表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/292

閑話 咲希、本気出す

本日は、ユカ様よりの質問、『咲希ちゃんは本気出した事あるの?』より、出来たお話です。

ユカ様、ご参加、本当にありがとうございました!!

これは、あたしがまだ、現代にいた頃の事。あたしが11歳の時、唯一、このあたしが寝込んだ、あの事件についての、お話である。




「咲希よ、新たに式神を降ろすとか? 今でも十分ではないか?」


心配そうに話し掛けて来たのは、先代当主様であり、あたしの婚約者のお祖父様、鬼ノ凪 吾朗(ごろう)様。お年は60歳後半と聞いている。あたしにとっては、可愛がってくれる、もう一人のお祖父様だ。


「はい、今いる水、金、土、木の方では、攻撃力が足りませんので」


「ふむ、十分に思うが…………まあ、バランス的に言えば、次は火じゃろうが」


困惑するのも、無理はない。普通なら、あたしの年で式をもった場合、大抵は3神もいればいい方と言われるのだから。因みに、式神様の数え方は〜神である。只の式は、〜体って数えるんだけどね。


「咲希よ、火は扱いには気をつけるのじゃぞ? 生半可な覚悟では、制御出来ないからな」


お祖父様の言葉には、先人からの重々しい物も含まれていて、あたしも我知らず背筋が伸びた。こういった言葉は、聞いていて損は無いからね。大切な忠告はしっかりと聞くべきだ。


「ご忠告、ありがとうございます、慢心せぬように、全力で行います」


「そうか……」


どことなく淋しそうなお祖父様に、申し訳なく思うものの、それでもこの堅苦しい姿勢を変えるつもりはなかった。近い将来、あたしはこの方をお祖父様とは呼べなくなる。それを昔から知っていたから…………。まあ、婚約者様は、いい幼なじみの関係でいるから、問題はないだろう。相手がどう思っているかは知らないが。


「儀式は明日の日中に行います、火の加護が一番いい日ですからね、明日は」


きちんと事前に占いで見てみたが、明日は日取りよく、万事上手くいくって出てたからね!



◇◇◇◇◇



そして翌日、無事に儀式は始まった。準備万端に揃え、後は始めるだけである。

あたしは深呼吸をすると、柏手を2回鳴らした。さあ、儀式のスタートだ!


『伏して願わくば―――』


式を降ろすのは、言わば命懸けだ。故に、自分勝手に式を降ろす事は禁じられている。きちんと報告の義務があり、家の当主、若しくは総本家の方に言うのが一般的だ。あたしは勿論、婚約者の父である総本家当主様に許可をもらったけどさ。地味に緊張感ある対面だったわよ…………。


『天の神の加護の下―――』


今度降ろす神様は、火の神様。当主様方曰く、“取り扱い要注意”だそうなので、気を付けて降ろすつもり。


『我が声に誘われ―――(中略)――――』


だからお願い、早く降りてきて………。式神様を降ろす儀式は、誰かしらが降りて来るまで続けられる。その間、食事に水分を取る事も出来ない。つまり、だ。死の可能性すらある危険な儀式なのだ。


『願い奉る、我が声に応え、その尊いお姿を我が前に現し給え!』


これで出なかったら、また呪文のやり直しだ……………。お願いだから出て来て!!


『うっせーなっ! 誰だ? 俺様を呼んだのはっ!』




……………………ん?




確かに今、とんでもなく不機嫌な男の声がした。そして、特大の火が儀式用に作った魔方陣から現れる。

ギャー!? 危ないわっ!


『ふんっ、この俺様を呼び付けたのは誰だっ!』


ギョエェェェ〜〜〜〜〜〜!? 怖い、怖すぎるわっ!!


現れたのは、赤い長い髪のワイルドな美青年。アジアンチックな服装で、動きやすそうな物だ。


「あたしよ」


こうなったら、ちゃっちゃと式に下して終わらせよう。


『はぁ? この俺様を降ろしたのが誰かと思えば…………こんなガキんちょだと? ふんっ! 片腹痛いわ!』


―――――――プッツン!


ほう、ガキんちょ? このあたしをガキんちょだと?

………………下す、こいつは絶対に式に下して、このあたしが扱き使ってやるわ!


『あら、もしかして出遅れた?』


緊張感マックスに出て来たのは、赤い髪の妖艶な神様。ナイスバディな、お姉様である。衣装も、自分を引き立たせるような、色気漂う存在感。

…………………あれ?


「あの〜? 何で二人もおいで下さったのでしょう?」


普通、魔方陣から出てくるのは、一つの魔方陣から一人だけ。

あれれ?


『あら、だって、あたしが行きたかったのよ、この子の元に』


『ならテメェが式とやらに下れ、俺は降りるぜ』


あたしとしても、そうしてくれると助かります。こんな顔だけの生意気な野郎を式に下すなんて、嫌よ。


『そうよね? わたくしの方がいいわよね? さあ、契約………って、はぁ?』


お姉様が、何やら上空を見ると、滅茶苦茶怖い顔で、ある一点を睨み付けている。


『ちょっと! どういう事よ!? 戻るなんて!』


あの………凄い怖いんですが? しばらくギャーギャーと騒いだ後、申し訳ないように、お姉様はこちらを見た。


『ごめんなさいね、わたくし帰らないといけないみたい…………スッゴく腹がたつけど、こいつは貴女にぼこぼこにされるだろうし、天から見てるわ!』


そのまま消えたお姉様、一体何だったんだ?


『くそっ、オレがやんのかよっ!』


こちらは此方で、茫然自失。え? 結局何だったわけ??


