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陽菜子と霊感少年7



狭い場所を暫らく道なりに歩いた頃、先の方から徐々に明るい光が差し込んできた。

足を進めるにつれ、光りの強さも強くなってくる。

もしかしたら、この先にあるのは、地上への出口なのかもしれない。


つい先程この絵本の中に吸い込まれたばかりだと言うのに、もう随分と太陽を見ていない気がする。

幻想的な洞窟の中もとても綺麗だが、やはり陽の光りは恋しいものだ。

心持ち足取りも軽くなり、陽菜子は表情を和らげた。


開けた場所に出た途端、あまりに眩い光りが視界に入り込み、陽菜子は目を細める。

額に手を翳して、できるだけ刺激を遮った。

ようやく光りに慣れてきた視界に映った光景に、陽菜子は思わず声を失う。


洞窟内にぽっかりと開いたその空間は、一面が白に覆われている。

今まで硬い岩ばかりだったのに、足裏に伝わるのは柔らかい砂の感触。

足元に目をやれば、細かく白い砂が輝き、まるで砂浜のようだ。


顔を上げると、対岸がようやく見えるかという大きさの湖が広がっている。

不思議なことに、洞窟内の湖であるはずの水面が、静かに波打っていた。

穏やかに波が寄せては引いていき、陽菜子のつま先を濡らしていく。

打ち寄せる水の色までもが、淡く、白く色づいていた。


その湖の中央に根を張るようにして、一本の大樹が枝を広げている。

やはりと言うべきか、太い幹も、生い茂る葉も、水の色を吸い上げたように白一色に染められていた。

風もないのに白樹の枝が、さわさわと揺れている。

優しげな葉擦れの音が聞こえてくるようで、陽菜子は思わず耳を澄ました。



「……っうわ!」



ぼんやりとしていたところに、突然肩を叩かれ、陽菜子は驚いて声を上げる。

ばくばくと音を立てる胸に手を当てたまま、勢い良く後ろを振り返った。

そんな陽菜子を無言で見下ろしていた祥は、すいと腕を上げ白樹を指差す。



「後は、あの木の側まで行けば、目的の物が手に入る」

「あ、うん」



跳ねる心臓を落ち着かせるために深呼吸をしてから、陽菜子は一歩足を踏み出す。

そこで、祥がついてきていない事に気付き、慌てて声をかける。



「あれ、神代くんは?」

「俺は行かない。あそこまでは、藤森が一人で行くんだ」

「えぇ、そんなぁ……」



どこか現実離れした光景に、どうしても尻込みしてしまう。

思わず陽菜子が情けない声を出すと、彼は僅かに表情を和らげた。



「大丈夫だ。あれは、人に害を加えるようなモノじゃない」

「うぅ……。本当に?」

「もし何かあれば、すぐに行くから」



祥の言葉に励まされ、陽菜子は白樹に向かって少しずつ歩き出した。

水は陽菜子の足首を濡らす程度で、それ以上水深が深くなることはない。

だが、どうやらそれは陽菜子の足下に、ガラス板のような境界があるかららしい。

その境界の下では、水嵩もそれなりにあるようで、悠々と魚が泳ぐ姿が見える。

鱗が光りで煌き、まるで水族館の水槽を上から覗いているようだ。


幻想的な光景に目を奪われている間にも、自然と足は白樹の元に向かっていたらしい。

ふと顔を上げると、洞窟の天井に沿って手を伸ばすようにして、大樹が葉を茂らせている。

上を見上げたまま、陽菜子が根元に近付いた時、くすくすと笑い声が聞こえた。



『アラ、人ヨ、人ノ子ヨ』

『本当ネ、珍シイ』

『ドウヤッテ此処マデ来タノカシラ?』

『迷子カシラ?』



突然聞こえた声に、陽菜子は驚いて回りを見渡す。

すると、さわさわと葉の擦れる音と、さざめきの様な笑い声が強くなった。



『困ッテルワ、キョロキョロシテル』

『可愛イワ』

『ウン、トッテモ可愛イ』



内緒話をするかのような密やかな声を聞きながら、陽菜子は恐る恐る大樹を見上げる。

まさか、と思いながらも、そっと白樹に向かって声をかけた。



「あの、さっきから喋っているのは、あなた達ですか?」



一瞬、葉のざわめきが治まり、次いで白樹は嬉しそうに枝を揺すった。



『私達ノ声ガ聞コエルノネ』

『嬉シイ』

『ネェ、モット近クニイラッシャイナ』

『大丈夫、噛ミ付イタリナンカシナイワ』

『一緒ニオ話シシマショウ』



弾むような声を聞きながら、陽菜子はちらりと背後を振り返る。

湖の岸に立つ祥は、こちらに顔を向けたまま動く気配はない。

それならば、白樹の誘いにのっても、危険なことはないのだろう。

陽菜子は大樹に向き直り、覚悟を決めて足を踏み出した。







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