#16 待ち伏せ
「紅、そこからじゃなんも見えないでしょ」
窓辺に立って校門の方を見ていたあっちゃんが、振り向いて私の方を見る。
――黒板に頭を伏せて、うつ向きながら立っている私に。
「あぁあ……そうだよね、見なきゃっ。尾行しなきゃ…っ」
顔半分は黒板に伏せながら、左目だけであっちゃんを見る。
あっちゃんがいることは大きな支え。
だけど怖いことは怖いんだ。きっと今の目は恐怖でいっぱいの筈…。
「だからって私が見てても意味ないでしょ。紅の問題なんだから。頼るのと甘えんのは別物だよ」
本当だ……私、あっちゃんに甘えてるだけだ。
あたしの問題なんだから、もっと責任持たなきゃ。
「ごめんね、あっちゃん。私やるよ!」
ふんっと鼻息を鳴らす。
「うん、その息!あ、でも…尾行なんてしちゃだめよ。紅は下手そうだからストーカーになりそう」
笑いながら冗談を言うあっちゃん。大好き!
「わかった!」
窓に駆け寄り、あっちゃんの手を軽く握る。
二人で顔を見合わせて笑顔。
怖いけど立ち向かってやる!
「…うわぁっ」
タイミングを見計らったように、翔と櫻ちゃんが校舎から出て来た。
「紅…」
ただ私の名前を呼んだだけみたいで、あっちゃんがぽつりと言う。
櫻ちゃんが、笑いながら軽く翔の背中を叩く。
翔はいきなり足早になり、櫻ちゃんが翔のシャツの袖をつんと引っ張り、追い掛ける。振り返る翔は――笑顔…。
「相葉櫻、流石だね。ボディタッチのテクが半端ないよ」
テ…テクですか。
私、唖然。
「あの、つんって引っ張られるとドキッとするらしいよ。私は逆に男子にやられたことあるけど、確かに効くと思った」
「……あっちゃん、男子につんってやられたの?」
ちょっと気になる。
「あっ、ただの友達だけどね。おい、って感じで引っ張られただけ」
慌てたように説明するあっちゃん。
なんとなく納得いかないあたしがあっちゃんを見ていると、
「ほらっ。今は私のことじゃなくて皆瀬でしょ!」
と、主旨を思い出させてくれた。
あの二人は仲良く校門を出て行きましたよ…。
「どーしたい?」
あっちゃんが優しく尋ねてくれる。
「あたし…翔が大好きだもん!どんなに、気持ちが通じなくたって、翔は待ってるって言ってくれたし…」
通じ合えないことは、とてつもなく不安。
でもでも、翔がいなくなっちゃうことが、何よりも怖いことだよ。
明日直接言う。
距離を戻そうってことを。
そして、訊く。
水曜日は何をやっているのか、そして――翔が私のことをどう思っているのか。
後数回で最終回です。次か、その次か…。
最後までお付き合い頂けると、嬉しきこと限りなしです。