特別閑話 あたしの日常
リクエスト企画第2段!
これは召喚される、ほんの少し前の、あたしの日常の話。
ジリジリとなる目覚まし時計を、まだ動かない頭で、止める為に手を伸ばす。
「姉さんっ、いい加減起きてよ! 遅刻するよ!?」
朝から煩い………。こちとら徹夜明けで眠いんだよ。
「あと5分〜………」
「それ何回目だよっ! 若様が来ちゃうよ!」
弟が朝から煩い…………。ん?
「若様?」
弟、名を雄夜と言うが、彼が若様呼びをするのはただ一人。
「りゅーすけがくるのぉ?」
鬼ノ凪 竜介、同い年の総本家の時期当主様。そしてこのあたし、天城咲希の婚約者である。
何とか開いた目で時計を見れば、7時を過ぎている。寝れたのは4時間か。明らかに、うら若き女子高生の睡眠時間ではない、断じて違うと言えるわ!
「もう………最悪」
寝不足で怠い体を引きずるように、布団から起きれば、やれやれと呆れた弟の顔。3歳違いの弟は、才色兼備、品行方正、運動神経抜群と、見事に幾つも兼ね備えた自慢の弟である。ただし、姉に対して生意気なのが偶に傷だが。
「ありがとう、雄夜、助かった」
「別に、若様の為だよ、つーか姉さん? 仕事くらい早く終らせなよ、姉さんなら早々と片付けられるだろ?」
ほら来た。
「無茶言わないでよ…………あんたと違って、あたしが寄越されてる依頼は難しいのよ」
流石に、上級悪霊の除霊を、3件掛け持ちとか、普通は有り得ないから。ブッキングした理由は簡単、あたし以外出来る人がいなかったからだ。竜介は別件で動けなかったしね。
それに比べ、同年代より優秀な雄夜とは言え、中学生の育ち盛りの大切な時期。当主様もやや難しいか? 位のレベルを振り当てている。だからこそ、あたしは寝坊し、雄夜は時間通りに起きれるのだ。ちょっと、いや、割と酷い。
「姉さん、若様、あと15分で来るよ?」
………………見れば、時計は7時15分。
「ぎゃぁぁぁ―――――!!?」
これが朝からの日常である。
◇◇◇◇◇
「おはよう、咲希♪」
ギリギリで間に合ったあたしは、無事に婚約者たる竜介と合流した。ま、あっちから迎えに来るから、あたしとしては玄関が待ち合わせみたいな場所だ。
「おはようございます、竜介」
朝からキラキラした婚約者の顔は、いつ見ても慣れないわ。あんたも同じ位の討伐した筈なのに、何でそんな普通なのよ?
「まあ、若様、おはようございます」
お母さん、貴方が原因か! 最近、雄夜が竜介を兄様呼びから、若様呼びに変えたのは、間違い無く母が理由だろう。別にいいけどさ。
「お母さん、行ってきます」
挨拶をしてから、竜介と一緒に外へ出る。勿論、家の前には素敵な黒の高級車。竜介は総本家のお坊ちゃんだからね。当然か。
あたしの手荷物は、スクールバックともう一つ。此方には、仕事道具が入っている。地味な黒のバックは、スクールバックと一緒でも違和感は無い。
「咲希、今日も仕事だろ? 大丈夫?」
車に乗ったら、すぐに心配した様子の竜介に問われた。問題は無いだろう。だって今日は、あたしと竜介が組んで仕事するんだし。
「悪いけど竜介、あたし眠いから、着いたら起こして」
流石に眠くて、あたしはそれだけ言うと、あっさりと眠りに落ちた。
◇◇◇◇◇
「咲希、咲希ってば! 学校、ついたよ?」
その言葉に、重いまぶたを開ける。有り得ない、まだ眠い。でも時間は待ってくれないから、諦めて起きる。ん? そういえば、何で枕があるんだ? そう思って、それを見て、一気に眠気が飛んだわ!
「ちょっ、ごめんなさい、重かったでしょ?」
どうやらあたし、竜介に膝枕をしてしまったらしい。
「ふふっ、大丈夫だよ、僕は嬉しかったし♪」
「そ、そうなんだ? 本当にごめんなさい」
嬉しそうな竜介に、顔が引きつりつつも、一応謝っておく。
この婚約者様は、あたしが好きらしいんだけど、あたしは距離を置くようにしてた。竜介は幼なじみだし、嫌いな訳じゃないんだけどね。
………………結ばれないって、知ってしまったあたしは、竜介を“好き”には、なれないから。結ばれない理由までは分からなかったけど、もし、それが何かあったとかなら…………怖いから。あたしが壊れてしまいそうで。
だから、あたしは竜介を、幼なじみと見る。絶対に好きにはならない。
「咲希、どうぞ」
車を降りる際に、当たり前に手を差し出してくれる辺り、やっぱり御曹司よね。
「ありがとう、竜介」
車を降りただけで、辺りから視線がビシバシと。相変わらず、竜介はモテルからねー。あたしは気にしないで、竜介と並んで、教室へ向かう。言っておくけど、竜介とあたしは同じクラスなんだよね。本当、ずーっとよ? 絶対、何かあるわよね!?
