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37.すいきょう。

「だから、なんで上から目線なんだよ、お前」

「やっぱ、この子面白いわ、シナクくん」

「だぁーれが、恐れ多いのかしらん」

「わぁ!」

「あっ、リリス博士」

「ちょっと研究の方が一段落したんで息抜きに来たんだけどぉ……シナクくん、この可愛い子、おもちゃにしちゃっていいかなん?」

「どうぞどうぞ。

 ご存意に」

「ちょ、シナクさん! なんでそこで見捨てるんですか!

 そこは身を呈して助けてくれるところでは……」

「いっておくけどな、そのリリス博士のセクハラ、並じゃあないぞ。

 経験者がいうんだから間違いない」

「わつ、やめてっ、そんなとこっ!

 お、お嫁にいけなくなりますぅ!」

「んふふふふ。

 いいわねんいいわねん。

 この膨らみかけの果実が……」

「まあ、あっちはあっちで勝手にやらせておくことにして、だ。

 どうだ、ルリーカ。

 きぼりん、役に立ちそうなの?」

「ばっちり。

 この短期間に既存の理論はすっかり暗記していることを確認済み。

 あとは、明日から実際にやってみせるだけ」

「そーか。

 そうすると、ルリーカの負担が大幅に減ることになるな」

「抱き枕様誤解を免れるためにこの場で明言しておかないといけないことがございましてそれはこのわたくしには魔力を感知する機能などがいっさい実装されていないという事実でございます例えば迷宮内に転移陣などの術式を記述することはわたくしにも可能なわけですが迷宮内の魔力量を推し量ってあといくつくらいの魔法陣を設置できるかなどの推察をすることはわたくしには事実上不可能なのでございますいくら知識を詰め込むことができましてもわたくしは所詮魔法使いにはなれません」

「そこいらへんはルリーカがフォローすんだろ。

 今まではそれもひっくるめて全部ルリーカ一人でやってきたんだ。それを考えると、ずいぶん楽にはなると思うぞ」

「きぼりんにやってもらうのは転移陣の設置だけではない。

 使い捨ての魔法札も、開発してもらおうと思っている」

「あの、端に火をつけると火の鳥が出てくるやつ、みたいなのか?」

「それ。

 今考えているのは、周囲に敵が近づいてくると警報を発する札。これは、休憩時に使用することを想定。

 レニーたちからなにか案がないか、といわれた、緊急医療用の札を何種類か。具体的には、札を張った部位周辺の感覚だけを麻痺させる痛み止め用の札、瞬時に氷を張って出血を強制的にせき止める札など。

 これらは、魔力が充満する迷宮内という特殊な環境下なら、既存の術式を組み合わせコンパクトにまとめた術式を用意すれば十分に可能。

 むしろ、ルリーカがやるよりも記憶違いが少なくいちいち文献を参照する必要がないきぼりんにやらせた方が、よほど効率的。

 その他にも、今後、要望やニーズがあれば、即座に直接きぼりんに伝えて、新しい札を作ってもらう方が早いと思う。

 また、そうした作業を分担してもらうことによって、ルリーカの手もそれだけ空くことになる」

「向き不向き、というわけね」

「……ぷはぁ!

 いやあ、ひさびさに若くてぴちぴちのお肌を堪能させてもらったわん」

「……うううっ……」

「そんで、シナクくん、このオートマトン、ギルドで働きはじめるっておはなしなのかなん?」

「オ、オート……?

 ああ、これのことですか?」

「……泣いているフェリスのことは無視ですか!」

「わたくしのことならきぼりんとお呼びくださいリリス博士」

「ふーん。

 さすが、魔女さんが作っただけあって精巧なものねえ。反応や受け答えも、まるで生きているみたい。

 で、この子に魔法の知識仕込んで迷宮で使おうっていうの?

