その二?
このお話はコメディータッチではありますがあくまで「ホラー」です!
苦手な方は決して読まないでください!
そして、食事前の閲覧はぜひご遠慮ください!
・・・ご飯がのどを通らなくなっても知らないんだからねっ!
うちの両親って…
約束の二日目、私はわざと三十分前にあの地下墓地に入って待った。
昨日は屋敷に帰るなり「この腐敗臭はなんだ!」と両親に怒鳴られ、涙ながらに事情を説明した私。もちろんあの胡散臭い老人に乙女の秘密、下着を披露したなどという話はしていない。というか死んでも出来ない。
だが…
「臭いが一番ひどいのはお尻だね?」
一通り私をチェックした父は、何故か嬉しそうに私に囁いた。
「死体どもに襲われかけて腰を抜かし、尻餅をついた揚げ句に不様な恰好を披露したね?」
さらに嬉しそうに念押しする父。実は私の父は、娘に折檻をするのが何より好きだという困った性格の持ち主なのだ。
「これは…」
残念なことに下手な言い訳や胡麻化しをすると、その行為はさらにエスカレートする。ここは素直にされるがままに従うしかなさそうだ。
しくしく…
父に見つからないよう心の中で泣きながら、私は自ら地下の折檻部屋へと向かう。逃げたりするより痛い思いはずっと少なくてすむから。
「素直じゃないか、わしとしては少し物足りなくなるがな」
黒革のビキニ風ボンデージを持ち出しながら、本当に物足りなさそうな父、彼は私の落ち度一つにつき五分の折檻を母から許されているのだ。だが愛娘に折檻をしたがる両親というのは、社会的に普通なのかどうか、私にはは分からない。
さすがに父とはいえ男の前で全裸になるのは恥ずかしいので、大きな拷問具の後ろに隠れてこそこそ着替えるのだが、父は必ずそれを覗きに来る。この人は娘を何だと思っているのだろう。
「きゃっ!」
またお尻を見られてしまった。だが最も秘められた部分だけは、意地でも父には見せたくない。私はそれ以上の隙を見せぬよう、素早く着替えを済ませて父の前に立つ。
「今日は何の折檻かしら?」
折檻される前から既に開き直っている私、どうせ痛い思いをするなら早い方がいいに決まっている。
母が懐中時計の時刻を確認し、父は壁に設置された四肢の拘束具に私を固定し、革製の鞭を取り出すと私に向かって遠慮なくそれを振るう。
胸や脇腹、お尻と次々にできるミミズ腫れ、父が最も好んで攻めるのは私の最も秘められた部分…
「ひっ!」
父に聞こえないよう悲鳴を上げ、必死に涙を堪える私。もしそれを見咎められたら、五分、また五分と折檻時間が延びるだけ。
「終わりよ!」
冷たい母の宣言に、少し物足りなさそうな父だが素直に折檻を終わる。拘束具から渋々私を解放し、着替えを促すとまた覗きに来る。
しかし、今度は身体のあちこちの傷が痛くて手早く着替えることができない。母の高速治癒の呪文も効果を示し始めてはいるが、完治にあと五分はかかるだろう。
世間一般の親とはみんなこういうものなのだろうか…
しくしく…
「ほお、きっちり遅れずに来とるではないか、感心感心」
ごそごそと昨日潜り込んだ横穴から這い出した老人は、どうやら私の根性を認めたみたい。まぁ相変わらずのこの腐敗臭だけは我慢出来ないけど…
「では実演から始めるとしようかの」
昨日同様、老人はいきなり呪文の詠唱から始める。どうやらこの老人、呪文を教えるのが目的なのではなく、自慢するのが本当の目的らしい。
そっちがその気なら…
私も素早く覚えたばかりの呪文を唱えはじめる。ゆったりと間延びした老人の詠唱と私のそれは同時に効果を現し…
互いの足にしがみつくいくつもの骸骨の腕に、横穴から這い出す腐乱死体の群れ…
「ふおっふおっふおっ、こいつなかなかやりおる」
そう、私が唱えた呪文は昨日老人が唱えた呪文そのもの。私、こう見えても転んでもただでは起きない女なの。
でも…もぞもぞ足に纏わり付くスケルトンの腕も、べちょ、べちょ、とゆっくり近づいてくるゾンビのグロテスクな様も、私には到底馴染むことが出来そうにない。
だが老人はさも気持ちよさそうにスケルトンの腕に身を委ね、ゾンビと頬ずりなどしあっている。
「かわいい奴らじゃの、そうは思わんか?」
気味悪がって悶えている私が見えていないのか、老人は私に信じられない質問をする。私が必死にブンブンと首を横に振ると
「なんじゃつまらん」
とあっさり呪文を解除する。ほっとした私は、膝の力が抜けそうになりながらも同じく呪文を解除する。
「お主とは気が合うと思ったんじゃが…」
肩をがっくりと落とし、すっかりしょげ返っている老人。同情の気持ちは…いや、私には断じてない! 第一このただ気味悪いだけの死体の群れを「かわいい」などと称賛するこの老人の神経自体信じられない。
「気が合いたいなどとは一切思ってませんからっ!」
老人にはっきり断言してやる。そう、私がここにいるのは気の迷い、「無料」という言葉に流されるよう教育した両親のせいなのだから!
こうなったら一日でも早く老人の全てをマスターし、老人と(このズレた神経の持ち主に意味があるかどうかは分からないが)両親をぎゃふんと言わせてやるんだ!
「さてわしはもう疲れた、寝る!」
再びあの横穴に潜り込むと私を無視してグウグウ寝てしまう。
「なんなのよこいつ!?」
私はぷんぷん怒るものの、寝てしまわれてはすることもないので我が家に帰る。
とはいえ今夜は気持ち良く寝ることが出来そうね。