第105話 招待されましょう♪
次回は、7月13日です。
「イーリス、行くわよっ! 『水の槍達!』」
あたしの放った、魔法で出来た火の槍が、敵に向かって四方八方から向かって行く。その数、30。簡単に躱せないように、時間差や方位も完璧に整えたものよ☆
『ふんっ!』
けれど、あたしの渾身の一撃は、あっさりとマント2号の剣の一凪ぎで、かき消されてしまった。水が辺りに撒き散らされる。
………………あ、何か腹立つかも。少しはてこずるかなぁーって、期待したのに、一撃よ? い ち げ き ! ! !
腹立つ以外に、何と言えと?
『雷の激怒!』
次は雷の上級呪文。奴を包み込むように、調節しつつ。
………………ニヤリと、笑みを浮かべた。あたしが。
「感電して、反省しなさいっ!!」
魔力を練り上げていく。美しいと評された、あたしの技、とくと見るがいいわ!
『……………ふんっ!』
これでお終いのはずが、またしても、剣の一降りで切り裂かれてしまう。腹立つわ!
…………………全部、中級のお試しだけどね(笑)
『死ねっ!!』
一瞬にして、2号はあたしの前に来た。剣を大きく上段に振りかぶり、躊躇無く、振り下ろした。
勿論、軌道上にいるあたしは、逃げる事も出来なくて、驚愕した表情のまま、真っ二つに―――――――切れた。
『なっ!?』
驚愕の声と共に、彼の前にいる“あたし”がスゥと消える。
「あたしはこっちよ〜」
2号の後ろから、あたしがひょっこり現れる。
『何ッ!? そこかぁ!』
剣を、2号が振り向きざまに、振りかぶる。
「あら、こっちよ」
そんな彼の横からは、またしてもあたし。恐らく、意味が分からないようだし、混乱してきたんじゃないかな?
「こっちよ〜、こっち」
『な、何ッ!?』
またしても、あたしが現れたが故に、2号はとうとう警戒して動かなくなっちゃった。チェッ、おもしろくない!
『主、幻影に混乱しているうちに、攻撃をなさってください』
あ、龍に説教された。まあ、悪戯は成功したし、そろそろいいかな?
実は、最初に水を使ったのには、意味があるんだ。魔法使いたるあたしは、接近戦は勿論無理。故に、撹乱を狙うしかなかったんだよね。最初の水は大量だったから、あたりに水蒸気が漂う。更に、電気で一度、奴の視界を遮り、そして水蒸気を使い、幻を作り上げれば準備はオッケー。あたしは近くに隠れていればいい。
『水の(ウォーター・)幻』
この魔法は、水の上級魔法。そっと、水の魔法を使った後に、唱えておいたんだ。
「ほらほら、こっちだよ〜」
「こっちだってば!」
ただし、漂うあたしが偽物であると気付けば、2号さんも警戒して動かなくなってしまう。だから。
『水の(ウォーター・)玉!』
霧が幻を見せている間、あちら此方に行っては、水の呪文を使って錯乱させていく。
ちらりと緋ノ斗の方を見ていたら、1号さんは伸びていた……………。ブイサインした緋ノ斗に、頭を抱えたあたしは、悪くないはずよ。
「緋ノ斗、縄でぐるぐる巻きにしといて」
『分かった!』
楽しそうなのが何とも…………。
おっと、そろそろ次の段階に行こうか。懐から出したのは、人型の形代。それにあたしの髪を抜いて、括り付ける。
『急々如律令!!』
ポンと言う音と共に、もう一人のあたしが現れる。流石に疲れてきたし、形代さんに走り回ってもらおう☆ 魔法は方角とか調節できるからね♪
そしてもう一つ!
『禁制し奉る!』
あたしは伊達に動き回っていたわけじゃない。2号さんの周りに、結界を張る準備をしてたわけ。
『水の(ウォーター・)玉!』
何度も何度も水を使えば、下に水は溜まっていく。結界で囲まれ、逃げ道がなければなおのこと。
「さあ、仕上げといきましょう♪」
水は溜まり、2号さんもびしょ濡れ。と、なれば、そこにある呪文を唱えたら、あたしの勝ちが決定するわけ☆
『氷の(アイス・)吹雪!!』
一気に氷ついた結界内、しばらくして視界が晴れると、そこには膝までカチコチの氷に浸かった、2号さんの姿が。マントにも氷柱がついてた。
「あたしの勝ち〜☆」
勿論、油断大敵な事ぐらい、気付いているよ。まだ、動けるみたいだし?
『死ねぇ――――――!!』
2号さん、動ける範囲で、あたしに特大の魔法を放って来た!? 属性は間違いなく水。成る程、氷があまり効かないわけだ(笑)
水は鋭く尖り、あたしに向けて、真っすぐに伸びてくる。
…………………あたし、随分と間抜けに見られてる訳だ。こんな呪文で、殺せると思われているんだから。
『氷の(アイス・)吹雪』
静かなあたしの声により、唱えられた呪文は氷の上級魔法。水はあたしに届く事なく、氷ついて、歪な氷像に変わる。
「随分と、舐められたもんだわ――――――あたしも」
ここには誰もいない。あたし以外は、式神様と、暗殺者が二人だけ。ならば、問題無いわね。
「殺気ってね?……………こうやるのよ?」
『主!?』
懐にいる龍が、驚愕の声を上げるけど、止めるつもりは、ない。あたしの全力の殺気を、二人に向ける。ただ静かに、怒りを乗せて。
辺りから、一気に鳥や動物、虫までもが逃げて行く。当たり前だ、こんなのに長時間、当たり続けたら、おかしくなる。これはそれだけのモノなんだから。
「覚えて置きなさい、お前達が、“何”に手を出したのかを――――――!!」
あたしは、マジでキレているからね。止まるつもりも、無い!