 きみたちギルドとか冒険者というのも、ときおり、面白い発想をするわよねん。こんな子を目の前にしたら、もっと面白い活用法を思いつきそうなもんだけど……なによりも目に見える成果が第一で、即物的っていうか……そういう考え方、嫌いじゃないわん」

「それで、リリス博士。

 例のお仕事、地の民との交渉は、うまく進んでいるのですか?」

「ああ、あれね。

 彼らが使っているのが、地の民の古語が訛化したものってわかっちゃったからねん。レキハナくんにとってはこれからが正念場なんだろうけど、あたし的にはネタバレしちゃった推理小説みたいなもんで、正直、ちょと、退屈かなん。

 今わたしがやっているのは、機械的な通訳ってやつ? はっきりいってあたしでなくてもできる仕事だし、言語学的には目新しい発見もなかったから、すこーし肩すかしかなぁー……って、ところ。

 帝国から、今度は比較文化や民族学など、主に地の民関連の研究者が何人か来ることになったから、その人たちと入れ替えに、あたしはお役ごめんになるっぽい」

「はぁー……一応、ちゃんとお仕事していたんですね」

「そういうシナクくんこそ、申し送りはちゃんとしてなくちゃあ、駄目よん。

 今日の夕方、あの集落に食料を運び込んできた人たち、護衛のメイドさんと一緒くたに片っ端から地の民のトラップに引っかかって、ひどい格好になって到着したわん。

 帰り道は転移陣があるって聞いて、みんなひどく安心していたけど……」

「そこは、それ。

 彼ら地の民の風習と文化を尊重するために、あえて事前に情報を伝えぬよう、進言いたしました」

「その戯れ言で、被害にあったメイドさんたちが黙って納得してくれるといいわねん」


 ばたん。


「……シナクはここにいるか!」

「あっ。

 ぼろぼろになったメイドさんたちが集団で入ってきた」

「貴様、あの罠のことをあえて黙っておったそうだな!」

「迷宮ではどんなことだって起こりえる。

 武力や腕っ節だけでは切り抜けられない状況もあるって、いい教訓になったろ?」

「……ぬけぬけと……」

「貴様、表へ出ろ!」

「まあ、まあ。

 落ち着いて。

 表へ出てもいいけど、どうせ結果は目に見えているってことは、この間のでお互い分かり切っているじゃないか。

 初仕事完遂祝いってことで一杯、奢るからさ。

 みんな、入ってきなよ」


 「こういうところは、うまいのよねん」

 「シナクくん、ときおり、すらすらと口からでまかせがでますな」

 「高圧的に返したら衝突必至。一見して折れているようで、実は微妙に話題を逸らしている」


「い、祝い……か」

「そういわれると……なあ」

「無理していがみ合う必要も……」

「一応、ではあるが……われらの教育のためのというておることだし……」

「業腹なことではあるが……」

「ああ。ここは、手打ちに……」

「「「……やっぱり、引っかかったか」」」

「抱き枕様ヒトとはたいそう面白いものでございますね」

「ん? なんかいったか?

 マスター、おれの奢りでメイドさんたちに好きなもの、一杯づつあげて」

「はいよ」

「……シナクさんは邪悪な存在です。

 フェリス、今ので確信いたしました」

「ん? きみ、まだいたのか」

「フェリスを見捨てた上、可哀想なメイドさんたちをお手軽にたばかるとは……邪悪、なんという邪悪」

「そこはなあ、邪悪というより臨機応変というところだ」

「それでいて罪悪感など一片も持ち合わせていない! これは、本格的なワルだぜ!」

「シナクくん、この面白い子がなんかいっているけど、放っておいていいの?」

「いいんじゃね?

 いい加減、つきまとわれているのにも、うんざりしてきたところだし……。

 実はおれ、今日一日、この子と一緒にいたんだ……」

「ああ……それは、うっとうしそうねん」

「この子もギルドの指示でしかたがなくおれについてたと思うんだが、それにしたって……なあ」

「シナク、同情する」

「だ、誰もフェリスに同情してくれません!

 こうなれば……ギリスさんにいいつけげやるぅー!」

「あっ。でていった」

「……ギリスさんも、大変だなあ」

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