#14 新たな風
「紅、寝癖付いてる」
朝、途中まで一緒に行こうと家の前まで来てくれた俊ちゃん。
おはようを言う前に髪のことを言われたのは恥ずかしいけど、誰かと朝歩くことはあまりしたことがなかったから、嬉しい。
「あのさ、みぃ」
「うん?」
一旦家に戻って、スタイリング剤とヘアアイロンを持ちながら鏡と睨めっこしてる紅の横で、俊ちゃんが意を決した様子で話しかけてきた。
「紅さ、最近様子おかしいよな。一喜一憂したり…。気持ちの浮き沈みが激しくないか?大丈夫か?」
そんな心配をされてるなんて、少しも思わなかった。
「紅は元気だよ。そんなに心配しないでっ」
笑ってみせる。だって本当に元気だから。
「本当に?俺、紅のこと見てたけど…何かが変だよ。翔って彼氏になんかされたんじゃないのか?」
必死に言ってくる。目が、あたしに、“本当のことを言ってくれ”って語ってる。
「えっと…。確かにごちゃごちゃしてたけど、もうすぐ解決するから!だから紅、元気なんだよ」
「……わかった。いきなりごめんな」
俊ちゃんはバツが悪そうに苦笑い。
「ううん、心配してくれるのは嬉しいよ!でも平気だからね、あんまり気にし過ぎないで」
俊ちゃんに心配ばっかかけてちゃいけないもん。
あたしはもう高校生なんだから、こんなじゃいけないの。
寝癖はなんとか収まって、俊ちゃんとあたしは途中まで一緒に歩いた。
少し沈黙が起きたこともあったけど、普通に話せた。
「おはよぅ!」
あっちゃんは弓道部の朝練で早くに来ていたらしく、教室で他の友達と喋っていた。
「あぁ、紅おはよ。いつもより遅くない?」
あたしはいつもホームルームの始まる十五分前くらいに着いているから。
「うん、寝癖がガンコだったのー。戦ってたよっ」
「ははっ、そっか」
あっちゃんは柔らかな笑顔を向けてくれる。可愛い。
身長が一六七センチあるあっちゃんは、胸くらいまでの長くサラサラな髪をしていて、遠くから見てもすっごくきれいなオーラが出てる。
和風な雰囲気をかもしだしてるけど、目は大きな二重で可愛い感じなの。
紅も、これくらいスタイルが良かったらなぁ〜って憧れてる。
「ねぇ、あきこ。体育でバスケのチーム分けしなきゃなんだけど、一緒に考えてくれない?」
クラスの女の子、あずさちゃんがあっちゃんに話し掛ける。
元々リーダー郭でもあるあっちゃんは、皆の人気者。
最近相談ばっかしてたから忘れてたけど、本当に素敵な子なんだよ。
あたしもちゃんと周りを見て、雰囲気読める子にならなきゃ。
ぐるぅりと周りを見てみる。
あ!翔だっ。廊下に翔がいる…。髪の色がもっと抜けたみたい。
隣には可愛い女の子…。すごく仲良さそうだよ??友達かなぁ。
まぁ、今日は運勢が良いって占いに書いてあったし、きっと良いことがあるよ!
「あのぅ…。斎藤さんいますかぁ?」
お昼休みにあたしのところに可愛い女の子がやってきた。
多分隣のクラスの相葉さんで…朝、翔と喋ってた子。
身長は紅と同じくらいで百五十センチあるかないかくらい。
目はパッチリ大きい。
しかもお化粧してるから、可愛いのに綺麗な色気も持ってて、そういう部分は紅と正反対だなぁ。
「えっと、なぁに?」
一度も話したことないよ。よく見掛けてはいるけど。
「ちょっとお話があるからぁ、来てもらっても大丈夫ぅ?」
鼻にかかった、皆がよくやる喋り方。声が高くて可愛い。
「うんっ、良いよぉ」
お話って何かな。いきなしだから、想像も出来ない。
「あっちゃん、ちょっと行って来るね」
窓側の自分の机に座って、友達に囲まれているあっちゃん。
「わかった!次、講義だから一応席取っとくね」
講義は月に一回だけ、大学の教授とか有名人なんかを招いて行われる。
今日は心理カウンセラーさんだから、ずっと楽しみにしてたんだ!
「ありがとっ」
古くなった第一体育館の裏。どうしてこんな暗い場所でお話するのかな。
「あのね、斎藤さん。櫻、翔クンのこと大好きなのねぇー」
相葉 櫻。そういえばこんな名前だったなぁ。
って…。
「えっ、そうなんだ」
翔はモテるから…。
「うん、そぉなんだぁ☆」
相葉櫻ちゃんは、笑顔。
でも目は笑ってないよ…。
微笑んではいるけど、あたしを上から見てるような威圧感がある。
「えーと…」
怖いから怒らせたくないな。言葉を慎重に選ばなきゃ。
「それで?」
ピキッ
相葉櫻ちゃんの瞳が、強い光を持ったように見える。
言葉を少なく、選んだつもりだったのに…失敗しちゃったかな。
「斎藤さんはぁ、今彼女じゃなぃんだよねぇ?」
まだ笑顔を崩さず、右手を軽く顎に当てて、訊いてくる。
「付き合ってるけど、今距離を置いてもらってるの。もうすぐ普通になるよ?」
取らないでっ。ちょっとの間だけなんだから…。
「じゃぁ、今は付き合ってなぃょねぇ?」
「……うん」
付き合ってないのかな…分かんないよ。
「うん☆それ聞いて安心しちゃったぁ。ありがとねぇ」
甘い声。そして、強気なオーラ。背が小さいからって可愛いだけじゃないんだ。パワーに満ち溢れてるよ。
「斎藤さん。櫻、今日翔クンと帰るけど気にしないでねぇ」
くすっと笑って、ふわふわと天使のように帰って行った。
……待って。
今日は、
水曜日だよ…?
タイトルに使う『風』。良いイメージを持っているのに、何故か悪いときに使ってしまいます。評価やアドバイスなど、何かありましたらよろしくお願いします。応援してくださる皆様、有り難うございます!