その三?
このお話はコメディータッチではありますがあくまで「ホラー」です!
苦手な方は決して読まないでください!
そして、食事前の閲覧はぜひご遠慮ください!
・・・ご飯がのどを通らなくなっても知らないんだからねっ!
老人って?
「起きろジジイっ!」
どうせこの老人に呪文を素直に教える気などない、そう睨んだ私は、その次の日も三十分前に地下墓地に出向いてやった。
のそのそと老人が顔を出し、床に足をつけるなり、私は手早くあの呪文を唱えてやる。
だが老人は驚くどころか嬉しそうに彼らに身を委ね、あまつさえ腐乱死体どもと抱擁を始める始末。
「や、やめんかーっ!」
見てるこっちが気持ち悪くなり、急いで呪文を解除する。すると老人はさも物足りなさそうに身もだえを始め
「せっかく気持ち良くなっておったのに…」
などととんでもないことをほざく始末。ダメだ、こいつイカレてる…
「他にも違う呪文とかないのかよ?」
既に投げやりになっている私は、言葉遣いもお構いなくつっけんどんに問い詰める。すると老人はけろりとした表情で
「ない!」
きっぱりと突っぱねてきた。
「ないって、他にもあるじゃない、霊体術とか剥製術とか…」
慌てて老人に問い返すと
「霊体は触れることができんからつまらん、剥製は肌がかさかさして気持ち悪いし、食人死体は噛み付くから嫌いじゃ」
なんか言ってることが目茶苦茶だ。だいたい触れるだの肌触りだの、死体を使役する立場の私たちには何の関係もないではないか。
「その点、ゾンビはいいぞお、しっとりとした肌触りに芳醇な香り、特に脂の乗った絶妙な腐り加減のものはたまらんわい」
「まぢっ…!?」
信じられない、やっぱりこいつ絶対イカレてる…!
「それとじゃ、お主昨日からあの呪文を使っておるがまだ気づかんのか?」
「はあ?」
何やら変な質問をしてくる老人。そんなの決まってる、死体を扱う魔法は敵を特に心理面から攻撃するためのものなのだ。
「あれ、攻撃魔法でしょう!?」
念押しの意味を込めつつ、私は強めの口調で聞き返す。
「攻撃魔法? お主自分で唱えておいて呪文の内容を把握しとらんのか?」
心底呆れたといった表情でさらにやり返す老人。あれが攻撃魔法じゃないとすると、一体何なのだろう?
改めてあの呪文を、一語一語丁寧に思い返してみる。
「ゾンビよ、我が友よ、我とともに我が客人を歓待せよ…って?」
…あれ? 何この言い回し…?
あまりに不自然な呪文の内容にひたすら首をひねり続ける私。
「そうじゃ、あれは客を歓迎する呪文じゃ」
「うっそーっ!?」
老人に指摘されて、私は改めて愕然とする羽目に。
「わしゃもう疲れた、寝る」
ひと通り説明が終わって安心したのか、一方的に宣言した老人はいつもの横穴に潜り込んでグーグー寝息を立て始める。
私は…狐につままれた面持ちのまま、すごすごと自分の屋敷に帰ることに。
「にしても…」
やはりあの老人は理解できないし、したいとも思えない。
私が習おうとしていたのはあくまで護身のための攻撃魔法だったのだから。
こうなったら意地でも他の呪文を習ってやる!
意地でも攻撃呪文を聞き出してやる!
そう心に誓いながら家路につく私だった。