+1 俊ちゃん
本編で置いてきぼりをくらった俊の、その後です。
「俊ちゃんっ、チケット買ってぇーお願い!」
ドタバタと部屋に飛込んで来る紅。
俺は机に向かって英語の宿題をしているところだった。
「…なんの?」
和訳を最後まで書き終ってから後ろを振り向く。
「これっ。遊園地」
ピラッと自慢げに封筒からチケットを出し、見せびらかす。
「欲しいでしょー。欲しいよねぇー?」
にやにや笑いながら、俺の言葉を待つ。
「いくら?」
「えっ、買ってくれるのっ?」
値段を訊いただけなのに、話を早く進めようとする。まるで悪徳商法だ。
「値段訊いてるだけ。何人分?」
遊園地なんて大勢で行かなきゃつまらない。
「んーと、定価は一人二千円だけど千五百円で良いよ。二人分ありますっ」
値段は良いとして…。
「二人?やだよ、行くヤツいない。紅が彼氏と行けば?」
紅には翔って彼氏がいて、いざこざがあったものの最近よりを戻したらしい。
だから、最近はのろけ話ばっかで飽々してる。
ずっと俺が紅のことを好きだった、なんて知らないからなんだけどさ。
俺も言う勇気なかったし…元々立ち入る隙間はなかったみたいだしな。
今じゃもう、二人の恋を見守ろうと切り換えた。
「最初は翔と行くハズだったんだけど、遠いからやだってだだこねて、お台場に行くことになったの。かかる時間はあんま変わんないのにね」
にこにこ笑いながら嬉しそうに喋る紅。
この顔の紅が見れるならどんどんのろけてくれ。辛そうな顔なんて二度と見たくない。
「――で、余ったから売りつけると?」
「えへー。まっ幼馴染みですし!」
小型犬のようにくりくりした目で見つめてくる。
「分かったよ、買ってやる」
「やったぁ!ありがとっ。三千円でございまぁす」
両手を差し出してくる。観念したよ。
「ほら」
お札を三枚乗せる。誰と行くあてもないのに、とんだお人好しだよ。
自分に対して苦笑する俺。
「毎度☆じゃぁ紅は帰ります」
任務を果たしたとでもいうのか、素早く立ち上がってさっさと帰って行った。
勉強するか…。
チケットは鞄にねじこんで、中断していた宿題を再開する。
誰と行こうか、それとも誰かに売りつけてしまおうか、と頭を悩ませながら。
これからも紅には振り回されそうだ。
Fin.
俊はとても性格が良いので、新しい誰かとくっつけてあげたい気もしたのですがやめました。彼らしい気もしますので…。