第152話 それから、それから?
お久しぶりになってしまいました・・・
次回は、誠意執筆中ですので、もう少しおまちくださいね。
優香ちゃんが、ユト少年たちと一緒に、侯爵領に向かうのと同じく、あたしとリゼス様は、クルルさんたちと別れ、王都へ向かっていた。涙が止まらなかったのは、それだけこの時間が、あたしにとってかけがえのない物になったからだ。
まあ、帰りも兄妹設定を使いつつ、しかし、何故かややぎこちない”兄”と共に、数日後には、無事に王都に着き、あたしは本来の勇者、天城 咲希に戻れたわけ。勿論、側近のリゼス様もね。
・・・・・戻って早々、報告に行ったら、厄介ごとを頼まれたけどね! フランツ様、人使いが荒すぎる!!
まあ、タイミング的に、魔術に関する事だとは思ってたけど・・・・・これは無いでしょ!?
「魔術師長様・・・・・? いくらなんでも、訓練施設の結界が全部壊れるとか、魔族の襲撃でもあったんですか・・・・・?」
説明の為に来て下さった、魔術師長も、虚ろな顔で、疲れ切ったように首を数回横に振り、不定された。この広大な訓練場にあった、ドラゴンのブレスを受けてもビクともしないはずの、魔術結界を、後かたなく壊すなんて、何があった!? としか、いいようがないでしょ。それこそ、あたしが例えで出した、魔族とかの方が誰でも納得できると思うわよ?
「・・・・・これは、ウエステリアよりお越しの、勇者様が放った剣術で、跡形もなく、壊されました・・・・・これには長い歳月をかけて、我々が色々と試行錯誤をした、本当に最高傑作とも言える技術を使ってたんですのよ!? それをたった一発で、何事も無かったかのように消すなんて!!」
最後の方は、声を荒げた魔術師長様は、雰囲気的に何かヤバい感じがする。よく見れば、目の下に隈が出来ていた。そうか、何日も徹夜上等な状態だったんだね。そりゃ、声をあらげたくもなるか。元は美人なだけに、この姿は、かなりの恐怖を誘う。うん、早く片付けないと、魔術師長様の諸々が心配だわ。
「うーん、直すのは構わないのですが、あたしだけで張るのは辞めた方がいいですね」
「勿論、我々も一緒に行いますので、ご安心下さい、・・・・・早く直さないと、訓練できないと、軍の方からも言われてますし、出来るだけ早くに行いましょう」
そうと決まれば、以前組まれていた術式を書面にしたものを確認する為に、魔術師が集う塔へと向かう。
・・・・・結論から言えば、あたし一人では到底無理な情報羅列であり、さらに言えば、優秀な上級魔術師が30人はいるだろうくらいには、ややこしい術式が組まれていた。まあね、最高傑作ともいえる術式だから分かるんだけどさー。簡単に書けるとこをわざわざ難しく書く必要はないわよね? 読んで確認するうちに、あたしと、魔術師長様も、そしてこれが分かっちゃう方達も、目が半眼になってたわ。
『これ組んだ人、自分の見栄の為に、わざわざ難しい言い回しにしただろ!?』
内心は、ほぼこれに尽きたと思う。誰も、声には出さないけれど。
まあ、この術式を守る意味では、この方法は正しいのよね。ややこしい言い方や、難しい言い回しを使うのは、簡単に結界を壊されないための布石みたいなもの。
「でも、どうせ作るなら、新しく色々追加できそうよねー」
あたしのこの言葉に、魔術師たちの目が煌めいた。何というか、テンションがちょっとおかしい・・・ような・・・・・?
この時、あたしは忘れてたのよ! ここにいる、多くの奴らが寝不足気味で、もとからおかしかったのに、あたしの一言で、彼らの最後の自制心とか諸々を、一気に壊してしまっていたことに!!
あまりのテンションの凄さに、場を皆に任せて、すごすごと退散? 避難? したのは、悪くないと思いたいわ。後で確認して、慌てたのはご愛敬・・・と思いたい。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
Side:天上 翔太
ほぼ、1カ月ぶりに咲希がリゼスと一緒に帰還した。あいつの事だから、何かしら起こしてそう・・・という、俺の感は、予想斜め上で当たっていた。
誰も思わんだろう? リゼスの奴が、おかしい事に。それも女性限定で!
あいつは女性には塩対応、事務対応が基本だったのに、最近顔を赤くして、茫然自失になっていたりしてんだぞ?
俺が見たのは偶然だったんだが、面白そうだったから、声をかけてみたんだが・・・、ふと気付く。周りからの、生温かい視線というやつに!
未だに出回る、俺を含めた勇者達、見目麗しい貴公子や令嬢たちの、”薄い本”たち! その愛読者が、ここには大勢いたのだ。十中八九、この熱い視線は、奴らだろうよ。そして今回の出来事も、奴らの餌食になるんだろうと、一瞬のうちに思ってしまった。とんだ伏魔殿だよ、ここは!
