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その一?

このお話はコメディータッチではありますがあくまで「ホラー」です!

苦手な方は決して読まないでください!

そして、食事前の閲覧はぜひご遠慮ください!

・・・ご飯がのどを通らなくなっても知らないんだからねっ!

  死人使ネクロマンサーい?


 「ややっ!」

いきなり私の顔を覗き込む一人の老人。

異様な雰囲気を感じて私は顔をぷいっ、と背ける。

「やややっ!」

回り込むようにして、老人はさらに私の顔を覗き込む。再び顔を背ける私。

断っておくけど、私はこんな小柄で猫背でしゃくれたみすぼらしい老人など全く覚えがない。

だからこいつは私にじゃなく私の着ているの魔術研修生を示す黒いマントに用があるのに違いない。

「…何か用ですかっ?」

だから私は、わざとぶっきらぼうに老人に聞いてみる。

「お主、死人使ネクロマンサーいの素質があるな?」

「はあ?」

いきなり突拍子もない事を言われ、ついあんぐりと口を開けてしまう私。今日卒業したばかりの魔法学校では、基礎魔法として四元素呪文エレメンタルスペルを習ったのみ。特殊な部類に分けられる「死者呪文アンデッドスペル」どころか、上位魔法とも言うべき「神聖呪文ホーリースペル」や「闇呪文ダークスペル」すらただの一音も聞いちゃいない。

「なんで私が死人使ネクロマンサーいの素質があるのよ?」

わざと高圧的に聞き返す私。だいたい不気味な死体を扱う「腐乱死体術ゾンバー」、「骸骨術スケルター」、「剥製術ミイラー」「霊体術レイサー」などの「死者呪文アンデッドスペル」は、常識のある魔法使いなら気味悪がって誰も見向きもしないもの。由緒ある下級貴族の娘である私がそんなものに手を染める道理がない。

「わしの目にはわかるぞ! お主が千人に一人の逸材じゃとな!」

…たぶんこいつ、こうやって道行く魔術師の卵全員に声をかけて、片っ端から勧誘してるに違いない。

「私は何言われてもそんなものに手を染める気なんてありませんからねっ!」

ダメ押しついでにずいっ、と老人の鼻先に人差し指を突きつけ、きっぱりと断っておく。

「うーん、残念じゃの、今なら無料で全て伝授してやろうと思ったのじゃが…」

…ぴくり…

私の眉がかすかに動いたのを老人はしっかりと見ていたらしく、パッと目を輝かせてこう切り出した。

「やはりお主、興味が有るようじゃの」と。

念のため弁解しておくけど、私は「死者呪文アンデッドスペル」に興味などはない。断じてない! ただ…そう、ただ「無料」という言葉に弱いだけなのである。それもこれも、我が家が没落寸前の貧乏貴族であるがゆえの条件反射なのだ。

「ついて来られい」

今度は老人のほうがぶっきらぼうに私に言う。ついて行きたいわけではないが、我が家の教育「ただでもらえるものはたとえゴミでももらっておけ!」が身体に染み付いていて拒否することなどできはしない。

連れてこられたのは魔法学校からそう離れていない墓地の、地下埋葬所の中。腐乱死体の放つ激烈な異臭やドブから湧き上がるひどい湿気が、来るもの全てを拒絶している異質の空間。

仕方なく鼻をつまんでついていく私と、全く平然とした態度で前を進む老人。彼はこの濃いスープのようにまとわりつく特濃の腐臭を感じていないのだろうか?

「では授業を始めるぞい!」

「ふぁ~い」

鼻をつまんでいるためにくぐもった声になり、まともな返事にならない。老人はそれがたいそう不満らしく

「鼻などつまんどらんとびしっと返事をせんかっ!」

と厳しく説教する。

仕方なく鼻から手を離すと、再び襲い来る激烈な異臭、これは既に臭いの域ではなく、刺激という言葉も生ぬるいと感じるほどだ。

「先生、この臭い我慢できません!」

半泣きになりながら私は老人に陳情する。だが老人は聞こえなかったのか…いや、これはわざと無視しているのか何も答えない。

息をすれば肺にまで腐臭が広がり、今にも吐きそうになるのだが息を止めれば苦しくて今度はむせそうになる。仕方ないので必要最小限の呼吸に押さえつつ、朦朧とする意識の中で私は老人の次の言葉を待つ。

しばらく待ってはみたものの、老人は口を開く様子もなく、ましてや動く気配すらなく…

「…あの、先生?」

仕方なく私は目の前に立ち尽くしている老人の背中をそっと押してみる。

ごろり…

まるで木彫りの人形であるかのように、全く姿勢を崩さないまま老人は床に倒れ、しかも微動だにしない。

「まさか…?」

見たところかなりの歳のようだったので、もしかすると死んでいるのかも知れない。

口元に耳を近づけると…呼吸音らしいものはなく…

「らっきぃ♪」

少なくともこれで拷問とも言える腐臭から逃れることができると私はそそくさと墓地から出て行こうとした、その時。

「待たんかコラッ!」

いきなり老人が立ち上がって私を怒鳴りつける。ってこの人死んでたんじゃ?

