第79話 緊急で救出です!!
次回は11月4日に更新します。
「龍! 急いでっ!」
夕闇が迫る上空を、あたしの式神様である青い獣姿の龍が、疾風のごとき早さで疾走している。
『主人はん! うちが風から守るさかい、青いのと早よ行きや』
懐から式札が一枚、淡い光を放つ。最近、式に下した“翠嵐”は風の式神様。確かに、今は一分一秒を争う刻。風の抵抗が無くなるのは、こういう時に本当に助かるわ。
「おぉぉぉ〜〜〜〜い、咲希〜〜〜っ!? 俺を〜〜〜落〜と〜す〜な〜よ〜〜〜〜〜!!??」
そして、あたしの服をしっかり掴んで、後ろで叫んでいるのは…………。我らが二回目勇者たる、翔太です。つーかね!?
「どさくさ紛れに、何処に触ってるのよ!?」
こいつが、しっかり握っている服は、あたしのお腹部分。つまり、手がね? 勿論、後できっちり復讐するとして、今は手をずらすだけにする。たくっ、こっちは恥ずかしいんだからね!?
「そ、その………わりぃ」
何故、そこで赤くなるわけ!? 照れるな、否が応にも、翔太の方が身長が高いから、見えるのよ。こいつの顔が、前のめりで!
『主人、見えて参りました』
その龍の声に、前方を凝視してみる。確かに、見えた。目的地が。
「全く………、何でこうなるのかしらね?」
あたしが見上げた夕空には、既に三日月が白く浮かんで見えた。
◇◇◇◇◇
時は遡り―――――。
副魔術師長に成り済ましていた奴から、楽しい“お話し合い”の後で聞いたのは、本物の彼らが何処にいるか、だった。あたしだって、オッサンの泣き声やら、泣き言なんて、聞きたくないけど、居場所を知っているのが、こやつだけなのよねぇ〜。
まあ、最終的には、しっかり話してくれたけど(笑)
………………話さなかったら、術で自白させようかと思ったわよ。
「で、何で俺と和磨が、ここに呼ばれたんだ?」
時刻はお昼を過ぎた頃。ちょうど、任務(笑)を終わらせた二人と護衛(笑)の騎士達は無事に帰って来てた。翔太や和磨くんは無傷なのに、何故か騎士達はボロボロ。そもそも、勇者には護衛はいらないんだけど、魔族の二人に食料を渡す必要があったんで、食料の護衛を頼んだわけ。
「それは今から話すけど、彼らは大丈夫なの?」
思わず心配する程度には、彼ら騎士達は皆で疲弊しきってるし。何をしたわけ? だって食料渡したら終わりのはずなんだけど?
「あー………帰りに、ちょっと魔物と戦闘になってな」
「だからって、普段から鍛えてる騎士がこうなる!?」
「どうもこいつら、プライド高い坊っちゃんみたいでな?」
………………あ、何か理由が分かったかも。
つまり、家の権力で成ったはいいが、実力が余りに無さ過ぎると。あれ? だったら、確か騎士達には絶好の官職があったわよね? 式典しか出れない、あの可哀想な彼らのところが。
「確か………そう、青の騎士団第5部隊だったけ?」
確か、かなり前に、翔太と和磨くん、優香ちゃんが行ったルピーの町を救った話を聞いたんだよね。あの時の騎士達が、確か青の騎士団第5部隊だったはず。
が、その名を出したとたんに、翔太の視線がうろうろしだした。
……………何かやったのね、翔太?
「あー………、実はな? 今はその部隊は、結構普通なんだよ」
「は?」
あれだけ、式典騎士なんて影で言われてた連中が?
「ほら、俺が騎士団を変えちまっただろ? そん時に、一番真っ先に鍛えたのが、あいつらなんだよ」
そのお陰か、今では普通に任務を受けて、仕事をこなしているらしい。特に貴族絡みは、既に彼らの専門とも言われる程だとか……………。まあ、全員が貴族だからね。当然と言えば当然か。
「んじゃあ、彼らは何処の部隊よ?」
青の騎士団は全部で5部隊しかない。第1部隊は王族、第2部隊は王都、第3部隊、第4部隊は町や村を。そして第5部隊は、今は貴族等の身分ある者達を。こんな形であるため、今は完全に実力主義である。まあ、翔太がそうしたんだけど。
こんな半端者がいる訳がないんだけど?
「あー、こいつらは暫定的な第6部隊だよ」
「え? どういうこと?」
第6なんて無いはずなんだけど!?
