#8 優しい人
俊ちゃんが、私の部屋で話を聞いてくれることになった。
「さて…ゆっくりで良いよ。話してみ?」
心配そうに、だけど優しく包み込むような眼差しであたしを見つめてくれる。
懐かしいな…。
昔、あたしが一人で迷子になって泣いてるときも、俊ちゃんが見つけてくれたっけ。
同じように優しい目で、泣くな、大丈夫だよって言ってくれた。
安心して、余計泣いちゃったんだけど。
「俊ちゃんとこうやって話すの、何年ぶりかなぁ…?」
自分のことを心の底から心配してくれる友達がいるって、すごく幸せなことなんだね。
翔のことで、あたしらしくない程悩んでるみたいだけど…今は少し嬉しい気分。
「俺が引越したの小六になるときだったから、かれこれ五年か」
五年…。
あの頃と変わらない関係でいられるのもすごく大切なことだよ…。
俊ちゃんはおっきくなったし、がっちりした。
けど優しさは変わってないもんね。良いなぁ…幼馴染みって…。
「…紅?なんか和んでない?」
不思議そうに、そして不安そうにあたしの顔を見つめる。
あっ…。ほんとだよ、のほほんとしちゃった。
「ごめんね、なんか幸せ感じちゃって」
へらへら笑っちゃうあたし。
「ったく、みぃはのんびりしてるな。悩みあるんだろ?」
「うんっ。俊ちゃんに聞いてほしいの」
ふっ、と俊ちゃんは笑って、
「うん。来い」
冗談めかして言ってくれる。
「ん…。あのね、翔がわからないこと言うの」
ふぅ…
言っちゃった。
でも俊ちゃんなら男心がわかるだろうし、何かに気付くかもだよね。
「えーと、訊いて良い?」
少し困惑した顔で言ってくる。
「なになに?」
なんでも訊いてっ。
「翔って誰?」
「……ぇ?」
翔って誰って…。
あぁそっか!紅、翔のこと話してないんだったっ。
「翔は中二から付き合ってる、今隣のクラスの紅の彼氏だよ☆ほんっとにかっこいいの!」
えへへ、のろけちゃった。
俊ちゃんじゃなきゃこんなこと言えないもん。
自慢してるみたいに思われたらいやだもんね。
「……俊ちゃん…?」
いきなりうつ向き、無言になる俊ちゃん。
さっきまで元気にあたしを励まそうとしてくれてたのに。
「あ――あぁ、ごめん。何、そんな前から彼氏いたんだ」
俊ちゃんが笑う。とても引きつった顔で。
「うん。…どうしたの、俊ちゃん。顔がなんかこわばってる」
俊ちゃんはびくっと体を揺らし、
「そっかな。そんなことはないよ。俺、その翔ってやつのこと知らないし…ごめん、力になれないや」
「あっ、うん…」
どうしたの。
どうしちゃったの、俊ちゃん。
また私は人にいやな思いをさせた…?
いつの間にか、気付かないうちに。
「ほんとごめんな。今日は帰るから、またなんかあったらちゃんと相談に乗る。えーと…なんか今日、体調悪いかもだからさ」
また引きつった顔。
「大丈夫?家まで送る」
「いい。すぐだし、帰りの紅の方が危ないから」
「うん。わかった。じゃぁ変な人とか車に気をつけてね」
「ありがと。またな」
「バイバイ」
俊ちゃんは張り付いた笑顔を残して家に帰っていった。
もう仕方ない。
意地張ったってだめだよね。明日、翔に訊きに行く。絶対にわけを知りたいもん。
主人公、紅の一人称が紅だったりあたしだったり私だったりします。実際その時の気分によって自分の呼び方って変わるなぁ…なんて思ったので意図的にそうしてみています。こんな感じの細かいことにこだわるのが好きなんですよ。(笑