第165話 まずはお掃除しましょうか
お待たせ致しました!
あたしがまず先に行ったのは、この屋敷全体の浄化。そして、因果応報が起きるように、ちょっとだけお呪いを施していく。のろいはしてないわよ? 時間がないし。
暗雲立ち込めた御屋敷に、朝日の如く、光が差し始める。ウフフ、上手くいったわ。
「さあ、貴方の体も綺麗にしましょうね?」
窓から、侵入成功。流石、活気のないお屋敷。警備がザルである。まあ、あたしには好都合だし、ちょっとしたサプライズも仕込むつもりだ。
『光の雨』
体から出ている瘴気を一気に浄化して、この子の魂を戻していく。勿論、嫌な記憶など、のちのちの禍根は消しておき、または希望を持つように誘導していく。これが意外と骨が折れる作業だが、妥協は出来ない。
「さてと、これくらいでいいかな?」
あとは、この屋敷に居る、ちょっとマシであろう使用人に、暗示をかけるのだ。この屋敷の正式な主は、彼女、オリビア嬢であると。そして、妹の方は、屋敷を継ぐ資格がないのだと。まあ、クズに甘やかされたお嬢様が、どんな反応するか楽しみだわね。
どうやら、オリビア嬢には一人だけ、専属の使用人がいるらしく、彼女は使えるらしい。他と比べてだけどね。
てなわけで☆
彼女が様子を見に来た時に、ちょっとオリビア嬢を光らせてあげた。そして、春を只人にも見えるくらいに顕現させる。ビックリしてるその間に、この子が特別であると、この屋敷の全員に見せつける。簡単だよ、声を全員に聞かせるだけなんだから。
「この子は特別な加護を与えられた子、オリビア・・・もしもこの子に不当な事をしたものは、我らが許さない」
ってね? 実際、後から知ったんだけど。オリビア嬢、意外にも、大地の精霊に好かれていたみたいで、綺麗になった彼女の周りには、精霊がウロウロしていたり。だから、多分。
ーーーーー相当な騒ぎになると思う。大地の精霊って、特別だからね。この辺りの収穫量が変わるんじゃないかな?
さて、そんな彼女を一体、彼らはどうしていたのかしら?
さてと、もう一個。サービスしてあげましょうか。
夜、この国一体に、全員が同じ夢を見るように。そして、それが、彼女だと分かるように、名前が入るように・・・・・。
ウフフ、後は。侍女と、まともな皆さんに頑張ってもらいましょうか☆
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Side:?????
この日、御屋敷に久方ぶりに、日の光が差したのです。
日が差したのは、いつぶりでしょうか? オリビア様が寝たきりになって以来、ここは火が消えたようでした。正直言えば、誰も嫌われた長女の世話をしたくなどありません。でも、居ないのもダメなのです。
私は、侍女として、嫌々ながらも、世話をしていました。勿論、仕事ですもの。手抜きだけはしませんでしたけど。
が、この日、私は奇跡を目にしたのです。
オリビア様が光り輝き、そして、美しい女性がオリビア様を撫でていました。驚きました、とても美しくて、神々しくて!!
そして同時に、我々は声を聴いたのです。とても美しく、そして、無慈悲な声を・・・・・。
ーーーーーこの子は特別な加護を与えられた子、オリビア・・・もしもこの子に不当な事をしたものは、我らが許さないーーーーー
このお屋敷に居た皆が聞きました。それこそ、奥様と妹様も。我々使用人でさえも。
誰もがギョッとし、そして慌てふためきました。誰からも見放されたはずのお嬢様、オリビア様に特別な価値が付いたのです。奥様も、その奥様に瓜二つの妹様も、顔色を白くしていました。彼女達は、意地悪ではあっても、悪人ではないのです。
まさか、我らの想像が付かないくらいの価値がつくとは。未だに光り輝くお嬢様は、大変美しく・・・。
同時に、誰もが思ったのです。
・・・・・不当な扱いをしていた我らは、一体、どうなるんだろうと。
奥様と妹様は、寝込んでしまわれたと後から聞きました。
私は、お嬢様、オリビア様の専属侍女です。嫌々していた私はきっと、あの、この世の者とは思えない、無慈悲な神々が許さないでしょう。それでも、許されないならば、今だけはどうかお世話させて下さいませ。あなた様に相応しい侍女が来る、その時までは・・・。
◇◇◇◇◇
あら、本当に使えそうじゃない? あの侍女。
良いことしたわ~♪ 明日が楽しみね☆ お屋敷も浄化は終わったし、体も魂も綺麗にして、ミッション・コンプリート☆
侯爵家に帰りますか。早く帰らないと、色々と矛盾が起きそうだしね。今日は、侯爵家でお庭を見せてもらう、お茶会だもの。ちゃんとしておかないと、面倒だしね☆
「ふう・・・、やっぱり記憶を触るのは疲れるわ」
『お疲れさまでした、主人・・・この後は、如何されますか?』
龍の言葉に、ニヤリと笑う。そう、確かにこの後も、色々と起きるだろう。特に、クズな伯爵は、これ幸いと、やらかすかもしれないが、残念ながら、そうは問屋が卸さない。
『主人?』
再度、あたしに問いかけてくる龍に、満面の笑みでお答えを。
「何にもしないわよ」
そう言ったら、怪訝そうにされたけど、仕方ないでしょ? あたしは勇者なの、私事で動けない立場なのよ。だから今回、夢と、殿下に打診したんだし。直接動かなければ、問題ないはずだわ。
「それに、夫人と妹は動けないでしょ・・・自分たちにこれから、今までやったことが全部返ってくるんだもの」
記憶を見た限り、まともな使用人は大丈夫そうだけど、それ以外はどうなるかしらね。あたしが手を出すのは、ここまでよ。あとは、周りが勝手に色々としてくるでしょうけど。それは、あたしの管轄ではないしね。
『主人よ、あまり手を出すのは・・・』
心配そうな龍には悪いけど、今回のはギリギリのところなのだ。これ以上は、あたしも本格的に首を突っ込むことになる。それは、彼女のこれからの為にも、ダメだろう。勇者との繋がりがあるのは、危険も伴ってしまうから。
「さあ、帰るわよ」
優香ちゃんと、ユリーさんが居るとはいえ、ちょっと心配だしね。ダメなら、あたしも何かしら手伝うつもりだし。まあ、大丈夫だとは思うけど。
◇◇◇◇◇
侯爵家に帰ってきたら、ん? 何だが、不思議な空気に包まれてるんだけど、何事??
