第116話 禁呪を解きましょう
次回は10月12日に更新予定です。
宝玉を持った、あたしが最初にしたのは、ルイさん、ルカさん達と合流すること。悪いけど、流石に他国で好き勝手は出来ないからね。きちんとしますとも。
「で、どうしてここに、トーヤ様がいらっしゃるんでしょうか?」
あたしが、二人の元に戻って来たら、どういう訳か一緒に居たんだよね〜。
「フランツ様より、様子を見て来るようにと、命令を受けましたので」
丁寧に話してはいるものの、明らかに表情が硬いトーヤ様に、あたしは疑問しか無いんだけど!? あたし何かした!?
「分かりました……………ところでトーヤ様? 失礼ながら、あたし、貴方に何かしましたでしょうか?」
ばか正直に聞く、あたしもあたしだけど、顔に出してるトーヤ様もトーヤ様だよ? 貴族たる者、顔に出さないのが普通なんだから。逆に言えば、顔に出してしまう程の事があったと言う事なんだけど。
「い、いえ、そういう訳では……………、何と、言いましょうか…………予想と違った為に、混乱しておりまして…………」
しどろもどろの彼に、これ以上は酷かもしれないわね。あたしは、さっさとトーヤ様を視界から外し、ルイさんとルカさんに向き直る。これから大事な話をしないといけないからね☆
「ルイさん、ルカさん、魔物はあたしが退治しましたが、緊急事態です、急ぎ王様に目通り願えますか?」
「陛下にですか?」
怪訝そうな二人に、簡潔に説明をし、宝玉を見せると、ルイさんとルカさん、ぎょっとされてしまった。確かに、宝石封じは禁呪であるから、一般人が知らないのは当然なんだけど、急がないと中の人がヤバイのよ。
「と、言う訳で、大至急お願いします」
丁寧に頭を下げた事に、二人は驚いたようだけど、命がかかっているからね。あたしだって、必死にもなるわよ。
「分かりました、今なら晩餐の時間に間に合うはずですから、そこで構いませんか?」
「ええ、構いません」
陛下、多分だけど、今から度肝を抜くかもしれないなぁ。穏やかな顔立ちが、果たして変わるのか、ちょっと気になるわ。
◇◇◇◇◇
「サキ殿、食事は口にあうかな?」
「……………えぇ、美味しいですわ」
あたしは今現在、陛下とフランツ様達の晩餐会に、まさかの参加中。……………ルイさんや、あたしは緊急の話があったから、面会を申し込んだだけで、一緒に参加は聞いてない!!
「で、サキ殿、話とは何かな?」
食事も無事に終わりを告げ、ようやく、本題へ。もう、何だか食べた気すらしなかったわ。だって、陛下とフランツ様、王族との食事よ? 出て来るのは、美しい繊細な料理達。エルフの国の、伝統的な料理なんだって。肉や魚は無かったけど、本当に美味しかったわよ。こんな堅苦しい席でなければね!
「まずは、魔物は退治致しました事を、報告致します、実はその時、魔族がおりまして…」
そう言った瞬間、陛下とフランツ様の顔色が変わった。表情はあまり変わらないけど、でも間違いなく、驚いているような感じに。
「何!? 魔族が!?」
「本当かい!?」
最初が陛下、次がフランツ様。本当はフランツ様に最初に報告したかったんだけど、無理だったんだよね。次の報告が、マジで命に関わるものだから。
「陛下、フランツ様、魔族はあたしが退治しましたので、ご安心下さい、問題は此方になります」
懐から見せたのは、あの時に発見した、白く浄化された宝玉である。宝玉の中には、未だに誰かが封じられたまま。それを見せながら、あたしはお願いを口にする。
「これは、禁術の『宝石封じ』と言うものです、中に封じられた人物の闇を吸い取り、力とするものです、あたしはこれの解呪方法を知っております、中の人物を助ける為に、お部屋と必要な物を、用意しては頂けないでしょうか?」
幾つかの補則を足しながら、説明をしたわよ? でも、陛下は、険しい顔のまま、沈黙状態。あたし、どうしよう??
それから少しして、陛下が重い口を開けてくれたわ。
「サキ殿、貴方は国賓の一人であり、バカをやらかした者に関しては、自由にして良いと許可をした―――――今回の事は、我がエルフの国が、本来ならば、やらねばならない事なのだろう……………だが、」
陛下が言葉を切った瞬間、一気に、部屋の空気が重くなったように思う。最高責任者の貫禄、威圧、そういった物から来ているのかもしれない。
「我がエルフの国に、今、その禁術を解呪できる者は、恐らく、おらんじゃろう、探す時間も無いに等しい」
確かに、探せばいるかもしれない。エルフは長命な一族、知識がある者が、必ずいることだろう。
だが、今回は時間が無いのだ。宝玉に封じられた者は、早くしないと死んでしまうのだから。
「勇者サキよ、頼む――――救ってくれ、その命を」
陛下の真剣な言葉に、あたしは椅子から立って、正式な礼をする事で応える。フフッ、さあ、許可が出たわよ! 解呪の始まり、そしてそれは、術者にも返るだろう………………。
人を呪あば、穴二つ。昔から言われる事だ。下法を使う者が誰だか知らないが、魔族も随分と汚い真似をするわ。
犠牲があっても、あたしはやるけどね!
