喧嘩する理由
「やっぱお前はいい奴だよなぁ」
「そんなことないって」
田舎町の学校の教室風景。
中学2年生の品川譲はクラスの中心的人物であり、そしてみんなの中和的存在の生徒だった。他人の喧嘩を誰よりも早く止めに入る。平和主義者と言ってもいい。
彼が不良などとは誰も想わない。
だが、現実は甘くない。
放課後の部活も終わり、夕陽が沈み始めた時刻。
商店街の辺りに、譲はいた。黒いパーカーにジーンズを履いたスタイルで、フードを深くかぶっている。
そして彼の周りには、誰がどう見てもヤンキーにしか見えない男がたむろっていた。
そう、彼は……ヤンキーなのだ。同じ学校の生徒は皆彼がヤンキーだと知らない。共にいるものは皆他校の生徒である。
これは、最大の秘密。誰にも、知られてはいけない秘密だ。
3年生が卒業した。バスケ部に所属していた俺、譲はキャプテンに選ばれた。
部活に、そして受験に専念するために、夜遊びをやめようと決意した。今まで喧嘩を続けてきた。だが、もう喧嘩はしない。そう決意した。
だが、敵はそれを許してくれない。
そんな時だった。ある日、俺がヤンキーだとばれてしまった。
クラスメイトは皆俺を軽蔑した。それも当然だろう。俺はずっとウソをついていたのだから。
だが、俺は軽蔑されてもいいと想っている。
喧嘩して、軽蔑されたとしても、みんなが無事ならそれでいい。
それから何年も経ったある日、中学校の同窓会が開かれた。
「あれ、譲来ないの?なんで?」
「あいつさ、忙しいんだよ。もう有名人だから」
「ああ、俳優業か。あいつも立派んなったな。昔はヤンキーだったのに」
「でも、喧嘩してたのは、俺たちの中学校に暴動しにこようとしたヤンキーを止めようとしてただけなんだろ?俺たち軽蔑しちまったけど、いまとなっちゃ悪いって想ってるよ」
「そうだな。あいつは、ただのヤンキーだって想ってたけど、結局、一番優しかったのは譲だったな」