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閑話 真の心は何処( いずこ)へ

次回は、4月13日更新です。来週6日は、お待たせしています? 『夢渡りの姫』を投稿します☆

Side:優香



『ゆらりゆらり、ゆらゆらと………』


侵入者に対して、咲希ちゃんが唱えた呪文は、聞く人の心を揺さ振るような、とても不安になる、そんな呪文でした。

私は、怖くなりました。いつも朗らかに笑い、馬鹿をして、何処か抜けている咲希ちゃん。

でも………、私の前にいるのは、咲希ちゃんのはずなのに、全く別人に見えるのです。冷たく、何処までも堕ちていくような、そんな闇の色に染まった、咲希ちゃんの目。


一体、咲希ちゃんは、そんな目をいつからしていたのでしょう?


怖い、素直にそう思いました。

咲希ちゃんの迫力に、侵入者、いえ、この場合は暗殺者と言うのでしょうが、その人物でさえ、固まって動けませんでした。

勿論、私達とて、例外ではありません。翔太くんも、和磨君も、そして私も。

動けませんでした。咲希ちゃんの放つ、プレッシャーのような、そんな重い威圧感に。


『ゆらりゆらり、ゆらゆらと』


まるで、呪文が進む毎に、この場を、冷たい闇が抱え込んでいるかのような、そんな気すらしてしまいます。温度が下がった気すらしました。


『ゆらりゆらり、ゆらゆらと』


不可視に進む、この呪文は、怖い物です。近くにいるアンリちゃんが心配ですが、私達は動けません。幸いな事に、アンリちゃんは咲希ちゃんの近くにいる所為か、辺りの変化に気付いていないようですが。

ふと、思いました。


咲希ちゃんは、あちらで、どんな暮らしをしていたのか。たまに洩れ聞こえる話では、陰陽師として仕事をしていたようですが、私達と変わらない暮らしをしていたんだと思っていました。

先程までは――――――。


ねぇ、咲希ちゃん? 私達に見せている姿は、本当の姿だよね?


私は願わずにはいられません。

どうか、咲希ちゃんが、この世界で心から笑っていられるように……………。笑顔でいられるように、私は願わずにはいられないのです。

だって、そうでしょう?

私も、翔太くんも、和磨君も、咲希ちゃんを支える事しか出来ないんです。

だって、咲希ちゃんの心を救えるのは、咲希ちゃん自身なんですから――――――。



◇◇◇◇◇



Side:和磨



『ゆらりゆらり、ゆらゆらと』


咲希さんの呪文が、まるで辺りを支配したかのように、時が止まった。勿論、時間は過ぎているけれど、咲希さんの放つ緊迫感が、動く事を許さない。


……………そういえば、前にもこんな咲希さんを見たような気がする。


あの時の咲希さんは、初めてのドラゴン退治でとても張り切っていた。あの後、見事に気絶されて、本当に慌てたんだ、僕らは。翔太には酷な事をしたとは思うんだ。まさかキス一つで、あんな大騒ぎになるとは思わなかったし。

でも咲希さんは、優香さんや僕の前では、絶対に自分の影の部分を見せなかった。翔太には、結構な頻度で見せてたみたいだけど。仕方ないよね? 僕らは、僕も優香さんも、心の闇に対して、全くと言っていいほど、耐性がないんだからさ。皆から見たら、だけど。

……………綺麗な物しか見て来なかった優香さんなら分かるけどさ。僕は、病院の子供だよ? 黒い部分だって、沢山見てきたんだ。少しは信頼してくれてもいいと思うんだけど。


でもやっぱり、咲希さん、今の貴方は恐ろしいよ。


『ゆらりゆらり、ゆらゆらと』


呪い…………人を殺すものはしたことないって言ってたけど、それ以外はしてたって事だよね? 明らかに手慣れてるし。

一体全体、過去にどんな暮らしをしていたんだか。


まあ、取り敢えず、咲希さん。僕らの前で、本来の姿を見せてくれたって事は、僕らは咲希さんにとって、心を許せる仲間にはなったかな?



◇◇◇◇◇



Side:翔太


咲希の奴、きれーにキレたな。見事に、理性を残した状態で、っていう器用なキレ方だなぁ。


『ゆらりゆらり、ゆらゆらと』


咲希の呪文が進むたび、明らかに辺りが暗くなっていく。咲希本人から、透明な波紋のようなものが出てるんだ。多分、俺達が動けないのは、これが原因だろうな。


『ゆらりゆらり、ゆらゆらと』


隣の二人をちらりと見れば、明らかに顔が強ばってるし。まあ、仕方ないだろう。あいつらは、咲希の闇の部分を知らなかったんだからさ。俺だって、たまに見たら、確実にビビる。

マジで怖いんだよ、あいつは。

本人は気付いてないみたいだけど、俺は前の世界で、似たような奴を見たことがある。


………………暗い過去を持っていた奴だった。それでも、今が楽しくて、嬉しくて、だから笑えるんだって言ってたな。


咲希も同じなんだろう。過去は、普通の生活と、陰陽師だった訳で、人間の世界の暗い現実もいくらでも見てきたんだろうよ。

でもこの世界は、温かいんだ。俺は二回目だから、本当に分かる。この世界の奴らは、前の世界の奴らとも違う。前の世界は、生きるのに必死で、温かさなんて、感じる暇が無かったからさ。

