#9 話し合い
「おーす」
軽く右手を挙げ、軽やかに友達と挨拶をする翔。だんだんと教室に近付いてくる。
「おーす……。は?」
翔のクラスの前で、気持ち仁王立ちになり待ち構える私。
翔は一瞬驚いた顔をし、すぐに表情を変える。
「お前、何やってんの。邪魔なんだけど」
ビクッ
まだそんなに冷たい目をしてるの…。
でもここで怯んで、避けたりしたら意味がない。
翔にわけを訊くしか、解決する方法はないんだから。
「おはよ」
翔の目を真っ直ぐ見て、一言。
「うん。…どいて」
私と話そうともしない翔。やだ、絶対どかない。
「翔と話したいの。まだ一限目まで時間あるんだから、良いでしょ?」
ちょっと強気になってみる。いつも引いてるんだからちょっと位は押してみなきゃ!
「面倒い。話なんてする必要無いっしょ」
私の肩に手をかけ、退かそうとする。
「〜〜っ。やめてよっ。私の話聞いてってば。屋上。行こ?」
危うく力に負けそうだったけど、渋々翔は屋上に行ってくれた。
「何」
明らかに機嫌が悪く、ムスッとしてくる。朝友達と話していた翔とは別人みたい。
「私、バカだから…翔がなんで怒ってるのかわかんないの。あたしなりに一所懸命考えて、考えたのに…」
翔の私を見る目は変わらない。
「だからっ、教えてほしいの!私が何をしたのか、翔は何に怒ってるのか…全部話して欲しいのっ」
お願い…気持ち、届いて。
あたしの必死の訴えが通じたのか、翔は軽く息を洩らし、
「わぁったよ…。ったく、しょうがねぇヤツ」
半分諦めたように、観念してくれた。
「お前さ、俺がなんでお前と付き合いたいと思ったかわかってる?」
…やだぁ。
「それはぁーその…あたしのことを、好きだから…でしょぅ?」
恥ずかしいなっ。なんでわざわざ言わせるのかな。
「ぷっ。違う違う」
おかしそうに笑う翔。
「紅さ、俺のこと好きだったろ。結構前から」
……え…?
「それ、なんとなくわかったから紅のこと見てたんだけど、一途そうだし、のんびりしてそうだから都合良いなって思ったんだよ」
都合……?
「えと…どういうこと?」
「だから俺は、一途な子が良いと思ったわけで、他のヤツとデートとかするなら条件から外れるなっと思ったわけよ」
「ちょ…、ちょっと、待って?」
翔が私に好きだって言ってくれて、付き合うことになったけど、それは一途そうだからで、今の私は一途じゃない…ってこと?
「待って!私が誰とデートしたの?なんで一途じゃないの?」
私は翔が大好きで、ずっと追ってるのに。
私の言葉を聞くと、また翔は不機嫌になった。
「お前さー俺が嘘嫌いだって知ってんだろ?今更誤魔化すなよ。見たんだから」
嘘?誤魔化す?見たって一体…。
「翔は何を見たの?私、誰かとデートなんてしてないよ。好きなのは翔だけだよ」
へっ、と口を歪めて吐き捨てたように言う。
「お前って相当の役者だな。人騙して楽しいか?なぁ……ウザいんだけど」
ビクッ
ウザいだなんて初めて人に言われた。
なんでよりによって翔に言われなくちゃいけないの…?
「一体…翔は何を見たの?私わけがわかんない」
翔のオーラが怖い。空気がピリピリ張り詰める。
「お前が…夕方、学校帰りにデートしてんのをだよ。家にまで呼びやがって、今更しらばくれんなよな。お前がそんな態度ならどうでもいいわ。俺はお前のこと、なんとも思ってないし別れるよ。面倒いんだよ」
……学校帰り?家まで…。
「あぁっ!」
閃いた。というか、気付いたよ。
「それって俊ちゃんのこと?!」
絶対そうだよ!やっぱり翔の勘違いだったんだ〜。良かった。
「…俊ちゃん?」
戸惑いを隠せずにぽつりと口に出す翔。
「そぅだよ〜。紅の幼なじみの俊ちゃん!生まれたときからずぅっと一緒なの」
ただの勘違いで良かった。身に覚えがないから凄く焦ってたよ。
「じゃぁ今まで、なんで俺に言わなかった?初耳だぜ、そんなヤツ」
まだ半信半擬といった感じ。
「小六の時にカナダに行っちゃって、最近帰って来たからだよ」
「あ……そう」
ほっとしたぁ。
ちゃんと解決出来て良かったよ。翔はまだ、整理が出来ないみたいだけど大丈夫だよね。
キーンコーン キーンコーン
予鈴が鳴る。あと五分で授業が始まる。
「あっ戻らなきゃ。でも良かったぁ〜誤解が解けて。今思ったけど、あの日紅の家の前にいた人って翔だったんだねっ」
人の気配を感じたのは間違いなんかじゃなかったんだ。
「あぁ…。なあ、紅」
「うん?」
「俺がさっき言ったこと、気にしないで。ムカついて言っただけだからさ」
さっき言ったこと?
たくさん話してたからどのことかわからないけど…。
「うん。じゃぁ放課後迎えに行くねぇー」
ほんわかと教室に戻る。良かった良かった。
あっちゃんと俊ちゃんに報告しなきゃ。そんで、頑張ったねって褒めてもらうんだぁ。