閑話 翔太と優香の国境戦( 3)
次回は1月25日に更新します。
来週、18日は、『RT〜霊感探偵達の前奏曲〜』を更新します!
Side:翔太
唖然としちまった俺達は、絶対に悪くないぞ? 声だけなら、まだ恐らく、こんな異様な空気にはならないはずだ。周りの場所が、こんな森の中じゃ無ければ、そう、お屋敷とかなら、許容範囲の内容だろう。
だ、が、な?
ここは、国境付近の、魔物が居る戦場とも言える場所なんだよ!! どこの誰が、こんな空気を読まない、ズレた会話をするんだよ!?
「ショータ様、気持ちは分かりますが、状況が分かるまで、押さえて下さい」
「ショータ様が暴れたら、洒落になりませんので」
ジーク、ローグ、こんな時に、無駄に感を発揮するなや。まあ、確かに助かったけどよ。
なんて、ヒソヒソと話していたら、向こうの団長さんが、木々の間から現れた。もう一人、連れて来ているのを見て、これが会話の相手かと納得した。なんせ、向こうの騎士の皆さんがさぁ、何か微妙な視線を向けるんだよ。
「待たせたな、勇者様が言う事をきかんでな」
口を開いたのが、団長さんなんだろ。一言で言うなら、熊が当たりだろうか。大きな体躯をしているが、無駄な肉はついてないし、顔立ちも髭面をしているが、優しい感じだ。まあ、戦いになったら、怖いだろうがよ。
「そんな事はないっ! じいが煩いだけだ!」
キャンキャン喚いているのが、勇者だろうな。服装からして、軽装の剣士タイプか。年の頃は…………10歳くらいか? 金髪に緑目の綺麗な顔立ちの少年である。 咲希と並んだら、マッチしそうだな…………。本人には言えないが、咲希はかなりの童顔だからな。身長も、咲希と同じくらいだから…………うん。咲希とお似合いに見えるや。
「客人の前ですよ、お二方…………」
俺達に説明してくれた騎士さんにより、ようやく二人の視線が、此方に向いた。
「いやはや、恥を曝したようですなぁ」
恥ずかしそうに、頬を掻く団長さんは、やっぱり熊にしか見えねーや。茶目っ気ある分、親しみやすいか。
「あー、いや、お久し振りだ、グリズー団長…………お変わりは無いようだな」
うちの団長、顔が引きつってる。まあ、こんな斬新な登場をされたら、普通はこうなる。頑張った方だろうよ。名前、グリズーって言うんだな。熊らしい名前だわ。
「あはは、久し振りだ! 今回は貴方が来ましたか、ネイギー騎士団長! “疾風の剣士”が来るとは、ありがたい限りだ」
おう! うちの団長様は、ネイギーって名前か! ネギみたいに、ひょろりとしてるっては…………俺の心に閉まっておこう。
二つ名が、超かっけーなぁ。
「何の何の………、本日は我が国の勇者、お二人も参加します故、よろしくお願いしたい」
ネイギー騎士団長の視線により、俺達二人は少し前に出て、挨拶をする。たく、当初はチャチャンの町のはずだったのに、まさか、国境戦になるとは……………。魔物もはた迷惑だ。
勿論、内心は綺麗に隠して、俺達は勇者らしく堂々と挨拶しますがな。
「はじめまして、クラリオン王国第四勇者、ショータ・テンジョウです」
「同じく、第三勇者、ユーカ・カミシロです」
きっちりした挨拶に、向こう側からは、何故か称賛の眼差しを頂いた。って、おいっ! いいのか、そちらは!?
「うむ、ご丁寧な挨拶、痛み入る、我等が勇者殿、此方も挨拶を」
クマ……もといグリズー団長に促され、其方の勇者も挨拶してくれた。まさかの、一瞬にして空気を変え、神々しいまでのオーラを漂わせながら。
「ウエステリア国勇者、スザリオン・デル・ウエステリアである、勇者として、宜しく頼むぞ」
なんつーか、向こうの勇者は、王族かよ…………。やりにくいなぁ。
「ショータ様、向こうの勇者様は、確か現国王の末の子です、第3妃様の子で、長男とは20歳も歳が違います」
いらん情報を、レイヴァンがくれたが……………、うん。これ、どうしろと? 若干、遠い目をした俺は、悪くないよな?
「それでは、挨拶も終わったところで、討伐と行こうか」
なんつーか、穏やかな空気だよなぁ。普通はピリピリしたりするだろうに。
「翔太くん、普通はこんなに仲良くやるものなの?」
優香も気付いたらしく、困惑顔だ。まあ、普通はあり得ないからな。こんな和気藹々な光景は。
だが、残念ながら、俺はこの答えを持ってないんだ。だが、ありがたい事に、その答えは、双子からもたらされた。
「「あー、それはですねー」」
「定期的に」
「両国間で」
「「戦闘訓練をするからです!」」
成る程、そういう事か。そういえば、クラリオン国王の妹さんが、ウエステリアの王族に嫁いでいたな。何か習った気がする。うん、記憶の彼方に、飛んでいたけど。確か、その為に、両国は仲がいいんだっけか? 陛下の奥さんも、ウエステリアの陛下の妹だったし。
「あー、そういう事か」
「へー、だから仲がいいんだね!」
うん、これなら大丈夫だろ。俺は、喧嘩すら覚悟していたからな。拍子抜けしてるし。何にも無いなら、それにこした事は無いからな!