俺達を利用してるのを、隠そうともしていない。やましい事なんて何もないってさ。逆に、申し訳ないと、すまないが手を貸してくれと、頼むんだよ。命令なんて、された事もない。俺達は、許されている範囲ではあるが、自由なんだ。

だからだろうな。温かい奴らだよ、本当に。エリー様なんて、咲希を本当の妹のように、可愛がってくれてるし。俺は将軍達から、ある意味、可愛がって貰ってる。和磨は薬師長や皆に可愛がられているし、優香さんは治癒師の皆が可愛がってる。

俺達に、命令して戦わせる事も出来るだろうに、そうしないんだよ。俺達に居場所と、ある程度の知識や権限まで与えてくれる王族なんて、こいつら位だろうぜ。

本当に、温かいから、俺達は自分の意志で戦う訳だ。


……………咲希はトラブルに愛されてる気もするが、まあ、うん、なんだ。何だかんだ言って、俺達は本当にいい所に恵まれたよ。


『ゆらりゆらり、ゆらゆらと』


だからさ、咲希。堕ちるなよ?



◇◇◇◇◇



Side:???



うふふ、もうすぐ、もうすぐよ!

ようやく、わたくしの願いが叶うんだわ!!


うふふ、誰だか知らないけれど、あいつを誘拐してくれた奴らには感謝しないとね? お陰様で、わたくしの願いが叶うんですもの。

あの方に恋焦がれて、必死に自分を磨いたわ。あの方に、振り向いてもらうために。

だと言うのに、わたくしは、いつでも二番手だったわ。あのこざかしい小娘、あいつは何時でもわたくしの邪魔をするのよっ!


殿下と出会ったのは、わたくしが早かったの。素敵なお方で、わたくしは直ぐに恋に落ちたわ。お花畑で、殿下と二人、いい雰囲気だったのに……………、そこに偶々来たアン・リシャールに、殿下は目を見開いて、一目惚れをなさったのよ。近くにいたわたくしには、直ぐに分かったわ。

絶対に許せなかった。わたくしが早かったのよ。殿下に出会ったのも、恋をしたのも。

なのに、その日から、殿下はわたくしには会わなくなったわ。そしてアン・リシャールと会うの。彼女は殿下の心に、全く気付いて無かったみたい。意味が分からないって顔をしてたわ。

そしてしばらくして殿下の妃候補が発表されたわ。わたくしは有頂天で会場に向かったの。その発表で、わたくはあのアン・リシャールに負けたの。二番手に選ばれたのよ。殿下は、わたくしも声をかけて下さったけれど、他の候補者と似たり寄ったりだったわ。違ったのは、アン・リシャールただ一人だけ……………。


悔しかったわ、わたくしは二番手だったのに!!


でもね、わたくしにも運が回って来たのよ? 1年前、あの憎いアン・リシャールが消えたの。それを聞いて殿下はとても落ち込んでいたわぁ。わたくしが慰めて差し上げたの。最近は、わたくしとお話もしてくれるのよ。他の候補者なんて、目に入ってないみたいだし。上手く回っていたのよ。

……………あの連絡が、人間の国である、クラリオン王国から来るまでは。

また、振り出しに戻ったわ。

殿下は、わたくしの事も忘れて、あのアン・リシャールの事ばかり!!


許さない、アン・リシャール!! 貴方だけは、絶対にっ!!!



◇◇◇◇◇



Side:空の神


ふう、ようやっと書類が終わった。

うーんと伸びをして、僕は肩をコキコキ鳴らす。全く、久方ぶりにまとまった時間が取れたからって、事務局め。こんなに書類を回して寄越さなくていいのに!


「さて、何か飲もうかな?」


そう粒やいて、ティーポットを手にした瞬間、僕の目の前の空間が歪んで、そこから真っ青になった運命の神がにょきっと現れた。


「えーと、運命の神? 何か御用ですか?」


平静を装って、運命の神にきくけれど、何かおかしい。いつもは落ち着いた雰囲気の運命の神が、真っ青になって慌てているのだから。間違いなく、トラブルだろうなぁ。


「あ、そ、空の神………あ、あの、助けて下さいっ! 運命が、運命がっ!!」


「落ち着いて、運命の神!」


僕にすがって、慌てふためく運命の神は、先程から運命がっとしか言わない。


「はい、紅茶を飲んで、深呼吸して」


しばらくして落ち着いた運命の神は、今度こそ僕を真っ直ぐ見た。真剣な目で。


「ありがとう、空の神、実は北の国ウエステリアの勇者、その者の運命が変わりました」


「え?」


確か、あそこには現地産まれの勇者がいたはず。


「本来の魂が、別の魂に変わっていたのです」


「はあ!? ちょっ、それはっ!」


「はい、魂を管理していた下級の神が間違えて別の魂を送ってしまったらしいです」


………………ああ、また厄介事か。平穏な日々が懐かしいよ。


読了お疲れ様でした。


本日は、それぞれから見た咲希ちゃんです。色々と感じているようで、珍しくサクサクと進んだ回でした。でも、最後の方は、書いていて恐かったです。女の執念って……………。更に神様の方も何やら起きてますね。

フラグ立ちまくってますが、それは今後、少しずつ説き明かしていきますね!


さて、次回の更新は、4月13日になります。お間違えのないように、気を付けて下さいませ。


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