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40.りんなと、そうさく。

「その……リンナさんがもといた場所では……」

「ああ。ひどいものだったったな。

 きっかけはモンスターの大量発生だったが……そのあとは人同士での殺しあい、略奪しあいだ。

 拙者はそれを忌避して人の少ない迷宮の奥まで進み、そこで……迷った」

「そんなことが……」

「おう。

 存外に醜いものだったぞ。

 追いつめられた人というのはな……」

「……詳しいおはなしは、外にでてからにしましょう。

 ギルドの人たちも、リンナさんのおはなしを聞きたがると思いますし……なにより、長いはなしになりそうだ」

「で、あるな。

 こちらの……ロストしたとかいうリンナのはなしも、聞きたい。

 発見者は、レニーとコニスであるのだな」

「ええ。

 こちらでは、あの二人は健在、ぴんぴんしています」

「それで、あちらでは見たことがなかったおぬしのような者もいる。

 奇妙なものじゃの」

「ま、迷宮のやることですからね。

 なんでもありでしょう」

「そうじゃの。

 なにせ、迷宮のやることじゃ。

 われらが詮索したところで、詮無きことよ」

「リンナさん、立てますか?」

「立てぬことはないのだが……今は、人の手にすがりたい気分だな」

「では、失礼して……。

 ずいぶん、軽くなってますね」

「お、おい」

「弱ってるんだから、おとなしくしておいてください。

 この軽さじゃあ、ろくなもん食べてこなかったんでしょう」

「そ、そりゃあ……。

 そんなことより、初対面の小童に背負われるいわれは……」

「おれにとっては、初対面ではないんですけどね。

 まあ、暴れられても歩きにくいので、しばらくおとなしくしておいてください。なんだったら、そのまま寝ててもいいですよ」


 迷宮内、仮設管制所。

「……と、いう次第で、ロストしているはずの、魔法剣のリンナさんをおつれしました」

「……地の民との遭遇といい、シナクさんが迷宮に入ると、珍事にであう確率が高いですね」

「おれも、そう思います。

 今はよく寝ているので、リンナさんが横になれるところを確保してください。

 そのあと、栄養があって消化がいい食べ物をたっぷり……風呂や衣服の手配も必要か。

 それから……あくまでこの人が落ち着いてから、ですが、魔法剣のリンナさんを知っている人を集めての首実検、詳しい事情の聴取……と、いったところですか?」

「ですね。

 ベッドは、新人さんの宿舎用に作っている場所があるので、そちらを一台確保します。

 それから、お医者様も、念のため、手配しましょう」

「お願いします。

 その、ベッドというのは?」

「女性用の宿舎になりますので、シナクさんはここまでで。

 その方は、この机の上に横たえておいてください。

 あとは、こちらで手配した者に運ばせます」

「この上に、ですか」

「こうしている今も、人手を集めていますので、ご心配にはおよびません」

「そういや、迷宮前には仕事を探している人たちが、ごまんといるんだった」

「ええ。

 シナクさんは、シナクさんにしかできないお仕事があるはずです。

 こちらのことは、こちらにまかせて……あっ」

「どうしました?」

「迷宮の中で、フェリスさんたちと会いませんでした?」

「いや、ぜんぜん」

「……」

「……いいたくないけどさ。

 彼女たち、正確に地図を描いたりするスキル、持ってる?」

「……」

「……本格的にロストする前に、捜索隊、準備した方がよくはないかい?

 もしもってことがあるし、さ。

 この地図の……ここの六又のところまでのモンスターは一掃しているから、新人さんだけのパーティでも、なんとかいけると思う。

 ここの六又を起点として、頻繁に連絡をとりあって捜索すれば……」

「は、はい。

 おっしゃるとおりに、手配させてもらいます」

「ん。

 今、新人さんたちいっぱいいるし、これもいい実習だと割り切って、思いっきり人数投入して人海戦術で攻めれば、そんなに危険なことはないと思うよ。

 欲をいえば、ベテランの冒険者に指揮者役をしてもらえば……」

「じゃ、じゃあ!

 その指揮役を、シナクさんにお願いします!

 まさか、ご自分で提案したことを、拒否したりはしませんよね!」


「……どうしてこうなるんだ……」

「シナク教官!

 六名パーティの編成、終わりました!

 全部で十二パーティになります!」

「教官、じゃなくて、臨時教官、ね。

 はい。うしろの方まで声、届いてますすかー。

 これよりここにいる全員で、アホなギルド職員とその護衛、二名の捜索に向かいまーす。

 各パーティのリーダーは、地図の写しを持っていますねー。

 見てわかるとおり、転移陣から六又に分かれる場所へは一本道、迷うことはないと思います。

 そこからは、一本づつ、片っ端から道を捜索していきます。

 二重遭難を防止するため、少し間をおいて、前後の連絡をとれるような体勢で、数珠繋ぎにパーティーを送り込んでいきます。

 先頭になるパーティーには、今回、特別に、ギルドから術式を付加した武器が貸与されます。これは、離れた場所へも攻撃できる優れものですから、仮にモンスターに遭遇したとしても、冷静に対処してください。冷静に対処する自信がないときは、さっさと後方に逃げてきてください。すると、後続のパーティと合流する形になるので、後ろに下がれば下がるほど、戦力が増すことになります。

 よほどのことがなければ、みなさんがロストする可能性は、まずありません。

 おれは、六又に分かれている場所に待機して、全体の指揮と、非常時に備えています。

 なにか、質問はありませんか?

 ないようであれば、これより出発します!」


「一本目、先頭パーティがつきあたりにぶつかりました。

 誰もいないようです」

「はい。

 みなさん、順番に戻ってきて……」

「二本目、途中、三回ほどモンスターに遭遇しましたが、難なく撃破。

 人は誰もいないそうです」

「はい、ご苦労さん。

 全員出てきて、そこで少し休憩。

 体制を立て直して」

「臨時教官どの! 提案があります!」

「なに?」

「先頭のパーティばかりが戦闘経験を詰むのは不公平であるとの意見が出ています!

 できれば、順番に……」

「ああ。

 では、先頭のパーティは、今後入れ替え制で、その際、術式付加の武器も取り替えてね」

「はっ!」

「三本目。

 途中から三又に分かれています」

「右から順番に捜索して。

 決して、二本以上を同時に捜索しようなんて思わないように。

 戦力も分散されるし、こうして伝令もスムーズに伝わらなくなる」

「はっ!」

「三本目。

 何度かモンスターに遭遇するも、問題なし。

 人は、やはりいません」

「戦闘パーティをかえて、武器も替えて。

 全員の士気とか疲労度はどう?」

「問題ありません。

 このまま休憩なしでいけます!」

「はい。

 でも、決して無理はしないでね」

「はっ!」

「四本目。

 モンスターが多すぎます!」

「適当なところで、先頭と二番目のパーティを入れ替えて、武器も交換。

 それでも疲弊が大きいようなら、さらに先頭パーティを交代させて。

 それでも間に合わないようなら、一度、全員、ここまで下がらせて。

 焦る必要はない」

「はっ!」

「四本目、捜索完了!」

「ここでいったん、ここまで下がらせて。

 全員で、休憩しよう。

 あと二本だ。

 さすがにみんな、疲れたろう」

「はっ!」

「仮に疲れを自覚できていないとしても、ほとんどの人が迷宮初体験、初の実戦だ。

 緊張はあるだろし、できるだけそれをほぐして、リラックスするように」

「はっ!」

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