第128話 到着、アンケルの町です!
次回は30日の予定です。……………多分。
「まぁ、まぁ、まぁ! よく来たわね! サリーちゃん、リクリス君!」
満面の笑みで出迎えてくれたのは、ふくよかな中年のおばさんだった。こざっぱりしたワンピースに、白のエプロン。髪には、三角巾をつけていて、女将さんと呼べる貫禄がある。
設定では、親戚、つまり母(仮)の妹の嫁ぎ先になっているそう。目の前の、愛嬌あるおばさんが、母(仮)の妹役な訳だ。
「こんにちは、クルル伯母さん、兄さん共々、しばらく宜しく御願いします!」
「こっちこそ、助かるよぉ! さぁさ、中に入ってちょうだい」
促されて入った先は、こじんまりしながらも、整頓された温かみのある木のカウンターがある、そこそこ広い場所だった。カウンターのすぐ前が、階段になっていて、奥にはこじんまりした扉が。
「さぁさ、こっちだよ、うちは1階が自宅兼カウンター、2階が食堂、3、4階が宿泊施設になっているのさ」
だから、1階のカウンターはそれなりに広い場所を確保してる訳だ。
「うちみたいな宿泊施設は、結構あるんだよ、あっ、ノーラ、マリア! ちょうど良かった、紹介するわね、うちの従業員達よ」
伯母さんの止まらないマシンガントークに、呆気に取られていたら、階段から二人の女性が降りてきた。茶髪にソバカスがある、可愛らしい若い女性が先に降りてきて、後ろから伯母さんより少し若い女性が降りてくる。
「女将さん、2階の掃除終わりました! えっと、そちらは?」
若い方の人が、キョトンと此方を見て、問うてくる。
「ノーラ、ありがとうね、此方はサリーちゃんと、リクリス君だよ、今日からうちで働くからね」
「そうなんだ、そういえば前に言ってたわね、改めて、私はノーラよ、女将さんの実の娘、二人とは、いとこになるわ、宜しくね」
あ、だからどことなく似ていたのね。ノーラさんはスリムだけど(笑)
「此方は、近所に住んでるマリアさん、うちで働いて貰ってるんだ」
「マリアです、フフッ、可愛い助っ人さんね、お兄さんもよろしく」
マリアさんは、上品な感じがする、笑うと可愛い感じがする人だね。髪は肩より長いくらいで、美しい焦げ茶色。艶々していて、羨ましいわ。スラリとしてて、細い感じの人だ。
「兄のリクリスです、此方は妹のサリー、宜しくお願いします」
「お願いします!」
二人で頭を下げる。良かった、好い人達みたいね。
「さぁさ、荷物を置かないとね、二人の部屋も案内するわ、ノーラとマリアも休憩にしましょ、うちへ来てちょうだい」
その会話に、不思議に思いつつ、プライベート空間へ案内される。確かにいつまでもカウンター前はダメよね。
「お邪魔します」
そういって入った場所は、こじんまりしてるけど、清潔感のある空間ね。と、同時に、先程までの明るい空気が、ピーンと張り詰める。そうだよね、違和感だらけだったもの。ついでに、パチッと指を鳴らして、遮音効果の結界を張る。
「あら、見事な結界だこと、流石、異界の魔術師様、見事ですわ」
ゆったりと話すのは、マリアさん。薄々、気付いていたけど、この方、そこそこ魔力がある。気付くのも、当たり前だわね。
「お褒め頂き、ありがとうございます、無能で居るつもりは、ありませんので」
あたしの発言に、僅かに目を見開く皆さん。いや、呆気に取られているだけかしら?
「そちらに隠れていらっしゃる、そちらの方も出て来て下さいな、話が出来ないので」
あたしの視線の先、そこはキッチンみたいだけど、そこの影に、人が居るんだよね。まぁ、ネタバレすると、白が教えてくれていたんだけど(笑)
「まぁ、まあ! 予想以上の方が来たようだねぇ」
愛嬌ある笑顔じゃなくて、ニヤリとした笑みを見せるクルル伯母さん。認めて貰えたかしら?
「凄い子が来るとは聞いていたけど、とんでもない子が来たもんだ! あんた、いつまでそこに居るつもりだい! 早く出といで!」
何か伯母さん、パワフルだわ。キッチンに視線を向けると、凄い勢いで呼び出しちゃったんだから。お陰様で、張り詰めた空気が霧散したよ。
キッチンから出て来たのは、何処にでもいるような平凡な見た目の叔父さん。もしかしなくても、ノーラさんのお父さんだよね? 気まずそうにしてるのは、恐らく、隠れていたからね。
「改めて自己紹介しようかね? あたしはここ『宿屋・クルル』の女将、そして影の中継ぎをするクルルってもんだ、あ、ノーラはあたしの実の娘だよ」
「中継ぎ、ですか?」
分からない言葉に、思わず口に出てしまった。あたしの反応に、逆に驚かれてしまったもの。答えをくれたのは、ノーラさんだった。
「ウフフ、知らないのも無理無いわね、この宿屋はね、普通の宿屋だけど、食堂も泊まり客しか食べないの、つまり、打ってつけなのよ、影の情報交換にはね?」
そこまで言われたら、流石に察せられたわ。伯母さん達は、そこの管理人な訳だ。
「さて、自己紹介の続きをしようかね? こっちは、うちの旦那様だよ、ジョン、見ていただろうけど、サリーちゃんと、リクリス君だよ」
「宜しく、……………ところで、コレは君のかな? サリーちゃん」
床を指差すジョン叔父さんに、あたしがビックリしたわ! 式神様の気配を追えるなんて、見た目と中身は別って事か! 影コワッ!?
