第136話 まずは最初の一手を打ちましょう
次回は12月6日予定です。た、多分。
まだ朝日が昇る前の、薄暗い時間。昨日のように、翔太にチャンネルを使って、連絡を入れる。
昨日、起きていたんだから、起きてるでしょ?
『おう、早いな、サキ』
「おはよう、翔太」
チャンネルに出た翔太は、暗がりでも分かるくらいに、汗をかいていた。タオルでしきりに汗を拭っているけど、一体、今まで何をしていたのやら………………。尋常じゃないわよ?
「き、昨日の話だけど、フランツ様は何か言ってた?」
顔、引きつって無いわよね? 引くわよ、普通に!
気を取り直して、昨日は相談するしか出来なかったけど、今日ならある程度進めても大丈夫だろう。
『おう、フランツからは許可が下りた、陛下からもな……………が、問題発生でな』
嫌そうに顔をしかめっ面にした翔太。ん? 何かあったの?…………てか、汗の所為で、妙に色っぽく、艶っぽいんだけど……………。おいおい………、またあの噂が再発したりして(笑) いや、普通に女性とも書かれそうね!? 相手があたしとか嫌よ!!?
『どうも、その魔族、魅了の使い手らしくてな……………』
あたしの内心を知らない故に、話は進んでいく。渋い顔をする翔太に、申し訳なく思いつつ、けれども益々分からなくなる。何を言ってるわけ?
「陛下もフランツ様も、許可してるのよね? あのさ〜、翔太? あんたに、その魔族をどうにかしてくれないと、こっちも迂闊に動けないのよ、空間を操るなんて、厄介なんだよ? 今はあたしが邪魔をして、ご子息様は何とか守ってるけど、長くは無理よ」
まぁ、結界を張って、入れなくしてるだけなんだけど。空間を使われてしまうと、正直、あたしとは相性最悪なのよ。あたし、空間系は専門外だから。結界がどこまで役に立つのか、分からなくて。でも、御守りと結界はそれなりに効果があったから、本気で来られない限りは、大丈夫だと思う。翠嵐を置いてきたし。連絡も、何かあったら直ぐにくるしね。
『あー、うん………だよなぁ〜…………実は、俺の派遣を、魅力されちまった奴等が邪魔してきちまってなぁ……………最悪、時間がかかるかもしれん』
うわぁ、その魔族、普通に城にも入れるわけ!? あたしが施した守護や防犯の裏をかかれたか! 成る程、きちんと手続きさえしてしまえば、そして本人確認出来れば、入れてしまえるから、普通に入ったんだ………………。また防犯系を見直しね。はぁ、帰ってからの仕事が出来ちゃった上に、増えちゃったわ。
「翔太、あんたなら出来る! 最速で伯爵領に入ってちょうだい!」
『やるけどよ………俺が行ったら、お前のとこがヤバイだろ? 勇者の名を堂々と出して入るんだぞ?』
ん? 何か勘違いしてない??
「翔太、何を言ってるわけ? 勿論、隠して来てもらうに決まってるでしょう! 侯爵家に居る魔族には、ばれてるんだから、これ以上の頭痛の種を用意しないでちょうだい!」
悲鳴じみた怒声になったのは、許してほしいわ……………。堂々と来ちゃったら、既に警戒してるだろう魔族に、何をされるか分かったもんじゃないわ。
『なんつー、無茶を!? はぁ…………分かった、何とかして行くよ、伯爵領に向かうからな? 変装すっかなぁ……………お前の従兄なら、話として行けるか?』
何かよく分からないストーリーを考えているようだけど、従兄? こいつが?
「却下、普通に来てちょうだい…………極秘に動けるように、冒険者としてさ」
これなら、最速で動けるはずだわ。
『分かった、許可は下りてるし、何とかするわ……………伯爵領から侯爵領に入るが、絨毯使うし、侍従を一人同行させるわ、冒険者が一人とか、怪しまれるからな』
成る程、確かにそうなるわね。同行するなら、変装とかも出来るメンバーになるけど、翔太は誰を使う気かしら?
「まぁ、大事にはしないで来てちょうだいね」
こうして、朝の通信は終わりを告げたんだけど………………。
まさか次の日、伯爵様から緊急お呼ばれになるとは思わなかったのよ。この翔太達の行動の所為でね! まあ、明日の朝早くだから、今は関係ない話なんだけどさ……………。
◇◇◇◇◇
取り敢えず、本日のお仕事を開始☆
着替えや身支度を、ぱっぱと終わらせて、扉を開ける。さぁ、あたしは今からサリーなの。やるわよ!
「おはようございます! 伯父さん、伯母さん、ノーラさん」
マリアさんはもう少ししたら来るから、ここには居ないの。
「おはよう、サリー、ご飯出来てるわよ」
クルルさんの言葉通り、清潔な木のダイニングテーブルには、美味しそうな匂いを漂わせた料理達が、既に並んでいて、あたしのお腹がクゥと鳴いた…………。は、恥ずかしい…………!