「せっかくわしがいい気持ちで寝ていたところを起こしおって、そういう不届き者には、こうじゃ!」

老人は一方的に叫ぶと何やら呪文を唱え始め、間もなく壁面いっぱいに掘られた棺を収納する横穴から何やら得体のしれないものが…

ぎょろり!

巨大な目…ではなく、目の周囲が腐敗して凹んでいるために飛び出したように見える複数の目が、同時に私を睨みつける。

「ひっ!」

声にならない悲鳴を上げつつ後退ろうとする私、だが、何かに捕まったかのごとく私の足は地面から引き離すことも出来ない。

そもそも、「授業を始める」と宣言しておいて一方的に寝た上に、それを起こしたと怒ってこんな仕打ちをするこの老人の神経が信じられない。

涙を浮かべながら足元を見ると、私の黒革でできたロングブーツにしがみつく、それはもう無数の骸骨スケルトンの腕。

動けない、いや、動けるわけがない。そして先程の無数の横穴からは腐乱死体ゾンビが無数に這い出し、べちょ、べちょ、と湿った足音をさせながら私に近づいてくる。

「や、やめ…助けて…」

膝はがくがく震え、立っていられないほどなのにスケルトンにブーツを掴まれているために腰を下ろすも出来ない。両の目からは滂沱ぼうだのような涙、そして、目を背けたいのについつい見てしまう、既に間近に迫ったゾンビの群れ…

「助けて神様…!」

無神論者の私でも、つい神の言葉が口から漏れる。そしてゾンビの半ば肉がこそげ落ちて骨がむき出しになったその手が私の頬に触れようとしたその時、

「ディスペル!」

いきなり老人がそう唱え、辺りは…

先ほどまでの無数のゾンビやスケルトンなどひとつも見当たらない、元の地下墓地に戻っていた。

がくっ…

完全に腰の抜けていた私は周囲の様を確認した途端に尻餅をつき、曲がりなりにも貴族であるという証の黒いゴシックドレスのスカートの中身を、目の前の老人に惜しげも無く晒す羽目になっていた。

「ほほお、今日の下着の色は白か、なかなか純情そうじゃの」

しっかりと私の下着の色を目に焼き付けながら、老人はさも愉快そうに笑ってみせる。

なぜ、なんで私がこんな目に遭うのだろう。少なくとも魔法学校では気品漂う純白の美しき花、ハルシアにも例えられたこの私が。

この際だから認めよう。私は童顔である。そして、歳に似合わないほど小柄で痩身で、加えて幼児体型である。それは我が家が貧乏で、日々の食事にも事欠いているせいかもしれないが、私の兄も同様に痩せこけて小柄である。

だが、色白の肌と気品漂う整った容姿は由緒ある貴族の家系であることをはっきりと示し、栗色の長い髪はつやつやとして美しく、琥珀こはく色のつぶらな瞳は見るものを魅了する、と大絶賛されたこともある。だからなんだと言われればそれまでなのだが。

それにしても十八歳にもなって初対面の老人に、それも自ら自分の下着を披露することになろうとは我ながら恥ずかしいのを通り越して情けない。しかも完全に腰砕けとなっているため、さらけ出した姿勢のまま隠すことすら出来ない自分はもっと情けない。

「ほれ、魔法の実演はここまでじゃ、さっさと立たんか!」

今の私の状態をわかっていないのか、老人は無神経にも私に「立て」と命令してくる。もし私が五体無事ならとっくの昔に立っているし、この言葉を聞いた時点でそのしゃくれた顎に鋭い回し蹴りをお見舞いしているところである。

「た、立てないんだからさっさと手を引いてよっ!」

恐怖の余韻のせいかまだ震えている手を老人に差し出し、私は叫ぶように命令する。もし私がこんな無様な姿を晒したと両親が知ったら、屋敷に帰った時にどんな仕打ちが待っているかなど想像もしたくない。

老人は私のスカートの中身を見ているだけで動こうともしないので、仕方なく私は腕を床におろし、腕の力だけで身体を起こす。まだ膝はがくがくして力が入らないが、腕で支えてやれば何とか立ち上がれないこともないだろう。

そして、長い時間を擁しながらも私はなんとか立つことに成功し、がくがく震える膝を押さえながら老人をきっ! と睨みつける。

私をこんな惨めな姿にしておいてあざ笑うなど、絶対に許せない! いつか絶対にぎゃふんと言わせてやる!

そんな思いで睨みつける私の顔を、老人はごくごく平然と睨み返し

「やる気になったようじゃの」

とけろり。

「ええ、こうなったら意地でも呪文の二つ三つはすぐ覚えてやるんだから! 早く教えなさいよっ!」

怒りが頂点に達していた私はそこまで一気にまくし立てると、

「わしゃ疲れた、今日はここまでじゃ! 続きは明日のこの時間、ここでやるから遅れるでないぞ!」

言うなりすたすたと壁に向かい、あろうことか柩を入れる横穴に潜り込むと、老人はそのままグウグウ寝てしまう。仕方ないので私は地下墓地を出ると、ドレスについた埃をはらって我が家へ。

「あのじじい、明日こそはとっちめてやる!」

と一人愚痴りながら。

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