第129話 事件はいらないんだけどなぁ……
次回は9月6日の予定です
あたしが使う部屋は、ベットと机、作り付けのクローゼットがあるだけの、シンプルな部屋。ただ、女の子用にと、可愛らしいピンク色の布団カバーや、ピンクのカーテンに、かなり申し訳なく感じたのは、内緒だ。
必要な物は、バックに入れてあるから、あまり不便には感じないけど、ヒマリが恋しく感じるのは、重症かしらね?
「一応、部屋には守護位はしておきますか」
ここに居る間は、魔法も極力使えないからね。あたしは庶民のサリーだもの。下級魔術しか使えないのよ。そういう設定なの。
まぁ、有り余る魔力は、魔石にして、バックに入れておくわ。後で役に立つし。
「扉と窓、後は天井かしらね」
パパッと魔法をかける。うん、これで大丈夫ね。
と、同時に、指をパチンと鳴らし、部屋に遮音の結界を張る。
「ふぅ、白、龍、翠嵐、この町を見てきて、かなり仕掛けがされてるから、気を付けてね? お祓いしたり、解除はしなくていいわ、相手には極力、気付かれないようにね」
『御意』
三人が離れてから、あたしはお爺ちゃんを召喚する。
「ねえ、樹英様、この状況、どう見る? 明らかに色々と仕掛けを施されているし、まるで何か……」
何か、そう、大きな儀式をやろうとしているかのような―――――――。
『町規模で行うにしては、やや歪じゃのぅ……………狙いが分からぬのが腹立たしいが、ろくな事ではあるまいな』
確かに歪過ぎる。でも油断は出来ないのよねぇ。このまま潜入して、ゆっくりやる事も出来るけど、そうはいかないでしょう。魔族が絡んでいる以上、絶対に悠長には出来ない。
「思った以上に、仕掛けがされてるからね……………町の雰囲気も見てからにはなるけど、最悪、和磨くんを呼ぶ必要があるかも」
おと…誘導動員としては、正義感に燃える和磨くんは、ピッタリだと思うの。優香ちゃんでもいいんだけど、間違いなく、あの子は飛び出すからね。ならば、慎重派の和磨くんを選ぶわ。翔太なら更にいいけど、城の守りも考えるとね。
『主よ………顔が悪巧みするような顔になっとるぞい、まったく………、主よ、桃を離すでないぞ? 何が起きても、主は今は一般人じゃからの』
樹英様の諭すような言葉に、素直に頷いた。流石に、自分の身を守る意味でも、春を手放す事は出来ないもの。
因みに、桃とは、春を表すあだ名である。式神同士で、あたしが与えた名を呼ぶ事はないの。与えた名は、契約だから。たまにあだ名を聞いていて、そのままのあだ名に、吹き出しそうになるもの(笑)
「分かってる、最初だからね、この規模をカバーする為にも、最初は全力投球するわよ」
最初、把握しておかないと、無理でしょ? あたし、神様じゃないんだからさ。
『妙な仕掛けといい、妙な信仰といい、厄介よのぅ』
そう、仕掛けは解除したいけど、下手にやると厄介だし。信仰はね、対策取れるけどさ、ちょっと面倒なのよねぇ。まぁ、とりあえず、今すぐどうにかは出来ないのが実情なの。
「どうしましょうかねぇ?」
とにかく、伯爵様には会わないとね。リゼス様は、隠せる場所に、家の家紋を用意して貰ってるのよ。伯爵様との繋ぎもしなくてはいけないもの。家紋は必要なんだと、皆から口を酸っぱくして言われたわ。
『主、風から連絡が来たようじゃ』
考え込んでいたら、翠嵐から繋ぎが来たらしい。あたしでは拾えないそれは、樹英様が読んでくれる。
『ふむ、町全体に術が仕掛けてあるようじゃ、中心には教会があると……………変な宗教とは、これの事かのぅ』
樹英様の皺だらけの好々顔が、鋭いものに変わる。宗教は厄介だからね、壊せない訳じゃないんだけどさ。
『風が戻るかどうか聞いておるが、如何する?』
「分かった、戻るように伝えて」
最初から無理をするつもりも無いしね。
―――――コンコン
あら? 誰か訪ねて来たみたいね。遮音の結界を解除して、扉を開けると、リゼス様が居た。
「あら、兄さん、どうしたの?」
部屋に訪ねてくる予定は無かったような?
