閑話 ファイのお見合いミッション!(2)
次回更新は、5月24日か31日の予定です。
Side:ファイ
家族で案内されたのは、かなり立派な、けれど品良くまとめられた、応接間でした。
夫人に勧められて、椅子に座りますが、妙な緊張感が漂っています。今日のミッションは、兄上とユリスティーナ嬢の接点作り。母上達は上機嫌で会話をしています。
と、ノックと共に、私とあまり変わらない年の青年が入って来ます。顔立ちが夫人と似てますし、服装から、このハナガラス子爵家の御子息でしょう。確か、ハナガラス子爵家には、息子二人に令嬢が三人居たはずですから。
「失礼しますよ、母上、アブンセル夫人がいらしたと聞きまして、ご挨拶に来ました」
さて、何番目の方でしょうか? 私はあまり、パーティーには出席しないので、名前は知っていても、顔が分からないのですよ。騎士でも部隊が違うと、結構な人数がいるため、分からないのです。
「初めまして、アブンセル夫人、御子息方、ハナガラス子爵家の次男でリュートと申します、どうぞ宜しくお願いします」
爽やかな笑顔の青年は、ハナガラス子爵家の特徴である赤い髪、瞳は夫人と同じ青色です。目元が夫人とそっくりで、優しい雰囲気がします。
「まあ! しっかりした御子息ですわね、うちの息子達も紹介しますわ、長男のクローディオと、次男のファインリードですわ、どうぞ良しなに」
母上、ここまでは順調です。しかし、ここからが問題ですよ?
「おや、ファインリード殿は確か、勇者の侍従をされているエリートではないですか! 一度話してみたいと思っていたのです」
ほら、やっぱり…………。今日は兄上のミッションがあるのです。オマケの私が目立って、どうするんですか!
「あ、ありがとうございます………」
苦笑いしか出ませんでした。察して下さいませ……………。なお、兄上のキラキラした視線が、更に私の精神をガリガリ削っています。
「リュート殿、分かりますか?! 弟の良さを分かって下さるとは、本当に嬉しいです!」
ほら、始まりました。兄上の弟自慢…………。が、ここで予想外の事が。
「家族を大切にするのは、当然ではないですか! いやー、クローディオ殿は話が分かる、実は家にも可愛い妹が居まして、これが優しくて、兄思いの出来た妹達で……………」
あ、同類ですか。兄上と…………。二人ですっかり盛り上がっています。何と、兄上と同い年だったリュート殿。それとなく聞いた兄弟姉妹達は、長男、長女、次男、次女、三女の順番だそうで。
話の中で、同類の匂いがプンプンします。誰って、勿論、兄上の。
「失礼致します、奥様、昼食の準備が整いましてございます」
執事さんにより、別室に案内されます。案内されたのは、晩餐用の部屋です。人数が多いので、此方になったとか。食卓には、美しい花々が飾られ、華やな演出がされています。
「ご紹介しますわ、次女のユリスティーナと、三女のマリアンネですわ」
食卓で紹介されたのは、今日のミッション相手ですね。違和感が無いように、食卓は向かい合わせとなりました。念のため言っておきますが、夫人がお誕生日席として、窓側に次男のリュート様、次女のユリスティーナ様、三女のマリアンネ様の順に座っています。向かい合わせで、母上、兄上、私です。兄上の前に座ったユリスティーナ様は、恥ずかしそうに微笑んでいます。
因みに、ご長男は仕事であり、長女の方は既に嫁がれているそうです。
「実は、ユリスティーナはクローディオ殿にお会いするのを、楽しみにしていたんですよ」
「お、お兄様っ!?」
あわあわと慌てるユリスティーナ嬢は、大変可愛らしいです。この方が未来の姉上ですか。お年は20歳と伺っています。昨今の貴族の風潮で、結婚可能年齢が、18歳からとなっていますから、十分お若いです。
しかしユリスティーナ嬢を振ったバカは、見る目が無いですねぇ。手を出した騎士爵の娘は、可愛いとは聞きましたが、躾が行き届かないと有名でした。今回の事で分かったでしょう。人の婚約者に手を出したのですから………………。
「あ、あの………実は以前、城でクローディオ様にお会いした事がありまして………………ハンカチを拾って頂いたのです、本当にありがとうございました!」
恥ずかしそうに頬を染め、いえ、実際に恥ずかしいのだと思います。何とも可愛らしいユリスティーナ嬢に、隣の兄上は………まさかの考え事をしてました。
兄上ぇぇぇ〜〜〜〜〜〜!!!?
内心絶叫ものですよ!? 兄上、こんなに可愛らしいユリスティーナ嬢に失礼です!
