第166話 裏のお話と、殿下の叫びです
今回は裏側をお送りします☆
優花ちゃんと、ユリー様の二人を何とか向かわせて。
侯爵様、流石、伊達に社交界を渡り歩いて来た訳では、無かったみたいです・・・。
執務室へ入って思ったのは、貫禄からくる、無意識の威圧。いや、もしかしたらわざとかもしれないけれど。王族ほどではなかったけど、それでも、びりびり来るのは、ちょっと予想外だった。
・・・・・試されてる?
娘を助けたとはいえ、家の家長だけあって、ちゃんと弁えてる感じよねぇ。家族を大切にしてるけど、ちゃんと仕事とは線引きできるタイプと、あたしは見た。
この部屋には、先程いた、執事長と、侯爵様、あたしだけ。ま、未婚の女性が、いくら相手が既婚者でも二人きりは外聞が悪いから、仕方ないけどさ。
「さて、話を聞こうか」
あら、本当に出来る人ね。さっきの印象は、家族が居たからか。まあ、あたしとしては好都合。
「今回の原因を説明すべきかと思いまして」
「ほう、それは是非ともお聞かせ願いたい」
何故かビリビリとくる威圧を何とか、魔力を使って相殺させつつ、今回の騒動の原因を説明していく。
「とある伯爵家に、前妻との子、後添えとの子がいましてね?」
それだけで、なんとなくでも、侯爵様は当たりがついたっぽい。凄いわ、あの貴族一覧を覚えてるってこと?!
「伯爵は、後添えとの子供ばかりを可愛がっていまして、さらに、前妻の子は、後添えとその子供に、虐められていたんです、すっかりと体も心も弱ってしまったご令嬢は、魂だけで逃げ出してしまい、とある少女の体に入り込みました」
そこまで言えば、侯爵も分かったらしい。顔にはださないけど、間違いなく伯爵家とひと悶着おきそうだわ。でも、それは、あたしが願っている結末じゃない。
「それから何年か経ち、ある魔術師がその魂を救い出し、そして、とあるマジナイをそのお屋敷にかけたのです」
そう言ったら、急に侯爵が笑い出した。あら、そんなにおかしい事したかしら? ま、まあ、いいわ。続きを話そう。
「そのマジナイは、悪い行いをした分だけ、自分に悪い事が起きるというものです、そして、いい行いをした者には、更にいい事がおきるというもの・・・・・、それに、後添えの娘は、どうやら父親と血が繋がっていないようで、当人たちは知らないみたいですが」
そこまで言えば、侯爵も興味津々で、こちらの話に耳を傾けてくれた。多分、特定したんだろうな。どの家か。そして、多分。あたしが施したマジナイの話で、今後が何となく読めて、笑ったんじゃあるまいか。今も肩を震わせて静かに笑ってるけどさ。
「すまないね、いやはや、そんな事態になっているとは・・・・・で、君は、どんな決着をお望みかな? 私が手を出すのは、だめなんだろう?」
さすが、分かってらっしゃる。そう、今回の事、この一族は巻き込まれたに過ぎず、さらに、表にも出せない。どこかで、妥協してもらう必要があったのだ。
「はい、それでお願いがありまして・・・実は、その姉令嬢が次期当主なんです、花婿は殿下にお願いしましたが、間違いなく、邪魔な奴らは出てくるんですよね・・・話題のご令嬢に近々なる予定なので・・・」
「ほう、何をしたか聞いても?」
興味深そうだけど、これ、多分、聞いたらビックリするんじゃなかろうか?
「今晩、このご令嬢の惨状が、夢で出ます、この国全域で・・・それこそ、後添えさんや、血が繋がってない妹、更にその妹に恋する婚約者、それに、伯爵が外に出れなくなるくらい詳しく」
あ、侯爵様、固まった。そっと見たら、老齢の執事さんも、柔和な笑顔をしてるけど、フリーズしてるっぽい。刺激が強かったかな? まあ、貴族だからね。醜聞ほど、怖い物はないんじゃないかな?
「それで、もしかしてだが、私に力を貸して欲しいと? 大事な娘に危うく危機が訪れるかもしれなかったのに?」
うん、そう。いくら何でも、都合がよすぎるのは分かってる。でも、あたし、聞いちゃったんだよねー。
「何でも、侯爵家と伯爵家は、仲が悪いそうですね? 当主同士が」
派閥が違う事もあるんだろうけど、性格もあるらしい。この二人、学生時代から、らしいからね。フランツ殿下が苦笑いしてた。
「しかし、貴方が動かないだけで、これからの社交界の危機に落ち着きを持たせられるならば、如何でしょう? ま、簡単に言えば、今の当主に復讐するチャンスですよ? あれは婿養子ですから、好きに出来ますでしょう? 貴方ならばーーーーー、勿論、婿養子の伯爵だけで、家は残して欲しいですけど・・・」
そういえば、ニヤリと笑った侯爵様。思わずゾクリとしたわ。こわっ、貴族を怒らせると、碌な事にならないわ。
「良かろう、勇者サキよ、私は令嬢には特に思い入れがあるわけではない、違う派閥である以上、同情しかしてやれん・・・、だが、今回の騒動の元である伯爵には、積年の恨みがあるのでなぁ・・・、こんなチャンスをもらえるとは!!」
ん・・・? なんか、開けてはならない扉を開けちゃった気がするんだけど、気のせいかしら? 藪をつついて、蛇じゃなくて、ドラゴンが出てきちゃったような・・・。それに、執事さんが、ハンカチで目元を拭いてるのよ? 良かったですね、旦那様とか言いながら!! え? あたし、なんか間違えた!?
