第147話 術のお引越しをしましょう♪
間に合いました!(笑)
今年最後の更新です。次回もよろしくお願いします!
何だか釈然としないまま、ユト少年や夫人を悩ませた魔族女性は、髪を振り乱したまま、どこかへ消えていった。本当に人、いや、魔族騒がせね、登場も帰宅(笑)も。
翠嵐に、お屋敷とかにいないか、確認させたけど、気配は一切なし。ブローティア侯爵家にも気配はなし。ただし、強い魅了にかかった者も、ブローティア侯爵家には居るみたいだから、後で確認に行かないといけないみたい。
とりあえず、こちらは釈然とはしないけど、大きな問題は片付いたと思っていい。
・・・・・で。
「翔太、確かにあたしは、あんたに町の創造をお願いしたわよ・・・・・?」
そう、あれから、”半日”程して、ようやく完成したのだ。土の町が。
もう一回言う。”半日程してから”、この土の町は完成したのだ。予定では、お昼頃には完成していたはずだった。
しかし、今の時刻。
「何で3時のおやつの時間までかかってるのよぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~!!?」
絶叫したくなるあたしの気持ち、皆さんに分かるだろうか?
最初はよかったのだ、最初は!!
土台を大まかに作っていた辺りは、間違いなくせっせと作業に打ち込んでいた。ところが、だ。やるうちに、のめり込んでしまい、凝り始めた。そうなったら、・・・・・止まらなかった。
気付けば、予定時刻を大幅に通り越し、お昼を忘れるくらいの、すんごい集中力をみせた。
普段なら、特に問題なかったのだが、今回は違う。
皆様、考えてほしい。今は緊急事態、そして今日は朝から、久しぶりの濃霧。勿論、人工的に龍が作り上げたものだが、お昼になっても霧が晴れないなど、この辺りにはないことらしく。町がちょっとしたパニックになったのだ。その対処を、ファーリアス伯爵は、気絶しそうになりながら、夫人とリゼス様、ダン少年に支えられながら、何とか対応していた。
そこまで考えたら、さすがに絶叫くらいしたくなると思うんだ。
うちの馬鹿に任せるしかなかったのもあるんだけどさ、これは酷い。まあ、凝ったから、中々の街並みが再現されてるんだけど。
「すんげーいい出来だろ?」
満面の笑顔で報告とか、マジでブチ切れるぞ? 翔太、本来ならあんたが倒すはずだった魔族を、あたしが成り行きとはいえ追い払ったんだぞ? それを、笑顔で自慢かい!!?
「えーい、我慢ならん!! 成敗してくれる!!」
「はっ? え、ちょっと待て!? 杖は反則だろっ!?」
「問答無用っ!!!」
「いや、だから、あぶねーだろ!?」
「逃げるな~~~!!」
「般若がいたら逃げるわ!!?」
さすが、二回目勇者、ちょこまかと逃げる逃げる。あー、腹立つ~~~~~~!!!
『あー、主人よ? そろそろ始めてはどうかのぅ?』
控えめな樹英様の言葉に、とりあえず頭と息を整える。この鬱憤は、もう一人の魔族に叩き付けてやる! と、内心誓うのも忘れない。
「なんかこえーぞ、咲希・・・・・」
翔太が全力で引いていたけど、関係ないわ。しかし、やっぱり張り倒さないと気は済まない訳で。無言でイーリスをハリセンに変える。
「咲希っ、無言で殺気立つなよ!?」
「問答無用よっ!」
ギョッとして固まった一瞬の隙をついて、翔太の脳天に華麗に決まった一発。
スパァァァ──────────ン!!
いい音がした。ふっ、決まったわ! 多少なりともスッキリしたところで、改めてイーリスを杖に変える。
「あー、俺は屋敷にいるから、後は頼んだぞ~」
自分の役割は終わったとばかりに、翔太はそそくさと屋敷に向かっていった。まぁ、魔力をゴッソリ使ったから当然よねぇ。町を作ったんだから、消費もかなりのもの。
内心、複雑だけどね!!
ーーーーーーーー今はこちらに集中しないと。あたしの本来の役割を、これからするわけだし。
「スー、ハー、スー、ハー、よしっ!」
深呼吸と気合で、気持ちを無理やりリフレッシュする。仕方ない、昔もこれをして落ち着けてたんだし。集中しないと、町の人達の命がかかってるんだからさ。あたしが無事に動かさないと、マジで危ないのよ。
翔太のお陰で、大いに助かったのは認めるけどねっ!!
