閑話 聖夜の奇跡(1)
本日はEVE様よりのリクエストです。本当にありがとうございます。筆が進みまして、明日も投稿いたします。
それは、すっかり事件が落ち着いた11月某日。あたしの元に来たファイさんの一言で、のんびりしたヒマリとの癒しの時間は消え去ったのであった。
「サキ様、サンティーの日のプレゼントの準備は如何しますか?」
「へっ? 何で?」
思わず聞き返すと、そこには驚いた顔のファイさんが。
「サキ様? 今年は皆様も、王族や貴族の皆様と同じ側で、プレゼントを配らないといけないんですが…………誰かから、聞きませんでしたか?」
いやいや、初耳ですよ!?
「聞いてません!! プレゼントって、何を用意すればいいわけ?」
あたしの質問に考え込んだファイさんは、考える姿が様になってます。はぅ………、本当に目が幸せだわ(笑)
「そうですねぇ………、お菓子やぬいぐるみ、後はオモチャや女の子ならリボン等が喜ばれますよ」
………………うん。お菓子にしよう♪
「ファイさん、お菓子は何処で作るんですか?」
そう聞けば、何故かキョトンされた。
「サキ様? お菓子でしたら、町のお菓子屋に注文するんですよ?」
何と、城ではお菓子類を用意はしないらしい。何故なら。
「城で作るのは、王族の方が配るお菓子と決まってますから」
成る程、それは確かにそうだ。って事は、今からお菓子屋さんを探さないといけないのか!?
「……………そんな事だろうと、他の勇者の皆様が言っていたので、準備をしておきました」
流石、ファイさん!! 後は相談だけだね♪
「費用はサキ様のご負担になりますので、覚えておいて下さいね」
勿論ですよ! 今からサンティーの日が楽しみです!
◇◇◇◇◇
サンティーの日、それは数百年前の勇者が広めた、国民の、特に子供達の楽しみな夢の一日なのである。まあ、言わばクリスマスの日の事なんだけど、今は王皇貴族や裕福な人達が貧しい子供達へプレゼントを贈る日になってます。勿論、大人達へも無料でお酒を出したりしてるから、その日は特別なお祭りなんだって。子供は勿論、感謝の日だから、お世話になってる人や、稀に告白の日にもなってるそう…………。うん、何だか平成日本を思い出した。
因みに、ツリーモドキもあったわよ? 何故かキンキラキンに輝くツリーを見て、ビックリしたけど。
「サキ、俺達は門前でだとさ」
翔太に促され、そちらへ向けて足を向ける。子供達へ向けて、笑顔で語らいながら、プレゼントを渡す。恐らく数百から数千の子供達へ向けて……………。安全体制はバッチリだって言ってたけどさ、マジで凄い数が見えたよ? 今通り過ぎた窓からさ。
「咲希はあんまり前に行くなよ? ガキと安心してると、危ない場合もあるからな」
おいおい、それはどんな時だよ!? おもいっきり突っ込むぞ?
確かにあたしだけ、接近戦出来ないけどさー。式神様もいるんだけどなぁー。
「あれ?」
何だろう? 城へ来た子達の外れで、誰かが揉めてるみたい。
「翔太、先に行ってて! 遅くても夕方には戻る」
「おいっ! ここ二階………っ」
翔太の声を背に、窓から外へと飛び出す。今現在、あたしが着ているのは、あたしの特長となった青い魔術師の服。それが窓から出た時に、風に煽られ、ふわりと広がる。
「翠嵐!」
あたしの式神様によって、風に乗る。
「お前っ、ここ2階って…………咲希だもんなぁ」
何だか腹が立つくらいに、翔太に納得されてしまった。まあ、いい。夕方には戻れるように、さっさと行こう。この素敵な日に朝から問題なんて嫌だもんね。
揉めてる場所の近くに下ろしてもらい、近付いて行くと、数人の騎士と一人の女性が揉めているようだ。いや、女性が縋ってるって言った方が正しいかしら?
「何があったの?」
あたしが近くにいけば、気付いたらしき騎士さんが、戸惑った様子で説明してくれた。
「実はこの女性が、勇者様に是非ともお願いがあると…………」
あぁ、そういう事。勇者は本日、子供の相手をするだけだ。いくらサンティーの日だろうとね?
「お願いしますっ! 子供が病気で…………もうっ、長くないんですっ! 少しでいいんですっ、勇者様に会わせて下さいっ、お願いします!」
聞こえて来た言葉、そして彼女から感じる陰の気配に、背筋がヒヤリとした。もし、あたしの感じている物が当たっていたら、サンティーの日を楽しむなんて、出来なくなる。
「騎士さん、その人を放してあげて」
「しかし、サキ様!」
「ごめんね、でもこれは“例外”よ」
あたしの厳しい顔に、騎士さん達も背筋が伸びた気がした。
「魔術師長様に、城の結界の強化を伝えて来て――――――町に、何か術が仕掛けられてる」
◇◇◇◇◇
それからは慌ただしかった。勇者及び、魔術師長、騎士の皆さんへ、緊急で通達が行ったからだ。
「お子さんが体調を崩したのはいつからですか?」
「えっと………3ヶ月前からです、近所の子供達も何故か体調を崩していて…………」
今にも泣きそうな女性は、マリアと名乗った。あまり裕福な家の人ではないようだ。着ている服も、継ぎ接ぎが目立つ。
「3ヶ月前…………アンリちゃんの騒動の時あたりね」
あん時は大変だったけど、まさか、市民に向けて来るとは、完全な想定外。相手もなりふり構ってられない事態になってるわね。だけどさー?