「とりあえず、宜しくお願いします・・・?」
内心、複雑ながら、お願いして、あたしは優香ちゃんとユリーさんを連れて、お城に帰ったのでした。あ、ちゃんと、シャナリーデ嬢の休暇申請を出しといたよ。2.3日だけ病欠で休むようにしといたから、抜かりはないわ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「サキ? 一体、何をしたのか、今度こそしっかりと吐いてもらうよ!?」
開口一番、フランツ様に怒鳴られた。まあ、今回の騒動で、お願いだけして、説明をほぼしてないからね。叱られても仕方ないんだけどさ?
城に帰還してから、必要な事をすませ、その日は普通に寝れたんだけど・・・。あたし、この日、とある事をしたじゃない? 国全土で、とはる伯爵家の全容を、ね? 夢で流しちゃったのよ♪ で、これで、フランツ様にお呼び出しがかかったのよ。
「だってー、侯爵令嬢助けたら、伯爵令嬢が虐待されて死にそうなんですもん」
「だからって!! 相談もしないで、勝手な事をしたらダメだろう!? 今現在、王宮では、あれが事実かと、大騒ぎになってるんだよ!? それに、他の令嬢にも同じ立場の令嬢たちがいて、彼らも同じ目にあっているんじゃないかと、議会は紛糾してるよ!! どう納めればいいんだ!?」
珍しく、髪を振り乱し、叫ぶフランツ様。あら、そんなに大事になること?
「中には、自分と血が本当に繋がっているのか、魔術師に依頼する貴族まで出始めてるんだぞ!? お陰で、魔術師たちは、てんてこ舞いだ・・・はあ」
がっくりと項垂れたフランツ様に、内心、申し訳なく思う。いや、だってさー? こんな騒動になるなんて思わないじゃん?
「まあ、サキのお陰で、衰弱した令嬢を王宮に保護できたから、悪いばかりではなかったが・・・」
あら、それって、国が調査に動いたのかしら?
「もともと、あの伯爵は、令嬢が成人するまでの繋ぎでしかないからね、早く婚約者を見つけてしまうつもりだ、あの家は潰せないからね、今の婚約者は、外すよ、彼ではどうやら勤まりそうにないからね」
あ、ドロドロな話ね。とはいえ、伯爵家を消せば、それはそれで問題だものね。今頃、父親と、後添え、血の繋がらない妹、婚約者の青年は、大変肩身の狭い思いをしているだろう。夢で皆が、彼らがしていた事を知っているんだから。
「ちなみにだが、今回の件を受けて、伯爵と妹さんとの血縁を調べたら、見事に血が繋がってなかったらしい」
うわぁ、じゃあ、噂は本当だったと? 社交界の情報、恐るべし・・・。
「伯爵は抜け殻みたいになってるよ、彼は姉の方を後継ぎにすることに合意してる、彼女は正真正銘、伯爵の血と直系の先代夫人の血を引いているからね、が、彼は今更、血の繋がっている姉を虐げてしまった事を後悔してるらしい、まあ、素直に戻すつもりはないがね」
黒い笑みを浮かべるフランツ様にとっては、これはいい機会みたいだからね。きっと、あちこちに網をはってるんじゃないかな?
「でね、サキ?」
おっと、矛先があたしへと来てるし。
「ちょっと、協力してほしいんだ、勿論、受けてくれるよね?」
おう・・・、そう来ましたか。あたしが断れないのを知っていて!!
「何をするかによりますが・・・」
「うん、パーティーに出席して欲しいんだ、なんせ、かのご令嬢は”特別な”加護を持っているそうだからね」
うっ、あれはあたしがした事じゃないんだけど!? だって、あたしは浄化しただけなのよ? こっちは想定外だったわ。
「という訳で、彼女、オリビア嬢を頼むよ、ちゃんとあの家族から、守ってくれるだろう?」
あぁ、確かに忘れていたけど、逆恨みとかあるわよねぇ。やだわ、ドロドロしてきて。
「あぁ、サキ、エリエンヌがドレスを選ぶと張り切っていたから、この後向かってくれ」
フランツ様の言葉に、あたしの顔がひきつった。マジか、意外な落とし穴があったわけか。
「勿論、逃げないだろう? エリエンヌが楽しみにしてるんだから」
ニッコリと笑うフランツ様が、この時、悪魔に見えたわ。苦手なの知ってるじゃん!!
ふぅ、無事に書き上がりました。
いつもお読み頂き、本当にありがとうございます。
作者の秋月煉です。
今回は見事に、スランプが入り始めてまして、中々の難産でした。いやはや、気楽な話を書きたいです。
次はパーティー、そして、やっとこさ、あのシーンに行くわけです。本来なら、入らない予定の話だったので、上手く頭が回りません。
ちゃんと書けるかな?
次回も宜しくお願い致します。