その九?
このお話はコメディータッチではありますがあくまで「ホラー」です!
苦手な方は決して読まないでください!
そして、食事前の閲覧はぜひご遠慮ください!
・・・ご飯がのどを通らなくなっても知らないんだからねっ!
私がお風呂?
少年と別れ一眠りした私、夜中に食事をとりに街に出向き、再びいつもの横穴に入って次の日の昼までまったりお昼寝を楽しんでいた。
誰か来てるなー、という感じはしたのだが、昨日の少年との約束の時間には早すぎるので無視し、またしばらく微睡んでいると、その人影はそのまま外へ出ていく。さて、あいつは一体何をしに来たのだろう。
もうそろそろ時間かな? と思う頃に再び誰かの人影、そして「こんにちは」という少年の声。
あ、来た来た、時間に几帳面な人ってやっぱ気持ちいいね、と少し感心して私は横穴から這い出す。
すると変に私を見て興奮している少年がいて、その様子が何やらいやらしく感じてしまったために、私は思わず
「いやあんっ!」
と叫んで大事な部分を隠す。下着しか着ていなかったせいもあるが、せっかく彼氏ができたばっかりなのだ、純潔は彼氏に全て捧げたい。
すると少年はよほど気恥ずかしかったのか、そっぽを向きながらコートを差し出してくる。どうやらこれを着ろということらしい。
とりあえず礼をしておいてさっさと着込み、純潔が守れた安心感からついため息を漏らしてしまう私。
「それじゃ、始めるね。腐乱死体よ…」
「待って!」
さあこれで彼氏と愛を語り合えるねと呪文を唱えかけた私、無慈悲にも少年は途中でそれを止め、無理やり地下墓地の外へと私を引きずり出してしまった。
「あんっ、なによぉ!」
せっかくのデートを邪魔され、私は少年に不満をぶつける。だが彼は私を振り返ろうともせずにぐいぐい引いて歩いていく。一体どこに向かおうというのだろう。
着いたのは私の住んでいた屋敷とさほど変わらない、貧乏じみた小さな屋敷。唯一の違いはなんでも貯め込み、ゴミ屋敷となっていた我が家と違ってそれらしいものが無い点だろうか。
「こいつ、絶対食事を抜くとかの痩せ我慢をしているに違いないね」と私は推測する。この時代、貧乏貴族は綺麗事だけでは生活できないのだ。たとえゴミでも転売してお金に変えるくらいのしたたかさがないと三度の飯は到底ありつけはしない。
小さな玄関のドアを大きな音を立てて少年が押し開く。ちょうど目の前にいた侍女と思しき老婆が腰を抜かし、這いずるように逃げ出すが少年はそれでも私を屋敷のどこかへグイグイ引いていく。
にしてもあのババアの逃げ方の無様な姿と言ったら、私の友人たちに見せてやりたいくらいだ。
着いた場所は浴室、どうやら私に入浴を勧めるつもりらしい。まあちょうど腐敗石鹸も切らしていたところだ、世間一般の入浴も久々にしてみるのも一興だろう。
そう納得して私がコートを脱ごうとすると、
「待ってよ、僕だって一応男なんだからさ!」
真っ赤になって叫ぶ少年、やはりこいつはオスなのだ。私が全身を洗い清める前に理性を失い、襲い掛かってくるかも知れないぞ? ここは彼の言う通り、彼が出ていくまで待った方がよさそうだ。
「ふうっ、生き返るぅ♪」
愛用のゾンビ石鹸と違い、妙に甘ったるい匂いのするそれには違和感を感じるものの、やはりすっきりすると気持ちいい。髪の毛や顔、身体、もちろん胸や秘められた部分も丹念に洗い、私はゆったりと浴槽に浸る。
腐乱死体のとろりとした体液で洗う沐浴と異なり、普通のお湯の風呂はサラサラとしていてそれはそれでえも言えぬ良さがある。
「あ、またちょっとおっきくなったみたい…」
自分の胸をよく見ると、以前より心持ち大きくなった気がする。やはり昨日、彼氏に丹念に揉みしだかれたせいだろうか。ただ残念なことに力加減の分からない彼氏は、私のお気に入りの黒いドレスをビリビリと引き裂いてしまったのがちょっと残念だが。
温かいお湯が気持ち良すぎたのか少し微睡んでしまい、私は慌てて浴槽から出る。白い自慢の肌は心持ち上気して桜色に染まり、彼氏が見たらきっと興奮のあまり我を忘れるだろうな、といった色香を醸し出している。
脱衣場に移ると、ちょうどそこに先ほど無様な格好で逃げ出したババアがやって来て、これに着替えろと一組の衣服を差し出した。どうやら彼女は私の入浴中に着ていた服を全て処分し、代わりの服を用意したらしい。あれ、お気に入りの下着だったのに!
ブツブツ言いながら着替えると、下着は胸も腰回りも微妙に大きいが着るには問題ないレベルのもの。ただし…なにこれ! とつい突き放したくなったのがダサダサにもホドがあると言いたくなる程の野暮ったい茶色のワンピース。私はババアじゃねえんだ! と突き返したくもなったが、それをすると先ほどの少年が興奮して襲い掛かってくるだろう。仕方ないので一応それを借りることにする。まあこれで少なくとも純潔は守れそうね。
髪もだいぶ伸びたなー、と手櫛を通しながらちょっと確認、でも色艶はまだ悪くは無さそうで、そういう意味ではちょっとだけ産んでくれた両親に感謝する。ただし、家を追い出した恨みだけは死んでも晴らしてやるんだからっ!
親への恨みを目にたぎらせていると、少年は何故か私の瞳をジーっと見つめ
「かわいい…!」
…はあ? 何言ってるんだ? 私にはちゃんとした彼氏がいるんだ。あんたみたいなガキには用はないんだよ! とは思うのだが、昔はよくこんなシーンに出くわしていたので特に気似も止めずに睨み返す。ふんっ、あんたなんかに私の身体を預ける気なんて無いんだよっ! と。
ただちょっと疑問を感じ
「いきなりお風呂に入らせるなんて、どしたの?」
まさか下心からじゃないでしょうねぇ、と首をひねりながら少年の目を疑いの眼差しで見つめ続ける私。するとあろうことか、少年がいきなり「好きです!」と叫んだではないか!
これはやばい、放っておけばきっと、私の純潔はこの血迷った少年に奪われてしまう!
ここは徹底的に突き放して、身の純潔を守らなければ!
「…はぁ?」
あからさまに「あんた、ばっかじゃない?」という、あきれ果てた顔をしてみせる私。もちろん少年が不細工とか、魅力がないというわけではないが、まあ確かにかわいい男の子だとは思うが、それ以前に私には彼氏がいるのだ!
何やらすっかりしょげ返っている少年、こいつ、ほんとにばっかじゃないの?