その十二?
このお話はコメディータッチではありますがあくまで「ホラー」です!
苦手な方は決して読まないでください!
そして、食事前の閲覧はぜひご遠慮ください!
・・・ご飯がのどを通らなくなっても知らないんだからねっ!
究極の徴収方法?
少年の家に戻ると、彼の父は私の今着ている服の金額を調べだした。
にしても貧乏ったらしい計算をしている。ほんとの端金まで数えているんだから。
「よし、お前の借用額はこれだ、期日は来月末、それまでにきっちり耳を揃えて返してもらおう!」
何言ってるんだよこのクソ親父! それならば、と私はそのクソ親父から紙をひったくり、裏に「損害賠償請求書」と書きなぐってお気に入りの下着とブーツの合計額を書き込んでやった。
「な…!?」
あまりの金額に絶句している父親を私はずいっと睨み返すと
「そっちこそこの金額、耳揃えて返してくれるんでしょうね!?」
と凄みを込めて突き返してやる。
父親は少年と侍女を交互に見比べ、「本当なのか?」と目で聞き返している。しおらしくコクリと頷く少年と、真っ青な顔で立ち尽くす老侍女、どうやら彼女は、やっと自分の失態に気づいたようだ。
バカにしてもらっては困る。こう見えてもうちはついこの間までそこそこ裕福な貴族だったのだ。ただ父が間抜けだったばかりに、つまらぬ小悪党に騙されただけなのだから。
「す、すまぬ…では弁償の代わりと言ってはなんだが息子と侍女を好きなだけ使ってくれたまえ」
先ほど書いたばかりの借用書を破り捨て、父親は私に泣いて頼み込む。ふんっ、分かればいいのよっ!
「そうね、じゃあ私にもっとまともな服を買ってよ!」
しおらしくなった父親に私はわざと高圧的な態度で宣言する。へこへこと頭を下げつつ、彼は息子と侍女に、私の買い物に付き合うよう急いで指示を出す。
ふんっ、まあいいわ。ババアの付き添いがちょっと頂けないけど、少年はそこそこ美形だし、まともな服を買ってもらえればまた地下墓地に客を呼びやすくもなるし…
とりあえず私は二人を侍らせて高級服専門店に顔を出す。
専属の仕立て屋がいた頃のうちと違って、その店の品揃えも大したことはないが、あまり吹っかけると賠償額を超えてしまう。まあそれは、相当無茶な買い物をしない限りありえないが。
「うーん、これとこれかな?」
私のファッションの好みは「かわいい系」の黒のゴスロリだ。シックでフォーマルなドレスなと私の眼中にはない。
私はわざと露出度が高めのゴージャスなビスチェと、レースで細かく飾られたフレアスカートをチョイス、今まで私の着ていたものとは雲泥の価値差だが、そこそこ高級な下着もついでに買わせることに。
「こんなところでいいかな?」
それなりにかわいいコーディネートになったのに満足して、私は店を出ることに。びくびくしている少年と真っ青な顔で持ち合わせを確認している侍女、それでも今回の服ってあの下着の金額の一割にも満たないんですけど!
まぁ、結局彼等も小市民ということか。
足も借りてきたサンダルでは心許ないので、あのお気に入りだったブーツに似たものをチョイス、侍女は危うくぶっ倒れそうになるが、私にはそんなことは関係ない。
どうやら不足分は少年が自腹を切ったようだが。
彼の家に戻ると、どうやら父親はまた取り立てに向かう様子、取り立て先を聞いた私は二度びっくり、なんとうちを陥れた、因縁の小悪党ではないか!
