閑話 翔太と優香の国境戦( 2)
新年一発目、行きます!
次回は1月11日更新です。
Side:優香
国境付近の草原に着きました。本来ならば、ここには翔太君や皆さんが、一緒に居る予定でしたが、残念ながら私と女性騎士さん達しかいません。
「ユーカ様、特に危険は無いようですわ」
そう、安心するように微笑みを浮かべたのは、ナイスバディなお姉様、名をキャメル・ジルベルトさん。金髪を肩で切り揃えていて、可愛らしい顔立ちをしています。ただ、可愛らしい顔立ちに似合わぬ、大きな弓がチラチラ背中から見えます。
「ユーカ様、大丈夫だって! あたしらも居るしさ!」
元気よく言ったのは、オレンジの髪をベリーショートにした、男の子っぽい女性、ユニス・コラートさん。腰には、レイピアを差しています。
「二人とも、警戒を怠るんじゃない! 我々は、ユーカ様の護衛だぞ? 何か起きたらどうするんだ!」
最後に、キリッとした女性、アイリッシュ・キンバリーさんが注意をしています。銀髪を三つ編みにして背中に流しています。背中に担いだ大剣が、更に彼女をキリッとさせています。
「ありがとうございます、皆さん、でも恥ずかしいです…………勇者なのに、足手まといなんて…………」
これでも体力には、自信があったのですよ。まさか、慣れない山道を歩いただけで、ここまで体力を消耗するなんて、思わなかったんです。鍛練は毎日していたのに、まだまだ精進が足りませんね。
「仕方がありませんよ、ユーカ様」
優しく諭すように言ってくれるのは、キャメルさん。フワフワした独特な雰囲気のお陰か、少し肩の力が抜けました。
「そうだぜ? 普通は山道なんて歩かないからな、仕方なかったのさ、気にすんなよ」
悪戯っ子のような豪快な笑みを見せる、ユニスさん。本当に明るい方です。
「ユーカ様、気にする必要はありません、これから慣れていけばいいのですよ」
最後にアイリッシュさんが締めて、気付けば鬱々した気分が抜けていました。なんでしょうか、この三人といると、不思議と気が抜けてしまうのです。
「そうですね、頑張らないと!」
私が座っていた石から、ちょうど立った辺りで、遠くに騎士の皆さんが見えました。追い付いたようですね。
◇◇◇◇◇
翔太君達と合流して、休憩した後で出発です。
魔物が居ない事を、翔太君が気にしていました。何事も無く、討伐が終わればいいのですが…………。
勿論、我々は勇者な訳で…………。そんな事、あるはずが無かったんです。翔太君曰く、勇者は厄介事ホイホイだそうですから……………。
「ユーカ様っ! 前っ、前みてー!」
キャメルさんの悲鳴が聞こえて、はたと我に帰りました。目の前には、大きな巨木。
「と、止まってーっ!!!」
そうでした! 私は今、絨毯に乗って運転していたんでした!! うわーん、止まりません! ぶつかります〜〜〜〜〜!!
『風の(ウィンド・)綿!』
キャメルさんの声がしたと思ったら、絨毯が止まりました。思わず、冷や汗が流れました。何でこんな事に…………。いや、分かります。運転中に考え事をした私が悪いんです。
「ご無事ですか!?」
「ユーカ様、へーき!?」
あぁ、アイリッシュさん、ユニスさん、すいません…………。私の考え事の所為で、三人にご迷惑をかけてしまいました。
「優香! アホッ! 何をやってんだ!?」
うぅ、翔太君、アホはキツいです……………。
「取り敢えず、怪我が無くてなにより………………、絨毯運転中に考え事なんて、危ない真似はもうするなよ? あー、心臓冷えたわ」
「皆さん、ごめんなさい………」
「何かあったか?」
翔太君、怒ってませんでした。更に申し訳ないです。何をやってるんでしょう。私は。
「国境で、何かあったら、どうしようって…………私、足手まといになりそうで」
そういったら、何故か辺りがシ―――――ンとなりました。何でしょうか、この沈黙は。居たたまれないのですが。
「あー………、その心配は無用だと思うぞ?」
翔太君に、困り顔で言われました。大丈夫だと思えないんですが。
「ユーカ様? 失礼ですが、魔物の大群相手に不安になるのは分かります、けれど、今は考える必要は無いんですよ? 大丈夫です」
キャメルさんが、ふわりと笑うと、空気がフワフワします。
「そうですよ、ユーカ様、我々はあなた方をサポートする為に、ここに居ます、いえ、逆ですね、勇者様が我々のサポートなのですよ、だから大丈夫です」
アイリッシュさんの、真面目な言葉に、また不安がフワフワしていきます。久しぶりの外だから、不安になってるのかもしれません。
「だが、ちと困ったな…………、この先の森、嫌な気配、満載なんだが……………、あそこだよな? 待ち合わせ場所って」
顔を引きつらせた翔太君に釣られて、私達が見たのは、この草原の終わりから始まる森です。この先が、集合場所です。弱りました。確かに、嫌な気配がします。あぁ、咲希ちゃんがいたら、森の中が分かるのですが、私にはすべがありませんし。
「相手さんは集合場所には、既に着いたのか?」
翔太君の問いには、ジークさんとローグさんが答えてくれました。
「「はい、既に着いていると連絡来てます!」」
相変わらず、息ぴったりです☆
「あー、取り敢えず急ぐか、相手さんを待たせるのも悪いしな」
翔太くん、先程から、目が遠くを見てますが、どうしたんでしょう?