「えぇ、あたしと契約してる子です、いい子ですよ?」
“何”とは、教える気は無いけどね。いい子の意味を、どうとるか、にもよるけどさ☆
「本当に、とんでもない子を寄越したもんだよ」
何処か、感心したような、女将さんの言葉に、あたしとリゼス様以外が頷いた。感心されているんだよね?
「あの、マリアさんは、魔力強いですよね? 何か担当あるんですか?」
不思議だったんだよね。マリアさんみたいな人が、普通の従業員をしているなんて、違和感を感じるくらいにはさ。だって、誰より早く、あたしの結界を感知したんだから。
「フフッ、本当に凄い子が来たものね、そうよ、私は宿屋に変な仕掛けが施されていないかを、チェックする係なの」
つまり、スパイが居ないか、確認してると……………?? え、何それ、コワイ! スパイや、変な事したら、ただじゃ済まないでしょう!?
「す、凄いデスネ」
顔が引きつったのを見て、マリアさんはニッコリ微笑んで、いい子ね、と頭を撫でてくれました。
実は、あたしとリゼス様、事前に女将さん達に実名とかを明かしているの。だから、マリアさんの異界の魔術師の発言があったんだけど。
「さぁてと! いつまでも話している訳にはいかないね、本題に入ろうかね」
女将さんに勧められるまま、あたし達は椅子へ座る。8人用だから、全員が座れたわ。………………多い気がするけど、スルーしましょう。
「まず、あなた方がここに派遣されたのは、あたしらじゃどうにも出来ないからだよ……………ありゃ、巧妙に仕掛けられた罠だとは、気付いたんだけどね、上手いところを突かれてね……………はぁ」
最後のため息に、かなりの疲れが感じられた。事態はかなり、切迫していると考えていいみたい。
「町を見ている限りは、特に変わりは無いように感じましたが…………」
リゼス様もとい、兄さん…………面倒だから、リゼス様で統一するわ……………の、発言は、半分当たりで半分ハズレ。
「まあ、表向きは確かに変わり無いけど、随分色々されてるわよ? 呪咀やら呪いやら、闇の気配が強いから、喧嘩も路地裏とかではやってたし……………町を預かる町長様は、何をやっていたのかしらね? あたしは入ってすぐに気付いたわよ?」
当然、マリアさんも気付いているから、悔しそうな顔をしている。リゼス様も、険しい顔を見せているけど、これは直ぐにでも、伯爵様に目通り願わないといけないかもね………………はぁ。
「リゼス様、伯爵様に目通りを願わないといけません、頼まれた荷物を届ける…………もしくは夜陰に混じって直接…」
「うん、後半は却下だ、マントを羽織って、私の紋章を見せれば問題ない」
ため息を今にも吐きそうな、疲れた顔をしたリゼス様に言われて、その案を採用…………いや、その案で進むのが、当たり前の空気だったわ。
「んじゃ、あたしも着いていくわ、顔を見せておかないとね、しばらくお世話になるんだし……………それが終わったら、あたしは別行動するわ、この気配、気に入らないのよね」
陰陽師の目の前で、堂々と闇の気配を滲ませている、そんな喧嘩を売られている状態……………あたしが逃すとでも?
「何か腹立つわね、この気配…………春、この町に結界張れる?」
『流石に広すぎまする、何か媒体を使われては?』
やっぱり無理があるか…………。だから、選んだとか言わないわよね? ここを選んだ理由が、敵にはあるのだもの。
と、考えていたら、叔父さんから声がかかる。
「宿屋の手伝いはしてもらうが、基本的に自由にしてもらって構わない、町を元に戻すのが、お前さん達の役割だ」
おぉ! まさかの自由発言ゲット! よし、徹底的にやったるわ! この町を狙った事、後悔させたるわ!
「とりあえず、サリー………、落ち着きなさい」
リゼス様に止められて、ハタと気付けば、何故か皆から、可哀想な子を見る目で見られていた。何故に!?
「はぁ、大した子だよ、本当に…………さて、明日も早いし、二人の部屋を案内しようかね、夕方から食堂を手伝っておくれ、夕食は5時から7時頃だ、あんたも仕込み頼むよ、あたしらはお客様が終わったら食べるからね」
「おう」
短い返事のあと、叔父さんは部屋を出ていった。二階で仕込みをするんだろう。
あたしとリゼス様も、狭いながらも、それぞれ部屋を案内され、しばらく落ち着く事になりました。
いつもお読み頂き、本当にありがとうございますm(__)m
ようやく、ようやく! アンケルの町へ到着しました。何やら、不穏な気配が漂っているようです。サキちゃんは、無事に解決してくれるのでしょうか??
今から頭が痛いです。まだまだ続くのですもの。リゼス様、ファイト♪
では、また次回、宜しくお願いします。