「優香ちゃん、何があったの?」
あたしが帰ってきたからか、優香ちゃん、ホッとした顔になって、涙目になってた。更に上目使い!! ダメよ、美少女がそんな顔をしたら! 自覚無しの美少女、恐るべし! 身長はあたしの方が低いんだけどねぇ?
「咲希ちゃん、さっきね? シャナリーデさんが目を覚ましたの、蜘蛛に驚いて気を失った事になってるけど、なんか性格が変わったみたいで、いい方に・・・侯爵様が何故か、男泣きを始めちゃって・・・」
あぁ、そういうこと? 今までの事が思い起こされて、無事に浄化された娘に、最後の堤防が崩れたと。
「あ、侯爵様に話があるんだけど、御取込み中かしら?」
どうみても、今はだめよねぇ。使用人さんまで、涙目だし。これは困ったわね。報告して、ちょっとお願いをしたかったんだけど。
「あたしらは、庭でも見せてもらおうか」
「うん、そうだね」
ここに居ても、あたしらは邪魔だろうし。それに、家族のこの優しい空気を壊すのは、流石に忍びないしね。
近くに居た使用人さんに、お願いをして、庭を案内してもらう。ちゃんと、執事さんには声をかけたよ。後から何か言われたら嫌だしね☆
「うわぁ、流石、侯爵家の庭ね! 素敵だわ」
「本当に綺麗!」
あたしも、そして優香ちゃんも、西日になりつつある太陽に照らされたバラ園に、文句なしの感嘆の声を上げた。色とりどりのバラが、綺麗に配置され、まるで妖精の庭のようである。バラ以外の花々が、それぞれのバラを更に引き立てており、眼福である!
「良かったね、咲希ちゃん、シャナリーデさんが無事に元に戻って」
「まあね、優香ちゃんには感謝だよ、あのタイミングだと、あたしが魔法を使うのは良くなかったからね」
「え? どういう事?」
「陰陽術を使う前に魔法を使うと、あたしが混乱しちゃうのよ、術が違うから」
「そっか、だから咲希ちゃん、私にお願いしたのね?」
「その通り!」
それに、優香ちゃんの光の魔法は、勇者の中では一番強いと思う。あたしも使えるけど、そこまでは無理だわ。それに、あの時は魂の保護が必要だったから、どうしてもあたしが直接的に浄化をするわけにはいかなかったのだ。
「サキ様、ユーカ様!」
呼ばれて、声のした方に振り替えると、満面の笑みのユリーさんと、少し恥ずかしそうな侯爵様が居た。うん、もう一回いう。恥ずかしそうにしている、中年おっさんの、この家の当主様がいた! 何で恥ずかしそうなのかは、目元が赤いからだ。まあ、泣いたらそうなるわな。
「あら、もういいの?」
あたしが聞けば、侯爵様が威厳たっぷりに頷いたけど、未だに赤い顔だから、締まらない。本当に、年を考えましょうね?
「執事長から聞いたんだが、私に話があるとか」
おっと、それはここでする話ではないだろう。内密なお話というやつだ。お願いしておかないと、この家にまで被害が起きたら大変だからね。
「侯爵様、良ければですが、どこかの部屋でお話しませんか?」
遠回しに、内密な話だと、態度や、声で申し上げておく。彼はすぐに理解したのか、執務室を提供してくれたけど、これは裏を知ってるメンバーがいいのよね。だから、ここでも、優香ちゃんには自然な形で、ユリーさんとシャナリーデ嬢の方へ行ってもらう。二人を巻き込むつもりはないからね。
「あ、優香ちゃん、ユリーさん、シャナリーゼさんに、これ渡すの忘れてたの! 渡しておいてもらえない?」
恐らく、シャナリーデ嬢は、2、3日ほど、仕事を休むだろう。今までいた魂が消えたのだから、体調が崩れてもおかしくはない。バランスを崩したようなものだから。
「お願いね」
さてと、あたしはちょっと交渉しましょうかね。侯爵様と。
お読み頂きまして、ありがとうございます!
今回は、展開に悩みに悩み、やっとこさ、書き終えました・・・。
ちょっとスランプ気味なので、止まらないか怖いです。
展開は、妄想していたら、テンシロの展開にはちょっと違うものばかりが出てきて、ヒヤヒヤしました。
まだ展開は途中ですが、大丈夫! ハッピーエンドは確約します!!
皆様、次回も宜しくお願いします。