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明日への扉  作者:
2/3

ある朝僕は決意をした

 いつも朝は目覚まし時計が鳴る三十分前に起きる。

 ごく平凡な学生生活。退屈な日々を過ごすうち、僕は人生の全てに不満を感じていた。

 そんな時にあいつと出逢ったのは、間違いなく必然であり、運命だっただろう。


 ずっと交際していた彼女に良いところを見せようとして空回りしてしまった。

 僕は「将来僕は君の一生の相棒になる」なんてカッコつけてた。

 でも、そんな僕をあいつは鼻で笑った。

「別にそんなカッコつけなくていい。どうせならもう、ヘタクソな夢を描いていこう。ヘタクソで、明るくて、愉快な……愛のある夢を」

 あいつは言う。

「気取んなくていい。カッコつけないほうがお前らしいよ」



 あいつのおかげで、人生に不満を感じていた俺は一生懸命になれることを見つけようと思った。

 部活、勉強、恋路、イタズラ。色んなことを挑戦してみた。

 でも、一生懸命になればなるほど、僕らの旅路は、小学生の手と足が一緒に出ちゃう更新みたいだった。

「でも、それもいいんじゃない?」

 あいつはいつも僕の言葉に笑って答えた。

「生きていくことってさ、きっと、人に笑われるくらいが丁度いいんだよ」

 あいつの言うことって、心に響くような名言だと想う。

 現に、僕はあいつの言葉に励まされて一生懸命になれた。


 心の奥の奥、そこに、本当の僕を閉じ込めていた。本当の僕が抜け出したいといっている。

 だが、表の僕はまだ強がってる。まだバリアを張っている。まだ痛みと闘っている。



 辛い時、辛いとあいつに言えたらいいのになぁ……

「僕達は、強がって笑う弱虫なんだよ」

 寂しいのに平気なふりしてるのは、崩れ落ちてしまいそうな自分を護るためなんだよ。

 でも、そんなの僕だけじゃないはずだ。

 行き場のないこの気持ちを居場所のないこの孤独を抱えているのは……



 他人の痛みには無関心だった。そのくせ自分のことになると不安になって、

 なんて自己中心的なんだろうと自分をさげすんだ。

 そのうえ人間を嫌って、不幸なのは自分だけって想ったり、与えられないことをただ嘆いて、三歳児のようにわめいて……愛という名のおやつを座って待ってた。


 アスファルトの照り返しにも負けずに、自分の足で歩いていく人たちを見て想った。

動かせる足があるなら、向かいたい場所があるなら、この足で歩いていこう。



 もう二度とほんとの笑顔を取り戻すこと、できないかもしれないと想う夜もあったけど……

―俺は一生お前についていくさ。

 大切な人たちの温かさに支えられ、もう一度信じてみようかなと想った。



 辛い時辛いと言えたらいいのになぁ……


 過ちも傷跡も、途方に暮れベソかいた日も、僕が僕として生きてきた証にして、

「どうせならさ……これからはいっそ誰よりも思い切りヘタクソな夢を描いていこう」

 あいつが言った最期の言葉。不治の病と一生懸命闘っていたのに、僕にはずっとかくしていた。結局ばれてしまったけど……

 僕には一生懸命になることはなかった。だけど彼には一生懸命になれるものがあった。

 一生懸命、生きることだ。



 あいつが死んで日も浅い朝。

 今度は、目覚まし時計の鳴る一時間前に起きようと決意した。

 あいつが死んだ直後、あいつのお母さんから遺書を預かった。

 その遺書は俺宛だったらしく、たった一言だけ書かれていた。

「言い訳を片付けて、堂々と胸をはり、自分という人間を歌い続けろ」

 読んだ瞬間笑ってしまった。

 でも、おかしいな。雨なんか降ってないし、ましてや室内なのに、頬を雨が伝っていくよ……

 気づくのがおそかったよ。一生懸命になれることは、もうあったんだ。

 それは、あいつと楽しく思い出をつくること。

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