まあ、こんな感じで朝は過ぎていくんだ。
◇◇◇◇◇
放課後、友達と別れて、竜介と一緒に、校門前に止まった一台の黒い車へ。勿論、お坊ちゃんである竜介の家の車ですよ。安定の高級車です。うちにもあるけど、お父さんの乗ってる普通自動車。誰もが頑張れば買える位の車ですよ。竜介の家の車とは、桁が違うわよ。桁が。安い意味でね。
さて、これからは仕事の時間だからね。
「竜介、今日の仕事は? 一緒なの?」
車が同じでも、一緒の仕事とは限らないからね。確認は必要よ。
「うん♪ 父上から同じって聞いてるよ! とある廃ビルの浄化だってさ」
「分かった…………あと、着替えるから、どっかに寄ってちょうだいな」
「うん、僕も着替えるから、坂部、悪いけど近くの公園に寄ってくれ」
「分かりました」
運転手の坂部さんは、ミラー越しにだけど、優しく笑って答えてくれた。微笑ましいとか、思ってそうね、絶対に。
「浄化って事は、燃やしていいの?」
あたしには、紕ノ斗が居るから、それも可能だしね。確か、竜介も火は持っていたはずだから、燃やす事は出来たはず。
「咲希? いくらなんでも、廃ビルが、でか過ぎるから!! 力任せは良くないよ?」
あらら…………。ダメ出しが出てしまった。
「だってー、チマチマ探すの、めんどくさいんだもん!」
「そのための式神でしょ!? 咲希にも居たよね?」
確かに、探索系に向いてる子は居るけど、あんまり時間をかけたくたいんだよ。理由は簡単。
「あたしは早く帰って寝たいの!! 温かい布団が、あたしを待ってる!」
微妙な沈黙が、あたりを漂う。
「確か宿題………」
「お昼休みに終わらせた☆」
即答したあたしに、竜介がガクッと、うなだれた。何かブツブツ呟いているけどさ?
「さあ、さっさと浄化して、布団で寝るぞ〜♪」
「はあぁぁぁ…………、うん、行こうか」
上機嫌で向かう、あたしとは対照的に、竜介は疲れたように溜息を吐く。大丈夫かしら?
◇◇◇◇◇
さてさて、やって参りました♪
ゴーストに相応しいばかりの外見の、廃ビル前に到着です。既に、外からでも分かるくらい、まがまがしいオーラが出てますよー。
大きさは、6階建てのかなりの大きさのビルね。
「竜介、やっぱりサクッと燃やした方が…」
「だからっ、それはダメだってばっ!!」
全力で止められてしまった。ちぇっ、直ぐに終わるのにー。
「あのね!? この場所で火災なんて起こしたら、消防になんて言われるかっ!」
あれ? 竜介、何か勘違いしてない?
「竜介、何もビル燃やさなくても、このまがまがしいオーラだけ、燃やせばいいじゃない」
何故に火災の方を連想してるんだ?? 燃やすって言ったとしても、まがまがしいオーラだけに決まってるじゃん。流石にビル燃やしたら、放火になっちゃうよ(汗
「確かに……」
結局、あたしの式神様である紕ノ斗を使い、ビルのまがまがしいオーラに、火を放つ。紅い炎がビル全体を覆っていく………。
「綺麗ね…………あたし、好きだな、葬送の焔」
「咲希………」
驚いた様子の竜介が、あたしの名前を呼んだ。その呼び方が何だか切なくて、竜介をチラッと見てみれば、残念ながら、ちょうど目の前の炎に視線が動いてしまったらしい。炎に照らされた竜介は、やっぱり格好良くて、こんな阿鼻叫喚のバックコーラスさえ無ければ、いい雰囲気なのに。
「咲希、これが消えたら、念のためにお祓いをしていこう」
突然、言われたから、ビックリしたわ!
「え?! あ、うん、分かった」
心臓がバックンバックン言ってるわね。不意討ちはいらないわ。
「咲希? どうしたの?」
「なんでもない!」
「そう? さ、早く終らせよう」
「うん!」
この後、炎は静かに沈静化していき、あたしは竜介と共に、お祓いをして帰った。意外とあっさり終わったお陰で、本日は日付が変わる前に就寝出来そうだ。
「また明日、竜介」
「うん、また明日♪」
何故か嬉しそうな竜介を背後に、あたしは家でゆーっくりと眠る為に、布団へと向かったのでした。
◇◇◇◇◇
「う〜ん、気持ちいい〜」
温かい布団が、あたしを包み込んでいる。やっぱり、布団は最高よね〜。昨日は早く眠れたし、寝不足も解消よ♪
「本当、姉さんは寝るのが好きだよねぇ」
弟が呆れたように言うけれど、仕方ないじゃないか。あたしは、万年寝不足美少女なんだから(笑)
それでは皆様、お休みなさーい!
読了、お疲れ様でした。
まずは、リクエストを下さったEVE様、ありがとうございます♪
咲希ちゃんの日常になってますか? 期待されたものになったら、いいのですが。
このお話は、ちょっと久しぶりに、秋月の黒い歴史を思い出しながら書いてました(笑) いやー、昔は陰陽師やら、退魔師やら、巫女さんやら、そんなお話を書いていたので、ちょっと懐かしかったんです。
さて、リクエスト企画も次は第3段! 次はドラゴン擬人化話です♪ 気に入ってもらえるかなぁ。
では、また書き終わりしだい投稿します。