「思い出した! あの時のご令嬢でしたか! またお会い出来て、光栄ですよ、ユリスティーナ嬢」
思わずホッとしました。兄上、思い出していたのですか…………。母上もホッとしたようです。そうですよね、あの弟ラブな兄上が、まともな事を言ってるのです。それも笑顔つき。かなり衝撃的でした……………。
そうこうしてるうちに、フルコースのお昼が始まり、無事、和やかな空気でデザートまで来ました。デザートは、フルーツのゼリーのようです。甘過ぎない抑えられたものですから、私達、男性も美味しく頂けました。
「素晴らしい料理でしたわ、流石ハナガラス子爵家の料理人ですわ」
「まあ! ありがとうございます」
上品に笑い合う母上達、本心から言ってるようなので、大丈夫でしょう。母上は人柄が良いので、夫人も楽しそうです。
「そうだわ、リュート、ユリスティーナ、マリアンネ、貴方達、クローディオ様とファインリード様に庭をご案内して差し上げて」
始まりました、ミッションスタートです! もう、心配でヒヤヒヤします。兄上がぼろを出さないか………………あ、あちらにも同類が居ましたから、少し気は楽ですね(笑)
「ほう、立派なお庭ですね! これは凄い!」
兄上の声に、私も辺りを見渡せば、確かに美しい庭が広がっています。基本的に、手前が低く、奥に行くと高くなるように植えられているようで、場所によって、全く見え方が違います。本当に立派な庭です。
「ファインリード殿、ちょっと宜しいか?」
呼び止められ、兄上が心配になりつつも、素直にリュート様に付いていきます。とはいえ、歩いたのは距離を取る為で、普通にユリスティーナ嬢や兄上達が視界に入りますが。まあ、妹のマリアンネ様が居ますから、問題無いでしょう。使用人達も居ますからね。
「今回のお見合い、其方はかなり気合いが入っていると、父上達から聞いた…………妹は今、微妙な立ち位置にいる、君は冷静に見れると思ったから聞くが……………何故、今回の見合いを受けようと? 繋がり等は気にしなくてもいい、ハッキリと教えて欲しい」
…………………これは、まさかの探りを入れられている訳ですか。兄として、妹が心配と。まあ、兄上を悪く言わない辺り、気に入っては頂けたようですが。
「実は………」
もう、正直にぶちまけました。あの歳…………25歳にもなって、兄上が弟離れをしておらず、家族が凄く心配していること、更に女性との噂もからっきしと来たら……………。
ぶちまけた瞬間の、何とも言えないリュート様の顔。仕方ないとはいえ、身内としては恥ずかしい限りです。
「なるほどな…………、それは、うちから来たじゃなくても、見合い話に力が入る訳だ」
アハハと苦笑いすると、肩をポンポンと慰めるように軽く叩かれました。
「でも、こんなに家族が素晴らしくて、家族を大切にするクローディオ殿に、一目惚れしたユリスティーナは、我が妹ながら恐れ入るよ」
「此方としては、ユリスティーナ嬢側からお見合い話が来たと聞いて、家族で盛大に驚きましたよ…………」
ハナガラス子爵家とは、本当に由緒正しい家柄で、爵位と実力と血筋が合っていないとさえ言われる一族なんです。近いうちに伯爵家に昇格するとさえ言われているんです。というか、上がれとさえ言われています。
「いやー、同じ子爵家じゃないですか! そんなに驚く事ないよ」
なんて、最終的に笑われてしまいました。チラリと兄上の方を見れば、ユリスティーナ嬢と、マリアンネ嬢と、何やら楽しそうにしています。どうやら、あちらは上手く行ってるようです。
「ユリスティーナの事、全面的に協力しますよ、父上達も安心しますよ、彼なら」
兄上、何故か認められたようです。………………ぶっちゃけ話、もしやしなくても良かったのでは? いや、やはり必要ですね。隠し通せるとは思えませんから。
「お兄さま〜! 早くいらして! 紅茶を入れましたの〜」
マリアンネ嬢の呼び声に、思わず二人で笑みがこぼれます。いやはや、何やら仲良く出来そうですね。
「参りましょうか、ファインリード殿」
「えぇ、呼ばれましたからね」
どうやら、最初のミッションは成功に終わったようです。
お読み頂きまして、ありがとうございます♪ お待たせ致しましたm(__)m
さあ、上手くいくんでしょうか? もうさっさとくっ付けよ! と秋月も思ってしまいます。本当に恥ずかしいわぁ、あの二人。
落ち着くのですかね?
では、次回でお会いしましょう。




