閑話 我が愛しの婚約者様
本日より始まりました。リクエスト企画祭!
まずはユカ様の質問。“サキちゃんと婚約者は仲が良かったの?”より、書かせていただきました。次は明日ですよ。
「ねぇ、咲希ちゃん」
「なーに? 優香ちゃん?」
今日は久しぶりに優香ちゃんと、エリー様とのお茶会です。最近は、色々と忙しくて、本当に久しぶりになっちゃったわよ。
けれど、この次の優香ちゃんの言葉に、あたしの笑顔は見事に氷ついたのである。
「咲希ちゃんの婚約者の人ってどんな人だったの?」
「…………………ん〜?」
何故に今、そんな事を聞くのかな??
「何だか気になっちゃって♪」
「あら、わたくしも気になりますわ、サキ」
「エリー様まで…………」
正直、話してもいいものかしら? あのあたしの婚約者の事を。
「さあ、話してね? 咲希ちゃん♪」
恋ばなは、女性を強くするって、本当なのね………。
「分かったよ、話すから、そんな期待の籠もった視線は止めてっ!」
◇◇◇◇◇
あたしの婚約者、鬼ノ凪 竜介は総本家の跡取りであり、あたしと同い年の彼は、あたしと同格の力の持ち主。そんな彼と初めて会ったのは、生まれて直ぐらしいけど、記憶の上での初めては、あたしが三歳の時。
今でもハッキリと覚えてますとも。
あの糞生意気なガキの事は!!
何せ、第一声が。
「おいっ! チビ女! そのお菓子は俺の物だ、寄越せっ!」
因みに、あたしがいた場所は、両家の両親と両家の祖父母、そして彼の姉弟がいた訳で。あまりの言葉に、辺りがシ―――ンとなったのは言うまでも無く…………。
「…………おとうしゃま、おかあしゃま、ほんとうにあたしのこんやくしゃは、こんなボンクラのあたまがたりないガキなのですか?」
まあ、そんな中で、大人しくしてたあたしが言っちゃったから、両家共に、固まったのは言うまでも無いよね。だってお互いに三歳ですよ? 彼はともかく、あたしは既に先生の元で一日勉強の日々をしてたから、思考がやや大人びていたんだよね。
まあ、つまり―――――。
両家の両親共に、怒りの雷を落とした訳です。自分の子供に対して。
それから数年が立ち、元々全く婚約者に興味が無かったあたしは、大人に囲まれての、いつもと変わらない勉強の日々。
で、何がどうなったかは知らないが、あの最初の対面以来、一度も話さなかった婚約者様こと竜介は、驚いた事に、総本家の跡取りに相応しい姿となっていた。うん、きっと地獄の特訓を受けたんだろうね。一々、あたしを見る理由が分からなかったけど(笑)
何処かのパーティーに招待されると、オマケ宜しく、あたしも一緒に参加。で、どうだと言わんばかりに、視線を寄越すけど、あたしはお菓子に夢中になっていたり(笑) まだ五歳なのにモテル婚約者の姿は、もう恒例となっていたから、あたしは興味も無かったわね。お菓子は最強なのよ。
まあ、そんなこんなでアピールする竜介に、あたしは正直言うと、全く興味すら浮かばなかった。だって、結ばれない事は、この頃から何となく理解していたから。
一度、当主様に聞かれた事がある。
「竜介の事を、咲希はどう思っている? もしかして嫌いかい?」
……………はあ、当主様に何でこんな事を聞かれないといけないんだ!? 勿論、内心は綺麗に押し隠し。
「とくにすきでもきらいでもないです、うっとうしくはありますが」
そう言ったら、何でか分からないけど、微妙な顔をされた。5歳児に何を期待してるのやら。
◇◇◇◇◇
「咲希ちゃん、何か違う」
「そうですわ! サキ、もっとキュンキュンするようなお話はないんですの!?」
二人に騒がれて、必死に思い出して見る。まあ、幼い頃は、お互いに、いや、あたしは全く奴を意識してなかったのよね。赤い糸が結ばれていない事ぐらいは、普通に気が付いていたし。
「サキ、お願いですから、我々もキャーと言えるくらいの話をして下さいな」
仕方ない、そこまで言うなら、あのエピソードにしよう。まあ、確かにキャーの話だしね♪
◇◇◇◇◇
あれから何年か立ち、あたしは無事に小学生に上がった。勿論、竜介と同じ私立学校よ? うちは安定の普通の家だけど、父方母方、両家の祖父母が揃って、私立行きが決定してた。謀られたとも言うかもしれない。
………………だって竜介と一緒だし。
「咲希、帰るぞ!」
確か、この頃からだった。竜介が何やかんやで一緒に帰るようになったのは。勿論、家の“お仕事”が理由だったけど。よく冷やかされたっけ。周りの子達に。
「咲希、今日は父様とお祖父様と一緒に、お屋敷に行くんだって!」
まだ子供の彼には、簡単な説明しかされていない。それからどれだけ考えられるかも、修行の内だ。勿論、あたしもなんだけど。
車には、既に二人が乗っていて、あたしと竜介が乗ると、お帰りとだけ言って、笑みを見せてくれた。温かい一幕など、これだけだ。後はお屋敷とやらに着くまでに、準備をするだけ。
「今日は家に憑いたモノを祓いに行く、二人とも、よく見て学びなさい」
「「はいっ!」」
まだ式神様もいないあたしらには、二人の仕事の手伝いは出来ない。あくまで見学だ。
「これがお屋敷………」
着いた先は、確かにお屋敷だった。見事な豪邸。けれど――――。
◇◇◇◇◇
「そこには黒い煙が漂っていて、血ミドロの女の人が………」
「「キャ〜〜〜〜〜〜!!」」
二人の悲鳴が上がった。おいおい、あんたらのリクエストじゃない!