「取り敢えず、優香? 絨毯からは降りような」
あ…………。すっかり忘れてました☆ 確かに危ないですからね。仕方ないです。
◇◇◇◇◇
Side:翔太
はぁ………、合流した優香は、最初は気にならなかったが、絨毯運転中にぶつかりそうになって、ようやく気付いた。
―――――気がそぞろになってる事に。もうすぐ着くって時に、何をやらかしてんだか……………。不安は分かるが、騎士の連中の指揮にも関わってくるんだぜ? 恐らく、そこまで考えてすらないだろうがな。
まあ、こんな身近な勇者もありだろう? 俺自身は、有りな方だし。共感しながらの方が、やつらは身近に感じるんだよ、勇者をな?
「さあ、行くぞ!」
時間をロスしつつ、進んだ森の中。嫌な予感がビシバシしてるんだが、大丈夫か? 魔物の気配も、あるにはあるが、そこまでじゃない。
………………じゃあ、この嫌な予感は何だ?
「何が起きるっていうんだよ…………」
げんなりしてくるぞ? 昔の、ムネリアの時だって、こんな嫌な感は無かったからな? 確かに魔物に強襲されたり、危険な事は山程あったが、この嫌な予感は違う。よく分からんが、命より、精神的に来そうな感じがするんだよ。
「ねえ、翔太君、向こうの勇者さんて、現地生まれなんだよね? どんな人かな?」
期待が籠もった優香の、純粋な瞳を前にして、俺の心が叫ぶ! 絶対にロクな奴じゃねぇー! いや、勇者だから、良い奴だろうが……………、嫌な予感がする。間違いない! 絶対に、癖の強い奴だっ!!
「あー………良い奴だと、いいな?」
「うん! 会うのが楽しみだよ♪」
すまん、純粋な瞳には、俺は勝てなかった。周りの生暖かい視線が、グサグサ突き刺さる。そういう視線を寄越すなら、お前らが優香に話せと、視線で言えば、あっさりと逸らされた。薄情だなぁ!?
「ショータ様、あそこが待ち合わせ場所です」
森の中、ポッカリと開いたそこには、既に鎧を着た数人の騎士達が居た。どうやら、此方が待たせたようだな。しっかし、代表者は誰だ? それらしい奴は居ないようだが……………。
あ、向こうも此方に、気付いたらしい。一人が向こうの森へ消え、残った面々が、此方へ頭を下げて寄越す。ほう、礼儀正しいじゃんか。
「そちら、クラリオン王国騎士団とお見受けします」
「いかにも、相違ない、其方は北の国ウエステリアの騎士とお見受けする、代表者と会わせて頂きたい」
第三騎士団長、格好良いな! 相手の階級は、間違いなく騎士団長より下だな。例え他国でも、自分より上の騎士には、敬意を払うもんらしい。こういう騎士道は、男の俺も好きだぜ!
「今、我等騎士団長を呼んでおります、しばらくお待ち頂くと共に…………その、心の準備をお願いしたく………」
ん? 最後の方、何故か冷や汗を流し始める騎士さんに、此方からはそれを問う視線が向かう。流石に、騎士さんは視線に気付いたようなんだが、まさかの視線を逸らし………………おいおい、何かあんのか?
と、不意に声がし始める。それと同時に、其方の騎士さん方は、まさしく頭を押さえてしまった。声はどんどん近くに来ていて、ハッキリと聞こえ始める。
「勇者殿! 今回は他国の方の前! しっかり礼儀正しくなされよ!?」
「んな事、分かってる! じいは一々煩い!」
「あ、これ! 周りを確認せよとあれほどっ!」
「辺りに魔物が居るかぐらい分かる!」
「しかし、万が一にも、何かあったら!」
「だから、大丈夫だと言っておろう!」
………………あー、うん。これは確かに、覚悟が必要だ。色々な意味で。
視線をウエステリアの騎士さん達に向ければ、恐縮しまくっていた。だな、うちの勇者でも、これは無いからな。苦労が滲み出てるぜ。騎士さん方よ。
「はぁ、お恥ずかしながら、我等が騎士団長様と、勇者様になります」
何か、涙が光って見えそうな………。
どうやら、俺の予感、当たりらしいぜ?
読了、お疲れ様でしたm(__)m
お読み頂きまして、本当にありがとうございます♪
新年一発目と致しまして、テンシロを更新しました! いやー、相変わらず、素晴らしいくらいに軽い読み物になりましたね〜☆ 勿論、来週もテンシロを更新します。
このペースで、今月上旬はテンシロを、他はペースが間に合えば出します。
では、この辺で〜。




