは、普通はこんな浅い場所には居ないんだがなぁ? 何かあったか?」
たまに、奥地でボス交代があると、今までと縄張りが変わる事がある。それか? 後でギルドに報告だな。弱い冒険者が巻き込まれると、厄介だ。
「お出ましか、これは・・・・・知ってるか? 和磨」
一際高い茂みから姿を表したのは、額に立派な捻れた角を持つ、グリーンウルフの一回り、いや、二回りは大きい獣だ。色や形は似てる気がするんだが、俺は知らん。隣の和磨に聞けば、素直に驚いていた。おいおい、何かヤバいやつなのか?!
「まさか、ここで見れるなんて! 翔太! これ、ソード・グリーンウルフだよ!!」
あ、何か和磨の琴線に触れたらしいぞ? そんなに凄い魔物なのか?
「翔太、こいつのツノ、薬になるんだ」
和磨の目がマジだった。こう、獲物を見る狩人の目って言えば、分かりやすいか? 薬師の一面が、表に出てきた感じか。
「だから、なるべくツノに傷は付けたくないんだ」
「あぁ、分かった」
先程までの不馴れな感じは何処かへ消え失せ、今あるのはツノを狙うハンターの目。此方のヤル気を感じたのか、敵が威嚇をしてきたんだが。
こうして、第2ラウンドが切って落とされた。
◇◇◇◇◇
side:オリビア
勇者様来訪という、我が家の珍事に、今はてんてこ舞いな訳ですが。それだけな訳もなく、父はさっさと、あれだけ愛していたはずの継母を実家に帰す算段をつけていました。ついでに、あれだけ溺愛していたはずの妹も、の予定のようです。修道院も、田舎も、継母は拒否したみたいですし・・・。
まぁ、継母とは血が繋がっている訳ですし、彼方も他との繋がりがあるわけで、更に年頃の令嬢ですから、使い道があると思ったようです。まぁ、既に、王家が認めた婚約者が居るので、他の家と繋がるのは無理ですけれども。
妹は、婚約者が出来て喜ぶかと思いきや、あれだけ甘え、好きだと言い続けたのに、今や伯爵婦人に成れないからか、私の元婚約者との結婚も拒否したみたいです。元婚約者は、城で文官になるしかないみたいですからね。あの夢のせいで、爵位すら持つ機会が潰れた訳ですから。貴族の親戚と言う立場が、気に入らないみたいです。基本的に平の文官は、貴族の後ろ楯があれば、出来る仕事ですからね。爵位が自分になくても出来ますし。
「まったく、オリビアは体調が悪くとも、しっかりとやっているのに、あやつは我が儘しか言えんのか!」
また、父の愚痴が始まりました。最近は、いつもこんな感じです。あれだけ溺愛してましたのに。変わり身の早い事で。斜め前の席など、本来ならば座りたくありませんが、今は父が伯爵であり、家長です。言われたら、素直に座った方が利口でしょう。
「お父様、溺愛して、我が儘をそのまま叶えてあげていたのです、仕方ないですわ、それに食事も別々に食べているではありませんか」
今まででしたら、父との食事は、継母と妹が一緒だったのです。それが、今では逆なのですから、皮肉なものです。
「ふんっ! ワシを騙した輩と、同じ席になど、座りたくもないわい! ワシの娘はお前だけだ、オリビア」
また、これです。どうやら、父は夢のショックなのか、私を今度は溺愛の対象にしたいみたいですわね。まったく、父の相手が一番疲れますわ。
「オリビア、また、あまり食べてないみたいだが? 体調がまだ本調子ではないんだろう? 少しでも食べて、体力をつけなさい」
「あら、大丈夫ですわ、前より食べる量は増えましたのよ? 今はバタバタしてますけれど、夜はちゃんと休んでいますわ」
バタバタしたのは、勇者様の件の他に、お父様の件が重なっているからですわ。命令だけして、後は任せっきりなんですもの。確認は全て私がするのです。つまり、仕事を増やしているんですわ、お父様が!
「ところで、お父様? お継母さまはいつ頃、出発されますの? 後数日で、勇者様がいらっしゃるのですが」
そう、この問題があります。色々と準備が必要ですもの。
「彼方と話し合いがつき次第、出ていってもらう」
勇者様が来訪するまでには、片付かないようですね。本当にどうしようかしら?
◇◇◇◇◇
side:天上 翔太
はぁ、疲れた。和磨のヤツ、本気だったよ。お陰様で精神的に疲れましたよ!
「和磨ー、ギルドに報告終わったから、行くぞー」
これ以上、時間をくう訳にはいかねーからな。とはいえ、和磨のレベル上げが必要な訳で。
「少し飛ばすか」
絨毯を取り出し、和磨と共に空を飛ぶ。
はぁ、これから先、伯爵領についたら、令嬢と会談せにゃあかん。フランツ曰く、基本的にしっかりしてるらしいから、令嬢は問題ないそうだ。問題は、伯爵だな。令嬢が結婚したら、後ろには公爵家がつく。だから、問題はないが、今は婿養子である彼が伯爵なのだ。この世界には、女伯爵の地位があるから、令嬢が継いで、婚約者が支える形だ。実際、彼が伯爵を継ぐ前は、婦人が女伯爵だったらしいからな。
「まぁ、護衛もするが、何よりも問題が、コレだよなぁ・・・」
頼まれた物を見て、俺は人知れず溜め息を吐くのだった。あー、早く帰りてぇー。
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