「後悔が、遅かったわね♪」
はー! スッキリした☆
目の前には、凍り付いて、おかしな格好のまま、口から泡を噴いている2号さん。あら、ちょっとやり過ぎたかしらね?
「咲希さん!? 何か今、とんでもない気配がしたけど、無事っ!?」
氷像をツンツンと突いていたら、慌てた様子の和磨くんが、飛び込んできた。あらら、近くの薬室にも殺気が飛んじゃったみたい?
「サキ様―――――!! 無事ですか!?」
今度は、ファイさんが、反対の廊下から全力で走って来る。うん、殺気は二人にしか向けてなかったんだけど、どうやら、余波が城内部まで行ってしまったらしい。
「二人とも、あたしは無事だよ(笑) ファイさん、この二人も牢屋にお願いね?」
平然とそう言えば、二人はどこかホッとした様子で、胸を押さえていた。何で?
「良かった〜………」
「私はてっきり、何かとんでもないモノが呼び出されたのかと…………」
「こっちもだよ、城中がパニック状態だし」
あらら? もしかして、やらかした!? 今、和磨くんが、城中パニック状態って言っていたし。
………………久しぶりの説教フラグですか!?
「取り敢えず、兵士を呼んで参りますので、サキ様とカズマ様は、此方にいて下さいませ」
ファイさんが、きびきびと動き出し、和磨くんは哀れな氷像を見て、呆れてた。
「本当に、咲希さんを怒らせるとか、馬鹿でしょ?」
何やら呟いていたけど、無視しよう☆
「さぁて、後残るは一人かぁ」
こいつに関しては、ルイさんも微妙な顔をしてたんだよね。いつ動くか分からないって。
「ねえ、咲希さん…………無茶はしないでね?」
突然の言葉に、驚いてそちらを見れば、あたしに対して背を向けた和磨くんの姿。だから、表情とかは分からない。けど、言わなければいけない事だから、はっきり言おうと思う。
「するよ、無茶は」
その言葉に、和磨くんの背が揺れた。
「あたしは、何と言われようと勇者だから、守る為なら無茶はする」
「そっか………」
何でか分からないけど、和磨くんの顔が、濡れてる気がした。
「僕、もう行くね?」
一切、此方に顔を見せないまま、和磨くんは元来た廊下を戻っていく。
一体何だったんだ?
◇◇◇◇◇
Side:和磨
何をやってるんだろう、僕は。近くの壁に思いきり、拳をぶつける。八つ当たりだって分かってる。
「だって………」
気付いてしまったんだ。覚悟の違いに。僕の中の勇者の形と、咲希さんの中の勇者の形は違う。違うのは当たり前だった。気付くまでは。
さっきの殺気を感じた時、純粋な怒りを感じた。咲希さんが怒ったんだって。そして、ふと呟いていた言葉の、咲希さんの返事。
「命懸け、か………」
咲希さんが昔いた状況は、恐らく命懸けだった。たまに見せる影は確かに、命のやり取りをしていた者、特有の物だった。僕だって、医者の息子。命のやり取りは見てきたつもりだった。
でもやっぱり、覚悟の重さが違うんだって、さっきの短いやり取りで感じた。
「流石に、命懸けの無茶は出来ないよ………」
あぁ、勇者って、重いんだな。こんなにも。
見上げた先にある空は、とても青かった。
◇◇◇◇◇
Side:咲希
さて、準備も終わって、二人は無事に牢屋へ運ばれて行きました。文字通り、運ばれて。担がれていく暗殺者の二人が、何とも言えない哀愁があった。屈強な男に担がれていくなんて、屈辱だろうね(笑)
「で、サキ殿? 先程のアレは何だったのかな?」
ニッコリと笑ったフランツ様、いと恐ろしや…………。はい、説教だよ、説教!!
………………………
…………………
……………
……
説教は、ルイさんが来るまで続きましたよ、グッスン。捕まえたんだから、いいじゃん!! 怒鳴られる説教より、穏やかに急所を狙われる説教の方が、色々と来るんだよ!!
「えー、お話しても?」
この状況に、かなり引いているルイさんが、フランツ様に許可を求める。この中で一番偉い人だからね。例えそのまん前に、号泣してるあたしがいたとしても…………。
「で、では…………、本国より書状が来まして、勇者サキ様を正式にお客様としてお招きし、おもてなしをさせて欲しいと、陛下よりのお言葉が来ています、同行者も構わないそうです」
あら、このタイミングでお招きとは………………。ウフフ、何だか楽しくなりそうね♪
「サキ殿? 反省が足りなかったかな?」
フランツ様の言葉に、ビクッとなる。勿論、説教が続いたのは、言うまでもない……………ガクッ。もう勘弁してよ〜〜〜〜〜〜(T_T)
いつもお読み頂き、本当にありがとうございます。
さて、久し振りの、ざまぁ!な展開にしてみましたが、如何でしたでしょうか?? あんまりなってない気がしますが、秋月は久し振りの戦闘描写で疲れました…………。上手くまとまってなくて、本当にごめんなさい(-人-)
次回は、現在執筆中ですが、またしても、問題勃発です。勿論、問題児はいつものごとくです♪
さあ、久し振りに外国に行きますよ。エルナマスでは大変でしたが、今回はどうなる事やら…………。予定した通りに終わるのかしら? 何だか、勝手に動き出してくれまして、手綱を握るのが大変です(;^_^A
あ、感想やポイントは、いつでもお待ちしております。
では、また次回にお会いしましょう♪




