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第87話 厄介事よ、いらっしゃいませ

次回は1月20日更新です。

「一体、何の御用かしら? あたし達はゆっくりご飯を食べたいんだけど」


あたしらの目の前、大体3メートル位の距離で止まった人物に、あたしは皮肉げに言ってやった。そりゃそうでしょ? 楽しい昼食を邪魔されたんだから。


『そやつを渡せ』


そう言った人物は、怪しい事この上なかった。すっぽりと被った黒いマント、背丈はファイさんくらいか、それより低いか、くらいだと思う。声もマントの所為でくぐもっているため、男なのか女なのかも分からない。

……………バッチリ怪しい奴よね? 本当にアンリちゃんは“何”に巻き込まれてるんだろう? 明らかに暗殺者よね、アレ!?


「それって、何かしら? サンドイッチが狙い?」


勿論、アンリちゃんが狙いとは分かっていたけど、わざと別のもの、今回はサンドイッチを言った。

まあ、相手からずーっと殺気が飛んでいたから、しょうがないでしょ。あたしはまだ、殺気を出してない。あたしが出したら、アンリちゃんをビックリさせそうで、怖くて出せないだけなんだけど(笑)


『渡せ――――さも無くば、死を!』


そう言った奴は、見事に数段上の殺気を放っている。まあ、一番の警戒はファイさんみたいだけどね? え? あたし? あたしはほら、無害だから?(笑)

………………はい、ごめんなさい。調子にのりました!


「悪いが貴様のような怪しい奴に、アンリ殿は渡さん!」


わあ、ファイさんが格好良い!! ビシッと決めたファイさんが、凄く素敵♪


「それじゃ、あたしも―――――イーリス、出番よ!」


今のうちに杖を準備する。悪いがあたしは接近戦は不可。まあ、式神様を出してもいいけど、今はファイさんがいるしね。それに、この程度の殺気なんて、温いわよ? あたしの殺気なら、もしかしたら殺せるかもしれないレベルなもんで……………。だって仕方ないでしょ? あたしは仕事柄、死線を何回も抜けてきてるんだから。殺気ぐらい覚えるわよ? たまに無意識に出して、怒られてるけどさー。


『渡せ、そやつを渡せ!』


そう言うなり、奴は此方に向かって跳躍してきた。うわっ! 何げに早い!?


「サキ様、そこから動かれませんように!」


一瞬、こちらに視線を向けてよこしたけど、直ぐに奴に向けている。集中しているのか、奴から視線をそらさない。


「サキおねえちゃん………」


不安げにアンリちゃんが、あたしの名を呼ぶ。いくら春が近くにいても、アンリちゃんにとっては、この状況で安心できる訳が無い。聡明なこの子は、恐らく感付いているんだと思う。この状況の原因が自分であることを―――――。まあ、怖いから、春にしがみ付いているけどね。


「大丈夫よ、ファイさんは強いんだから! 勿論、あたしも、ね?」


ウインク付きでアンリちゃんに言えば、まだ顔は強ばっていたけど、うなずいてくれた。本当に、アンリちゃんはいい子だ。普通なら泣き叫んでいるだろうに、必死で我慢してるんだから。


『歯向かう者には、死を!』


仕掛けてくる! マントからちらりと見えたのは、銀色に鈍く輝く冷たい刃。長さはファイさんが持つ魔法剣よりは短い。けれど、刃には確かに文字が刻まれていて、明らかに魔法剣である。勿論、警戒は怠らないけど、マジで式神様だした方がいいかしら?


「貴様の相手はこの俺だっ!!」


迎え討ったファイさんは、奴の剣をあっさりと受け止めた。辺りに剣が交わる甲高い音が響き渡る。

てかファイさん? 一人称が私から俺になってますよ! そっちが素ですか!?


「くっ!」


『邪魔だ!』


ファイさんと奴の均衡が崩れる。あたしは剣には疎いけど、奴の使う剣業はファイさんとはタイプが違うみたい。軽業師のように軽々と動く奴の動きに、騎士として型を覚えたファイさんは、自分のペースに出来なくて、交わすだけになってる。


『邪魔をするなっ!』


くぐもった声が上がると同時に、奴が横凪ぎに剣を振るう。その剣から魔力が上がり、振るわれると同時に、不可視の風の刄が放たれる。これは遠目のあたしだから、ギリギリ見えた。近くにいたファイさんは、流石騎士。直感で直撃だけはギリギリだが避けた。それでも風の余波で、吹き飛ばされる。


「ファイさん!……っ!?」


ファイさんの名を呼んで直ぐに、余波があたしの所まで来た。魔法は間に合わない。仕方なく、腕を交差して耐えるけど、見えない風の刃はあたしのお気に入りのワンピースの袖とスカート部分に、二本の切り傷を残していった。

よくもっ、よくも、あたしのお気に入りのワンピースを!! この恨み、晴らさずにいられるかぁぁぁ――――!!!

