その十一?
このお話はコメディータッチではありますがあくまで「ホラー」です!
苦手な方は決して読まないでください!
そして、食事前の閲覧はぜひご遠慮ください!
・・・ご飯がのどを通らなくなっても知らないんだからねっ!
少年の父?
私は少年に引かれ、彼の屋敷を歩かされていた。彼は私をどうする気なのだろう。
彼氏に会いたい、会って心行くまで愛を語り合いたい、私の思いはただそれだけなのに。
「今日はこことここの取り立ての日だな」
通りかかった部屋の中から、私の父と変わらない位の中年男の声、どうやらこの家は金貸しをしているらしい。そうか、それで屋敷に何もなかったのだなと私は少し納得する。
小綺麗な服を着込み、魔術師の杖を持った中年男が顔を出す。と、いきなり私をじろりと睨み
「どうしたこの娘は? 借金の形に取り立てて来たのか?」などと失礼なことをほざいてくる。冗談じゃない、私はこんなふざけた男に足元を見られるつもりなどない!
男は失礼にも睨む私を無視し、じろじろと私を嘗めるように眺め回す。
「フムフム、なかなかの上玉だな、奴隷市場のせりにかければ売春宿辺りに高値で売れそうじゃわい」と卑下た笑いを浮かべながらこくこくと頷きます。
「この子は僕の客だよ!」少年は男に抗議しますが、私は彼の客になったつもりなどない。ただ少年に連れて来られ、入浴を強制され、お気に入りの下着を処分された揚げ句に好きでもない服を着せられただけだ。つまり私は、少年に誘拐されただけのただの被害者なのだ!
無言の抗議をこの親子にしている私を無視し、中年男は
「にしては似合わん服を着せているな、どうせ貸し与えたものだろう?」ととんでもないことを言い出す。ばかやろう! 私は被害者だ! そこまで言うなら私の処分された下着代、耳を揃えて返してもらうからなっ!
そうなったら泣き言を言うのがどっちか、覚悟しておけばいいんだ!
なにやら少年は後ろにいるババアに問い掛けている。どうやら私の今着ている服の金額らしいが、あまりの安っぽさにへどが出そうになるのを必死に堪えて私はさらに聞き耳を立てる。
すぐに話は終わってしまったが、あのような端金で驚くなどとはこの少年も度胸がない。
ただ私は屋敷を追い出された身なので今は言えた義理ではないのだが。
「まあいい、今日の取り立てが済んだらその娘の借用書を作るとしよう。社会勉強だ、お前もついて来い」
中年男はそう言って僕を借金の取り立てに連れていこうとしている。情けないことに一言も抗うこともせず、少年は父親について歩く。全くこの少年は度胸が無いのか根性がないのか…
正直私には全く理解できない。
ただこの親子について歩けば何か面白いことが起きそうだと私は黙ってついて行くことにする。
見るからにお金が有りませんというたたずまいのボロボロの掘っ建て小屋、たまたま外に出ていたそこの主人らしい老人は慌てて土下座をすると「今日は返せるお金など有りませんだ、勘弁しておくんなせえ」と泣く泣く少年の父に頼み込む。ほほお、この父親、なかなかの悪党には違いない。
そんな老人を蹴り飛ばし、小屋の扉代わりのぼろ切れを引きちぎった少年の父は、中にずかずかと入って行く。
小屋の中には病身の老婆とその娘らしい若い女が一人、どうやら女は死にかけた老婆の看病をしているようだが、どうせ死ぬ身なのだ、放っておけばさぞ楽になれるだろうに。
少年の父は躊躇うことなく娘の手を掴むと
「返済期限は今日までじゃ! 払えぬ以上娘を売り飛ばされても文句はあるまい?」
冷たく言い放つとそのまま娘を小屋から引きずり出す。おや? この男、思ったよりは悪党ではないらしい。
「やめてくだされ! その子がおらんとわしら、生きて行けませんだ!」
思わず悲鳴を上げる老人、娘も泣きながら老人に救いの手を求めるが、少年の父はそれを無視して奴隷市場へと女を引いて行く。
やはりそうだ、この男、高利貸しの借金取りにしては詰めが甘い。私ならどうせ死ぬ身の老夫婦を身ぐるみ剥いで、その衣服まで売り飛ばしてやるのに。
「うーむ、痩せて体格も良くないし顔もお粗末なものじゃ、たいした金にはならんなあ」
自分が引きずっている女を品定めしつつ、奴隷市場に向かう少年の父、なんだつまらん、やはりこの男もただの小悪党に過ぎなかったのか。
炭鉱の経営者に買われ、連れていかれるその娘、たぶんあの老夫婦は…近日中に野垂れ死にだなと容易に想像がつく。たぶんこの少年の父を死ぬまで恨みつつ死ぬだろうが。
「そんな…」
私が男なら、私がこの男の立場ならあーんなことやこーんなこと、たっぷり楽しんだ挙句に全身を切り刻み、超高級食材として名を馳せる「羊頭牛」の肉として売り飛ばしてやるのに。それなら奴隷の買取額の十倍にはなるはずなのに。そう思うと悔しくて、つい私の言葉から絶句の声が漏れる。そうだ、よく考えたらあの老夫婦もどうせ野垂れ死にするのだ。こっちも切り刻んで…そうだな、一般食材の「地豚」の肉として売れば少しは金になるだろう。
やはりこの男もただの小悪党なのだ。くそっ、ちょっと期待して損しちゃったじゃないか!
「次行くぞ」
少年の父はまあそれなりに満足したのか、次の掘っ建て小屋に。
そこにはどうやら死んだばかりと思われる、痩せこけた女がぼろ切れの上に寝かされ、幼い兄と妹がその前で泣いている。
「ちっ、こいつ死にやがったのか!」
悔しそうに舌打ちすると、父はその兄弟も奴隷市場に。かわいらしいガキどもと見て劣情が湧いたのか、慰み者を欲していたらしい中年の成金男が買っていく。
にしても奴隷市場の好きな男だ。やっぱりつまらん。
少年の父はなぜか嬉しそうにしているが、この男はあんな端金で満足できるのだから身の程が知れている。
私なら…いや、やめておこう。これ以上本心を披露してはたぶん私を理解してくれる人自体いなくなりそうだから。
「今日はなかなかの売り上げになった♪」
ほくほく顔の少年の父、あまりの小悪党ぶりにげんなりしながら、私は少年とともに彼の屋敷へと戻っていった。




