第86話 平穏な買い物がしたいのです
明けましておめでとうございます! 今年もテンシロを何卒、宜しくお願いします!!
次回は13日に更新します。
はい、皆様。何やらとっても久しぶり〜な感じがしなくもないけれど。
やって来ましたよ〜。城下町!!
一緒に来たのは、ファイさん、ユリーさん、和磨君、あたし、そしてアンリちゃん。勿論、楽しく和気藹々なんて行くわけなくて…………………。
「ファイさん、そんな不機嫌にならなくても………」
今現在、門の前でファイさんが不機嫌になっちゃって困ってるわけ。どうやら自分だけ、和磨君や、ユリーさんが同行するって聞かされなかったから、へそ曲げちゃったんだよね〜。
「うぅ〜、ファイ殿は正規の侍従と聞いていたのですが、ガッカリしました……………憧れていたんですが」
「う゛っ」
ユリーさん、泣き落としと行きました。ウルウルと涙目の後輩の姿に、流石に気まずい部分があるのか、ファイさん、視線をそらした。だよねぇ、早く何とかしてしまわないと。だって、アンリちゃんが泣きそうなのよ!
「あにょ、おじちゃん、やぁ〜!」
あ、アンリちゃんがグズリ出した!?
「お、おじちゃん!?」
あ、ファイさんの胃に大ダメージがっ!!
「ファイさん、買い物いくんですから、侍従らしく、しっかりして下さいね」
あらら………、和磨くんが止めをさしちゃった。ファイさんが膝から崩れ落ちていく。
「ファイさん、行きましょう? ファイさんは“正式な”侍従なんだから、ね?」
「サキ様………」
こう、弱り切ったファイさんが、おっきな犬に見えてしまって………、心の中の柔らかい部分が反応しちゃって。恐らく、正式な、の部分を強調したのも、良かったのかな?
「さあ、ファイさん? 案内してくれるんですよね?」
あ、あれ? 何でファイさんの目が一気にキラキラ輝いたのかな? つーか、機嫌まで治ってるし!
「分かりましたっ! 行きましょう、サキ様〜!」
………………立ち直りはえぇ〜。思わず唖然となった他メンバーを余所に、ファイさんは幸せそうにスキップで、あの正門から直ぐの所のお店へ。うん、流石にこの服で町は歩けないよね。あたしらは私服があるけど、アンリちゃんは白のワンピースだけ。このマダムのお店で、簡単に揃えてしまおう。なに、資金は沢山あるのよ(笑)
「こんにちは、マダム」
「あら、お久し振りですわ、本日はどういったご用件で?」
アンリちゃんの事を話すと、何故かマダムの鼻息が荒くなったんだけど? ちょっ、マダム!? アンリちゃん共々、何だか怖いんだけど!?
「サキ様、アンリちゃんは私が責任を持って可愛く致しますわ!」
「………お、お願いします」
余りのテンションの高さに、どん引きしつつ、外で待つ男性達へ視線を向ける。何やら話しているらしいが、室内までは流石に聞こえてこない。今現在聞こえるのは、アンリちゃんの怯えたような、戸惑う声。マダムの目は確かだから、大丈夫って思えるんだけど。
「出来ましたわっ!」
暇になって店の中を見ていたあたしに、ようやくマダムのテンションマックスのお声がかかる。マダムがカーテンを開けると、そこにいたのは。
「ワオ! 可愛い〜♪」
腰まであった髪を三つ編みにし、それを首元で2つのお団子に。服は水色のシンプルながら、可愛いらしいワンピース。胸元の大きなリボンが印象的だ。靴下は白、靴は可愛いリボンがついた青。更に、アンリちゃんの手には青いリボンがついた帽子。
うん、流石マダム。文句無しに可愛い! まあ、町に降りても問題はないでしょう。夏の日差しは、強いからね。あたしも帽子は手放せないし。
「サキおねぇちゃん………、にあう?」
恥ずかしそうにモジモジとしながら、上目遣いで此方を見るアンリちゃん! 可愛い、可愛い過ぎるよ!!!