「ウフフ、おはよう、サリー、こっちに座ってね」
ノーラさんは、自分の隣の準備された食卓に誘ってくれた。
「はい、頂きます! あれ? そう言えば、兄さんは…………?」
時計は5時15分を示している。朝早くに出る、お客様に合わせる宿としては、遅い時間だけど、今日はたまたま早いお客様は居ないんだって。今日、朝に出る人達は、7時に出るから、余裕だって昨日言ってたから。
で、いつもなら、あたしより早く起きて、席に着いているんだけど……………。リゼス様、どうしたんだろ?
「そう言えば、今日はまだ見ていないねぇ」
クルルさんも気付いたみたいで、気遣うようにリゼス様の与えられた部屋に視線を向けた。
「あんた、ちょっと見てきておくれよ、まさかあたしらが行く訳にもいかないだろ?」
「ん? あぁ、分かった」
ジョンさんがクルルさんの要請により、席を立って部屋へ向かう。リクリス兄さん、もといリゼス様の部屋をノックして、声をかけるけど、全く反応なし。
「おかしいな? おい、リクリス、入るぞ?」
ジョンさんがもう一度ノックして、扉を開ける。あたしと同じくらいの部屋だそうだけど、残念ながら入った事が無いから、あたしは分からないんだけど。でも、熟睡しているにしては、様子がおかしい気がするのよね………………。
「おいっ! サリー! 来てくれ!」
と、ジョンさんの余裕なんて吹き飛んだ呼び声に、あたしもビックリして、座っていた椅子が倒れるのもそのままに、リゼス様の部屋に飛び込んだわ。余裕なんて、吹き飛んだわよ!
まぁ、入ってすぐに、異常な魔力を感じたから、嫌でも分かったけどね。………………あたしも、気が緩んでいたみたいね。こんな厄介者が来ていたのに、気付かなかったんだから――――――。
「伯父さん、部屋から出ていて、この部屋に結界を張るわ」
「あ、あぁ………大丈夫なんだな?」
伯父さんの確認に、思わず笑っちゃったわ。自分のアホらしさに。
「えぇ、大丈夫ですよ、安心して下さいな」
微笑でも、余裕を見せれば、安心したのか、伯父さんは素直に部屋から出てくれた。この部屋には、リゼス様が結界を張っていた残存があるから、破られてこうなったと見ていいと思う。あたしが、強めの結界を部屋に張れば、リゼス様の顔が、先程よりも穏やかな物になる。つまり、外からの影響って事よね?
ならばやる事は一つ。印を組むと、あたしはそっと呪文を唱える。
『願い奉る、北の守護神、南の守護神、西の守護神、東の守護神、彼の者に加護を与え給え』
印を組んだ手で、祓うように手を頭から爪先へ横に動かす。悪いモノを外へ出すように、その動きを3度繰り返し、次の呪文へ。
『悪しき物、暗き物、悪夢の全て、彼の者から離れ、元の場所へ帰れ! 急々如律令!』
印を組んだ手で、縦に切るように振り下ろす。
と、リゼス様の体から、何か黒い霧が吹き出してくる。吸い込めない程の濃厚な黒いドロドロした霧は、とぐろを巻くようにシュルシュルと一つにまとまると、壁を擦り抜けて、何処かへと飛んで行った。
「ふぅ……全く、あたしとした事が…………気を抜くなんて」
お陰で、リゼス様を危険な目にあわせてしまったわ。あれは、恐らくだけど、呪咀に近いモノだ。少なくとも、あたしが結界を張っていれば、防げた部類のモノ。魔族を警戒し過ぎて、身近な部分が疎かになるなんて、どんだけ気が緩んでいたのやら……………。
とにかく、起きたら聞かないと。あの黒い霧の事をね。あの様子だと、以前からあったようだし、ね?
「っ………んぅ……」
目が覚めたらしいリゼス様。しばらく呆然としていたけど、あたしと目が合うと、一瞬で目が覚めたようで、慌てて飛び起きた。
慌てなくてもいいのに……………。
「何で貴女がここにいるんですかぁ!?」
起きて直ぐに、絶叫されたんだけど……………。どうやら、うなされていたようだけど、夢は見ていなかったみたい。そりゃあ、混乱するでしょうねぇ。自分の部屋に、あたしが居たら。
「リゼス様が起きて来ないから、ジョンさんが起こしに来たんだけど、変なモノが来ていたからね〜、あたしが呼ばれたのよ」
色々と濁したけど、リゼス様には通じたみたいね? 赤い顔が、一気に青くなったもの。その様子だと、自分へ来ていたモノの正体くらいは、気付いているみたいね?
「そ…れは、すいませんでした」
気まずいらしく、視線をふいっとそらされたけど、リゼス様? あたし、見て見ぬふりはしないわよ?
「リゼス様? 今のはナニかしら? 安全の為にも、きっちり話してもらうわよ?」
あたしの微笑みに、何故か顔を青ざめたリゼス様。ウフフ、逃がしゃぁ、しないわよ♪
お読み頂きまして、ありがとうございますm(__)m
予想外の展開です。早くサリーちゃんのお話を終わらせて、次に行きたいのですが、入れちゃいました☆ リゼス様の事情はなんでしょうね??
次回は秋月の特別な日なんです。絶対に頑張るぞ〜☆