第109話 例外は例外でした( 笑)
次回は8月17日更新です。
周りの視線を物ともせず、彼の親子、今回のターゲットたる長と娘は、陛下がいる此方へと歩を進めてくる。
さて、父親は成金趣味と来て、娘はと言うと…………一言で言うならば、色々間違えた高飛車な貴族令嬢かな? ドリルの先のように、グッルングッルンにカールさせた白みがかった緑色の髪を左右に結び、ツインテールに。顔立ちはエルフらしく整っているものの、目がキツい印象を与えている。メイクをしていないだけマシかな? 服装は、エルフの娘達が着ている物とは全く違う、人間の令嬢がパーティーで着るタイプの、間違った方向に頑張ったらしい、ド派手なピンクのドレス。露出は少ないしスカートの膨らみは随分と少ないが、間違いなく派手だろう。キラキラした宝石や、髪飾り等も、成金趣味と取れる程に派手なんだから。
「あれは………」
隣に居たユリーさんも、やっぱり絶句してた。侍従とは言え、クラリオン王国公爵家の御子息たる身分を持っているのだ。美的センスを持ち合わせているだろう彼を絶句させたんだから、その彼らの美的センスは言わずもかな、である。
「ないわ〜………」
思わず呆気に取られていると、とうとう彼らの番になった。陛下は平然と受けているけど、あたしらは全てフランツ様が引き受けてくれた。だから、ヒソヒソと話が出来るわけなんだけど…………。
もう、会話がね? 本当に酷くて、酷くて……………陛下は平然としてるけど、他の方々の中には、顔をしかめる方もいて。
いや、だってね?
「ご機嫌にごじゃりまするか、陛下、麗しきご尊顔を拝謁し、大変恐悦至極にごしゃりまする」
……………はい?
思わず目が点になったわよ。いやいや、だってさ!? 周りは普通なのに、なんでこいつらだけって思うんだよね。辺りも、微妙な空気になってるし。
「本日は、娘も連れて参りましてごじゃりまする、将来は陛下のお子である第14殿下様と仲良くなればと、まろは願っておりましてごじゃりまする」
あ、何処かでプッツンと切れた音が………………。辺りを見たけど、特にいないし。はて、一体誰から?
しかし、未だにくっつける気、満々ですかい! ありえないわ……………。
「さあ、マリ・アントリーよ、陛下に、ご挨拶するでごじゃるよ」
そう父親に促された、斜め後ろにいた娘が前にしずしずと出てくる。どうやら礼儀作法に関しては、特に問題ないようである。見た限りだけどね。
「お久しゅうございまする、陛下、ご機嫌麗しく存じ上げます」
あら、綺麗な声…………。こう、透き通るような、そんな綺麗な声なのである。てっきり、高飛車声か猫なで声かと思いきや。
「あの声が、彼女の自慢なんですよ………」
ヒソッと教えてくれたのは、近くにいたルイさん。もしかして、さっきのプッツンはルイさんかな? いやだって、顔がね、怖いんだもん! 特に目が、今すぐにでも奴らをシバク! って感じに行っちゃってるんだもの。
「え、でもぶっちゃけ、選ぶのは第14王子殿下でしょ?」
政略結婚とは言え、候補から選ぶくらいは許されているんだから、人間の政略結婚より遥かに恵まれているよね? エルフの王子様は。
「プライドが高い為に、自分が選ばれないと気がすまないタイプなんです」
……………だからってさぁ、これは幾ら何でもダメなんじゃない? 確かに綺麗な声だけど、色々とダメな気がする。
「うむ、久しぶりだな、マリ・アントリー…………あまり、息子と上手く行ってないようだが、どうだ? 新たな候補を紹介でもしようか?」
意訳・久しぶりに顔を見せるとは、どうせ上手く行ってないんだろ? 諦めて新しい候補でも探せばいいよね? よければ探してやるよ?
うわー…………、陛下、辛辣過ぎますよ!? その証拠に、親子揃って顔色悪いしね。
ここで味噌なのが、陛下が気遣わしげにしていると言う点。陛下が配下を労ると言う点は、陛下に有利に働くでしょ? 自分達を心配してくれるんだから、これに応えるには、彼らは気を付けて返さなければいけない。
「お気遣い、ありがとうございまする、陛下…………」
顔が引きつっているけど、まあ、無難な返答かなぁ? 逃げたとも言うけど。
何せ、アンリちゃんが帰還した事は、その日のうちに知れ渡っているんだから。例え、記憶が無くても、この国では特に問題ないようだしねぇ…………。フフフ、だって、王子が決めるんだもの。お相手はね☆
まあ、分かって無かったバカが、ここにいたみたいだけどさ………。
「はて………確か、アン・リシャール殿は、記憶を失っておられると聞いたでごじゃる………………ここはやはり、まろの娘、マリ・アントリーこそが相応しいかと、思うでごしゃりまするよ」
バカだ、バカが居た…………。
もう一回言うけど、記憶が無くても、王子が選ぶ事が大事なのよ。選ばれて無いんだから、普通は諦めるんだけど……………。バカよね、バカ。せっかく娘が逃げたのに! 親が潰してどうするよ!?
「うっわ〜………陛下に喧嘩を売ったよ」
流石に、会場の皆様も顔色が悪い。これはヤバイんじゃないかな!?