「では、用意して頂きたい物があります」
◇◇◇◇◇
準備も無事に終わり、あたしはとある部屋に来ております。部屋の広さはかなりの物。
今はあたしと、ルイさんとルカさんが居ります。まあ、監視と言うより、緊急事態が起きた時の、緊急要員なんだけどね。
床には、解呪に必要な正式な魔方陣、錫杖の変わりは、久しぶりのイーリス。うん、最近はまーったく出番が無かったからね? 拗ねてたらと思ったけど、大丈夫で良かったわ。
「宜しくね、イーリス」
「此方こそ、宜しくお願いします!」
そして、魔方陣の中心には、例の宝玉が置いてある。解呪するのに、なるべく正式な魔方陣を書いたし、代用品はかなり良い物を揃えて貰ったから、成功に近付いたとは思う。
だって、部屋を清める為にって、陛下の命令で、世界樹の朝露を使ったのよ!? 価値を知ってる側からしたら、卒倒しかねない物よ!? だって、それ一つで国が買えるくらいの値段だもの……………。流石に血の気が引いたし、フランツ様に限っては、目眩と共に頭を抱えていたわ。うん、御愁傷様。後で、胃薬を届けるわね。
「サキ様? この、床に書かれた魔方陣は、初めて拝見しましたが、一体どんな意味があるのですか?」
ルカさんの声に、そちらを見ると、床の魔方陣をしげしげと観察する、ルカさんの姿が。どうやら、興味があるらしい。
「これは安定と結界の意味があります、今回は解呪を目的としていますからね、安全第一です」
流石に、呪咀返しもします、とは言えないので、あえてそれは省かせてもらったわ。浄化され、清浄な場となったここに、不要でしょう? 汚い言葉は。
「じゃあ、儀式を始めましょうか」
あたしは、魔方陣の外側に立ち、ルカさんとルイさんは、入口にスタンバイ。儀式の途中、悪い物を外に出すから、扉をお願いね! と、頼んでおいた。そういう儀式である(嘘ではない!)と説明したから、心良く引き受けてくれたわ。
今回、ユリーさんはフランツ様に預けてきた。彼だと、自分の身を守るだけしか出来ないからね。適材適所よ。本人は不服そうだけど、仕方ないよねぇ。
さて、意識を切り替える。目を閉じて、深呼吸を一度。ゆっくりと鼻から吸って、ゆっくりと口から吐き出す。それだけでも、意識は昔を思い出して、次に目を開けた時、あたしは『陰陽師・天城咲希』となる。空気が清浄であるから出来る、副産物である。
杖で床を叩く。それだけで、空気が張り詰めていく。
『かしこみかしこみ申す』
白くなった宝玉は、恐らく浄化されただけのもの。だから、機能を停止しているに過ぎない。つまりの燃料切れな訳だ。ここで示す燃料とは、人の心の闇。浄化により、闇が消えたから、燃料がなくなり、機能を停止させたのだ。
だとしたら、この下法術、返す事は可能なはずなのだ。こういった厄介者は、早々に片付けてしまうに限るわ。
『天が原に生まれし天津神』
掴んでいる杖に力を込めて、一言一言にしっかりと霊力を乗せて、あたしは全身全霊を持って儀式を行っていく。
『大地に生まれし国津神』
久方ぶりなはずなのに、体は当時を思い出したが如く、スムーズに動いていく。
『我が願いの声に耳を傾け給え』
ここからは巫女舞いがスタートする。呪文を切らさずに、踊りながら唱えるのは、実はかなり大変だったりするが、式神様に代役を願う訳にもいかないのだ。ここにソウ兄がいれば、別だけどね!
『流れる大河の如く、荒れ狂う闇の力を、神の力を持って祓い給え、彼の玉に封じられた者、贄になること叶わず、大地に戻れり』
クルクルと舞を踊りながら、宝玉から助かるように、一心不乱に唱え続ける。
『闇は闇へと帰り、この地を清め讃える故に、神よ、天津神よ、国津神よ、その力により救いたり、我等は願い奉る』
さあ、もうすぐだ!
『祓い給え、清め給え、彼の地の神に闇敗れ、祓い給え、清め給え、祓い給え、清め給え!』
呪文の完成と共に、魔方陣から一柱の光が天へと向けて光輝く。そして同時に、宝玉から人の顔をした不気味な闇がモクモクと溢れだし、暴れ始める。
「ルイさん、ルカさん! 今です!」
二人はピッタリの呼吸で、扉を開け放った。この場で、それは重大な意味を持つ。
「さあ、帰りなさい! お前のご主人のところへね!」
呪咀の塊とも言えるそれは、嬉々として、目も開けられないような強風と共に、扉を抜けて空へと消えて行く。これが呪咀返し、人を呪あば、穴二つ。分かってやったかは知らないが、かなりの痛手だろう。向こう側は。
「―――――――――さてと」
しばらくして、風が止んだ後には、魔方陣の上に光輝く宝玉の姿。それは、美しいまでにキラキラ輝き、点滅を行いながら、宙に浮かび上がっていく。
「さあ、お戻りなさい、元の姿へ」
その瞬間、直視出来ない程の光が宝玉から放たれる。腕をクロスして、光から目を守るけど、それでも眩しく感じる程の光。
そして、光が落ち着いた後、そこに居たのは―――――――。
読了、お疲れ様でした。いつも、お読み頂きまして、本当にありがとうございますm(__)m
本日は、久し振りに、陰陽師としての姿が登場しましたね。今回の呪文は、自分で作る事に…………(;^_^A ちょうどよい呪文が無かったんですよね。
皆様は、呪文はどうされているのでしょう? 秋月は、ネーミング辞典を使っております。他は資料とかを読みあさりますね。自分でバリバリ作っていらっしゃる方を、秋月は尊敬致しますm(__)m
さて次回は、テンシロにしては珍しく、ウフフな展開がございます♪ あ、指定が入る物では、ありませんので、ご安心くださいね!
では、また次回、お会いしましょう☆