『んじゃあ、()り合うか!』


今、何か違う響きがしたけど、まあ、いいわ。あたしもいい加減、腹が立ってたし。


「えぇ、やり合いましょう?」


クスリと笑ったあたしと、頭残念野郎君(←今命名)との戦いが始まったのだった。


『行くぜっ!』



◇◇◇◇◇



結果、あたしのストレート勝ち(笑) もうあんまりにストレートなんで、省くわ。取り敢えず、あたしが無傷で勝った事だけは言わせてもらう。

ついでに、何故かこいつに懐かれた…………。男は拳で語る、何て言葉があったけど、まさか自分が体験するとか…………無いわ、無い。あたし、正真正銘の女の子。野郎じゃねぇ!!


『さあ、俺をお前の下に置け! 気に入ったぜ、嬢ちゃん!』


あ、ガキんちょから嬢ちゃんにランクアップした。そして、恭順を示すかのように、片膝を付き、頭を垂れる。


『我、汝に名を与える―――――そなたの名は“緋ノ(ひのと)”――――夜空に緋色に輝く希望の星たれ』


こうして、あたしは最強の式神様、火の神を降ろしたのであった。途中、ぐだぐだがあったけど、気にしない事にして。



◇◇◇◇◇



次の日、緊急召集がかかった。

数年ぶりに百鬼夜行が観測されたんだよね。今のところ、規模は中程。強い個体はポツポツしかいないらしい。ラッキーだ、百鬼夜行でこの規模なら、1日程で片が付く。


『なあ、咲希? 俺も出ていいんだよな? なっ?』


「うん、緋ノ(ひのと)の初陣だね(笑)」


まさか、あんな事態になるなんて知らないで、あたしと式神様達はお喋りしていたんだ…………。束の間の平穏の中で。



◇◇◇◇◇



「緋ノ斗………?」


あたしは知らない。真っ赤な炎が、辺りを舐めるかのように滑り、相手を焼いていく。そんな赤い、紅い目を、あたしは知らない。


『あ奴、暴走しとるぞ! 主人』


樹英様の言葉が、耳を滑っていく。最初は良かった、順調だった。けれど、何故か分からないが突然、緋ノ斗が豹変した。

まだ自制心はあるのか、人や他の式神様は外しているけど……………このままいったらとても危険だ。


「止めるわよっ! (たつ)、水で絡めとって!」


『御意』


火には水。勿論、龍の封印は解除してるから、本気だ。あたしだって、本気でやらないといけない。


『我、禁制し奉る』


手で印を組み、術に集中する。周りの百鬼夜行は、皮肉にも緋ノ斗のお陰で、此方が有利に働いている。ここで強制的にでも止めないと、このバランスが崩れかねないわ。


『濁流水』


龍の力が恐ろしい程の濁流を緋ノ斗へと向ける。


『わしも行こうかのう? “樹木”』


樹英様の呪文により、地面から蔦状の木が現れ、その動きに気付かなかった緋ノ斗は、一瞬、その動きが鈍る。それ故に真っ向に、濁流を受け、そこから動けないみたい。


『火の神・緋ノ斗よ、強制封印!』


全身全霊で、封印にかかる。緋ノ斗は他の式神様よりも強い。力は(たつ)と互角か、それ以上か。だからこそ、抵抗力も高く、あたしにも負担は多い。


「く……っ」


それでも止めない、止められない。あたしがやらなきゃいけない。苦しくても、ビリビリとお札から抵抗する感じがあっても、意地でも封印しないといけない。

主人の役目だから。


「抵抗すんじゃないわよっ! “緋ノ斗”! あんたはあたしの式神様なんだから、いい加減に封印されなさい!『強制封印!』」


全力で放った霊力が、抵抗している緋ノ斗を絡め取り、お札へと吸い込んでいく。最後の一欠片まで入るのを確認し、あたしは全身から力を抜いた。へなへなと地面に座り込む。

……………緋ノ斗には、封印しないとね。これじゃあ、あたしが保たないよ。



◇◇◇◇◇



あの後、既に深夜の時間を過ぎてたんだけど、あたしは見事に力の使い過ぎでダウン。帰ってくる途中の車、それも婚約者様の隣で見事に意識を無くしたあたしは、総本家にて、絶対休養を言い渡された。まあ、無茶をした自覚はあるし、総本家の為に、使用人も多くて、隠れて何処か行こうなんて出来ないし。

それに何より…………。


「咲希、おやつ持ってきた!」


キラキラ笑顔の婚約者様が、こまめにあたしを看病してくれるのだ。勿論、最初は断ったのよ?

なのに、凄く純粋なオーラをして、期待するようにこっちを見るから、断れなかったのよ。


「食べれそう?」


そう言って見せてくれたのは、何やら色々と気配漂う桃…………。あの、何で神々しい気配が凄いのかな!?


「あ、あの………これは一体?」


困惑したのは言うまでもない。だと言うのに、婚約者様は嬉しそうに笑うばかり。


「うん、お祖父様と父上にお願いして、昨日の祭壇に上げた桃を一つだけ譲ってもらったんだ! 許可はしっかり取ったし、昨日のだから今日は使わないし、大丈夫だよ」


………………何だろう。素直に喜べない。


「ありがとう………」


でも、きちんとお礼はしたわよ? 桃も美味しかったし。うん、明日には元気になるだろう。


『おや、顔が真っ赤ですぞ?』


樹英様…………、余計な事は言わないでちょうだいっ!!


はい、読了お疲れ様でしたー!


本日は質問より出来たお話です。ユカ様、前書きにも書きましたが、改めまして、ご参加、ありがとうございましたm(__)m

年末企画も残すところ、明日の1話を残すのみとなりました…………。何だかまだ続けたいような、寂しいような。ここ数日は、充実していました!

明日は、EVE様よりのリクエスト、お正月をお送りします。


では皆様、名残惜しいですが、また明日、お会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