気持ちをしっかりと切り替えて、印を組む。
『我、願い奉る、この地に呪縛されし法陣を動かし候、地の神、風の神、空間を統べる神よ、場を騒がせます事をお詫びいたし、かの地へ動かし候、故に我らに一度の加護を与えたらん、オンシャラクタランウンマエギャソワカ、彼の陣を動かしたまえ、急急如律令!』
さてさて、上手くいきますかねえ? なんて思いながらも、術を操り、町にあたしの霊力を流していく。町に掛けられた魔法陣を、上下で優しく包み込むようにしていく。あとは慎重に町から動かしていく。例えるなら、シールに近いかな? ゆっくり、慎重に町から剥がして、隣の翔太作の町へとゆっくりと動かしていく。
思ったより、あたしの霊力の消費が激しいわね。こんな大規模な術の引っ越しをしてるんだもの。当り前かな? でも、お陰で順調に進んでいるわ。
1時間程で、町に掛かっていた魔法陣は、剥がし終わった。流石あたし!! 自画自賛したって、構わないでしょ? それだけ根気と集中がいる作業だったんだから。
「あとは、引っ越し先に張り付けて、残りは明日の朝ね・・・・・」
既に日が傾き始めてる。今の時期、日は沈むのが早いみたいだし、町の時計台の針は、4時半を示してる。時間がない。
・・・・・本当に翔太が早くしてくれたら、こんなことにはならなかったのに!!
「さて、もうひと踏ん張りといきましょうか!」
掛け声と共に、急いで張り付けていく。とはいえ、繊細な作業に変わりはなくて。
結局、終わったのは、6時を過ぎていて、辺りは真っ暗闇に包まれてましたとさー、って、マジか!?
「嘘っ!? 夕食!!」
『主人よ、第一声がそれかのぅ・・・』
懐から、何ともいえない口調の樹英様の声が。仕方ないじゃない、お腹空いたもん。それに、無事に終わったから、明日はまた朝から濃霧を作って、魔法陣を壊して、そして魔族を倒して。その時は間違いなく、徹底的にうっぷん晴らしをさせてもらうんだもん!
何て考えてたら、急に視界がフラフラしてきた。
・・・・・あれ?
違和感を感じたと同時に、あたしは意識を手放したのでした。誰かに呼ばれた気がしたけど、気のせいかな?
◇◇◇◇◇
Side:リゼス
先程までの喧騒は也を潜め、ようやくお屋敷に静寂が戻ってきました。
まさか、ここまで伯爵が出来ない人とは思いもしませんでした。お陰で、ダンと私、夫人でほぼ乗り切ったようなものです。
濃霧による町からの要請には、自然現象で形をつけましたが、いやはや。この霧を使って、悪さをする奴らが増えたようで、仕事が増えました。人さらい何て厄介な奴は、さっさと片付けておいてほしいものです。
気が付けば、15時を過ぎており、勇者咲希はショータ殿を呼びに行きました。予定よりも、過ぎてますからね。不機嫌さが顔に出ておりました。
途中の魔族襲来は、まったくの予想外でしたが、まあ、何とかなったようなので気にしない事にします。女性の方々が、カミがどうのとか言ってましたから、紙が足りなくなったのかもしれませんね。後で発注させましょう。
さて、もうすぐ夕食にしようという時間です。もうすぐ18時というところでしょうか。
そろそろ、辺りも暗くなってきましたし、迎えに行きましょうか。まったく、手のかかる方です。素の時のサリーの時から、随分と手がかかる気がしましたが。家族に縁の薄い私からしたら、貴重な時間とも言えます。妹として可愛がる、というのにはイマイチ理解が追いつきませんが、クルルさんには感謝ですね。母親というものを教えていただきましたから。
ショータ様は既に食事をして、眠りについています。朝も早いですし、何より魔力が枯渇気味でしたから、睡眠を必要としていました。
「さて、確かこの辺・・・・・・サキ殿」
声をかけようとしたと同時に、その華奢な体がぐらりと傾きます。慌てて抱き留めた体は、思いのほか軽くて、逆に自分が固まりました。何だか、少し力を入れただけで、すぐに壊れてしまいそうで。何より、彼女の顔が、思いのほか無防備なもので。胸の奥の方が、何だかじんわりとよく分からない感情が支配していて。
・・・・・・思いのほか、私の方が疲れているようです。今日は早々と、床につきましょうか。
彼女をそっと大切に腕に抱え上げ、屋敷へと歩を進めます。仄かに感じる、優しい香りと体温に、落とさないように気を付けながら。屋敷に着いたら、悲鳴が上がった気がするのですが、どういうことでしょうか?
一応、客室まで運び、後はメイド達に任せました。
さて、私も夕食を頂いて、早々と床へ行きましょうか。
お読みいただき、ありがとうございます。そして、読了お疲れ様でした。
今年最後の更新も、無事に終わりまして、ホッといたしました。なんせ、スマホへ変えたおかげで、半年以上もお休みしてしまいましたから。覚えるの大変でした(笑)
まだ、完全にデータ移行が終っていないけど、来年は月に3回の更新を目指して、頑張りたいですね。
来年も秋月の作品たちを、宜しくお願いします。
ついでに、作者もお願いします(笑)