と、とにかくだ。ここはまずいから、とにかく安全そうな場所・・・よし、フランツのとこにでもいくか! あそこ以外、落ち着けそうな場所、思いつかんわ。俺も大概、パニック状態かも?
まあ、全は急げとばかりに、リゼスを文字通り引っ張って、フランツの元に向かえば、怪訝そうな顔のフランツを視線が合った。
「わりーな、なんかおかしいからさ、連れてきた」
「いえいえ、ショータがここに来るのは珍しいので、一瞬何事かと思いましたが、リゼスを連れてきていただきありがとう、帰って来てからどうも調子が悪いようで」
うん? もしかして、フランツは気付いてないのか? 結構分かりやすいぞ?
「なあ、フランツ、リゼスってさ、恋とかした事あんの?」
直球で聞いてみると、ちょっと驚いた顔をしてた。多分、分かってないな、こいつ。
「いや・・・リゼスには婚約者も居ませんし、特にこれと言ってその手の話は聞きませんが」
やっぱりか。だからこそ、ここまで顕著に出ちまったと・・・はあ。
「おい、リゼス、聞いてるか? おーい!」
軽く揺さぶって、ようやく気付いたらしい。本当に大丈夫か、こいつ。
「え? 殿下? ショータ様?」
珍しい呆けてる顔だが、頭の回転は速い奴だからな。すぐに現状を把握して、ガバッと頭を下げてきた。律義だな、おい。
「申し訳ありません! 仕事中に呆けてしまうなど!」
根が真面目だから、どうも上手く発散できてないのか? どんだけ初心なんだよ! 普通、貴族の子息たちって、教育係からある程度の教育されてんじゃないの? 騎士団の奴らの中には、その手の教育をされてなくて、先輩から聞く奴もいるらしいが、王子の側近が受けてないとかないよな?
「リゼスはちょっと特別な事情があってね、僕と一緒に教育を受けてきたから、多分知らないんじゃないかな?」
・・・・・この国の王族の教育、大丈夫か? 不安なんだが。
「恋愛事は、おそらくそこいらの子供より低いぞ?」
「居たのかい、トーヤ様」
気配を消すなよ、ここで。お陰で、ちょっとびっくりしちまっただろ。だが、いっつも一緒に居た彼が言うならば、本当なんだろ。今の今まで起きなかったのに、今回の出来事で一気に開花・・・うわぁ、原因はなんだ?
「あ、あの、皆さんでからかわないで下さい! 本当に大丈夫ですから!」
必死に言いつのってるが、その姿が更に周りに不安を与えるのだ。
「大丈夫に見えないぞ? 茫然自失してる時点で、アウトだろ」
とは、俺。
「リゼスがここまで表情を見せるのは久しぶりだからね、協力するよ?」
とは、殿下。
「まさかお前が初恋かぁ、相手は誰だ? 俺がちゃんお膳立てしてやるぞ?」
とは、トーヤ様。
そもそもの原因が分からんから、対処のしようがない。咲希いわく、お世話になったとこのおじさんのお陰で、これでも随分マシになったらしい。最初はもっと酷かったってことかよ。大丈夫か、リゼスのやつ。
「トーヤ、揶揄わないで下さい! そもそも、僕が結婚できないのは、知ってるでしょう!」
ん? 何か、今、凄い事を聞いたような? え? 俺、聞いて良かったのか?
「リゼス、別にお前が結婚しなくても、状況は変わらないよ、でも、心に決めた令嬢がいるならば、私は出来うる限りの全てをしてあげるよ、だから悲しい事は言わないでおくれ」
「フランツ様・・・申し訳ありません、そのお心に感謝します」
「いいよ、真面目なリゼスの本音が聞けたしね・・・で、原因は何だい? 呆けるくらいの何かなんだろう?」
興味津々なフランツに、リゼスは急に顔を赤くして、視線をせわしなくさ迷わせる。まさか、主に対し、自分の恥を話す日が来るなんて思いもしなかったはずだからな。
「うぅ・・・その、話さないとダメですか?」
最後の抵抗は、ニコニコの微笑みをしたフランツに、完璧に撃墜された。うわぁ、一言も話さないでいるのに、まさかの笑顔だけとか・・・・・フランツすげー。俺も気を付けよう。最近、怒られるような事はしてないはずだが、いまいち不安なんだよな。
「・・・・・・・・・・はぁ、どうか笑わないで下さいね、実は・・・」
こうして話されたリゼスの暴露に、しばらく全員が固まる事になる。うん、俺もこれは、固まるしかなかった。
いつもお読みくださり、ありがとうございます。
そして、読了お疲れ様でした。
本日は、咲希ちゃん帰国の巻ですが、やっぱり騒動は転がっていました。
スザリオン様は、どうやって壊したんだろ? あれ、凄く丈夫なのに・・・。
ちょっと、日常(笑)と閑話を書いたら、新章突入予定です。後は、お待ちかねのあのエピソードと、フラグを回収して、ようやく終わりが見えてきたー!
というわけで、次回もよろしくお願いします!