「うん、凄く似合ってるよ! 可愛い、アンリちゃん☆」
そう言ったら、頬を真っ赤にして嬉しそうに微笑んだ。ヤバイ、本当に可愛すぎる!!
「さあ、町に行こうか☆」
◇◇◇◇◇
帽子のお陰で、目立たないから、買い物はあっさりと進んだ。行った店の殆どで、店員さんのテンションがマックスになったのには、驚いたけどね(笑)
あたしの黒い髪は、この国じゃ全くいない訳じゃないけど、珍しい髪色になるからね。町に降りる時は、基本的に帽子は手放せない。で、アンリちゃんは、髪型のお陰で帽子にすっぽり入るから、外からは見えない。だから、洋服や下着、靴下に子供用品を買うのは、本当にあっさりと終わったわけ。まあ、妹にしか見えないと言ってもらえたのは、嬉しかった。そうだよねー、ファイさんなんて、パパに間違えられてたし(笑)
「そろそろ休憩しましょう」
ユリーさんの提案に、あたしも賛成。アンリちゃんも疲れて来たみたい。
「そうだね、アンリちゃん、お腹は空いた?」
「うん、すいたの…………」
疲れたからか、アンリちゃんは下を向いている。まあ、あんまり歩いてないんだけど、買い物に突き合わせているから、疲れてしまったみたい。
「じゃあ、あそこのカフェに行こうか」
ほとんどの買い物は済んでるし、後はゆっくり出来るだろう。
「あ、咲希さん、ちょっと買い物して来ていいかな? 直ぐに終わるから」
「あ、ならば、僕も行きます!」
そう言ったのは、ユリーさん。まあ、一人の行動よりはいいかな? 和磨君は、一人でも目立つ美男子だし。ユリーさんと並ぶと、何だか貴族のお忍びにしか見えないんだよね。……………ばれたら、また薄い本の内容にされるんだろうなぁ。翔太は面白いくらいに、餌食にされてるけど(笑)
「うん、あたしらはここで休んでるね」
「では、行って参ります!」
ユリーさんが元気に言って、和磨君と共に人混みに紛れていく。さて、こちらはお昼でも食べますか。
「まずはジュースと………サンドイッチでも貰おうか」
しばらく他愛ない話をしながら、ファイさんとアンリちゃんで待っていると。何だかさっきから、生暖かい視線を感じるんだけど、何故かしらね?
あ、店員さんが注文の料理を持ってきた。ここは外の席だから、誰も帽子は取っていないし、目立ちたくないから、あたしらも取らないでいる。
「お待たせ致しました〜」
手早く置いた料理達。アンリちゃんはそれを興味津々に見ていた。
「あら、可愛らしいお嬢さんですね? 良かったわね、お姉さんやお兄さんが優しい人で」
…………………。
何だろう、今日は、姉妹に見られてばかり。更に、ファイさんがお兄さん! さっきなんて、パパって言われてたからね。ファイさん、お兄さん呼びに、微妙な苦笑いをしてた。まだ独身だし、これは任務だもんねー。何とも言えない顔にもなるわね(笑)
「アハハ…………」
裏を知ってるあたしは、笑って誤魔化すしか無かった。店員さんは、別のお客さんに呼ばれて行ったので、まあ、いいか。もう食べちゃおう。
「アンリちゃん、これで手を拭いてから、食べようね」
「はい!」
嬉しそうに微笑むアンリちゃん。その姿を偶然見たらしい近くの席の皆さんが、身悶えていた。アハハ、吹き出さないでね? その人達に対する皆さんの視線が、凄く冷たいからさぁ。皆さん、御愁傷様です。
「はい、どうぞ」
あたしなら二口位の大きさのサンドイッチを一つ、アンリちゃんに渡すと、キラキラした顔でそれを見てた。恐る恐る口に入れると、嬉しそうに顔が緩む。中身はフルーツ。
「おいちー!」
