第163話 憑かれています、お嬢様
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甲高い悲鳴と、驚きの顔は、すぐに消え去り。立ったまま、気を失うように、シャナリーデ嬢は首がカクンと下を向く。
「シャナリーデ!?」
慌てて近寄ろうとする父親を、運よく優香ちゃんが止めに入る。使用人たちも、ただ事とは思えなかったのか、すぐに行動に移り、羽交い絞めにして動きを完全に止めた。事前に優香ちゃんにお願いして助かったわ・・・。
そんな最中、ユリーさんは何かを感じたのか、ビクッと肩を震わせ、前方に居る姉を睨みつけていた。夫人は、突然の事で動転したのか、気絶しており、メイドに付き従われて、外に出された。ついでに式神も放っておく。後の為に。
「これ以降、ドアの開け閉めはなさいませんように」
閉める際、そういったら、メイドさんがしっかりと頷いてくれた。勿論、式神様たる白が、扉には配置されているから、出られないけどね(笑) もう、あたしにとっては見慣れた光景だからね、これ。初めての人はビックリしてるけど。
「咲希ちゃん、これって・・・」
不安そうな優香ちゃんに、いつもと変わらない笑顔を見せる。
「うん、何か良くないモノに憑かれちゃったみたいなんだなー、それが魅了の力と相まって、おかしな事になっちゃった感じだと、あたしは睨んでる・・・勿論、これは陰陽師たるあたしの管轄だから、対処は出来るんだけど・・・憑かれてた人って、記憶がね、ちょっと曖昧になってる場合が多いのよ、だから実家に行く必要があったの」
ついでにもみ消してもらえるしね、ここなら。なんて、悠長に構えていたら、ただ、その場に立っているだけのシャナリーデ嬢から、嫌な気配が漏れ出してくる。やっぱり、内側に隠れていやがったか、こいつ。
「こんにちは、もう一人のお嬢様? いい加減、自己紹介してもらえるかしら?」
「えっ!? 咲希ちゃん!?」
慌ててる優香ちゃんには悪いけど、既にこの憑いてるヤツは、終わりなんだよ。何の為に、あたしがお願いしたと思ってるのさ。
呼ばれたシャナリーデ嬢は、ゆっくりと頭を上げて、あたしを睨みつけてくる。あらあら、随分と好戦的らしい。目の色が、シャナリーデ嬢の本来の色である緑色が、いつの間にか赤く変わっていた。それを見たらしい父親が、息を呑んだ気配がした。周りの人、多分だけどお嬢様付きのメイドだけが、あまり驚いてない。多分、見慣れた光景なのかな?
「・・・・・あら、さっきから煩いわね・・・せっかく休んでたのに」
声はシャナリーデ嬢より少し低いかしら? 体はこの子の物でも、中身が違うと印象がガラリと変わる。砂糖菓子が似合う、女の子らしいのがシャナリーゼ嬢なら、目の前の彼女は妖艶。年頃の女性らしい、色香が見えて、近くに居た執事さんの何人かが、唾をゴクリと飲み込んだ音がした。まったく、男って!! あたしの内心を感じ取ったのか、龍から声がかけられる。
『主人、落ち着かれよ』
「分かってるわよ・・・」
龍に注意され、不貞腐れそうになるけど、あたしだって分かってる。今は緊急事態。あたしの気持ちは二の次三の次なのよ。
「初めましてよね? あなたは誰かしら?」
もう一度、問いかける。取り付いてるヤツは、会話が可能ならば、ある程度の事情を聴いた方が、実はやりやすい。まあ、話が聞けないような奴は、強制的に引き離すんだけど・・・、ちょっとその手はやりたくない。あれ、結構な激痛が走るらしく、取り付かれた人はもれなく気絶コースをいく。流石に、手荒な真似はしたくないし、それに、何よりも。違和感があるからさ。
「あら、貴方・・・いいわ、答えて、あ・げ・る♡」
一々反応が妖艶なためか、正直、周りの空気がウザイ。でも、やらないといけないから、我慢我慢。
「そうね、わたくしは、この子の影、みたいなものかしら?」
ほう、影、ねぇ?
「随分と曖昧な答えね? あたしは誰と聞いたんだけど」
さらに鋭く問い返すが、余裕の表情は消えない。
「あら、影って答え、だしたつもりだけど・・・気に入らない?」
一々妖艶な仕草をするもんだから、この場に居る男性がおかしな表情になってるわね・・・。はあ、余計な人を入れちゃってかしら?
「えぇ、気に入らないわね、その体は、シャナリーデ嬢の物よ、貴方の物じゃないわ」
その答えは気に入らなかったのか、ふんと鼻で笑われた。やっぱりムカつくわ!!
「違うわよ? この子の物であり、わたくしの物でもあるの、だってこの子が嫌だと思う事、ぜーんぶ、わたくしがしてきたのよ? 当然、その権利があるはずよ?」
・・・・・なるほど、シャナリーデ嬢自身が、影を認めてしまっているのか。だから、ここは自分の場所だと、主張できるわけか。でもさー?
