第115話 反省は大切です、色々と☆
次回は10月5日更新予定です。
「お爺ちゃん、もうお片付けして大丈夫だよ」
樹英様にはお片付けをきっちりとお願いしつつ、未だに動きが無い魔族さん、ナルシトスを見る。
髪はストレートでサラサラしていて、流したまま。赤色の軍服モドキには、レースやフリフリがついていて、中々に派手である。ズボンは白の為か、更に赤色を派手に見せている。顔立ちは綺麗系なのに、動きがバレエのような為か、こう………残念に見せていた。本人は格好良いと思ってるみたいだけど…………………。これが俗に言う、残念美形と言うやつか。初めて見たわ。
「さて、ナルシトスだか、ナルシストだか知らないけど、余所の国で、随分と好き勝手してくれたわね?」
勿論、あたしもなんだけどね(笑) あ、あたしはちゃんと許可を貰ってるからね? だからセーフだから。
「ふんっ、何をほざいているのやら……………この美しい僕が、何故に、こんな乳臭いガキを相手にしなければならないんだい? 美しい僕は忙しいんだっ! 早くアクダッチャー様に実験の報告をしなければいけないんだ、だからそこをどいてくれないか?」
かなり苛々した様子のナルシトスは、まーったくこれっぽっちも悪いと思っていないらしい。
………………………ブッツン。
何か、複数の糸がまとめて切れる、そんな音がした。
ほう? こいつは、実験とか言ったわね〜? 余所様のところで、迷惑かけただけに飽き足らず、危険な実験をしたと……………?
我知らず、ドスの効いた声が出たわ。
「おい、ナルシスト…………喧嘩売ったんだから、覚悟は出来てるんでしょうね?」
この喧嘩、買ったわ。相手は売ったとか思ってないでしょうけど、それでも買うわよ。
………………乳臭いガキだと? てめぇ、ふざけるのは、外見だけにしとけやぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!!!
『お、おい………? 咲希?』
お札の中で、緋ノ斗が引いてるようだけど、そんなの気にならないわ。それよりも、沸々と煮えたぎるこの怒りを、奴にしっかりと思い知らせてくれるわ!!
『…………主を怒らせるとは、馬鹿じゃろ、こやつ』
呆れた様な、樹英様。まあ、後の祭りだけどね☆ 止めないでね、樹英様♪
『主の禁句を的確に…………馬鹿としか言えませんな』
あら、龍まで呆れてる。ナルシトス、本当に馬鹿認定されてるわね(笑)
「おやおや…………、人間ごときが、我ら誇り高い魔族に何が出来るんだい? 命乞いなら、今のうち…」
―――――ザシュ
「な、なんだ!?」
言い終わらないうちに、ナルシトスのサラサラな髪が、一房、ハラリと床に落ちる。簡単にネタばらしすれば、頭に来たから、無詠唱で風の下級呪文を使い、ナイフみたいにしただけ、なんだけど。
「あら? 残念だわ…………狙いが甘かったかしら?」
あたし、今は笑顔を浮かべてる。変わりに目は笑ってないけどね☆ 言葉を無くしたように、驚愕の眼差しで此方を見るナルシトス。てめぇが、喧嘩を売ったんだから、覚悟してもらうわよ?
「き、貴様っ! 一体、なっ、何を!?」
声が裏返ってるし、腰が引けてるけど、手を緩める気はないわよ! あたしを、このあたしを、乳臭いガキだとっ!?
――――――絶対許さん!!!
『光の(・)矢雨!!』
この呪文は、上級の光呪文。雨の一つ一つが、下級の『光の矢』の呪文であり、それを複数同時に操る呪文である。かわせるもんなら、かわしてみな!!
……………喧嘩は相手を見て、やらないとね?
「なっ!? 『闇のた(ダークネス・)』ま、間に合わない!?」
あら、盾を作ろうとして、失敗してるし……………。ブフッ、ばっかじゃないの!! 次々当たる矢は、見事にナルシトスの顔面にもヒット! ふっ、ナルシストよ、あたしの前から消えなさい!!! 本当に気持ち悪いから。あんなのが、魔族では流行っているのかしら? 理解出来ないわ、魔族。
しばらくして、矢の雨が止んだ後を見てみたら、そこにはボロボロな上に鼻血をダラダラ流したナルシトスの姿が………………。あ、良い事思いついた☆
「ナルシストって〜、自分の体が〜、自慢したいくらい〜、好きなのよねぇ〜♪」
だったら、自慢の一つを、あたしがダメにしてあげるわ〜!!
「ウフフ☆ 『大きな(ビック・)火』!!」
これは火の中級呪文。大きな火が、綺麗な髪を炙っていく。勿論、癖を付ける為に、水で濡らして行くのも忘れずに☆ そして、完成したのは。
「ブフッ! 超ウケるわ〜!」
ナルシストが気絶というか、茫然自失?しているというか、魂が抜けてるような状態だからね。色々弄りましたとも! 完成したソレは、中々に斬新な感じになってる。そう、それは。
『何もパンチパーマにしなくても………………』
呆れたような龍だけど、口調はそれを裏切って震えてるからね? 絶対、ツボか何かに入ったんでしょ?
「う〜ん、アフロだと、有りがちだしー、何より美形は何でも似合うから、いけすかない」
『咲希を怒らせた、こいつの自業自得だろ?』
火ノ斗よ、それはそうだけど。改めて言われると、ちょっと嫌なんだけど………………。
『馬鹿を治す薬はありゃせんからのぅ』
お爺ちゃん、呆れたのは分かるけど、黒い、黒いよ!?