多分、美味しいと言ったと思われる。口に入ってたからね。でも、こうして見ると、アンリちゃんは同い年位の子よりも、幼く感じる。記憶喪失といい、子供還りといい、絶対何かに巻き込まれているわね、この子。
あら、見たらもう食べおわってた。まあ、小さいからしょうがないか。
「はい、アンリちゃん」
次のサンドイッチを渡す。が、それに関しては、アンリちゃんは中々食べようとしない。
「アンリ殿?」
異変を感じたらしいファイさんが、アンリちゃんを呼ぶが、全く反応が無い。
「アンリちゃん? どうしたの?」
サンドイッチは、美味しいと喜んで食べていたはず。アンリちゃんに渡した中身は、お肉のはずだ。
「これ、やなの」
「どうして嫌なのか教えて?」
アンリちゃんは、エルフである。もしかしたら、あたしの知らない何かがあるのかもしれない。あたしが問うと、アンリちゃんは嫌な顔をして、サンドイッチの中を見ていた。
「これ、くしゃいの………」
あらら、お肉は食べれないのね。
「分かったわ、はい、こっちを食べてみて」
今度渡したのは、野菜に味を付けたものを挟んだサンドイッチ。あたしは好きなんだけど、翔太がまたり好きではないものだ。あいつは肉が好きだからね(笑)
「………サキ様」
ファイさんの険しい声に、あたしも嫌でも気付いた。アンリちゃんは、訳が分からない様子でキョトンとしてる。
辺りが、静かだ。鳥の声も、人々の声も、何も聞こえない。まるで、世界に取り残されたような、そんな静寂が、辺りを包み込む。周りを見れば、不思議な事に人々はいた。けど、あたしらには気付かないみたい。薄い幕が張られたような。
「囲まれた…………結界ね、隔離結界みたいなものかしら」
辺りを伺うが、特に変わりは無い。今現在、この場で戦えるのは、あたしとファイさんのみ。和磨君とユリーさんはいない。
「春、来て」
お札から喚んだのは、守りを司る春。アンリちゃんは、彼女に任せるしかない。
「さてと、ファイさん、何か武器は?」
今日は買い物の護衛とあって、私服の彼は、帯剣はしていない。まあ、護身用の短剣はあるかな?
「勿論、準備万端です!」
「って、あるんかいっ!」
心配して損したわ…………。きちんと収納袋に入れて来てたのね。なら、大丈夫かな?
『咲希様、誰か来たようです』
お札から龍の威嚇する声。勿論、こんな特殊な場所に、一般人が来る訳がない。
「さてさて、どなたが来るのかしらね?」
◇◇◇◇◇
Side:フランツ
「―――はっ?」
今日も今日とて、書類の山と格闘する私は、この国の王子。故に仕方ないと思っていますが、流石に、今の侍従の言葉には、自身の耳を疑いました。
「ですから、この前送りました、手紙のお返事と使者の方がいらしております」
律儀に言う侍従に、本当に頭を抱えたくなった。何故ならば。
「えっと、私の記憶が正しければ、まだ3日しかたってないよね?」
アンリ殿が見つかった日に、一応念のため、エルフの国に手紙を送ったのだ。確認の為に。だというのに、早すぎないだろうか?
「直ぐに父上に連絡を、私は歓迎の為に、これから会いにいくとしよう、案内してくれ」
「畏まりました」
どうやら、またしても、この国に厄介事が来るらしい。勇者よ、どうかこの国を守ってくれ。じゃないと、私と父上の胃に穴が開きそうだよ。
お読み頂きありがとうございます!
新年、初投稿でございます。
本日はほのぼの買い物と、後半若干シリアスシーンが入りました。新年からドンパチはヤバイかなと思いまして、こんな形に落ち着きました。
さあ、アンリちゃん編スタートですよ!!
新キャラは、次回登場します☆
では、次回にお会いしましょう。