誰もが固唾を飲む中、会場から、いや、あたし達の近くから声が上がる。
「………父上!」
それは、王族特有の白銀の髪の、アンリちゃんより少し年上の少年だった。服装は、王族を表す立派なもの。
………………でもさ? この声は、どっかで聞いた事があるような……………?
「ゼイーセルか? 客人方の前ぞ? 如何いたしたのだ?」
怪訝そうな陛下に問われた彼は、まっすぐ陛下を見ていた。やっぱり何処か、見たことがあるような気が…………。
「ご歓談中、申し訳ありません、しかし自分の事が会話に出ていましたので―――――それも婚約者に関しては、私は自分で決めると申し上げたはず、なのに何故、長殿は随分と勝手な物言いをなさるのか…………甚だ疑問です」
あ、空気が氷ついた。つー事は何か? この怒り心頭中の美少年が、第14殿下様ですか!? なまじ、顔が綺麗なために、お顔がいと恐ろしや………。背中に般若って、マジギレしてますよね!? ん? って事は、さっきのプッツンは君か!
「ゼイーセル殿下! わたくしは殿下をお慕いして…」
「僕が選んだのは、アン・リシャールです! マリ・アントリー殿ではないっ!!」
彼女の悲痛な声に被せるように、ゼイーセル殿下は、即答とも言える言葉で不定した。
あの…………計画では、ここでバカ親子を怒らせて、失態させるだけだったんだけど……………。陛下が、それは大丈夫って言っていたけど、もしかしてコレか? コレなんですか!?
陛下、容赦ないわー…………。
ちらりと此方を見た陛下の笑みが、一層深くなる。そうですか、それだけキレておりましたか。確かに不自然だけど、上手く収まるやり方よね。
「そうか………、長殿、娘殿の顔色が悪い、部屋に戻られるとよかろう」
傷心の二人は、寄り添うように、会場を後にした。
ウフフ、第一ラウンドは、あたし達の勝ちね☆
◇◇◇◇◇
でっ!!
宴も半ば、9時位にあたし達は退出しましたよ……………。流石に、裸踊りなんて、見たくないわ……………。エルフでは見慣れた光景みたいだけど、流石に日本人の感性からして、あたしは無理!
まあ、大事な話もあるし、そんな訳で、またしても陛下のプライベートルームにお邪魔してます☆
馴れたら、落ち着くいい部屋よね〜。最初のインパクトがビックリだったけど(笑)
「さて、次は間違いなく、アンリちゃん狙いね、故に陛下、護衛としてあたしの式神様を、アンリちゃんに付けます」
勿論、式神様の件は、しっかり説明済みよ♪ ぜーったいに、禁句は言わせません!! また殺気が飛んだら大変だもん。
「構わぬ、お願いしよう」
丁寧に頭を下げた陛下に、此方も胸を撫で下ろす。どうやら、危機は回避されたもよう。
「では、次の手…………の前に、まずは自己紹介をして頂けますか? 第14王子殿下――――――いえ、ゼイルさん?」
あたしの言葉に、ルイさんと陛下は、揃って頭を抱え、そしてゼイルさんはただ、ニッコリと笑みを深めた。
◇◇◇◇◇
Side:マリ
「何でよっ!!」
手に持った、お気に入りのレースが付いたクッションを、投げつける。ガシャンとなったガラスには、目も向けなかった。父に頼めば、また買ってくれるもの。
「何で殿下は、わたくしを見てくれないのよっ!?」
わたくしの美しいと賛美される声を、殿下は一度も褒めてくれなかった。いつもそうだった。
でもアン・リシャールが消えてから、わたくしが選ばれると思ってたわ。実際、殿下は前よりわたくしに、お話をしてくれたもの!! わたくしを散歩や、宴に招いてくれたもの!! プレゼントだって、くれたもの……………。
「なのに、何でっ! 何でアン・リシャールを選ぶのよ!? 記憶喪失なのに、何でっ!!」
ふと視界に入ったのは、綺麗な細工がされた小さな箱。それを見て、一気に怒りが落ち着いた。
そうよ、そうだわ…………。わたくしには、これがあったではないの。
だって、これは、わたくしの切り札だもの♪
「うふふ、ふふっ! そうだわ! 殿下をお招きして、お茶会をしましょう、ふふっ! きっと、気に入って下さるわ」
だからね、アン・リシャール! お前は、要らないのよ? だから早く、消えちゃって…………?
◇◇◇◇◇
「主、土より連絡が」
懐に入れたお札から、龍が教えてくれた。その内容を聞いて、あたしの笑みが深くなる。
「あらまぁ、いいもの見つけたわね〜♪」
さあ、切り札とやら、一体どんなものかしらねぇ? あたしと楽しく遊びましょ? マリ・アントリー様♪
何処かで盛大なクシャミが聞こえた気がするけど、気のせいかしら?
読了、お疲れ様でした。そして、いつもお読み頂きまして、本当にありがとうございますm(__)m
ようやく、ここまで来ました! 登場しました。問題娘! 親共々、何と癖の強い方々でしょう…………。お陰様で、予定がズレてきております。
更に今現在、ストッパーがおりません! そろそろ、あの方がマジギレしそうです(汗
次回で、またしても色々と語られます。フフッ、ようやく伏線一つ回収です。
では、この辺で。また次回、お会いしましょう!