「じゃあ、聞くけどさ、貴方の本当の体はどこにあるのかしら?」
そう聞いたら、キョトンとされた。当然だろう、今までと全く関係なく、いきなり影の事を聞いたんだから。
「何を言ってるの? 影であるわたくしに、本当の体があるわけが・・・」
「無いといえる? 本当に?」
そう速攻で問い返したら、少し視線をさ迷わせた後、黙りこくった。どうやら、反論が思いつかないらしい。まあ、時間稼ぎはするつもりだから、別に構わないけど。
「普通、何かの病気でもない限り、意識は一つしかないものよ? でも、貴方たちは違う、二つの意識、魂が居るわ」
これは、あたしの目で視てるから、間違いない。シャナリーデ嬢の魂に張り付く形で、もう一つ、何かが居るのが見える。間違いなく、影といってるこいつのだ。
「ねえ、貴方の本当の体はどこかしら? 貴方が居ないから、ずーっと眠っているのか、それとも、貴方がここに居るから、体はねえ?」
そう、意味深に問いかけても、今度もだまりこくったまま。多分、自分でも分かってないんだと思う。でも、ここに居れば安全で、役割がある・・・そう思っているから、きっと、離れられないんだと思う。
「もう一度聞くわ、-----貴方は、だーれ?」
「わたくしは・・・わたくしは・・・影・・・いえ・・・・・わたくしは・・・そう、わたくしは!!」
不安定な姿から、最後のはっきりした答え。それが、引き金になったのか、シャナリーデ嬢の体から、一気に黒い影のようなものが、溢れ出る。突然の事に、辺りから悲鳴が飛び交い、気絶してる人もいるけど、とりあえずは無視。なんせ、今回、優香ちゃんを連れてきたのには訳があるのだ。
「優香ちゃん、思いっきり光で浄化しちゃって!!」
そう、ここには頼りになる、光の魔法の使い手がいるのであーる。ならば、役割分担くらい、したいじゃない?
「えっ!? う、うん・・・よく分かんないけど・・・『癒しの雨!!』」
全力の浄化で、光に当たったところから、徐々に黒い部分が消えて行く。そのあまりの美しい光景に、今まで盛大にビビりまくっていた使用人さんや侯爵様まで、この聖なる光景に見入っていた。
それからしばらくして最後に残ったのは、勿論、気を失った状態のシャナリーデ嬢と、皆には見えていない、綺麗になった魂のみ。余計なモノは問答無用で、優香ちゃんが浄化してくれたから、予想外に手間が省けたわ。
「シャナリーデ!!」
ハッと我に返ったらしい侯爵様は、慌てて娘へと駆けていく。勿論、今回は止める必要はないし、何よりもあたしがしないといけない事をするだけだ。
「侯爵様、そのままでお聞きください」
シャナリーデ嬢をひしと抱きしめたまま、此方を向かない侯爵様。でも、話は聞いてくれるのか、視線だけはくれたから良しとしましょう。
「恐らく、お嬢様は一時的な記憶の混乱が訪れます、それの回復を早い物にすべく、皆様にお願いがございます、気を失ったのは、毛虫に驚いて気を失った事にしてください」
「・・・・・なぜ、そのようなことを?」
「矛盾をなるべく起こさない為と、なにより、早い回復の為です、彼女は無意識に影に頼っていたみたいですからね、矛盾が起きれば混乱するでしょう」
今まで、無意識に嫌な事は人任せにしてきた、シャナリーデ嬢。そんな彼女が、普通に暮らす為にも、そして何より勇者の文官として、何がなんでも頑張ってもらわないとね。だって彼女、ファイさんの変わりなのよ? 使えなくなるなんて、絶対に駄目!
「実家であれば、夢とでも、何でも言えますからね、信頼している皆さんに言われたら、彼女も納得するでしょう」
そういえば、侯爵も納得したらしく、何やら執事に指示していた。まぁ、これからのために頑張ってくれたまえ。あたしは、こっちを片付けましょうか。
「優香ちゃん、ここはお願いできる? あたしは後片付けしてくるから」
最初、キョトンとした優香ちゃんは、直ぐにあたしの服をギュッと握り締めた。
「わたしも行くからね」
「駄目よ? これはあたしの仕事だから」
「でもっ! 咲希ちゃん一人で動くなんて!」
あぁ、優香ちゃん、あたしに侍従が居ない事を気にしてたのか。まぁ、今回は付けれないが正しいんだけど。
「大丈夫よ? この魂を、体に戻してあげるだけだから」
先程、無事に保護した魂を、見せてみたけど、視えない人にはキョトンとされるだけ。優香ちゃんだって、例外じゃない。これは、これだけは、視る力がある、あたしじゃないと出来ないから。
「直ぐに戻るから、彼女をお願いね? 優香ちゃんにしか頼めない事だから」
光の魔力持ちである彼女にしか、今のシャナリーデ嬢を任せられない。多分、混乱するはずだから。優香ちゃんには、嘘である毛虫に驚いたを、説明してもらわねば。まぁ、ユリーさんに頼む手もあるし。こっちは、大丈夫でしょうよ。
お読み頂きまして、ありがとうございます!
読了お疲れ様でした。
本日は久しぶりの、陰陽師な咲希ちゃん登場? です。いやー、いいとこ全部、優香ちゃんが活躍してますけど(笑) 次回は咲希ちゃんの独壇場になりそうですね。一体、次回はどんな展開になるやら・・・・。
次回も宜しくお願いします!!