「……………ん、あ、あれ?」
ようやく意識を戻したナルシスト、もといナルシトス。なーんか、言いにくいし、紛らわしいわね〜。
「我は一体…………ん? な、な、な、な、なんだこれは――――――!!?」
煩いわね、ナルシトス! 気がついて、髪を触って気付いたのね。何でか、両手で頭を押さえて、泣きながら絶叫するナルシトス………………ウザイわぁ。
「え〜〜〜〜〜〜い!! いつまでもウザイわー!!」
パッシ〜〜〜〜〜〜〜ン!!
いい音が鳴ったわ〜。久しぶりのハリセン☆ 最近は使って無かったからねぇ(笑) ちょっと重かった気もするけど、スッキリしたわ〜♪
『主よ、飛んで行ったが、宜しいのかのぅ?』
浮かれていたら、お爺ちゃんもとい、樹英様に一気に現実に戻されたわ。
「へっ? ………………あ゛っ!」
ヤバッ! 久しぶりだったから、加減間違えて、お空に飛ばしちゃった!? 上を見れば、立派な天井に大きな穴が……………。星のようにお星様キラーンと成ったナルシトス、悪気は無かったんだ。許せ…………。
「あー、聞きたい事があったんだけど、仕方ないか……………宝石の方を回収しましょう」
あぁ、開けた天井、賠償はどうしよう? あたしのお金で足りるかしら?? 今だけは、お金があって良かったと、心から思うわ。
「あら、以外と小さいのね…………ん? え!?」
手に取った宝石は、サラサラした白い砂が付いていたけど、払ってみたそれには、流石に絶句したわ!
「ちょっと、これ…………まさか!」
嫌な意味で繋がった事件、それにヤツが言っていた実験、もしもこの宝石が、あたしの考えているような効果なら……………。
「最悪だわ………」
あたしが何とかしないと、いけないわよね。だって、これは、あたしの分野だもの。
「まさか異世界に来て、下法使いに会うなんて、……………皮肉ね」
強い力を求めたら、必ず光と闇を見る。どちらも使うのが陰陽師だとしたら、闇だけを使うのが下法使いだ。下法師とも呼ばれる彼らは、呪咀等を専門に扱う者達だ。勿論、全てが呪咀ばかりの悪役ではないけどね。
『咲希? 大丈夫か?』
心配そうな緋ノ斗には悪いけど、何も言えそうに無かった。胸の内が、ぐちゃぐちゃしていて、言葉が見つからないんだもん。
『まさか、下法師とはのぅ』
お爺ちゃんは知ってるからね。あたし達の呪術世界を。裏事情に詳しい白も、きっと気付いたと思う。
「宝石に封じて、封じた人物の闇を食らう禁術だよ……………封じられた人物は、そこを早く出なければ――――――」
だから、昔から下法師が関わるの嫌いんだよ……………。全員が悪い訳じゃないって知ってるけど、闇に染まった者達は、本当に後味が悪いからね。
「宝石封じなら、あたしでも解けるから、すぐに解呪しよう………………じゃないと、中の人物の命が危ない」
◇◇◇◇◇
Side:トーヤ
殿下の傍を離れ、エルフの方に案内されながら、これから見定める相手を考える。ほんの半年前に召喚した勇者様は、全員で4人。最初の勇者は、魔法使い、二人目は剣士。三人は治癒師で、四人目も剣士。
正直、最初の勇者たるサキ殿は、見込み違いと思ってました。魔法使いとしては、明らかに力量不足……………それが我々上層部の判断だったはずでした。
しかし、1ヶ月としない内に、彼女はあっさりと我々の度肝を抜き続けたのです。他の皆様は、勇者として優秀ですが、サキ殿の優秀さはあまりの内容に、一部の上層部以外では誰かの手柄を横取りしてるのでは、とまで囁かれたのです。
しかし、半年も過ぎれば、最近は目に見える活躍ぶりに、その囁きは下火となりました。当然です。色々なところで、彼女はなくてはならない存在となったのですから。
……………でも、やはり自分には、信じられないのです。彼女は危険人物としか思えないんです。何故、あんなに殿下は、彼女を信頼し、任せるのか。もしや恋愛感情を…………とまで邪推しているのです。
そして、大広間に着くと、そこには目を疑う光景が広がっていました。おかしいでしょう!? 何故に、エルフの二人は傍観していらっしゃるんですか!! そしてサキ殿! 確か………ハリセンとかいいましたか。あれで魔族を吹き飛ばすとか、どんな威力ですか!? それに、使い魔って一体全体どうなってるんだ!!
………………来なければ良かったな。
しかし殿下、貴方が彼女を信頼する程の実力を持っているのは、分かりました。分かりましたが、何だか色々と、残念に感じるのは何故でしょうか?
いつも、お読み頂きまして、本当にありがとうございます。読了、お疲れ様でしたm(__)m
本日は久し振りに、ぶちギレした咲希ちゃんが登場です。後半は、未だに咲希ちゃんの実力を疑っていた、トーヤ様が登場でした。意外に真面目でしたね、トーヤ様。側近だけあって、忠誠心が凄いです。兄弟みたいに育ったからでしょうかね?
次回も宜しくお願いしますm(__)m