「私も行きます!」
さっそく同行を宣言する。断っておくが、私は軟弱者の父ではない。家族にしか高圧的な態度の取れない間抜け野郎などでは決してない。
私が父の折檻に耐えていたのは、ただ父に対抗する力がなかったからだけなのだ。
何か不満そうだが大きな借りのある私の宣言に渋々首を縦に振る父親、とりあえず素直なところは認めてあげようじゃないの。
向かった先は近所でも悪評高い大商人の家。いろいろ悪どいことをしているらしく、騙し取った土地の転売から人身売買まで、非道の限りを尽くしていると聞く。
「約束の期限は今日までだ、きっちり耳を揃えて返してもらおう!」
少年の父親がそう言うと、大商人はふんぞり返り
「そんなにあの端金が取り立てたかったら力づくで奪ってみせるんだな!」とまくし立てる。商人の周りには屈強そうな複数の用心棒、どうやらこの小悪党は人から借金をしておいてはいつもこのやり方で踏み倒してきたらしい。
「で、ですからなにとぞ借りた金をお返しください、元金だけで結構ですから…」
えらく卑屈になり、半泣きの顔で大商人に頼む父親、何だ情けない、せっかく高利貸しとして小悪党の名前を冠しておいて、なにが「元金だけ」だ!
「おんやあ? おめえ、一年ちょっと前に没落した貧乏貴族の小娘じゃないか!」
どうやら商人は私の顔を覚えていたらしく、生意気な口を聞いてくる。いいだろう、そっちがその気なら私にも考えがある。
「腐乱死体よ、我が友よ、我とともに我と我が客人を歓待せよ!」
私が呪文を唱えようとしたその後ろで、いきなり呪文を唱える少年。まあいい、私もちょうどその呪文を唱えようとしていたところだし。
もぞもぞ…地面から無数の骸骨の腕が用心棒と商人、そして少年の足に絡みつく。どこから湧いてきたのか大量のゾンビたち、べちょ、べちょ、と湿った足音を立てて彼らは商人一味と少年のみをターゲットに群がっていく。豚の雄叫びにも似た情けない用心棒共の悲鳴、商人も泣きながら詫びを入れ始めている。
「ほほお、いいぞいいぞ!」
父親が嬉しそうに叫んでいる。どこがだ、何がいいんだ? 私はちっとも良くなんかない!
「ゾンビよ、我が友よ、我とともに我と我が客人を歓待せよ!」
改めて私は呪文を唱える。さらに多くのスケルトンの腕が地面から這い出し、少年の父と私に絡みつく。
さらに大量のゾンビの群れ。彼らは商人たちにも向かうが、私と父親にも熱烈な歓待をするべく群がってくる。
「ひ、ひぐっ!」
何やら無様な悲鳴を上げて父親が気絶するが、私はまだ物足りない。そう、愛しの彼氏が来てくれないから。
きっとここからはあの地下墓地は遠すぎるので、私の声が届かなかったのだろう。
しかも出てきたゾンビたちは古いものばかりでほとんど肉がこそげ落ち、抱きついてきても痛いばかりで、ちっとも気持よくなんかない。
「助けてくれっ! 金は払う! そこの娘さんのとこから巻き上げたものも全部返すから!」
もう無様そのものの態度で悲鳴を上げ、泣いて詫びを入れる商人。素直なところは認めるけど、私はまだ不完全燃焼なのよっ!
少年は術を解いたようだけど、私はさらに多くの仲間を呼び寄せる。周囲の住民たちは既に悲鳴を上げて遠くに逃げ出しており、用心棒たちは全て泡を吹いて失神している。
「さあ、あんたたち! 身ぐるみ全部脱いで、有り金全部こっちに渡してもらおうじゃないのっ!」
不完全燃焼の私は思いっきり大きな声で商人に全ての不満をぶちまける。こくこくと必死に首を縦に振り、半ば裏返った目で必死に私に助けを求める商人に、いまいち完全燃焼とは行かない私も呪文を解除することにする。
ゾンビたちがいなくなると、商人と用心棒たちは半狂乱になりながら服を全て脱ぎ、全裸のままでどこか遠くへと走り去った。
「…で、あんたらの貸した額はいくらなの?」
私は何とか起き上がった父親に聞くと本当に微々たる金額。商人の着ていた成金服でもお釣りがきそうなのでそいつを彼らに譲ることにし、商人の残り財産は全て、その場で私自身が競りにかけてやった。
「まあまあかな?」
とりあえず元の屋敷を買い戻す金額と本来のうちの財産分は戻ったので、私は本当の自分の我が家に戻っていった。
…第二部・完…