「つまり、だ…………使い物に成らなかった奴ら」
「あぁー………」
つまり、全部で5部隊ある所から落ちてきた、本当に使い所の無い奴らって事か………。
「まあ、まだ見込みがある奴らもいたから、そいつらは上の奴らに報告しといた……………が、使えない奴らもいてなぁ…………」
どうしようか、なんてぼやいた矢先。
「サキ様〜! ようやく場所が分かりました―――!!」
ファイさんの声が、門の前の広場に響く。
……………恥ずかしいんだけど、取り敢えず我慢するわ。
「で、何処なわけ?」
実は、あたし。副魔術師に化けていた奴との“お話し合い”で、本物の副魔術師長様と他の皆様のいる場所を聞き出したんですが、本人も目印で覚えていたらしく、あたしじゃ分からなくて、関係者の方にお願いして、特定してもらったわけ。こればっかりは、あたしじゃ分からないわ。
「地図は此方に…………、城から北に半日程行った場所の、古い家です」
「了解、で? 優香ちゃんは?」
ファイさんも、何故かキョトンしてた。あれ?
「ユーカ様は準備をしてから来ると……………まだ、いらして無かったんですか?」
女性の準備は確かにかかるけど、今は緊急事態なんだけど?
それから結局5分遅れで、優香ちゃんは来ましたよ。はぁ………。
「咲希ちゃん、遅れてごめんね!」
まあ、本人も自覚あるみたいだし、今回はよしとするか。
「んじゃあ、今回はあたしと優香ちゃんで行くから、翔太と和磨くんは城のお留守番よろしくね」
「あ、待って、咲希さん!」
「何? 和磨くん」
「翔太も連れて行ってもらえないかな? 今回は人が多い方がいいでしょ?」
確かに救出には人手が必要かな? 和磨くんの言う事も、一利あるしね。
「分かった、翔太と、ファイさん、双子騎士は連れて行くわ」
さて、あたしは龍でいいとして。皆は絨毯でいいわね。なんて考えていたら、横から視線が。
「ん? 何? 翔太」
「俺もその式神様に乗ってみたい!! …………ダメか?」
はあ………。どうせ乗せるなら、優香ちゃんがいいんだけど。ちらりと視線を向けたら、優香ちゃんは絨毯にキラキラした視線を向けているし。そういえば、優香ちゃんは初なんだっけ?? いっつもタイミングが悪くて、乗れてないんだよね…………。
「…………分かった、あたしの後ろに乗って…………但し、変な動きを見せたら容赦しないから」
まあ、翔太に限ってはないだろうけどね?
「はぁ………鞍つけるか」
あたし一人ならいらないんだけど、翔太がいるなら鞍をつけないとあたしまでバランスを崩しそうだし。翔太はあたしより身長が高い。仕方ないよね〜………。
「んじゃあ、出発しますか」
◇◇◇◇◇
てな訳で、冒頭に戻るんだけど。取り敢えず、薄暗い中でも、古い家はすぐに分かったわ。マジで古い家なんだもん。周りも特に何もないし。これは分かりやすい。この建物の下の牢屋に、皆が囚われているとのこと。
「サキ様とユーカ様は、我々の後ろからついて来て下さい」
ファイさんが囁くような声で指示を出す。こういう事は、経験有る人の言う事を聞いておいた方がいいからね。てな訳で、ファイさんを先頭に、ジークさん、翔太、あたし、優香ちゃん、ローグさんで入りますよ。暗い為に、下級魔術のライトで、辺りを照らしながら進む。
「まずは地下室を探さないと…………」
しばらく慎重に地上部分を確認したけど、誰もいないし。普通のボロボロの家だったわ。
「サキ様、地下室への入り口を見つけました!」
あまり大きな声ではないけど、ジークさんがあたしを呼びに来た。思ったより順調で何より。
「分かった」
連れられて行った場所には確かに、地下へと続く階段。けど、一気に皆が緊張する。
「これって………」
地下室から漂う気配………。これはかなり危険な物だ。まがまがしい迄の、闇の魔力。地下室の扉から、黒いオーラが見えるみたいな。
「皆、気を付けて…………只の魔力じゃないわ」
あたしの声が震えた。闇の力なんて、前の世界で陰陽師してた時に、嫌と言うくらい感じてたのに、全く違う。これは前の世界とはまるで違うもの―――――。
「こんな魔力に、長時間触れてたら…………普通の人間は狂うわよ?」
大抵の魔力は、優しいのだ。けれど、この魔力は遠慮が無い。まるで狂えとばかりに、まがまがしい迄の力が、オーラとなって漂っているの。
「皆、これを」
懐から人数分の御札を取り出す。既にぼうっと成っている奴等に、強制的に渡していく。
「あれ、僕は………?」
「何を…………?」
双子は見事に見入られていたみたいだし。
こりゃ、久し振りに陰陽師として、頑張るべきかしらね?
読了、お疲れ様でした。
本日は緊急事態発生です。その割に、中身が平凡でしたが(笑)
さてさて、この先はどうなることやら………。次回は今から書いてきます!
ではでは、次回にお会いしましょう。