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35.すとーかー。

「……もういい時間だな。

 今日のお仕事は、もう終わり……で、いいの?」

「いいです。

 急ぎの用件は、もうありませんので」

「ん、じゃあ、おれはここで。

 ご苦労さんね」

「はい。

 お疲れ様です」


 ばたん。


「……」

「……」

「……なんで、ついてくるの?」

「仕事中です。

 まだ、今日は終わっておりませんので」

「……おれは、もうオフなんだけど……」

「こちらはお気になさらず、いつもの通りにお過ごしください。

 勝手についていって、勝手に聞き耳をたてるだけですので」

「さり気なくイヤだよ! それ!」

「シナクさんのいつもの行動パターンですと、これからいつものお店に寄って同業者の方々と雑談兼情報交換の時間になるわけですか?」

「無視された!

 そんでもって、おれの行動パターン、しっかり把握されてるし!」

「ギルドとか冒険者の方々に少々聞いてまわれればこのていどのことは苦もなくわかりますがなにか?」

「いや……確かに、別に秘密にしているわけじゃないけど……。

 うーん……。

 納得いかねー……」


 羊蹄亭。

「あははは。

 シナクくん、案の定、今夜は可愛いストーカーさん、引き連れてきたね!」

「コニス……。

 情報源は、お前か……」

「さあ、なんのことかなあ?」

「くそ……。

 マスター、いつものやつ。

 そんで、なんか適当に、腹にたまるのね」

「ほいよ」

「いつもの、って、なんですか?」

「シナクがいう、いつもの、ってのは、ガラムのお湯割りになるな。とはいっても、その実体は、お湯に香りづけていどのガラムを垂らしたものだが。

 シナクのやつはどうにも体質的に酒が弱いみたいでな、一定量以上の酒が入ると、すぐに眠りこけるんだ。

 ここに来るのだって酒が目当てってわけではなく、仲間内でだべったり情報交換をするのが主目的だな。おれとしてみれば、正直、あまり面白味のない客ということになる」

「そこ、マスター、いらん講釈してない!」

「だってこの嬢ちゃん、シナク、お前のことを知りたがってるってはなしだろ?」

「……まったく、どいつもこいつも……」

「わたくしは、別に、細々としたシナクさんの個人情報を知りたいわけではないのですが……」

「ギルドの事務員さんも、いろんなのがいるもんだなあ」

「ただ……お仕事で、シナクさんの過去の成績を集計している最中、むきー! って何度も憤りを爆発させていたら、ギリスさんがその仕事からはずしてくださって、しばらく生身のシナクさんを観察してみなさいとの別命を受けました」

「それ……使えないやつを、体よくやっかい払いしただけなんじゃね?」

「失敬な。

 わたくしはこれでも、地元では百年に一度の俊才、麒麟児といわれていたものです。ギルド事務員の中でも、若手のホープとして扱われています」

「自分のこと麒麟児とかホープとかいってんなよ。

 それに、若手、って……ギルドの事務さんたち、みんな、若いと思うけど……」

「シナクさん!」

「な、なんだ、いきなり……」

「……それ、年齢の話題、ギルドの女子では最大のタブーとなっております。

 ここでならともかく、彼女たちの前では決して口にしないでください。

 ことに、適齢期とか大台という単語は禁句です! 絶対にだ!」

「なんだかわからないけど、必死さが伝わってきたからその助言には従っておく」

「マスター、わたくしにもシナクさんと同じものを」

「おい、おまえ、飲めるのか?」

「失敬な。

 これでも、ルリーカさんと同年です」

「みたまんまかよ!」

「ほいよ」

「マスターも、小さい子に酒だすなよ!

 それに、ルリーカと同じって、あんなザルは滅多にいないから! 自分も一緒だと思っているるとあとでえらい目にあうぞ!」

「実際にのんだことはありませんが、お酒に弱いシナクさんが大丈夫なら、わたくしも大丈夫なはずです」

「あはははは。

 シナクくん、この子、思ってたよりもおもしろいねー」

「コニスも、面白がってみてないでとめろ!」

「……ふぃー。

 想像していたよりも、おいしかったです。

 マスター、おかわり」

「はいよ」

「自分のペースもわかっていないやつが、いきなり一気飲みするなよ! マスターも、ほいほい注文取らないでよ!」

「商売の邪魔はするなよ、シナク」

「シナクくん、今日はメイドさんとやりあったりなんだり、いろいろ騒がしかったみたいね」

「もう伝わってるのか?

 そんなに派手に動いたつもりはなかったんだが……。

 まあ、場所が迷宮前で、目撃者はそれなりにいたからなあ」

「それもあるけど、メイドさんたちに放置食らった新人さんたちがシナクくんの意見を真剣に受け止めすぎちゃって、全員で会議した上、町中探検。手分けして片っ端から開いているお店を訪問しては、自分たちでも買えそうな、迷宮で役に立ちそうなもののリストを作成していたのだよ。

 大半の子が例の、売店で買える作業服を着ていたもんで、それがぞろぞろと集団で移動しているさまはなかなか壮観でねえ。

 一気に、町でも噂に……」

「あー。

 素直すぎるのも、なんだかなあ……」

「シナクくん、結構いい先生していたみたいじゃない」

「ギリスさんも、そうおっしゃってました」

「やっぱり?」

「はい。

 同業者には怖がられているけど、発想が合理的で、それを論理的に説明できるから、シナクさんは講師向きだと。ただ、本人に直接依頼しても適当にお茶を濁されるだけだから、どうにかして焚きつけてシナクさんからまとまったノウハウを盗みなさいとも指示されています」

「そういうギリスさんもたいがいにあれだけど、ここでそれをぶっちゃけちゃうきみも、なかなかのものだな」

「お褒めにあずかり光栄です」

「褒めては、いない。

 ってか、きみ、もう酔ってないか?」

「ギリスさんがおっしゃるには、すでに成功している冒険者のノウハウを後続の人たちに伝播、共有することができれば、それだけでも攻略の効率は格段に向上するとのことでした。

 逆にいうと、今までの冒険者たちが、職人気質といいましょうか、必要以上に秘密主義にはしってお互いの手の内を見せ合うことをしなさすぎた、とか。

 若輩者ゆえ過去の事例をよく知らず、ギリスさんのいうことがどこまで正しいのかは判断できませんが、考え方としてはきわめて理にかなっているものと思います」

「あっ。そ」

「ついでにいっておくと、ギリスさんはここでいろいろな人たちと話し合うシナクさんの姿をみて感動したそうです。ああ、この人は、それまでギリスさんが知っていた冒険者とは、違うタイプなんだな、と」

「おやまあ、シナクくん。ずいぶんと評価されてますなあ」

「うるせえ、コニス。

 あー、だけどさ。

 ギリスさんがそんなことをいってたっての……今、ここで、ぶちまけちまって、いいの?」

「はっ。

 そういえば……ギリスさんにかたく口止めをされていることを、すっかり失念していました」

「駄目じゃん」

「…………どう、しましょう……」

「知らんよ。

 きみ、やっぱりもう酔っているだろう?」

「シナクくん、やっぱりこの子、おもしろいねー」


 ばたん。


「シナク、コニス、マスター。

 こんばんは」

「おお、ルリーカ、と……今晩は、木彫りの人形も一緒か」

「抱き枕様におかれましてはご機嫌んうるわしゅう今宵からはわたくしのことはきぼりんとお呼びください」

「きぼりん?」

「ルリーカ様による命名でございますわたくしに個体名がないことを哀れんでいただいてその場で命名していただきました」

「まんまだな」

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