「よりによって、サンティーの日にやるかね?」
思わず半眼でボソリと呟けば、周りの騎士さん達にも同意された。今日は、国を挙げてのお祭りで、ご飯がお腹いっぱい食べられて、プレゼントが貰える日。子供達が一番待ちに待った夢の一日。
そんな素敵な日を壊すなんて、許されないよね?? ちょっとくらい“敵”に八つ当たりしたって、罰は当たらないよね? ねっ?
「マリアさん、あたしを下町に案内してくれる? それから、誰かユリーさんとジュビアン神官とファイさん呼んで来て、流石に説教は嫌だから…………」
最後、本気で言うと、それまで緊張していた騎士さん達の顔が苦笑いになってた。何故だ!?
「さあ、夢のあるサンティーの日にしないとね♪」
◇◇◇◇◇
「こちらになります」
マリアさんに案内されて来たのは、下町のごく一般的な家であった。ここに、家族三人で暮らしているそう。
……………残念ながら、あたしの目には、家だけでなく、周りまで巻き込んで、うねうねしてる闇が見えてますけど。
はぁ…………、やっぱり呪いですかい。それも、広範囲に渡っているから、感知しにくいタイプ。前に、エリー様のお姉さんへ向けての呪咀があったけど、あれとは別のタイプのものである。あちらが真っすぐなタイプとすれば、今回は枝分かれタイプと言えるだろう。対象があるか、無いかの違いである。それも無差別なもの。その所為で、気配が上手くたどれないんだよね。
「だから、体が弱い子供達が先に病に倒れた」
唇を噛み締める。あたしがもっと早く気がついていたら、こんな事には為らなかったはずなのに。
「サキ様、ご自分を責めるよりも、まずは子供達を助けてあげましょう、今日はサンティーの日なんですから」
ファイさんに言われて、自分が酷い顔をしている事に気付く。深呼吸をして、気持ちを切り替える。しっかりしないと、あたしは勇者なんだから。
「翠嵐、この淀んだ空気を入れ換えてちょうだい」
翠嵐の力で、悪い溜まった空気が流れ始める。これだけでも、随分と呼吸が楽になった。大丈夫、ちゃんと出来る。絶対に子供を助けて、素敵なサンティーの日にするんだから!
「お邪魔します」
中に入ると、先程より濃い闇の気配。それを柏手を鳴らして、浄化していく。その音に気付いたのか、部屋の真正面の壁に押しつけるようにある小さなベッド。そこにいた小さな子供が、力なく此方を向いた。
「おかえり、ママ………」
「ただいま、トネル」
声も小さく、覇気のない声。トネルと呼ばれた少年は、まだ8歳にも満たない幼い子供である。その子からは、濃い闇の気配が漂い、今にも彼を連れていこうとしているのか、トネルの小さな体に絡み付いていた。苦しいだろうに、母親に必死に笑顔を見せるトネル。その笑顔に応えようと、母親は泣きそうな笑顔で、トネルの隣へと歩んでいく。その姿に、胸が痛んだ。
「トネル、勇者様が来てくれたのよ?」
「ゆーしゃさま?」
「こんにちは、今日は素敵な物を見せに来たのよ?」
とびっきりの笑顔を見せる。トネルが、これから元気になるのに、あたしが湿気た顔をするわけにはいかないよね!
「ほんとうに?」
「勿論! 勇者様は凄いのよ☆」
この子を闇になんて、渡さない。今にも泣きそうな母親に、安心して笑顔でいてもらう為にも、勇者様は頑張らないとね!
『光の雨!』
あたしが部屋の中、その全てに向けてキラキラした光のシャワーを放つ。これは闇を浄化する力もあるし、二人も体が軽くなるはずだ。
ここにはあたしとジュビアン神官の二人がいる。ユリーさんとファイさんは、この周りの家々を見てもらっている。恐らく、トネルの辺りが一番濃いのだろう。幸い、両親は外へ稼ぎに行くからか、二人には今のところ影響は出ていないそうだ。
「春、その子をお願いね」
光に感動している親子に気付かれないように、そっと囁く。顕現はしたが、春は彼らには見えていない。力ある者しか見えない、その程度の力で顕現し、そっとトネルの近付くと、治療を始めた。これで、トネル少年の病気は、撃退されたも同じだ。春は癒しを司る。子供の神であり、癒しの神。この程度なら、問題なし!
「ジュビアン神官はお母さんの方を……………疲れてるみたいだから」
「分かりました」
光が消える直前、今度は別の呪文を唱える。
『幻の光』
これは、初めて使うんだけど、水属性の幻を見せる中級呪文。今、トネル少年には、沢山の光で出来た動物達が見えているはずだ。
「トネル君、素敵なサンティーの日を過ごしてね!」
<2へ続く>
読了、お疲れ様でした。
本日は、リクエスト第2日目でございます。
ちょっと考え深い日になりました。
なお、お話はあくまでフィクションであり、笑ってスルーをお願いします。
明日もよろしくお願いします。
メリークリスマス!