「向こうの勇者とは、挨拶する事から始めるか」
子供相手だし、俺達がフォローするのが、妥当だろうな。
「私達より、年下の勇者様なんだよね? うわー、お話するの楽しみ!」
優香…………、親睦を深めるのは構わないが、何かズレてる気がするのは、俺だけか?
「勇者の二人、すまないが、スザリオン様と少し話していてくれ、細かい事を打ち合わせしてくるから」
ネイギー団長、それはありがたいんだが、向こうの勇者、スザリオンだったか? 何か気に食わないんだよな〜。変な感があってよ。違和感、みたいなやつが…………。何かスッキリしねー。ぐだぐだ考えても仕方ねーか。
「優香、スザリオン様に挨拶………って、もう挨拶してるし」
優香に声をかけようとしたら、既にスザリオン王子と話をしていた。生意気なガキかと思ったが、きちんと話をしている辺りに、育ちの良さが透けて見える。流石、王子様だな。
「初めまして、ショータとお呼び下さい」
声をかけたら、スザリオン王子、普通にいい子のお返事だった。
「此方こそ、宜しくお願いします! ショータ様」
何か、年下から言われると、こそばゆいな。さっきの姿と全く違うや。
「何だか、さっきと全然違いますね、スザリオン王子」
優香、ちょーっと言葉には気を付けてくれや。マジでそれはどうなのさ?
「じいは、小さい頃から一緒にいますから、気を使わなくて楽なんです、一言多いんですけどね………」
苦笑いをされて、何か納得した。成る程、お世話係だから、あの態度か。苦労するなぁ、グリズー将軍。でも気安い関係みたいだし、此方が心配する必要も無いだろう。
「いい関係なんだな、グリズー将軍と」
「そうなんでしょうか? じいは口煩くて適いません」
親の心子知らず………いや、お世話係の心子知らず、だろうか?
何か身に染みるなぁ、グリズー将軍の心配が上手く届いて無い気がする。
「仕方ないです、グリズー将軍は、スザリオン王子が大切なんですよ」
優香が優しくフォローしてくれるが、果たして若い王子に、届いたのやら。そんな、場違いな程に、のほほんとした空気が流れた―――――まさに、その時。
「ショータ様ッ!」
レイヴァンの真剣な声により、瞬く間に空気が凍り付いていく。視線を向けた先には、険しい顔をした、レイヴァンの姿が。まあ、うん、お約束だよな? この展開は!
「ここから東の場所に居た、魔物の集団が、進行を始めました! 向かう先は、チャチャンの町と見られますっ!」
………………どっかの誰かに言いたい。間違いなく、魔族の仕業だろうとも。
「人様に迷惑をかけちゃいけませんって、魔族は習わないのかなぁ〜?」
思ったより、低い声が出た。恐らく、優香や、スザリオン王子の顔から察するに、俺は相当怖い雰囲気をしてるらしい。顔は笑顔なんだがなぁ?
「えっと、翔太くん………? 魔族はそれが出来ないから、今の状態なんじゃないかな??」
………………成る程。確か、アクダッチャーだかの名前の宰相が、牛耳ってるんだっけか? ならば、仕方ないよな? 上がバカだから、だよな?
「ショータ殿、あの………作戦等は?」
ビビりながらも、今のキレかかっている俺に聞くスザリオン王子。ある意味、凄いだろう。度胸があると言うか…………。
ちょっと冷静になった。年下を虐めたい訳じゃないからな。
「すまんな………、まあ、こうなったら、正面衝突か、横から向かうからか…………、不意討ちの遊撃は俺がやるとして」
俺はスザリオン王子の実力を知らないからな。聞いても、本人では分からんだろうし。
「優香、スザリオン王子と一緒に横から行け、俺は遊撃すっし、大技炸裂させるわ」
前の世界の上級呪文でも唱えれば、どうにかなるだろう?
「だったらショータ様! 僕も一緒に行きます! 光の上級呪文なら、僕も使えますから!」
おや、凄いじゃん。この子! 10歳で使えるなんて、あり得ないぞ?
「あー、すまんが属性教えてくれ、スザリオン王子」
俺に問われ、先程のビビりなんて微塵も感じさせない、キョトンとした表情に、何だか力が抜ける。年下だからか、顔が可愛らしいからか……………うん、どっちもか??
「僕の属性は、光と火、風ですよ」
優香と近いな。これで感じる魔力は、俺を100とするなら、優香は200、スザリオンは俺と同じくらいか。因みに、この世界の魔術師の平均値は50として見た時だ。あ、和磨は、優香と同じくらいだし、咲希に至っては、俺達を合わせたくらいある。魔術特化型とは言え、ありえない数値なんだよ。まあ、この世界で言えば、俺も多いくらいだしな。文句は言えん。
つまり、何が言いたいのかって言うと、スザリオン王子は魔力が多いって事だ。
「んじゃ、先手必勝と行くか」
ニヤリと笑った俺に、スザリオン王子がビクッとなったのは、うん。諦めようと思う。
読了、お疲れ様でした。いつもお読み頂きまして、本当にありがとうございますm(__)m
ようやく、ここまで書けました。翔太くんは、これから勇者らしい姿を見せてくれますし、優香ちゃんは天然炸裂です(笑)
この後は、咲希ちゃんと和磨くんの閑話、及び、リゼスさんとの旅が始まります。
はて、テンシロ………、魔王様はいつ誕生するのでしょう? まあ、誕生したら、終わりまで一直線ですが…………。
では、皆様。次回、またお会いしましょう☆