素早く印を組む。組むのは下法印。……………呪咀に使う呪いの印である。


『オンキャラシクタラン・ハッカウンバラウンサン』


呪いとて、様々な効果がある。よく知られているのは、死の呪い。勿論、キチンと準備が必要だけどね。ほら、有名な奴で、丑の刻参りってあるじゃない? まぁ、今現在やれるのは、精々対象者がプチ不幸になる程度である。


『彼の者に、神は微笑まず、いざ参りませ、不運を運ぶ神々よ』


ウフフ、対象者は勿論、キミだよ? 怪しいマントさん?

――――――あたしのワンピースを破いたテメェを許すわけねぇーだろっ!!!

あらやだ! 言葉が汚くなってる(笑) でも仕方ないよね? あたしの大切な物や人を気付けたんだから♪


『かの者に、最大級の不運を与え給え!』


狙いは見事にヒットし、マントは警戒したのか、剣から強風を出してファイさんと一気に距離を取る。……………が、着地した瞬間、小さな石ころに躓いた。




………………………。




何とも言えない沈黙が辺りに落ちる。


『くっ……! き、貴様! 我に何をした!?』


あら、動揺したのか、マントの怪しい奴は、よろよろと起き上がったと同時に、喚きだす。う〜ん、あれはプチ不幸になるやつ…………あ、奴のマントに、馬の糞が!? 教えてあげた方が親切かしら??

………………何だか、シリアス感が壊れていく。あたしか? あたしが悪いのか!?


「サキ様、奴に何の呪文をかけたのですか? 特に変わった様子は見受けられませんが」


怪訝そうに問うてくるファイさんに、果たして言っていいものか? プチ不幸の呪い…………言い換えるなら、どじっ子の呪いなんて。相手が可哀想だわ。


『くっ………貴様等、次に会う時は最後と思え』


そう言うやいなや、奴は自分を中心とした巨大な竜巻を起こし、あっさりと姿を消した。うん、逃げたわね。……………まさか、自分で作った竜巻に吹き飛ばされたんじゃないよね?

―――――それはともかく。


「ヤバッ!? ファイさん、結界が壊れる!」


慌てて元の椅子に戻る。勿論、戦いの痕跡も、綺麗に消して。あたしの場合は杖と春を。ファイさんは元居た椅子に座ると、魔法剣を収納バックへ。突然の事にキョトンとしたアンリちゃんを、あたしは椅子に座らせて、準備オッケー。

間一髪間に合って、結界が消えた途端に、辺りの喧騒が戻ってくる。


はあ〜、一体全体、どうなってるのよ!



◇◇◇◇◇



あの後、あたし達は和磨君とユリーさんと無事に合流し、さっさと城に帰ってきた。


「とんだ災難だったね、咲希さん」


途中で説明した第一声が、これ。和磨君や、苦笑まじりで言う事じゃないよね!?


「でもご無事で良かったです、サキ様」


逆にユリーさんは、ホッとした顔である。まあ、侍従さん達から見たら、自分が守る護衛対象者が怪我とか洒落にならないもんね。この勇者に関する侍従制度は、勇者を監視する意味もあるけど、もう一つ。お詫びの意味もあるんだって。命懸けの戦いをさせるから、少しでも快適に過ごし、そして心から癒されるようにって。


「ファインリード殿が一緒で本当に良かったです」


ニコニコとした微笑みを浮かべ、更にキラキラした純粋な尊敬の視線を向けるユリーさん。その視線に、何故かファイさんは戸惑った様子である。まあ、そうよね。ユリーさんの実家、実は侯爵家なのよ。子爵家末っ子のファイさんからしたら、雲の上の身分であるユリーさん。多分だけど、年下からそんな視線を向けられた事がないんじゃないかな?? 勿論、身分的な部分もあるだろうし。


「やっぱり尊敬します!」


戸惑った様子のファイさん、大変ね。ユリーさんはファンクラブがあるらしいから、もしかしたら薄い本の餌食になりそうね(笑)


「あら? 何だか城が騒がしいわね?」


門を入った所で、メイドさん達や、貴族、騎士の色んな身分の皆さんが、バタバタとしかし優雅に走り回っている。


「あっ! 咲希っ、和磨っ! お前等、早く来い! ヴァストークの勇者が今から来るんだってよ!!」


偶々あたしらを見つけた翔太が、慌てた様子で来たけど……………え゛っ!!?? あの問題児の西藤一心さん!? 大丈夫なわけ?


「おーい! 皆〜!! 大変だよ〜」


今度は優香ちゃんがあたしらを呼ぶ。今度は何っ!?


「え、エルフの国から、使者の人が来たんだってっ!!」


……………………。


なんで、こんなに厄介事が、こう、一気に来るんだよ〜!? 意味分かんないっ!!


もうこれ、どうすんのよ〜〜〜〜〜!!!


読了、お疲れ様でした!

本日は厄介事が多発しました。テンシロ、暫く荒れそうです。

そして新キャラが登場です。最初は、ヴァストークの問題勇者、西藤一心さん。彼は好青年なんですが、何故か周りに利用されやすいんです。まるで悪役ホイホイ………ある意味、役にはたつのかな?


エルフの使者は、来週紹介しますね!


では次回、お会いしましょう!

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