その五?
このお話はコメディータッチではありますがあくまで「ホラー」です!
苦手な方は決して読まないでください!
そして、食事前の閲覧はぜひご遠慮ください!
・・・ご飯がのどを通らなくなっても知らないんだからねっ!
彼氏を紹介します♪
あれから一年、私の周りは劇的に変わった。
親友は全て私と口を聞かなくなり、男たちは遠くから後ろ指を指すだけになった。
街の人からは疫病神扱いされはじめ、両親は頼むからうちの敷居をまたがないでくれと言いはじめた。
分からない、私には全く理解できない。
いったいみんなはどうなったのだろう。何が変わってしまったのだろう。
仕方ないので私はあの地下墓地の、老人が寝ていた横穴の隣を借りて住むことにした。
「ああ、落ち着く…♪」
あれほど嫌いだった腐敗臭が、どこか何とも言えない芳醇な香りに感じる。
どこか懐かしい香り、隣で眠る老人から漂う、しっとりとした甘い湿気…
どうやら私の居場所はここらしい。私にはもう帰る場所はここしかないらしい。
「誰か来ないかな…」
もちろんこんな場所にいるだけでは誰も来ないのは知っている。だが一人でいる限りあの呪文では腐敗死体を呼び出すことは出来ないし、となると外に出て生きている人間を連れ込むしかない。
「あれれ?」
魔法学校を卒業した証である、魔法修習生の黒いマントをつけた美少年に近づいて、その顔をまじまじと覗き込む。かわいい女の子に見つめられて恥ずかしかったのかそっぽを向く少年、私はさらにその少年の顔を覗き込み…
「な、何でしょうか?」
あからさまにどぎまぎしている少年が私に問いかける。だって今の私の服って、黒いドレスのスカートを思いっきり短く切り、ウエスト周りも大きく切り取った、とってもセクシーなものだもの。去年に比べれば幾分プロポーションもよくなってるし、残飯あさりで健康的な食べ物ばかりを食べているから血色も申し分ないし。
まあ、地下墓地で暮らしているからドレスのあちこちに腐敗した汁がこびりついてるし、体臭もそんなすえた匂いになってるかも知れないけど、これでも毎日身体だけはきれいにしてるの。ゾンビの体液で作った石鹸って、すっごく汚れ落ちがいいのよ♪
「あなた、死人使いの素質あるわね!」
私は少年にそう吹っかける。けど私は知ってる。死人使いの呪文は四元魔法より簡単だということを。だってなんら意志を持たない精霊たちと違って、淋しがり屋の彼らはいつだって呼び出されるのを待っているから。老人の言ってた千人に一人、というのは、魔法学校に入ることを許される、潜在魔力を持った貴族が国民千人に対して一人しかいない、という意味でしかないことを。
「ええっ?」
信じられないといった表情を見せる少年、私は自分のツヤツヤの髪をわざと手櫛ですいて少年の注意を引き
「今なら無料で教えてあげるわよ♪」
とウインクしながらそっと囁きかける。
耳の先まで真っ赤になっている少年、どうやら今まで女性と付き合った経験はなさそうね、意外とウブでかわいいかも♪
「ついて来てね♪」
わざと色っぽく腰をくねらせながら、私は少年を連れて地下墓地へと降りて行く。少年は真っ赤にしていた顔を今度は真っ青にしながら妙にゆっくりした足取りでついて来る。
「それじゃ、いくわよ。腐乱死体よ、我が友よ、我とともに我と我が客人を歓待せよ!」
老人に習った呪文を少しアレンジして声高らかに唱える。私たちの足には無数の骸骨の腕、そう、ゾンビだった頃を懐かしんで呼び出しに応じた古い死体たちと、横穴から続々と這い出してくる数え切れないほどの仲間たち。
私は先月仲間入りしたばかりの美青年を呼び寄せ、目の前の少年に紹介する。
「紹介するね、これが私の彼氏です♪ 先月死んだばかりのこの熟し加減、ちょうど食べ時でしょ?」
そのまま私は少年の前で、彼氏であるそのゾンビと熱烈な抱擁をすると、互いの唇を啜り合う。
「はうっ…!」
少年には刺激が強すぎたのか、美女に体中を愛撫されながら夢の世界に旅立ってしまう。
「あん、ここからがいいところなのに…」
私は少し物足りなさを感じつつも、気絶した少年をよそに彼氏と深く深く、むさぼり合うほどに互いの愛を確かめ合った。
…第一部、完…