「すまない、急用なんだ」
どこか焦りのある顔色に、嫌な予感がした。
「落ち着いて、兄さん、何があったの?」
「ダンが………、いや、伯爵家で何かあったらしいんだ、すまないが、直ぐに伯爵家へ来て欲しいそうなんだ」
ん? 既に伯爵様へ連絡入れてあるの? まぁ、あたしが知らない連絡方法とか、何かがあるんでしょうよ!
「分かったわ、すっぽり被るマントと、それなりに見れる服に着替えるわ、兄さんも準備して………女将さんに馬車を頼んで」
お忍びで行く事になるわね。明日か明後日の予定だったのに、まさか伯爵家側で何か起きるとか………はぁ。頭が痛いわ。
「着替え終わったら、マントを羽織った状態で、下で待ち合わせしよう」
そのまま自分の部屋へ向かったリゼス様を確認し、翠嵐を召喚する。
「翠嵐、伯爵家のところで何が起きたか、調べて欲しいの、ざっとでいいわ」
『お任せあれ』
さてと、着替えないとね。サリーは一旦お休み。勇者、咲希・天城として参りましょ☆
◇◇◇◇◇
髪の色を魔力を髪に流して元に戻し、すっぽり被ったローブで、誰か分からなくしてから、あたしとリゼス様は、女将さんに呼んで貰った馬車で、伯爵邸へ向かったのでした。
「どうぞ、お気を付けて」
女将さんの恭しい態度には、驚いたけどさ。流石とも思ったよ。これであたし達は、親戚の子供としてではなく、女将さんが遇す必要があるお客様になるわけ。ありがとう、叔母さん! 流石、密偵達の宿の女将さんだよ。
乗り込んだ馬車は、それなりに立派なもので、リゼス様が行き先を告げると、静かに走り始めた。
「で、何があったんです? 情報が少なくて、こっちも困るんですが?」
開口一番に問うけど、マントが邪魔で、リゼス様の顔は見えない。それでも、まとう気配が堅いのは、嫌でも気付いたわ。
「すまない、……………実は、これから行く伯爵家の長男である、ダン………ダンタリアンが、居なくなったらしく、私のところに緊急時の連絡方法で来まして…………誘拐等あってはいけないと、急ぎ呼ばれたんです」
なんとまぁ、はた迷惑な。
『主はん、分かりましたえ、実は長男はんが居のぅなったみたいで、今は伯爵家は蜂の巣を叩いたような騒ぎなってますわ、お探しの坊っちゃんなら、町で何かやっとるみたいやけどな』
「はぁ〜っ!? 町に居るの!?」
突然のあたしの言葉に、ビクッと驚いた様子のリゼス様。でも、あたしはそれどころじゃない。
「翠嵐、悪いけど、その子についてて………………リゼス様、その行方不明のダンタリアン?さん?を、あたしの契約してる子が、見つけたらしいです……………」
「………………は?」
ギョッとしてしまったリゼス様には悪いけど、翠嵐はこちらの風の神獣だからね。間違いなく、風の精霊とか使って、確認してるでしょうから、本人に間違いないわよ?
「ダンのヤツぅぅぅ…………!! ダンは何処に?」
あ、あれ? リゼス様の声が、低いような…………??
「えっと、この先の通りを入ったところに、数人の同い年くらいの子供達と一緒に、何かしてる?そうですね」
翠嵐が追加の情報を言ってくれるので、そのまま言ってるんだけど……………表情の見えないリゼス様の気配が、いと恐ろしい…………!
「先にダンを回収してから行こうと思うんですが、いいでしょうか?」
地を這うような、ひっくーい声に、今度はあたしの肩が跳ねる。怖い、怖いよ! リゼス様!
「は、はい! カマイマセン!」
これは不可抗力よ、不可抗力!
リゼス様は、小窓から御者の人に、場所を伝える。空気が、空気が重いよ〜〜〜〜! ダンとか言うヤツ、後で覚えておきなさいよ!
お読み頂きまして、本当にありがとうございます!
お陰様で、テンシロも次回130話になります。いつも読んで頂けて、本当に嬉しいです。しかし、いつまで続くんだろうね?(;^_^A
さあ、名前だけですが、新キャラ登場です! ちょっと今回のお話は、甘酸っぱい感じが出る予定です。新キャラは、本来なら別の形で出す予定だったんですが、ストーリー展開に、こちらが面白かったので、この形になりました☆
では、次回も宜しくお願いしますm(__)m




