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0.さかばにて。

「た、大変だっ!」

「どうしたい? 血相変えて……」

「シ、シナクの野郎が……帰ってきやがったっ!」

「なにぃ!」

「嘘だろ? おい……」

「ほ、本当だってっ!

 たった今。ギルドからため込んでいた賞金しこたま引き出して宿屋に帰っていったところだ。

 ギルド長が今日はもう、賞金の引き出しもアイテムの換金もできないっー! て、泣いてたよっ!」

「帰ってきてそうそう、それかよ……」

「相変わらず、非常識なやつだな」

「さんざん酒飲ませていかさま博打に引きずりこんでおだて上げて、ようやくひとりで迷いの森にいくようにし向けたってのに……」

「その直後にあの吹雪だろ?

 当然、遭難して凍死したもんだとばかり思っていたのに。してなけりゃいけないだろ、普通……」

「ああ。

 前々から普通でないとは思っていたが……いよいよ化け物じみてきたな、あの尖り耳……」

「そういうことだったのかとたった今理解した件」

「わぁっ!

 ルリーカ!」

「ねえねえ聞きました、レニーくん」

「しっかりと聞きましたとも、ニコスちゃん」

「わはははっ。

 内緒話はもっと内緒にしないといけないなぁ」

「レニー! ニコス! バッカスまでっ!」

「おいおい。

 店の備品、壊さないでくれよ」

「わかってますよ、マスター。

 聞いてみれば、はめたのはこの三人だけど、むざむざいかさまに引っかかったシナクくんにも幾分かの非があるようです」

「お、おうよっ!

 おれたちは、そそのかしただけで……シナクの野郎は、自分の足で迷いの森に向かったんだぜ!」

「あの子も、非常時には滅茶苦茶頼りになるんだけど、日常時には滅茶苦茶脇が甘くて抜けているからねー」

「わはははは。

 確かに、半分はシナクの自業自得だ」

「そ……そうだな。

 そうだよなっ!」

「意図的にシナクくんをはめたあなたたちの罪悪が、シナクくんの間抜けさで相殺されたわけではありません」

「うっ」

「おおかた、ソロで活動しているくせに自分たち全員より稼ぎがいいひとり勝ちのシナクくんに嫉妬してのことなんでしょうけど……」

「シナクが消えても、雑魚は雑魚のままな件」

「な、なんだとうっ!」

「目障りだからといって競争相手の同業者を陥れるあなた方のやり口は、冒険者の風上にもおけませんね」

「や、やるっていうのか?」

「ええ。

 ただし、喧嘩ではなく、賭事の決着は賭事でつけましょう。

 あなた方が勝てば、われわれもなにもいいません。あなた方が負けたときは、あなた方にも迷いの森にいってもらいましょう」

「な、なんだって?」

「ふざけるなっ!」

「勝っても負けても、おれたちにはいいことひとつもねーじゃねーかっ!」

「勝負を受けなかったらこの件をシナクにばらすだけですがなにか?」

「ううっ!」

「さて、どうしますか?

 一応、マスターの顔をたてて穏便な手段を提案していますが、われわれとしては強硬な手段を選択しても一向に構わないんですよ」

「わはははは。

 おれとしてはむしろ、そっちの方が手っ取り早くていいなあ」

「荒事になるのなら店の外でやってくれよ」

「大丈夫よ、マスター。

 こいつら威勢がいいだけで、実力の方はからっきしだから。

 正面からわたしらとやり合えるほどの度胸も腕もないし……」

「さあ、どうしますか?

 われわれと潰しあうか、それとも、賭けにのるか……」

「うっ……」

「ううっ……」

「やっ……やってやらぁっ!」

「そうですか。

 では、マスター。新しいカードを」

「ほいよ」

「あなたがたは三人ですし、ひとり一回の三本勝負としましょう。こちらは、ぼくひとりがお相手します」


 数十分後。

「い、いかさまだっ!」

「さ、三回やって一勝もできないなんてっ!」

「マスター、こういってますが?」

「カードは正真正銘、まっさらな新品だぜ」

「ま、ラッキー・レニーの異名は伊達ではないってことね」

「なんだったら、何回かやり直してもいいんですが……結果は、どうせ同じですよ」

「わははははは。

 この手のやつらは構いつけてもつけあがるだけだからいちいち相手にすんなよ、レニー。

 いいさ、ルリーカ。

 面倒だからこいつら、まとめて送っちまえ」

「そういうと思ってすでに詠唱を終えていた件」

「「「うわぁっ!」」」

「ふう。

 やっといなくなった。

 これでようやく、おいしいお酒が飲めるわ」

「そういうニコスは実はなにもしていなかった件」

「シナクくんは自分の足で帰ってきたけど……あいつら、帰ってこれるかなあ……」


「ご主人様。ひさびさに招いていないお客様が三人ほど塔に近づいておりますが?」

「うん? とりあえず、いつもの通り丁重にお迎えしろ。おもしろそうなやつだったら塔に案内してもよし。その判断はお前にまかす」

「わかりました。抱き枕様ほどの面白味のある方でしたらご案内します。ストーン・ゴーレムのがっちゃんとケロベロスのポチ、ネクロマンサーのおキクさんをお借りします」

「せいぜい派手に脅かしてやれ。逃げ帰って、森について不穏な噂を喧伝してくれるようにな。

 わたしの引きこもり研究ライフを脅かすやつは全員敵だ」

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