「サキ、それはキャー違いですわ!」
「あたし達が聞きたいのは、甘酸っぱい恋の話っ!」
あら? 違ったの? せっかく、楽しくなるところだったのに。あ、勿論、あのお屋敷はあっさりと当主様が浄化しましたんで、ご安心を。
「甘酸っぱい恋の話ねぇ〜………」
◇◇◇◇◇
またあれから数年立ち、あたし達は10歳になった。この頃から、簡単なお仕事を分家付きではあるものの、任されるようになったあたし達は、とある廃墟の浄化に来ていた。
「咲希、援護は任せた」
「了解」
何だかんだ言って、あたしは竜介の事をしっかりと信頼していたし、竜介も色んな意味を込めて信頼してくれていたと思う。あたしと違って、恋愛を込めた信頼だろうけど。
「フィニッシュだっ!」
勿論、力が強いあたしらはすんなりと終わったんだけど、ね?
「きゃっ…」
竜介の馬鹿力の余波で、廃墟の地下に落っこちたわけ。
「咲希っ!」
廃墟に同じように落ちていく竜介を見ながら、あたしは落ちた。
運悪く、落ちた先が貯水槽の中。更に不運は続き、あたしが落ちた貯水槽は、前日の雨もあり、満タンだったわけで。運良くかすり傷一つ無かった竜介と、分家のおじ様に引っ張り上げてもらうまでに、体が冷えきっちゃって、大変だった。
帰りは分家の人におんぶされ、家に帰ってからは熱を上げて。踏んだり蹴ったりの日だった。
「ごめん、咲希…………ごめんっ!」
辛そうに泣く竜介が印象的だった。それからは毎日、我が家のあたしの部屋へ来ては、お見舞いと看病をする竜介。何かを決意したような堅い顔をするけれど、あたしと視線が合うと、泣きそうな顔になる。いい加減、病人のあたしもイラッときてましてね? 母に頼んで、しばらく来るのを控えて貰った。
◇◇◇◇◇
「まあ、その後、どうなりましたの?」
「気になるよ! 咲希ちゃん」
気にならなくていいと思う。だってさ…………。
「あの後ね、見事に彼も風邪を引いちゃったのよ」
あたしも治りがけな為に、見舞いにも行けず、仕方なく無難に手紙を書いて式にして彼の家に送ったみた。
「まあ、結局のところ、ラブラブでも何でも無かったのよ?」
だって、あたしの婚約者様は、本当に素敵な人に育っていって…………縁の無いあたしには、本当に勿体ない、素敵な方なんだから。きっと今でも、あたしを引きずっていて………………ん?
「……………まさかね」
ずっと酷い片思いをさせていたあたしが言うのも何だが、あの、婚約者様は果たして簡単に諦める人だろうか?
いや、流石に無いか。夢ならまだしも、現実では無理だわ。
「どうかした? 咲希ちゃん」
「え? いや、何でもないよ……………言っておくけど、婚約者は幼なじみとしか思ってないからね?」
結婚は多分、この世界の人とするんだろうな。いつか―――――。
さようなら、あたしの愛しい婚約者様。どうかお幸せにお過ごし下さいね? あたしは此方で今度こそ、がっちり幸せをゲットしますから♪
どこかで盛大なクシャミが聞こえた気がしたけど、気のせいかしらね?
まずはお読み頂き、ありがとうございます。
秋月には、思いつかない質問や、リクエストで書くのが楽しかったです。
質問やリクエストを下さった皆様、本当にありがとうございますm(__)m
誠心誠意、書かせて頂きました。まあ、秋月なので、残念クオリティかもしれませんが、そこは笑って許して下さいますと、助かります。
明日も出すので、お忘れなく。




